「珍右翼が巣くう会」に突っ込む(2019年11/12分:荒木和博の巻)

今日の香港、明日の韓国【調査会NEWS3117】(R01.11.11): 荒木和博BLOG
 タイトルだけで「はあ?」ですね。これが「今日の香港、明日の台湾」ならまだわかる(まあ「今日の香港」は「明日の台湾」ではないでしょうが。中国は台湾侵攻なんか考えてないでしょう)。
 何が「明日の韓国」なのか。
 香港情勢は韓国とは何ら関係ありません。
 あるいは「韓国でも反政府デモが盛り上がり、警察との激突が激しくなるかも?」と言った話か。まあ、それもないでしょうね。

 私は統一するとすれば北の体制が倒れてなし崩し的に南が吸収するしかない*1と思ってきたのですが、最近前号に書いたように「敗戦革命」というのもあるかも知れないと思うようになりました。
 つまり韓国経済を破綻させ、国民を分断*2し、日米との関係を破壊*3して北朝鮮主導の統一国家にするということなのではないか。これは日本の敗戦による革命と共産化をめざした、当時のコミンテルンの方針を現代版にしたようなものとも言えます。

 荒木の馬鹿さには呆れて二の句が継げませんね。
 第一に「敗戦革命」なんてもんを文政権は目指してないし、そもそもそんなことは「目指したところで実行できることでもない」。
 第二に「日本の敗戦による革命と共産化*4をめざした、当時のコミンテルンの方針」なんてもんは存在しない。ソ連に「日本に対米開戦をけしかける能力」なんかあるわけがないし、「ハルノートを飲めば開戦は回避できた」のだから「ソ連陰謀論」などばかばかしい限りです(そもそも敗戦革命が起こる保証もない*5し、その場合にその革命の担い手が共産党になる保証もないですし)。
 荒木はウヨ方面で蔓延してるデマ「対米開戦は近衛首相のブレーンだった尾崎秀実に、開戦を煽られた近衛が起こした」「尾崎の目的は敗戦革命だった」という与太*6を主張しているのか。
 もしかして大森勝久氏がそうしたデマを放言してる元ネタは荒木なのか。
 あるいは「ハルノートソ連の謀略」と言うデマを荒木は主張しているのか。
 この「尾崎デマ」「ハルノートデマ」に以下の通り簡単に突っ込んでおきます。
 まず尾崎デマへの突っ込み。
1)尾崎は近衛*7ブレーン(昭和研究会メンバー)とは言え、近衛ブレーンの中枢と言えるような存在ではありません。尾崎と近衛にはほとんど面識はありませんでした。そして昭和研究会も「尾崎のブレーン集団」とはいえ、その提言によって政府が動くというほど、絶大な力を持っていたわけでもありません。
2)尾崎のスパイ行為はいわゆる「情報スパイ(機密情報を入手しソ連に伝える)」であり、政策誘導などはされていません。理由は簡単です。
 「学者やジャーナリスト、評論家、作家などの一般的活動*8」と偽装することが容易な情報スパイと違い、政策誘導なんてもんは下手にやればスパイであることがばれるきっかけになるし、成功の可能性も情報スパイに比べそんなには高くないからです。
3)そもそも開戦時の首相は近衛ではなく東条英機*9です。
4)対米開戦は政府内でそれなりの議論がされて決定しています。近衛など一個人が勝手に開戦したなんて話ではない。まあ、あえて単純化すれば「敗戦を恐れて開戦に躊躇する昭和天皇」を「開戦派(典型的には陸軍)」が「中国からの完全撤退など飲めるのですか!」「対米開戦には勝算がある!。我々にはドイツがついてる!」などと説得して戦争に持っていたという話です。
 「自分から積極的に戦争を希望したわけではない」「説得されて戦争に突っ込んだ」とはいえ、昭和天皇はただ軍部に言われるがまま戦争を承認したわけではありません。この辺りは山田朗氏の

