新刊紹介:「経済」8月号(その1:一帯一路特集号・その1)

「経済」8月号について、俺の説明できる範囲で簡単に紹介します。
 http://www.shinnihon-net.co.jp/magazine/keizai/
世界と日本
■史上初の米朝首脳会談(西村央)
(内容紹介)
 赤旗の記事紹介で代替。

赤旗
■歴史的な米朝首脳会談を心から歓迎する:2018年6月12日 日本共産党幹部会委員長 志位和夫
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik18/2018-06-13/2018061301_02_1.html
■主張『初の米朝首脳会談:敵対から非核と平和へ転換を』
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik18/2018-06-14/2018061401_05_1.html
米朝首脳会談:開始されたプロセスを成功させる国際社会のとりくみを
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik18/2018-06-15/2018061501_02_1.html
米朝首脳会談の歴史的意義:ラジオ番組 志位氏が語る
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik18/2018-06-19/2018061901_04_1.html
■日本は平和体制促進を、米朝首脳会談 辰巳氏が政府ただす
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik18/2018-06-19/2018061902_04_1.html
米朝首脳会談の歴史的意義、今後の展望を語る:志位委員長インタビュー
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik18/2018-06-24/2018062401_01_0.html
日朝平壌宣言に立ち独自の外交努力を:NHK「日曜討論」 小池氏が主張
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik18/2018-06-25/2018062502_03_1.html
■「米朝首脳会談の歴史的意義、今後の展望を語る」、志位インタビューへ反響相次ぐ、「未来が見えてくる」
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik18/2018-06-29/2018062903_01_1.html


■マレーシア新政権の誕生(大村哲)
(内容紹介)
 赤旗などの記事紹介で代替。
 なお、マレーシア新政権が
■産経『マレーシア、中国「一帯一路」の主要事業計画を廃止へ 350キロ高速鉄道
https://www.sankei.com/world/news/180528/wor1805280025-n1.html
ということで一帯一路関係でも見直しをしてることは事実ですが、それは産経のいうような「一帯一路否定、反中国」ではなくあくまでも「見直し」にすぎないでしょう。


赤旗『マレーシア初 政権交代へ、汚職疑惑に国民批判 野党勝利、マハティール氏 再び首相に』
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik18/2018-05-11/2018051107_01_1.html
■産経『マレーシア・ナジブ前首相を逮捕 資金流用疑惑、マハティール氏返り咲きで再捜査』
https://www.sankei.com/world/news/180703/wor1807030045-n1.html

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/56552
■現代ビジネス『マレーシアを揺らす92歳マハティール首相の「法に基づく"報復"」』
・マレーシア検察当局は7月4日にナジブ・ラザク前首相を3件の背任容疑と1件の腐敗防止法違反の容疑で高等裁判所に起訴。ナジブ氏はその前日の3日、クアラルンプール市内の自宅で容疑を固めるための捜査を進めていたマレーシア汚職対策委員会(MACC)によって逮捕されていた。
・ナジブ前首相は逮捕された3日夜、逮捕を予想して事前に用意していたとされるビデオメッセージを発表した。
 「私と私の家族に関する疑惑は全て事実ではない。起訴されたことが全て事実とは限らない」と全面的に疑惑を否定するとともに、「これはマハティール政権による政治的な報復であり、これからの法廷で無実を明らかにしていきたい」と法廷闘争を通じて無実を証明する意向を示し、マハティール首相による政治的報復であるとの見方を強調した。
・マハティール新政権が発足直後から「ナジブ前首相の汚職摘発」に乗り出したのは、それが最大の公約であった以上、自明の理であった。
 総選挙勝利後の会見でも、首相再任後の会見でも、マハティール首相は「ナジブ氏に個人的な恨みなどない、我々は報復を求めない、ただマレーシアの法の秩序を求めるだけだ」とあくまで法治国家として、ナジブ前首相の容疑を法に則って追究する姿勢を繰り返し強調した。
 それまで、ナジブ首相の汚職疑惑には「根拠がない」と判断していた捜査機関の陣容を立て直して、マハティール首相は着々と、そして迅速にナジブ前首相の疑惑の裏付けを進めていった。
 まず総選挙直後に、「家族としばらく休養したい」としてインドネシアに出国しようとしていたナジブ夫妻を「出国禁止」とした。
 クアラルンプール市内の自宅周辺を警察官らが警戒、「実質上の自宅軟禁」状態にして逃亡を警戒。そして5月16日以降、連日、自宅や高級コンドミニウムなど複数のナジブ前首相の居住場所への家宅捜索に踏み切った。
・今後の捜査の展開次第ではロスマ夫人や家族、与党の側近などが逮捕される可能性もあり、家族ぐるみ、党ぐるみの不正資金流用の実態が白日の下に晒されることにもなりそうだ。
・野党に転落したかつての与党「統一マレー国民組織(UMNO)」などは、ナジブ前首相の逮捕・起訴は「総選挙で勝利した野党連合による。建国以来これまで与党として政権を維持してきた我々への歴史的、政治的報復にほかならない」として反発している。
 しかし、国民の多数の支持を受けて政権奪取に成功したマハティール首相は、「あくまで法の定めるところに従った上での措置」との立場を強調することで「個人的な怨念や仕返し、報復」ではないことを懸命に印象付けようとしているのは事実だ。
 マハティール首相が目指すのはナジブ前首相によるマハティール氏や野党指導者への「冷遇、裏切り」への報復というよりも、「不正蓄財で私腹を肥やした結果、国家や国民に被害を与えたこと」に対する断罪であり、それを「報復」とナジブ前首相やその支持者が指摘するなら「法に基づく国や国民による正義の報復」に他ならないというのがその立場である。
・マレーシア国民の大半は今回のマハティール政権による「ナジブ前首相の汚職疑惑」追求を歓迎し、その疑惑解明に大きな期待を寄せている。それはナジブ時代には与党寄りが露骨だった地元紙の報道にも顕著に表れており、汚職摘発を積極的、精力的に進めるマハティール政権の動きを好意的に伝える報道が連日続いている。


