新刊紹介:「歴史評論」8月号

特集「歴史認識ジェンダー
詳しくは歴史科学協議会のホームページをご覧ください。
http://www.maroon.dti.ne.jp/rekikakyo/
■「歴史認識を考える―歴史教育改革とジェンダー―」(姫岡とし子*1
(内容要約)
 総論的主張、前振り的主張です。通史的書籍には未だにジェンダーの視点が弱いがこれを何とかしたいとか。


■「日本の女性史・ジェンダー史研究と歴史認識」(長野ひろ子*2
(内容要約)
1)1980年代に女性史総合研究会編「日本女性史」全5巻(1982年、東大出版会)が出たのが女性史・ジェンダー史における重大な出来事だったと長野氏が考えてること、
2)2000年代に入ってからの動きとしては、2004年のジェンダー史学会(http://ghaj.jp/)結成と、2011年の「ジェンダー史叢書」*3明石書店)刊行(http://www.akashi.co.jp/search/s2913.html)を重視してること
はわかりました。他はよくわからん。


■「歴史認識と女性史像の書き換えをめぐって―近現代日本を対象に―」(成田龍一
(内容要約)
・日本の女性史・ジェンダー史研究において、成田氏が鹿野政直氏の諸著作(『戦前・「家」の思想』(1983年、創文社)、『婦人・女性・おんな:女性史の問い』(1989年、岩波新書)、『現代日本女性史:フェミニズムを軸として』(2004年、有斐閣)など)を重要視してることはわかった。他はよくわからん。


■「中国史歴史認識ジェンダー」(小浜正子)
(内容要約)
・日本における最近の「ジェンダー的な観点からなされた中国史書籍」の紹介とコメント。コメント要約はとても無理なので「筆者の興味関心が少しはわかるかと思い」著書名だけあげてみる。なお、筆者によれば研究書では一定の蓄積があるがそれが必ずしも通史に反映されないという問題があるという。


飯尾秀幸『中国史のなかの家族』(2008年、山川出版社世界史リブレット)
下見隆雄*4儒教社会と母性―母性の威力の観点でみる漢魏晋中国女性史(増補版)』(2008年、研文出版)
氣賀澤保規『則天武后』(1995年、白帝社)
大澤正昭『唐宋時代の家族・婚姻・女性』(2005年、明石書店
柳田節子『宋代庶民の女達』(2003年、汲古書院
仙石知子*5『明清小説における女性像の研究』(2011年、汲古書院
末次玲子『20世紀中国女性史』(2009年、青木書店)
坂元ひろ子『中国民族主義の神話:人種・身体・ジェンダー』(2004年、岩波書店
須藤瑞代『中国「女権」概念の変容:清末民初の人権とジェンダー』(2007年、研文出版)
林紅『中国における売買春根絶政策:1950年代の福州市の実施過程を中心に』(2007年、明石書店
大橋史恵『現代中国の移住家事労働者:農村・都市関係と再生産労働のジェンダー・ポリティクス』(2011年、お茶の水書房
村田雄二郎編『「婦女雑誌」からみる近代中国女性』(2005年、研文出版)
伊藤るり編『モダンガールと植民地的近代:東アジアにおける帝国・資本・ジェンダー』(2010年、岩波書店
石田米子編『黄土の村の性暴力』(2004年、創土社

