■主張『昭和天皇実録 「激動の時代」に学びたい』
http://sankei.jp.msn.com/life/news/140909/imp14090905000005-n1.htm
少なくとも建前では「歴史学研究の一素材のはず*1」なのにまるで「旧共産圏の個人崇拝評伝」「昭和天皇の評伝決定版」みたいな扱いをし「毛沢東*2同志の偉大さを学ぼう」「スターリン*3同志の偉大さを学ぼう」のように「昭和天皇の偉大さを学ぼう」云々となるのはさすがいつもの産経です。
「誰がそんなことを言ってるんだ」て話です。「ドイツは降伏し、原爆は投下されソ連は参戦し」で降伏を考えない人間がいたらその方がおかしい。大体ソ連参戦前から「終戦それ自体は決断していました」。「ドイツが降伏し沖縄が陥落し勝ち目が全然ない時点」で「終戦それ自体」は既定路線です。終戦に反対してたのは陸軍強硬派だけです。
問題は
1)その終戦とは「当時は表向き、日ソ中立条約をむすび中立国だったソ連を仲介にした和平」という客観的に見れば非現実的なもの
2)「あくまでも国体(天皇制)護持の保障がないと終戦しない」というもの*5
3)「陸軍強硬派のクーデターの危険性をどう封じ込めるか」と言う問題があったので陸軍にばれないよう終戦工作が極秘に行われていた
と言う点でしょう。
注目された終戦の「ご聖断」までの経緯では、ソ連軍が満州侵攻を開始したとの報告を受けた直後に木戸幸一*6内大臣を呼び、鈴木貫太郎*7首相と話すよう指示を出したことも書かれている。
・ああ、結局「聖断」て書くんですね。カギ括弧付ですけど。
・ソ連参戦によって『ソ連仲介による和平構想が明らかに破綻したこと』が降伏に踏み切る大きな理由だったてのは以前からの歴史学会の通説的見解です。別に「富田*8メモ」のような新ネタでもない。木戸を呼んだってことも確か「木戸幸一日記」などで既に明らかだったと思います。
・むしろこの話は「ソ連の参戦が読めないなんて政治センスがない」「原爆が投下されても降伏考えないなんてどれほど国民に冷たい」と昭和天皇批判ネタにすらなってきた話です。
■【昭和天皇実録公表】靖国参拝問題 反対運動が影響 “富田メモ”解釈に触れず
http://sankei.jp.msn.com/life/news/140909/imp14090907400006-n1.htm
メモが富田氏の捏造だ、昭和天皇の意思じゃないという立場にでも立たない限り「詳しい理由はともかく」、昭和天皇は「A級戦犯合祀がなされる限り」参拝する気はないとしかメモは理解できないわけです。
が、そんな評価は「安倍政権下の宮内庁」には書けないわけです。で書かないことを産経も正当化すると。
*1:当然ながら実録の記述が正しいかどうか自体議論の対象です。宮内庁編纂ですし当然バイアスはあるでしょう。つうか昭和天皇関係文書の積極的情報公開ならともかく、今時宮内庁編纂の評伝作る意味あるんですかね。戦前に作られた「明治天皇紀」「大正天皇紀(ただし精神病問題があるためか長く公開されず公開は戦後)」なら「戦前の天皇は国家元首」なので、まだわかりますが
*4:産経なら「聖断」と書きそうですがそう書かないのは何故でしょう?
*5:ソ連参戦でそんな贅沢を言えなくなり「護持の保障がないがこのまま戦争継続ではもっとやばい、降伏するしかない」になるわけです。なお「天皇制が残った」「昭和天皇が戦犯として処刑されなかった」と言う意味では護持されましたが「戦前とは違い主権者ではなくなった」と言う意味では国体は変更されたわけです。
*6:近衛内閣文相、厚生相、平沼内閣内務相、内大臣を歴任。戦後A級戦犯として終身禁固刑(後に仮釈放)。