■イタリアの総選挙と新政権(宮前忠夫*1
(内容紹介)
 イタリア総選挙においては右派ポピュリスト政党「5つ星運動」と右派政党「同盟(旧称・北部同盟)」が議席を伸ばし、彼ら中心の組閣が行われた。
 一方、右派政党「フォルツァ・イタリアベルルスコーニ一派)」、中道左派政党「民主党」は議席を減らし、イタリア共産党の流れをくむ左派政党は前回に引き続き、残念ながら今回も議席が獲得できなかった。
 なお、5つ星運動の組閣で早速危惧されるのは「トランプ米国」「EU離脱の英国」を後追いしているようにも見える「排外主義的移民政策」と「EUからの離脱の恐れ」である。
参考

https://mainichi.jp/articles/20180615/ddm/007/030/118000c
毎日新聞『コンテ新政権、難民船を拒否 EUの亀裂あらわ』
 イタリアで今月1日に誕生した欧州連合EU)懐疑派の新政権が、地中海で救助された難民の受け入れを拒否する強硬姿勢を見せている。これを受け、フランスのマクロン*2大統領が「無責任」と非難する一方、東欧諸国はイタリアを支持。移民・難民問題を巡るEU内の亀裂の深さが改めて浮き彫りになっている。
 問題となっているのは、アフリカなどからの629人の難民を、9日に地中海のリビア沖で救助したフランスの非政府組織(NGO)の船の扱いだ。
 各国のNGOは従来、難民受け入れ施設のあるイタリアの港を拠点に活動を行ってきた。だが、イタリアのサルビーニ内相は10日、これまでの方針を改め、仏NGO船の入港を認めず、救助地に近い地中海のマルタに受け入れを要請。マルタも拒否したことから、NGO船は、11日に受け入れを表明したスペインへ向かっている。
 マクロン氏は12日、「問題を直視しない無責任な対応」とイタリア政府を批判。イタリア首相府は「移民問題を直視しない国からの偽善的な教えは受け入れられない」と猛反発し、伊外務省は13日、駐伊フランス大使を召喚して抗議した。
 「偽善」という言葉で非難した背景には、スペインが受け入れを表明するまでマクロン氏が沈黙を保っていたことや、フランスが、イタリアとの国境の警備強化による移民の流入阻止を図っていることなどがあるようだ。
 EUのダブリン*3規則は、難民が域内で最初に到着した国で保護申請することを義務付けており、受け入れ拠点となってきたイタリアやギリシャには負担となってきた。イタリアには過去4年で60万人超の難民らが流入。ダブリン規則の見直しは進まず、難民らはイタリア国内で滞留しているのが現状だ。
 3月のイタリア総選挙で、こうした状況に対する国民の不満の受け皿となったのが、サルビーニ氏が率いる「同盟」。イタリアの連立政権の一翼を担い、移民排斥を訴える。同様にEUの移民・難民政策に反対するハンガリーのオルバン首相は、今回のイタリア政府の対応を「全面的に支持する」と表明した。
 マクロン氏とイタリアのコンテ首相は15日にパリで会談し、事態沈静化に向けた協議が行われる見通しだ。だが、サルビーニ氏は今後も外国船籍の救助船を受け入れない強硬姿勢を崩しておらず、EU内の足並みの乱れは続くとみられる。

https://mainichi.jp/articles/20180623/ddm/007/030/076000c
毎日新聞『イタリア:内相「ロマ人口調査」 野党「ムソリーニ政権想起」 連立内からも批判』
 イタリアのサルビーニ内相が、東欧から移住した少数民族「ロマ」の人口を調査する方針を表明し、波紋を広げている。不法滞在者の国外追放を念頭に置いた発言だが、強硬な移民政策を掲げるサルビーニ氏に対しては政権内からも異論が出ており、3カ月の政治空白を経てようやく誕生した連立政権内の足並みの乱れが、早くも表面化している。
 欧州各地には、東欧ルーマニアなどから移住してきた、以前はジプシーと呼ばれたロマが暮らし、イタリアでも都市近郊に作られた簡易な小屋などに暮らしている。
 右派政党「同盟」書記長のサルビーニ氏は18日、テレビ出演し、ロマの人口調査を実施した上で、イタリア国籍を持たない者について国外追放する考えを示した。
(中略)
 ナチス・ドイツに協力してユダヤ人とロマを排斥したムソリーニ政権をほうふつさせるとして、野党からは批判が噴出。「身内」のコンテ首相や連立相手のポピュリズム大衆迎合主義)政党「五つ星運動」を率いるディマイオ経済発展・労働相からも、民族性に基づく人口調査は「憲法に反する」との異論が出される事態となった。
 だが、サルビーニ氏は「学校に通えない子供たちの保護が目的」と正当性を主張し、方針は撤回しなかった。これまで主張してきた不法移民対策を断行する姿勢を示す狙いが透けてみえる。
 伊政府を巡っては6月上旬、地中海上で救助された難民ら約630人を乗せたフランスのNGO船の入港を拒否し、21日には、違法性を調べるためにドイツのNGO船を押収する方針も示した。一方で、自国の沿岸警備艇が乗せた難民らは受け入れることで「非人道的」との批判をかわそうとしている。
 移民問題欧州連合EU)に揺さぶりをかける伊政府の方針は、内相として移民問題を担当するサルビーニ氏の意向が色濃く反映されている。北部ミラノ出身のサルビーニ氏は、17歳で「同盟」の前身「北部同盟」に加わり、2013年に党代表に就任。産業集積地の北部の富を浪費しているとしてイタリア南部地方を舌鋒(ぜっぽう)鋭く批判し、移民問題の高まりを受けて「反移民」へと軸足を移してきた。昨年「同盟」に党名変更して全国で勢力を伸ばした。
 3月の総選挙でも、「ロマの不法キャンプを解体する」などと訴えていた。選挙では政党別得票率で首位の「五つ星」に水をあけられて3位だったが、20日公表の世論調査政党支持率は28・3%で、五つ星(28%)を抑えて首位となるなど、選挙後も勢いを増している。高い支持率に下支えされるサルビーニ氏は今後も強気の言動を続けそうだ。