・『昭和天皇の戦争指導』(1990年、昭和出版
・『遅すぎた聖断:昭和天皇の戦争指導と戦争責任』(纐纈厚氏*10との共著、1991年、昭和出版
・『徹底検証・昭和天皇「独白録」』(粟屋憲太郎*11藤原彰*12、吉田裕氏*13との共著、1991年、大月書店)
・『大元帥昭和天皇』(1994年、新日本出版社
・『昭和天皇の軍事思想と戦略』(2002年、校倉書房
・『昭和天皇の戦争:「昭和天皇実録」に残されたこと・消されたこと』(2017年、岩波書店
・『日本の戦争III:天皇と戦争責任』(2019年、新日本出版社

などが詳しいと思いますが。
5)対米開戦に最も積極的だったのは、「近衛ではなく」、「中国から絶対に撤退できない」とする陸軍でした。
 対米開戦時の首相が東条だったのもそれが理由です。東条内閣成立時においては昭和天皇も側近たち(木戸幸一*14内大臣など)も敗戦の可能性が高い対米戦争には消極的でした。
 そこで、「対米開戦積極派」の陸軍を押さえ込むためには「首相は陸軍出身の方が良いのではないか」、そして陸軍大臣時の振る舞いから「東条は天皇への尊崇の念が厚いから、戦争を回避しろと天皇が命じれば必ずその通りに動くだろう」として東条が首相に選ばれたわけです(そして東条は彼なりに戦争回避に動きましたが結局は開戦したわけです)。
 もちろん東条陸軍大臣(後に首相)ら陸軍幹部が「尾崎に煽られてた」などと見なすのは馬鹿げています。
 次にハルノートデマへの批判。
1)ハルノート原案*15の作成者である財務省特別補佐官ハリー・ホワイトにせよ、ハルノートを日本に提示したハル国務長官にせよソ連スパイなどという事実はありません(産経らウヨは彼らをソ連スパイの疑いがあると誹謗しますが)。
2)そもそもハルノートの重要部分である「日本軍の中国からの撤退」はソ連云々ではなく蒋介石が希望したもんです。
3)蒋介石政権崩壊を望まない米国がハルノートにおいて「日本軍の中国からの撤退(当然、汪兆銘政権など傀儡政権の存在も認めない)」を要望することはむしろ自然です。
4)そして「繰り返しますが」ハルノートを飲むことは日本にとって「とてつもなく苛酷で対米戦争史か選択肢がなかったか」といえばそんなことはないでしょう。
 どっちにしろ拉致問題を論じるにおいて「日本の敗戦はコミンテルン謀略」などという与太を飛ばす必要はどこにもない。
 まあ、それはともかく、むしろ「ソ連にとって結果的に都合が良かった」のは「日本の対米開戦」より「ドイツとイタリアの連合国相手の開戦」じゃないか。ドイツは西ドイツと東ドイツに分かれて、東にはソ連が介入しました。ドイツが東欧侵略して、政治情勢が混乱したどさくさにソ連は政治介入し、東欧を自らの勢力圏にすることに成功しました。イタリアにおいても王制が廃止され、イタリア共産党がそれなりの政治力を保有しました。
 もちろんこれは結果論に過ぎません。ソ連はドイツに勝利するまでに相当の犠牲を払っていますし、ソ連敗北の可能性も充分あったでしょう。
 したがって結果論を元に「ヒトラーやムソリーニはソ連にはめられて開戦した」といったら正気を疑われるでしょう。「対米開戦」ソ連陰謀論もその程度のデマです。

 統一は韓国の大多数の国民が望まない

 そんなことはないでしょう。ただし「今の北朝鮮の経済状態」では統一したら韓国経済が沈没しかねません。「韓国より経済力がある西ドイツ」「北朝鮮より経済状態がマシと思われる東ドイツ」の東西ドイツ統一ですら統一の経済負担は相当のもんだったと思います。
 そこで「沈没しないように、統一前に北朝鮮経済を底上げしておこう」というのが太陽政策の目的の一つです。勿論他にも「経済の相互依存関係が生じれば南北ともお互い戦争には動きにくくなる」「経済交流が北朝鮮への情報流入中産階級の誕生をうみ、北朝鮮の漸進的民主化につながるかもしれない」などといったもくろみもあるでしょうが。
 「北朝鮮を経済的に締め上げてぶっ潰す、その結果、大量の難民が生じようが、統一後の韓国経済が沈没しようが知ったことではない」という「北朝鮮打倒論」に立たない限り、太陽政策は実に合理的な主張です。太陽政策は決して単純な「同胞愛」ではないし、ましてや北朝鮮シンパではない。太陽政策はもっとシビアなもんです。