参考

http://www-cc.gakushuin.ac.jp/~hist-soc/kaihou/kaihou2007-1-2.htm
「オジャマデスネエ」――柳田節子先生の思い出
平成八年三月史学科卒業 須藤 瑞代
 柳田節子先生のことは、多くの方々が心にとどめておられると思う。先生のすっと伸びた背筋とその笑顔を思い出される方も多いのではないだろうか。私の記憶の中では先生はいつも笑顔である。
 柳田先生が学習院大学をご退職されたのは1992年3月で、私はその翌月に学習院に入学した。そのため在学中には柳田先生にお目にかかる機会は得られなかったのだが、卒業後他大の大学院に入り、中国女性史研究会の活動に参加するようになって初めてお会いすることができた。その際に自分が学習院の史学科出身だと申し上げたところ、たいへん喜んでくださったのをよく覚えている。
 中国女性史研究会とは、1977年9月に柳田先生を含めてたった4人でスタートした研究会である。以後メンバーは増加の一途をたどり、現在では会員総数100名を超える大きな研究会に成長し、私も末席に連なっている(研究会はこれまでに何冊かの研究書を出版してきたが、そのうちの一冊は『柳田節子先生古稀記念:中国の伝統社会と家族』(汲古書院、1993年)である)。
 その中国女性史研究会の2003年5月の例会で、柳田先生は「宋代「女子分法」をめぐる滋賀・仁井田論争その後」というタイトルでご報告をなさった。その時に、学習院史学科で同期だった小粥裕子さんもさそって行ったのだが、柳田先生とは初対面であった小粥さんが「お邪魔しにきました」と遠慮がちに挨拶をしたところ、柳田先生は「あら」と笑みを浮かべたかと思うと一言、「オジャマデスネエ」。小粥さんと私は一瞬面くらい、次の瞬間には大笑いしてしまったのだった。この一言でファンを増やしてしまうのが柳田先生のすごいところではないだろうか。今でも小粥さんと柳田先生の話になると、「オジャマデスネエ」と言っては二人で吹き出している。そしてさらに驚いたことには、当時小粥さんは病気をしていたのだが、その日は不思議に具合が良かったそうである。もしや「オジャマデスネエ」に病魔が降参したのだろうか?
 女性の研究者・大学院生は今でこそ珍しくなくなったが、それは多くの方々が少しずつ重たい扉を開こうと努力を重ねてきてくださったからである。研究の世界の端のほうに身を置いていると、時折ふとそうした方々の手の跡を感じることがある。柳田先生がそのうちのおひとりであること、そして中でも強力なおひとりであることは間違いない。笑顔で後輩たちを励ましつつ、「オジャマデスネエ」といろいろな障害物をさばいてくださったのではないだろうか。最近何人かの女性研究者の先輩達が「このごろ柳田先生のことをよく思い出すんですよ」「後輩には本当に優しい方でした」などと懐かしそうにおっしゃるのを聞くにつけてもそのように思われてならない。
 研究に対しては常に端然と厳しい姿勢をつらぬかれた柳田先生のご冥福をお祈りするとともに、「中国女性史研究のレベルを上げること」を強く望まれていたことを肝に銘じていきたいと思っている。


■「EU歴史認識ジェンダー―書かれた歴史、なされた歴史、認識された歴史、そしてジェンダー―」(羽場久美子)
(内容要約)
・筆者の興味関心と言うことからもっぱら
1)「東欧で蔓延している女性のトラフィッキング(人身売買)」
2)欧州議会慰安婦決議(2007年)
3)欧州議会の「女性の地位向上レポート」(2012年)について論じられている。


■「ジェンダー史の可能性―西洋古代史研究の立場から―」(桜井万里子*6
(内容要約)
筆者の著書『古代ギリシアの女たち』(2010年、中公文庫)と森谷公俊『アレクサンドロスとオリュンピアス: 大王の母、光輝と波乱の生涯』(2012年、ちくま学芸文庫)の紹介。筆者によれば「アテナイ」は民主国家であったが、女性は政治の場から排除され、一方、マケドニア世襲の王国であったが、女性が政治参与することも時にあったとのことである(その一例がアレクサンドロス王の母・オリュンピアス)。この違いはどうして生まれたのかを検討することには意義があるのではないかというお話。


■科学運動通信「歴史認識を変える 歴史教育改革とジェンダー」参加記(坂井博美、高松百香
(内容要約)
歴史認識を変える 歴史教育改革とジェンダー」はググったところ、昨年、2011年7月2日(土)に行われたシンポジウム。
 シンポジウムの講演者は、姫岡氏、長野氏、成田氏、小浜氏、桃木氏、羽場氏、桜井氏ということで、見事に論文執筆者とかぶっている。ということで諸論文はシンポジウム報告を元にしたものになっているわけである。