 排外主義という意味でイタリアは相当まずい状況にあるかと思います。
 このような右傾化する政治状況では移民政策でより寛容な中道左派民主党」や「イタリア共産党の流れをくむ左派政党」などはなかなか厳しい状況にあるといえるでしょう。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO33010070U8A710C1NNE000/
■日経『イタリア政権、カナダとのFTA「批准しない」』
ジュネーブ=細川倫太郎】
 イタリアのディ・マイオ経済発展・労働相は13日、欧州連合EU)とカナダの自由貿易協定(FTA)について、「イタリアは批准しない」と述べた。イタリアの農産物の保護などが理由で、EUが目玉としてきたFTAが破談となる可能性も出てきた。
 このFTAは包括的経済貿易協定(CETA)と呼ばれている。貿易品目の99%の関税が撤廃され、2017年から暫定適用している。完全な施行にはEU全28加盟国*4の批准が必要となる。
 ロイター通信などによると、ディ・マイオ氏はローマで開かれた農業生産者団体の集会で「近く議会でCETAが議論されるが、大多数は反対する」と指摘。「私がここにいるのは主権を取り戻すことを意味する。イタリア経済を守らなければならない」と語った。
 6月に発足した政権は公約に「自国産の農産物を守る」と盛り込んだ。カナダからの輸入増加がイタリア産品に悪影響を与えると懸念しており、CETAへの反対はこの公約に沿った格好だ。
 EUは地域の高品質な農産品や食品を保護するため、「原産地呼称保護(POD)」や「地理的表示保護(PGI)」という制度を運用している。イタリアはパルマハムなど約290品目がPODやPGIに認定されているが、CETAで保護対象になっているのは40品目ほどにすぎない。
 イタリアの農業生産者団体も「多くの偽物が出回るリスクがあり、地元農家などが不利益を被る。CETAは間違った協定だ」と反発している。
 トランプ米政権が輸入制限を連発したのに対し、他の国・地域が報復措置をとるなど、足元では貿易戦争の様相を帯びる。欧州でもユーロ圏3番目の経済大国イタリアが保護主義的な政策に傾けば、EUの通商政策にも微妙な影響を与えそうだ。


特集「銀行大リストラをどう考えるか」
メガバンクの経営戦略と大リストラ(中野瑞彦)
■メガ・バンクのリストラと労働運動の課題(田中均
(内容紹介)
 メガバンクの大リストラについて「企業が果たすべき雇用維持の責任を無視している」として批判がされる。
 その上での政府の適切な雇用政策と労組の適切な対抗運動の必要性が述べられている
(なお、筆者が主張する「政府の適切な雇用政策と労組の適切な対抗運動」の詳細についてはうまく説明できそうにないので、恐縮ですが、直接、『経済』誌を参照してほしい)。


NAFTA見直しにゆれるアメリカとメキシコ(所康弘*5
(内容紹介)
 「NAFTAによって米国企業が、安い労働力を求め、メキシコに進出し、米国の産業空洞化がすすんだ。メキシコばかりが利益を得て米国は被害者だ」としてNAFTA見直しを唱えるトランプの主張は極めて一面的だとして批判がされる。
 なぜなら「例えば」NAFTAによって米国農産業はメキシコへの大量輸出によって利益を得た反面、メキシコ農産業は米国との競争に敗れ衰退傾向にあるからである。
 NAFTAの見直しが必要だとしても「トランプのようなほとんどデマゴギーと言っていい主張」は有害無益だと批判される。
 しかしこうしたトランプ発言はおそらく「ラストベルトの票を獲得し中間選挙に勝てればいい」ということでトランプ共和党が故意に垂れ流しているものであるため、「客観的なデータに基づいたNAFTAの適切な見直し」は現実問題として容易なことではないという厳しい認識が提示される。


ニュージーランドのホームレス対策:「ハウジング・ファースト」アプローチの成果(芝田英昭*6
(内容紹介)
 ニュージーランドのホームレス対策での「ハウジングファースト」が好意的に紹介されている。

【参考:ハウジングファーストについて】

https://mainichi.jp/articles/20180527/ddm/015/070/032000c
毎日新聞・今週の本棚『ハウジングファースト 住まいからはじまる支援の可能性』(稲葉剛ほか編、山吹書店、2808円)
 米国で開発された「ハウジングファースト」。本書によると、路上生活者や精神科病院の入院患者らにまずは住まいを提供し、福祉や医療の専門家による支援サービスを実施して自立を促進する方式をいう。この方式を日本でも本格導入し、社会復帰しやすい仕組みをつくるべきだとの提言をまとめた一冊だ。

http://webronza.asahi.com/national/articles/2018052200009.html
■ハウジングファーストを支える人間観とは:哲学研究から転身したソーシャルワーカーに聞く(稲葉剛*7立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科特任准教授)
 注目されているのが、ハウジングファースト型の支援によって路上生活者を劇的に減らしたフィンランドの経験だ。イギリスの有力紙「ガーディアン」は数度にわたり、フィンランドのハウジングファースト事業に関する記事を掲載。政府も2022年までに路上生活者を半減させるため、イングランドの3つの地域でハウジングファースト型のパイロット事業を実施するための予算を確保した。
 ハウジングファーストとは、重篤精神疾患を抱えながら長期にわたってホームレス状態にある人たちへの新たなアプローチとして、1990年代初めにアメリカで提唱され、その後、欧米各国で採用されている支援モデルである(ただし、フィンランドでは独自に発展したと言われている)。
 従来のホームレス支援では、まずは精神科病院やシェルター等で一定期間、治療や生活訓練を受けた上で、支援者により「一人暮らしが可能である」と見なされた人のみがアパートに移れるというステップアップ型のアプローチが採用されてきた。
 しかし、アパートをゴールとするステップアップ型の支援では、最後まで「階段」を上りきれず、途中でドロップアウトして路上生活に戻る人が少なくない。そのことに疑問を持ったアメリカの臨床心理学者、サム・ツェンベリスが、最初に無条件で住まいを提供した上で、医療・福祉の専門家のチームによって地域での生活を支えるという逆転の発想に基づく支援モデルを導入したところ、中長期的な定着率が高くなることが判明。医療費などの社会的なコストも削減できることが立証されて、世界各国に広まっていった。
 手前味噌だが、日本ではまだ馴染みの薄いハウジングファーストを紹介するため、私は東京都内のホームレス支援の実践者や欧米のハウジングファーストを調査している研究者とともに、今年4月、『ハウジングファースト〜住まいからはじまる支援の可能性』(稲葉剛・森川すいめい*8・小川芳範編、山吹書店)と題した書籍を上梓した。機会があれば、ぜひご一読いただきたい。

https://mainichi.jp/articles/20180714/k00/00m/040/083000c
毎日新聞『貧困性的少数者専用の滞在施設整備へ 支援団体が計画』
 生活が困窮して住まいを失った性的少数者が自立するための「住居」を確保しようと、支援団体などが、個室シェルターの運営を計画している。ホームレスの一時保護に使われる宿泊施設は性別ごとの相部屋が多く、抵抗を感じたり入所できなかったりする当事者は少なくない。資金は100万円を目標に寄付を募る予定で、13日からクラウドファンディングhttps://greenfunding.jp/)を始めた。
 支援団体などで作る「LGBTハウジングファーストを考える会・東京」によると、貧困対策としての性的少数者専用の滞在施設は全国で初めて。シェルターは東京都中野区の賃貸アパートの一室を想定。貧困からホームレス状態にある男性の同性愛者や両性愛者、体の性と自分が認識する性が異なるトランスジェンダーを受け入れる。滞在は原則約3カ月間で、この期間中に生活保護を申請して新しい住居を見つける。状況に応じて新しい仕事も探す。1年間の試行で効果を検証する。


