【産経抄】5月29日

 ちょうど50年前、昭和35年の今ごろ、東京は「アンポ」一色に染まっていた。当時5歳の安倍晋三少年は祖父である岸信介首相の家に遊びにいった。首相を相手のお馬さんごっこで、「アンポハンタイ」とデモ隊をまねては、祖父を困らせたという。

 岸が「声なき声は私を支持している」云々と言ったことは有名ですが、こうしてみると、この発言は岸の強がりだったかも知れませんね。岸の幼い孫が「アンポハンタイ」というほど「安保闘争」は広まっていたのですから。
 そして、「声なき声が私を支持している」から首相を辞職しないと強行突破することは岸には出来ませんでした。

 言うまでもなく岸首相は、日米安保条約の改定に政治生命をかけていた。

・とは言え、条約の内容だけでなく、岸首相の強引なやり方や元A級戦犯容疑者という経歴もあり、安保改定はすさまじい非難を浴びます。岸は首相辞任を余儀なくされ、後任の池田勇人首相は「所得倍増論」など、「経済」を前面に出します(もちろん池田時代にも解釈改憲は行われており、岸ほどタカ派ではないだけであって左派の護憲派と池田を同一視は出来ません。)
 岸のようなタカ派路線が明確な形で打ち出されるのは中曽根康弘首相時代と小泉純一郎安倍晋三首相時代だけです。安保闘争時のような国民の批判を恐れたのでしょう。
 またこの時の社共共闘はその後の地方選挙などでも生かされ、地域によっては革新自治体が誕生することになります(東京の美濃部亮吉知事など)。
 そうしたことを考えるとき岸による安保改定が保守(少なくとも真正保守)にとって適切だったのかは疑問です。歴史にifはありませんが、岸の前任者・石橋湛山首相が病気辞任せず、石橋が安保改定に取り組んでいれば、安保闘争はこれほど盛り上がらなかったかも知れません。であれば、改憲国民投票法ももっと早くできたかも知れないし、社共共闘に自民が苦しむこともなかったかも知れません。
 岸にとって首相になれたことは幸せだったでしょうが、自民党にとってはどうだったのでしょうか?。私の持ってる、五十嵐「戦後政治の実像」によれば、中曽根康弘後藤田正晴は著書の中でそうした感想を述べているそうです。ただ、当時の自民党には中曽根や後藤田のような人間は少数派だったのでしょう。(もちろん岸が引責辞任したおかげで、池田の所得倍増論に代表される穏健保守政治、経済優先政治が確立した、良かった、良かったという保守もいるかも知れません。タカ派安倍晋三氏が醜態をさらしたのでこのチャンスに自民党内穏健保守よ、復活してくれみたいな話ですね)

 これに対し、2代前の鳩山一郎首相の孫の由紀夫現首相は当時13歳、中学2年生だったはずだ。確かめたわけではないが、中学生であれば政治や社会に関心を持っていてもおかしくない。ましてや元首相の孫である。日米安保についても、いろいろ考えたに違いない。

 元首相の孫とは言えまだ中学生です。勉強とか部活動とか、日常生活で普通は一杯一杯でしょう。政治や社会に関心を持っていたと決めつける方がおかしい。持っていたとしても、せいぜい新聞の読み比べなどが関の山でしょう。今の鳩山首相に問題があるとしてもそれは、大人になって以降の問題です。

 と思っていたのだが、どうやら間違いだった。今月初め、普天間問題で沖縄を訪問したとき「学べば学ぶほど(海兵隊で)抑止力を維持できていることがわかった」と「名言」をはいた。米軍の抑止力こそ日米安保の根幹をなすことすら、ご存じなかったらしい。

・本当に「学べば学ぶほど(海兵隊で)抑止力を維持できていることがわかった」のかは疑問です。アメリカに圧力をかけられ、とはいえ「たとえ私に道理があってもアメリカに逆らうことなどできない」とは言えず、必死に思いついた言い訳が「不勉強」なのかもしれません。あまり良い言い訳とも思えませんが。
・前にも書きましたが「学べば学ぶほど海兵隊が抑止力」というのは怪しいと思います。海兵隊は海外遠征軍で日本防衛軍ではありません。「中台有事」「朝鮮有事」への対応と言う人もいますが、中国や北朝鮮がそうした有事を起こすかは疑問です。確実に国際社会を敵に回しますから。
 また、そうした有事への対応が必要だとしてもそれが「沖縄に海兵隊」と言えるかも疑問です。
・百歩譲って「沖縄に海兵隊が必要」だとしても、「沖縄の基地被害やむなし」にはなりません。沖縄基地被害に対する認識が産経にはなさ過ぎです。

 それだけではない。一昨日開かれた全国知事会議で、石原慎太郎東京都知事が「尖閣諸島で日中が衝突した場合、日米安保が適用されるのか」と聞いた。首相は「(米国に)確かめる必要がある」と答えたそうだ。しかしこれも、日米安保への無関心を示すものだった。
 この問題では前の麻生政権時代に「安保適用」の確認を米側から得ているからだ。そうでなくとも、常に有事のさいを考えておくのが、宰相たる者の務めである。国の安全より連立政権の方に関心があるとは、いよいよ日本も危うい。

麻生内閣時に安保適用の確認を得ているのに、これから確認すると本当に首相が言ったのなら確かに不適切でしょう。
・ただ、現実問題として、「尖閣諸島で日中が衝突」することはないでしょう。そんなことをしたら中国は国際社会の非難を浴びるでしょう。
 日本が竹島問題や北方領土問題解決のために軍事力行使しないのと同じ理由です。
・なお、適用されると米国が言ったからと言って実際に出動すると考えるのはナイーブすぎます。アメリカ国内で「日本人のために何故我々が犠牲にならなければならないのだ」と言う意見が強くなれば政治的理由で出動しないこともあり得ます。
・それにしても何故、産経は「国の安全=国土防衛」「有事=外国の侵略」なんでしょう。
 「失業者の救済」や「高齢者福祉」「障害者福祉」などの弱者救済も広い意味では「国の安全」です。
 「地震や水害などの災害」や「今話題の口蹄疫」も広い意味では「有事」です。
 そういったものに産経は関心がなさすぎますよね。
 外国の侵略より、そうした危機の方がよほど現実性があると思いますが。
・石原氏は東京都に関係ないことに何故口出しするんでしょう?。もっと東京のことに力を入れて欲しいですね。