 これを放置しておけば「明後日の日本」にならないとも限りません。

 何が「あさっての日本」なのか、さっぱりわかりません。誰(安倍政権?、ポスト安倍の自民政権?、ポスト安倍の立民首班政権?)が何をして「あさっての日本」になるのか。そもそも「放置も何も」韓国の対北朝鮮外交に日本が何を出来るというのか。

 日本が主体的に北朝鮮の体制を崩壊に追い込めれば、それは中国共産党支配にも打撃になるはず

 おいおいですね。なんで拉致の解決を目的としてる「はず」の組織のメルマガが「中国打倒論」なんか放言するのか?

*1:普通に考えてそれしかないでしょう。

*2:文氏が分断するまでもなく金大中盧武鉉政権時からウヨ連中(今の自由韓国党など)は太陽政策には否定的でした。まあ荒木だと金氏、盧氏についても「敗戦革命を目指してた」と言いかねませんが。

*3:日本との関係はともかく、米国との関係のどこを文政権が破壊しようとしてるのか?。トランプ政権の「とにかくジーソミアを続けろ、ホワイト国除外のことなど関係なく続けろ」などという対応は「当然の対応」では全くありません。ヒラリー政権なら「まずホワイト国除外をやめさせる」などまともな対応をしたのではないかと思うと「トランプ政権誕生」が実に残念です。

*4:ちなみに「敗戦革命」の恐れを危惧し、早期降伏を要求したのが有名な近衛上奏文です。しかし1)当時の昭和天皇が国体(天皇制)護持に固執したこと、2)(本気かどうかはともかく)近衛が東条英機ら陸軍統制派(対米強硬派、降伏反対派、徹底抗戦派)を「敗戦革命を目指す隠れ共産党の疑いがある」と事実に反する誹謗をしたことから、昭和天皇はこの上奏を無視しました。

*5:実際に起きませんでした。

*6:とはいえこうした与太で「現実逃避したくなるほど」対米開戦は後世の我々の目から見れば無謀でした。

*7:貴族院議長、首相など歴任。戦後、戦犯指定を苦にして自殺

*8:そもそも尾崎自体、ソ連にスカウトされる以前は「朝日新聞元記者」という本物のジャーナリスト、評論家だったわけです。尾崎の情報収集能力の高さを評価したソ連にスパイとしてスカウトされたわけです。

*9:関東憲兵隊司令官、関東軍参謀長、陸軍次官、第二次、第三次近衛内閣陸軍大臣、首相など歴任。戦後、死刑判決。後に靖国に合祀。

*10:著書『日本海軍の終戦工作』(1996年、中公新書)、『「聖断」虚構と昭和天皇』(2006年、新日本出版社)、『「日本は支那をみくびりたり」:日中戦争とは何だったのか』(2009年、同時代社)、『日本はなぜ戦争をやめられなかったのか』(2013年、社会評論社)、『日本降伏:迷走する戦争指導の果てに』(2013年、日本評論社)など

*11:著書『東京裁判への道』(2013年、講談社学術文庫

*12:著書『昭和天皇十五年戦争』(2003年、青木書店)、『天皇の軍隊と日中戦争』(2006年、大月書店)、『餓死した英霊たち』(2018年、ちくま学芸文庫)、『中国戦線従軍記』(2019年、岩波現代文庫)など

*13:著書『昭和天皇終戦史』(1992年、岩波新書)、『日本の軍隊』(2002年、岩波新書)、『日本人の戦争観』(2005年、岩波現代文庫)、『アジア・太平洋戦争』(2007年、岩波新書)、『日本軍兵士』(2017年、中公新書) など

*14:第一次近衛内閣文相、厚生相、平沼内閣内務相、内大臣など歴任。戦後終身刑判決を受けるが後に仮釈放

*15:ホワイト案とハルノートには若干の違いがあります