■財界支配の研究:「安倍一強」政治の歴史的な背景と矛盾(上)(佐々木憲昭*9
(内容紹介)
 いわゆる「安倍一強(党内で目立った安倍批判が見られないこと)」について「小選挙区導入により、党執行部の公認権が中選挙区時代以上に重要となったこと(公認が得られないと落選の危険が高い)」「政党助成金制度(特に何もしなくても党執行部に事実上のつかみ金が交付されること)」が指摘される。
 長期不況により企業が政治献金を出し渋るようになったことも「政党助成金制度の重要性」を助長することになった。


■3月期決算の歪んだ収益構造:歴史的な最高益と長期景気(小栗崇資*10
(内容紹介)
 企業が高収益をあげているが、それは「人件費の大幅なカット」「円安による輸出の増加」「爆買いに代表される外国人観光客の存在」「財テク」「安倍政権下での法人税減税」によるものであり「日本人の消費自体は停滞していること」が指摘される。
 「所得再配分の充実(政府施策)」「企業が賃金を人件費(コスト)とのみ見なすのではなく内需を下支えする要素として労働者に一定の還元をはかること」を強く求めている。


特集「中国経済と「一帯一路」構想」
中国経済はどこへ向かうか:改革の深化と「強国化」の将来(井手啓二*11
(内容紹介)
 基本的には一帯一路を評価し、日本の積極的参加(AIIB参加を含む)を主張する井手氏だが、一方で「一帯一路」が経済振興政策にすぎず、それが当然に社会福祉や政治的自由の拡充にはつながらないことを当然ながら指摘している。
 「一帯一路」の「予想される成功」を理由に社会福祉や政治的自由の拡充の問題を軽視してはならないとする反面、そうした問題を理由に「一帯一路」に否定的、敵対的な日本右派(産経、日本会議など)や一部の中国批判派(例:阿部治平など)には「経済政策評価に過剰に人権問題をリンクすべきではない」として批判を行っている。
 まあ、「池田勇人*12時代の高度成長政策」は「池田の社会福祉政策」などとは別に、それなりに評価すべきだろう、つうような話です。
 なお「社会福祉や政治的自由の拡充」といった国内人権問題については、「楽観的ではない」井手氏だが、中国の外交については「日本の韓国・朴チョンヒ政権やアパルトヘイト南アとの経済交流」のような「海外の独裁国家(あるいは南アのように独裁ではないが人権面で問題のある国家)の支援」という問題はともかく、「無意味に外国と敵対的関係になることは一帯一路の成功を阻害する」という理解から「南シナ海問題でのフィリピンやベトナムとの紛争なども基本的には平和的に解決するのではないか」と比較的楽観的である。
 なお井手論文も他の論文も
■産経【国際情勢分析】中国がスリランカに“掟破り”の選挙資金供与疑惑 要衝港の利権獲得で見返り?
http://www.sankei.com/premium/news/180707/prm1807070007-n1.html
■日経『中国「モルディブ元大統領の発言は捏造」』
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO26861110T10C18A2FF2000/
のような様々な問題点(スリランカモルジブなど諸外国において、「一帯一路を含む対中関係」を巡って国内での争いがあることなど)があることには触れていますが、だからといって当然ながら産経のような「一帯一路否定論」には立ちません。

参考

http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/300/270760.html
NHK『一帯一路"中国の思惑に日本の対応は』(ここに注目!)
・2017年05月16日 (火)放送
(藭子田章博・ 解説委員)
 中国が提唱する巨大な経済圏構想「一帯一路」をテーマにした国際会議が、きのうまで北京で行われ、各国のインフラなどの効果的なつながりを強めていくことで一致しました。藭子田章博解説委員に聞きます。

 神子田さん、会議を主催した中国は狙い通りの成果をあげたといえるのでしょうか?

 29カ国*13の首脳が一堂に会し、中国の構想に一定の理解を示したという意味で成果はあったとおもいます。この一帯一路構想というのは、中国からヨーロッパにむけた交通インフラを陸路と海路で整備するとともに、税関やビザの手続きも簡素化して貿易を促進する。そして高速道路や鉄道、港湾施設などを整備するのに必要な資金を、中国が自ら拠出したり融資したりするというものです。いわば、自由貿易圏とODA・政府開発援助を組み合わせたような構想なのです。中国とすれば国内需要が伸び悩む中で海外に成長の糧を見出したい思惑があります。
Q 
 参加した各国はこの構想をどう受け止めているんでしょうか?

 自国のインフラが整備され、巨大市場である中国へのアクセスも容易になるということで、歓迎する声があります。その一方で、中国が過去に開発した港湾施設がその後中国海軍に利用されている例もあることから、インドなど一部の国からは、「中国は安全保障上の観点から、経済的な結びつきを強めた国を、投網をかけるようにして、政治的にも取り込もうとしているのではないか」という警戒感も出ています。

 この構想に対して日本はどう望むべきでしょうか?