■書評:五十嵐仁編「「戦後革新勢力」の奔流:占領後期政治・社会運動史論1948-1950」(安岡健一)
以前俺が「「戦後革新勢力」の奔流:占領後期政治・社会運動史論1948-1950」(大月書店)」(http://d.hatena.ne.jp/bogus-simotukare/20110331/5214378609)で取り上げてるので俺の考えについてはそれを見ていただけるとよろしい。
 改めて安岡氏の批評を読んで考えたことを書いてみる。
・安岡氏はここで取り上げられた団体は「革新」と呼ぶことが微妙な団体もあるとしている(このこと自体は五十嵐氏らも指摘していることではあるが)。
 たとえば
 第8章で取り上げられた主婦連合会自民党のルーツとなる保守政党国民協同党*7参議院議員奥むめおが初代会長であり、
 第11章で取り上げられた「日本協同組合同盟(日協同盟)」は自民党のルーツとなる保守政党日本協同党*8と関係があった。また若かりし頃の鈴木善幸(後に自民党総裁、首相)は日協同盟のメンバーであった(そもそも鈴木は社会党出身*9で後に自民に移籍したハト派で異色の政治家だとは思うが)。
 そういうことをどう考えるかは今後の課題だろうとしている。

(参考)

鈴木善幸(ウィキペ参照)
1947年(昭和22年)に日本社会党から第23回衆議院議員総選挙に出馬、初当選。後、社会革新党を経て吉田茂率いる民主自由党に移り、以後保守政治家となる。
 池田勇人宏池会に所属。池田に可愛がられたこともあり、その後はトントン拍子に出世。1960年第1次池田内閣の郵政大臣として初入閣。第3次池田改造内閣では内閣官房長官に就任。その後、佐藤内閣で厚生大臣に、福田内閣で農林大臣に就任。党総務会長を10期務めるなど、裏方で力を発揮する調整型の政治家とみなされていた。


■書評:竹中千春著「盗賊のインド史」(志賀美和子)
(内容要約)
 これについては版元のサイトをまず紹介しよう。

http://yushisha.blog.ocn.ne.jp/blog/2010/10/post_099b.html
 内容は、現代インドで「盗賊の女王」と言われ、投降してからは1996年に国会議員になり、のちに暗殺されたプーラン・デーヴィーの生涯から筆を起こし、植民地時代へとさかのぼって盗賊や「山の民」・移動する人々など「まつろわぬ人々」と、それを取り締まろうとする近代国家との相克を描き出します。
 彼ら「盗賊」の姿は、アフガニスタンソマリアなどでアメリカと今も戦っている「武装勢力」「ゲリラ」と重なります。「テロリスト」とは一体誰のことなのか、それをこの本から再考していただきたいと思います。

このサイトの文章からは著者・竹中氏の「盗賊」定義が泥棒とイコールではないことがわかる。評者・志賀氏によれば実は明確な定義を竹中氏はしていないそうだが、版元サイトの文章から考えるにあえて定義化すれば「上からの強圧的近代化に異議を唱える集団」といったところか。
 もしそうだとするならば、そうした概念は「インド以外」でも適用できるだろう。
 なお、評者・志賀氏は竹中氏の「盗賊」概念についていくつか疑問を表明している。
 まずそうした「上からの強圧的近代化に異議を唱える集団」を盗賊と表現することの是非。
 また現代インドにおいて「盗賊」が何を目指してるとみるのかついて竹中氏の意見がもっと明確になると良かったとしている。
 つまり単に「社会における上昇」を目指しているのか、それとももっと大きな社会構造の変革を目指しているのか。 

*1:著書『統一ドイツと女たち』(1992年、時事通信社)、『近代ドイツの母性主義フェミニズム』(1993年、勁草書房)、『ジェンダー化する社会――労働とアイデンティティの日独比較史』(2004年、岩波書店, 2004年)、『ヨーロッパの家族史』(2008年、山川出版社

*2:著書『日本近世ジェンダー論』、『ジェンダー史を学ぶ』(以上、吉川弘文館

*3:長野氏も編者の一人

*4:著書『母性依存の思想―「二十四孝」から考える母子一体観念と孝』(2009年、研文選書)、「『華陽国志』列女伝記―中国古代女性の生き方』(2009年、明徳出版社

*5:著書『「三国志」の女性たち』(共著、2010年、山川出版社

*6:著書『古代ギリシアの女たち』(2010年、中公文庫)

*7:後に奥は無所属になるが

*8:日本協同党協同民主党国民協同党→国民民主党→改進党→日本民主党自由民主党、となった

*9:おそらく左派政党(社会党)在籍経験がある唯一の自民党総裁