 日本政府は、中国が一帯一路を通じてアジアへの影響力を強めようとしているという見方から、一線を画す立場です。その一方で、今回の会議には、自民党の二階*14幹事長が参加して、中国の構想に期待を示すなど、つかず離れずの対応をとりました。実際にこうした地域が発展すれば、日本企業にとってもビジネスチャンスが広がる可能性もあります。実は、この一帯一路は、国際機関や協定とは違って、どの国でもいつでも参加できるゆるやかな枠組みとなっています。このため日本としては、この構想の行方を注意深く見ていきながら、日本にメリットがあると見たらすかさず一枚かんでいく。そうしたしたたかな付き合い方が求められるのではないでしょうか。

https://www.nhk.or.jp/fukayomi/maru/2017/170527.html
NHK・週刊ニュース深読み(2017年05月27日放送)『現代のシルクロード!? 中国「一帯一路」どうなる世界』から一部紹介
■今週の出演者
・専門家
 興梠一郎さん*15(神田外語大学教授)
 津上俊哉さん*16(現代中国研究家・コンサルタント)
 神子田章博(NHK 解説委員)
・ゲスト
 金子貴俊さん(タレント)
 千秋さん(タレント)
首藤奈知子アナウンサー
 "シルクロード"と聞くとロマンの香りがするんですけれども、おふたりは、どんなイメージですか。
■千秋さん
 砂漠、ラクダ。
■金子さん
 交易が行われてたってイメージありますけどね。
■首藤アナウンサー
 現代版のシルクロードは、ものすごいお金が動くようなんです。プレゼンはこの方です。
■田中寛人アナウンサー
 私、中国の商人、ビジネスマンでございますね。きょうはすごい話を持ってきた。ビッグビジネスチャンス。ものすごいもうけ話。もうけるといったらシルクロード
 まずちょっと、ここからおさらいしていきましょうね。
 シルクロードとは、昔からこの中国、そして、中東やヨーロッパを結ぶ東西貿易に使った道のことですね。シルクロードの名前の由来にもなりました中国の特産品、絹。中国からはこうした絹とか陶磁器を中東やヨーロッパに。で、ヨーロッパからはガラスとか宝石とか、そういったものを頻繁にやり取りしていた道なんですね。そして、この方も。
■千秋さん
 マルコ・ポーロ
■田中アナウンサー
 日本を「ジパング」と紹介した彼も、ヨーロッパからアジアに来る時にこの道を通ったという由緒ある道、中国の繁栄を支えた道。これを現代に復活させようっていう、壮大なプロジェクトを立ち上げたのがこの方。
■首藤アナウンサー
 習近平*17国家主席
■田中アナウンサー
 中国のリーダーでございますね。彼が"現代版シルクロード"と言ったのが、「一帯一路」。
 現代のシルクロードとはどういうものなのか。それが、こちら。
 ラクダなんて、いまはそんな時代じゃない。とにかくスピード。鉄道とか高速道路で中国から、中東などを通って、ヨーロッパにズドン。この陸のルートのことを「一帯」。
 こっちもあります。海。こういう大きな貨物船が寄港できるような大きな港も整備して、船が自由にヨーロッパまで行き来できる。この海のルートのことを「一路」。
 習さんはね、こう言ってるんですよ。一帯一路はこれが大事。ウィン・ウィン。中国だけではなくて、みんな豊かになりましょう、得しましょうっていう話。
■千秋さん
 これだけ見たら、すごいいい話。
■田中アナウンサー
 いい話なの。千秋さん。例えば中国からだと、パソコンとか衣料品をスピーディーにズドンとヨーロッパに輸出できる。ヨーロッパからは、自動車とかワインとかをスムーズにやり取りできる。
 当然、中国だってウィン。ヨーロッパだってウィンでしょ?
 点と点がもうかる。貿易だからそれはそうだけど、大事なのは一帯、このベルト。みんなもうかる。
■千秋さん
 途中の国も?
■田中アナウンサー
 この辺りって砂漠もあったりして、なかなか開発が進まなかったところがある。そこに鉄道を引くっていうことは誰がやりますか?。地元の方にやってもらうってことは、仕事を生み出しますよね。大きなターミナルとか物流センターができるということは、人がたくさん集まって街が豊かになる。これはもう私のビジネスチャンスも広がる。
 そして海。大きな船が入るような港は誰が造ります。国際船がいっぱい来るということは、世界に開けた都市になる。日本でいうと、横浜とか神戸とか、でっかいでしょ?ああいう街になるでしょっていうことで、この街も所得が増える。お金持ちがいるってことは、私のビジネス相手も増えるかもしれない。こういうことになってくるっていうことです。
 そして、街が発展していくとなると必要になってくるの、あるでしょ?。電気とかいっぱい使うでしょ。このあたり、中央アジアとか中東って、天然ガスとか原油とかいっぱい採れるところ。じゃあそこにパイプライン引いちゃおう、発電所作っちゃおう。ほら、地元も、そうするとまた潤うしね。ウィン・ウィンでございますよ。そのためには、私たちお金も惜しみませんよ。
 4年前ぐらいから、現代版シルクロードと言ってるんだけど、これまでに日本円で5兆6000億円、もうお金を使ってる。
■金子さん
 もうそんなに?
■田中アナウンサー
 それだけじゃない。今後5年間で、さらに3倍。17兆円投資します。ビッグビジネスというのはもう1個理由があって、一帯一路の規模。ご覧ください、これ。
 いま、世界の国って196か国だから、(ボーガス注:参加対象国が約60カ国で)3分の1ぐらい。人口の60%。大プロジェクトなわけですよ。どうですか?。お隣の日本さん。一緒に開発しましょうよ。そして、世界一の経済大国、あの国。あの国にも一緒にやろうって、私たちは声かけた。でも、ちょっとよく分かんないけれども、なんか、(ボーガス注:日米両国は消極的な)こういう感じなんですよ。
■金子さん
 こんないい話なのに。
■千秋さん
 うまい話には裏があると思ってるんじゃない?
■田中アナウンサー
 そういうことなら分かりました。私たちはここのアジア、ユーラシアでウィン・ウィンやっていきますよ。
 これからさらに、ウィン・ウィン盛り上げて、私もどんどんこれから忙しくなる。次のビジネスのアポあるから忙しい。考えといてね、再見(サイチェン さようなら)!
■首藤アナウンサー
 なんかすごいことが起きそう。ウィン・ウィン言ってましたけど。
 興梠さんは大学で中国の歴史や政治など研究されていますけれども、中国は、一帯一路にどうしてこんなに力を入れてるんですか。
■興梠 さん
 ちょっと難しい言い方になりますけど、"中国主導の世界秩序"っていう。
■千秋さん
 世界秩序まで行っちゃうんですか? 経済だけじゃなくて。
■興梠さん
 アメリカがね、世界を取りしきってるっていうのは、前からあまりおもしろくないんですよ。
■金子さん
 中国としては。
■興梠さん
 そうですね、金融面も含めてね。そこで、中国、国力が付いてきたと。世界第2の経済大国になった。もうそろそろ自分の秩序を作ってもいいんじゃないか。それを習近平さんは、「中華民族の偉大なる復興」とか、「かつての栄光」、「中国の夢」と言っている。
■神子田解説委員
 いわゆる先進国が、WTO世界貿易機関)で貿易のルールとか作ってきましたけれども、そのルールは、要は"進んだ国仕様"なんですよね。
 先進国は発展してるから、より厳しいルールを自分たちで律して、お互い公平なことをやろうというルールを作ってるんですけれども、途上国からすれば、そんなルールよりも、まず生きていくことが大事と。だから、例えば「知的所有権を厳しく」とか言うんだけれども、少し大目に見てもらってもいいんじゃないのっていう国がたくさんあるわけですよね。そういう国からすると、自分たちのルールを作るべき、ということで、先進国とは違う対抗軸を作ろうと。
■金子さん
 中国はいま、予算をあんだけかけてますけど、これを実現できるぐらいの資金はあるんですか。
■神子田解説委員
 大きく中国は、2つのお金の面の工面を持ってます。
 「AIIB(アジアインフラ投資銀行)」、これも中国主導で作ってるんですけれども、この銀行が資金を調達して、発電所とか道路とか造るのに必要なお金を融資する。
 あともう1つ、「シルクロード基金」。さっき、何兆円という額がありましたけど、投資って書いてありますよね。これは採算の取れそうな事業に対してお金を投資して、うまくいったら回収できる。でも問題は、これがきちんと採算が合う事業なのかどうかというところなんですね。
■首藤アナウンサー
 津上さんは中国経済の専門家で、北京の日本大使館に駐在経験もあるんですけれども、どう見ていますか?
■津上さん
 最初にこの「一帯一路」っていう名前が世界にバーッと流布したのは、いまから3年前なんですね。その時は、本当に大きな風呂敷が広げられて、まさにこんな感じだったんですけどね。それから3年たつ間に、だいぶ変化してきた部分があります。
■首藤アナウンサー
 どんな?
■津上さん
 例えば最初の構想でよく言われてたのは、ヨーロッパからアジアまで、日本の新幹線みたいな、ああいう高速鉄道のネットワークをバーッと建設すると。それによって、例えばレールっていう形で鉄をたくさん使うと。いま中国は、鉄鋼業が需要が足りなくて、ものすごく業界が苦しいんですよね。なもんだから、そこで新しい鉄の需要がたくさん出て、これで鉄鋼業も救われるみたいなね。
 だけど、そんな砂漠に鉄道引いて絶対採算取れないよな。どうするつもりなんだろうっていうふうにみんな心配してた。いくらなんでも大風呂敷じゃないかみたいなところがだんだん畳まれて、少し現実的な話、地に足の付いた話にだんだんシフトしてきたみたいな部分もあるんですね。
■神子田解説委員
 現場は実際どうなのかと。一帯一路というけれど、いったいどんなもんだろうと思って、ちょっと私、見に行ってきたことがあるんです。
 これ、中国の隣にカザフスタンという国がありまして、中国のカザフスタンの国境、新疆ウイグル自治区というところのホルゴスという街。それと、カザフスタンの首都アスタナ。このホルゴスという街では、トラックが荷物を下ろしたり積み替えたりするターミナルですとか、見本市会場ができていた。それと、その周辺にカザフスタンとかヨーロッパにビジネスできるぞということで、靴下工場とかもどんどん建ってまして、これからどんどんヨーロッパに向けて輸出できるぞというふうに盛り上がっていました。
 中国はもともと沿海部から発展していて、内陸部のほうは発展が遅れてたんですね。一帯一路を実現するっていうことは、内陸の奥のほうまで開発するという意図もあったんです。その意味で、まず地元への経済効果を期待していると。
 もう一方のカザフスタンのほうは、いま資源中心の経済なんですけれども、ここを、工業とか商業とか発達させたい。そのためには中国の投資、お金ですね、あと、技術。あと、労働力も提供してくれるということで、自分たちの経済を発展させてくれるのではないかといういい例ですね。
 一方で、スリランカのハンバントタ、港があって、これ、中国がお金を出して作ったんですよ。日本円で1500億円、この港を造るのに融資した。いま津上さんから採算が取れるかどうかという話がありましたが、港の使用料とかで稼いでいってお金を返すんですけれども、なんとこの港、1日1隻船が通るかどうかみたいなところなんですよね。しかも、最近中国とスリランカ政府で話し合ってることは、中国が融資を少し減らしてあげましょうかと。その代わり、この港を99年間、私たちの側に使用権をくださいと。この1500億円、年利が6.3%という高い金利で貸してるんですけど、もう返しようがないんですね。返しようのないお金を貸しておいて、採算の取れない港を造って、返せないんだったら、その港をよこせみたいな感じですよね。
■千秋さん
 ほら、そんなことになるじゃんみたいな気持ちなんですけど。
■首藤アナウンサー
 興梠さん、一帯一路は実現可能なのか。
■興梠さん
 もともとこの地域っていうのは、いろんなカントリーリスクが。
■千秋さん
 カントリーリスク?
■興梠さん
 ええ。リスクが高い地域、紛争があったり、テロがあったり。そこにお金をなぜ投入してこなかったかというと、みんな、怖いからですね。あとは、政治腐敗の問題とか、環境問題とか、そういうのがクリアできてない地域だから。そこに中国は、私はもっと寛大にお金をお貸ししましょうと。要するに、"死角"だったんですよね。中国はその死角に入っていきましょうということ。実際に、例えばパキスタンとインドは、領有権もめてるカシミール地方とかがある。中国はパキスタンと仲がいいので、パキスタンと中国をつなぐ。これ、インドは怒ってるんですね。だから、今回は一帯一路の会議に参加してません。こういった細かい問題があちこちで起きるので、中国がつなぎたくても、なかなか。
■金子さん
 実際中国は、一帯一路広げて、世界に自分たちが自由にできる場所をもっと増やしたいっていうのが、本当のもくろみだったりするんですか?
■津上さん
 1つは資源をそのままパイプラインとかで持ってこられる。いわゆるエネルギーの安全保障ですよね。例えばマラッカ海峡アメリカの影響下にあったり、そこを封鎖されたら終わっちゃうとか、そういった時のことも考えてますよね。
 あとは、中国の製品を売っていきたい。これは経済的な側面。しかし、例えばインド洋なんていうのは、インドは嫌がってるんですね、スリランカに入ってくるとか。安全保障面でインドは中国を警戒してるので、軍港として使うんじゃないかと。
■神子田解説委員
 実際にスリランカコロンボというところの港には、いきなり中国の潜水艦が現れて。スリランカとしては、それ、聞いてないよみたいな。
■首藤アナウンサー
 津上さん、そういうことって起きうる。どうなんでしょう?
■津上さん
 中国って、この20〜30年間の間に、ものすごく経済的に発展しましたよね。それは世界にもずいぶん新しい需要をもたらしてくれたんだけども、人類の歴史を振り返ると、隣の国が急激に成長する、人口が増えるとかっていうと、それこそ戦争が起きちゃうっていうふうなことが、ままあったわけです。人情として、隣が急激に出世する、金持ちになるっていうのは、おめでとうっていうところもあるけども、何か不安にかられるっていうようなね。これは人情として避けがたいところがあるんだと思うんです。
 だとすると、そういう時に大きくなる、成長するほうとしては、周りに安心を提供することって、すごく大事だと思うんですね。
■首藤アナウンサー
 安心させてほしいっていうのはありますよね。
■津上さん
 そこは中国との距離によって、ずいぶんと受け止め方が違うと思います。
■千秋さん
 それは、地図の距離?
■津上さん
 ヨーロッパなんかはすごく離れてるから、ビジネスチャンスにずいぶん目が行ってるんだけども、近隣の国は、利益は利益でありがたいんだけど、心配だなって非常に複雑なものがあります
■神子田 解説委員
 中国からすれば、言い分というか、思いはありまして、中国というと、いまでも大きな国ですけど、昔はもっと、一大帝国みたいなのを築いていたんですよね。ところが、この150年ぐらい、欧米列強に攻められたりして、昔より小さくなっちゃったみたいなイメージがあって、それを何とか昔に戻そうっていうのが、習近平さんの「中国の夢」という政策。
 一方で、大変な人口がいますから、これを食べさせていかないといけない。そのために、いま中国はアフリカから石油を輸入していたりして、それがきちんと届くように防衛する必要もあると彼らは思っていますし、この周辺諸国とも、なるべく友好関係を築いて自分たちを安全にしよう。その1つの手段が、経済での結びつき。
■金子さん
 実際この一帯一路が、習さんの言うように、経済発展にちゃんとなる場合はいいわけですよね。
■神子田解説委員
 周りには、まだ必要な道路がないとか、電気がちゃんと通らないとかいう途上国はいっぱいあるわけですよね。アジアのインフラのために必要な資金というのは、膨大な需要があって、それに対して、先進国、日本、アメリカなどが出すだけでは足りないというところがありますから、資金を受け取る側としては非常にありがたいっていうことはあるんです。
■津上さん
 中国って本当に、周りの国にいろんな経済メリットをもたらしてくれてきたと思うんですね。この20年間を考えても、中国が成長しなかったら、日本経済ってもっとひどいことになってたと思うんですよ。そういう点ではありがとうっていう部分、あるんだけど、僕はいま中国を見て残念なのは、いつそれを撤回されてしまうか、いつ取り上げられるか分かったもんじゃないよねっていう、そういう不安感があるんですよ。
 例えば、この間韓国が、北朝鮮向けなんですけども、迎撃ミサイルを配置するっていう(ボーガス注:サードという)計画があって、中国はそれを、(ボーガス注:中国をターゲットにしてるんじゃないかといって)すごく反対してるんですね。ミサイルを配備するために用地を提供した韓国のロッテという会社がありましたけども、ロッテは中国の国内でものすごくバッシングに遭った。中国のご機嫌を損ねると何があるか分からないよねっていう。
■神子田解説委員
 店からロッテ製品全部なくなっちゃうみたいな。
■津上さん
 そういうことはこれから意識してやめていかないと、周りから、本当にありがとうっていうふうな関係にならないよねと思うんだけど、そこはまだまだ足りないところがあると思いますね。
■視聴者の声
・神奈川県・60代・男性
「中国の台頭は1つの歴史の流れなのでは。これまでの西欧主導の政治、経済、文化が、この先通用するか考え直す時期にあるのかも」。
・神奈川県・60代・男性
「中国は世界的な経済発展のエンジンとなる可能性はある。政治面では陰を感じるが、経済面では前向きに評価する」。
■首藤アナウンサー
 どちらかというとポジティブに思ってる方もいらっしゃる。
■神子田解説委員
 ちょうどこの間の日曜日に、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)を、アメリカが抜けて、残る11か国*18でやろうかって話になったんですけど、TPPっていうのはもともと、オバマ前政権の時に中国の台頭を意識して、アメリカもアジア太平洋で経済勢力圏を作ろうということだった。 ここに中国が入る、入らないって、さや当てがあったんですけども、結局入れなかったんですよね。中国は、だったら自分は西側、ユーラシア大陸のほうに勢力圏を作ろうじゃないかというふうにして一帯一路が生まれたという見方もある。もともとTPPへの対抗軸だったんですよね。
■金子さん
 中国とアメリカがタッグを組んだら、うまくいく可能性はあるんですか。
■津上さん
 これまた、最初といまとではだいぶ事情が変わってきてるところがあって、3年前の大風呂敷の時は、日本もそうだけども、アメリカもすごくアレルギー反応っていうか、自分たちの覇権が脅かされるっていう不安感を、すごくかき立てられたんですね。 ところが、3年の間に向こうも風呂敷を畳んだところがあるし、アメリカのほうも最近は、アメリカの大企業で受注ができるんじゃないか、ビジネスチャンスになるんじゃないかみたいな、そういう気持ちが結構高くなってるし、トランプさんって、ディール(取引)するの大好きな人だから、だいぶアメリカの姿勢も変わってきてるなと。 日本は、(ボーガス注:一帯一路やAIIBに)アメリカは慎重姿勢、そうですよねと思い込んでると、(ボーガス注:一帯一路やAIIBにいきなりアメリカが参加表明して)あれ、アメリカは?っていうことに(ボーガス注:なりかねない)。
■千秋さん
 独りぼっちになったらいちばん困る、日本が。
■津上さん
 そこの目配りっていうのも、日本はしないといけない。
■首藤アナウンサー
 ちょっとここで、これまでの議論を振り返ってみたいと思います。
■田中アナウンサー
 一帯一路というのは、60か国以上、60%ぐらいの人口の人でやる壮大なものですと。中国は、そのためにいくらでもお金を出しますよ、惜しみませんよ、皆さんウィン・ウィンです。って言ってるんですが、その一方で、お金返せなかったらどうするんだろうとか、(ボーガス注:スリランカの場合)港の使用権、安心の提供になってないんじゃないのとか、ちょっとみんな不安な感じがある。
■興梠さん
 実はヨーロッパの国なんかも積極的に関わってるようで、細かく見ていくと、例えば今回の一帯一路の会議で、ドイツだとかは、環境基準とか、いわゆるヨーロッパ基準に達していない、あとは、ものをどこから買ってくるか、どの企業から買ってくるか、どこの国から買ってくるかっていう時に、中国に有利に動く可能性もあるので説明を求めたんですけど、中国側は十分に説明しなかったっていうことで、文書にサインしなかったり。
■千秋さん
 じゃあ、ちょっと信用が薄まってきてる。
■興梠さん
 ヨーロッパも、例えばイギリスとかはAIIBにすごく積極的ですけど、今回は首脳レベルを送り込んでない。
■千秋さん
 なんですか、AIIB。
■神子田解説委員
 AIIBはアジアインフラ投資銀行。中国主導で作った。もともとアジアの開発を支援するのに、ADB、アジア開発銀行というのがあって、これは日本とかアメリカとかで作ってたんですけども、きちんと採算性を見る。採算取れる事業かな、だったらお金貸しましょうということなんで、結構審査に時間がかかったんですね。
 途上国の側からすると、いますぐ欲しい。たちまちキャッシングが必要なわけですよ。中国が、そのニーズに見合った審査が早い銀行っていうのを作った。
■金子さん
 全く関わらないで、中国がボーンと大きくなって主導権握っちゃった場合っていうのは、日本にとってものすごく厳しくなるわけですもんね。
■首藤アナウンサー
 置いてけぼり、さっきも話が出ましたけど。どう考えたらいいですか?
■興梠さん
 中国も日本に、お願いします、AIIBに入ってくださいって何回も言ってるわけですよね。ということは、困ってるんですよ。金融機関としての信用ですよね。 例えば、ADBとか世界銀行なんて、格付けも高いし、資金を集めるのもその分やりやすいと。それから、リスクを分担してほしいんですよ、日本にも。しかし、リスクを日本側もしっかり見ていかないと。
■神子田解説委員
 2つの考え方がありましてね。1つは、採算も取れない事業にお金を貸して持たんだろうとか、中国経済だって、いまのような成長はずっと続かないだろう。そのうち、お金が足りなくなって、一帯一路構想は消えてしまうんじゃないかという冷めた態度も取れる。 でも、本当にこういった開発を必要としている途上国、グローバルな意味で日本がどういうことができるかということであれば、使わないような港を造ってしまわないか、あるいは、政治的におかしなことになりそうなところをちゃんと監視するであるとか。そういったことをするために、AIIB、いまアメリカと日本は入ってないんですけども、中に入ってモニタリングするっていうこともありますよね。一帯一路というのはメンバーシップを何か国って決めて、それ以外の人は参加できませんとか、そういうことではない。いつから参加してもいいしっていうことなので。そういった中で、例えば、ただ電車が通るだけじゃなくて、日本みたいに時間にぴったりに来るようにする鉄道交通システムとか、高度なインフラですとか、あとは、環境をよくするための投資とかですね。そういったことにADBを使って、基本的なインフラはAIIBを使ってという、すみ分けができるといいかなっていうふうに思います。
■津上さん
 日本は(ボーガス注:一帯一路やAIIBに)距離を置きすぎて、気がついたら(ボーガス注:ニクソンショックニクソン訪中)のような形で米国にはしご外されて)独りぼっちになってたっていうのは避けなきゃいけないというのがありますから、関わりながら、言うべきことは言わせてもらう。僕は、これまでは、少し日本は距離を置きすぎてるかなという雰囲気を感じてたんですが、この間、北京で、大きな国際会議があった時にね、日本も自民党ナンバー2の二階幹事長が会議に来たっていうのは、これまで距離を置いてた日本が少し態度を変えてくれたっていうんで、中国では大きな反響を呼んだんですよね。 それは、距離の取り方っていうことでいうと、いろんな情勢を踏まえて、もうちょっと距離詰めますっていう感じに聞こえた部分があると思うんです。これは僕は非常にいいシグナル、よかったなと思いますね。個別の案件で協力できるところは協力していきましょうよっていう姿勢がもうちょっと具体化すると、非常にいいあんばいになってくるなっていう気がします。
■神子田解説委員
 日本と中国との関係がどうあるべきかというところから、この一帯一路とのつきあい方を考えることも大事だと思うんですよね。やはり、(中略)隣の国ですし、離れられない隣人ですから、できるだけ協力していくと。
 一帯一路ってものすごい大きなイメージがあって、怖いっていう感じはあるんですけど、実際に、そんなのできるかなみたいなところもあるし、そこを恐れないで実態はどういうところかっていうのを冷静に見極めて、過小評価もすることなくつきあっていくのがいいかなと思います。
■千秋さん
 へぇー、勉強になったね。
■首藤アナウンサー
 きょうは皆さんありがとうございました。

https://style.nikkei.com/article/DGXKZO29142880Z00C18A4EAC000?channel=DF180320167063
日経新聞・ニッキィの大疑問『中国「一帯一路」狙いは? 沿線の開発で主導権』
■問:
 そもそも中国の構想はどんなものですか。
■答:
 習近平(シー・ジンピン)国家主席が2013年に提唱しました。陸路で中央アジアを経て欧州に続く「シルクロード経済ベルト」を「一帯」、南シナ海からインド洋、欧州・アフリカへ向かう「21世紀の海上シルクロード」を「一路」と呼びます。
 沿線は約70カ国とされます。インフラ整備を軸にヒトやモノ、カネ、情報の動きを活発にし、経済と社会の発展を促すアイデアです。南太平洋や北極圏も含まれ、中南米も取り込もうとしています。
 国際秩序は従来、米国が主導してきましたが、中国が新たな秩序づくりを進める考えを示したといえます。反腐敗を掲げ国内での権力基盤を強めた習主席にとって、国際社会で存在感を高めることは政権の正統性を確かなものにすることにもつながります。中国の経済成長は鈍化傾向にあるので、海外への投資で中国企業の収益や雇用を確保するねらいもあるでしょう。
■問:
 どのようなプロジェクトが動いていますか。
■答:
 例えば隣国のパキスタンでは、13年に(ボーガス注:中国企業が)運営権を取得した南西部グワダル港で、約4億1千万ドル(約430億円)を投じた第1期工事により総延長660メートルのコンテナターミナルが完成しました。グワダルでは工業団地も建設しています。ほかにも港湾整備や原油・ガスのパイプライン建設などが目につきます。2300億ドルを投じ、北京とモスクワを高速鉄道で結ぶ構想もあります。
 資金面の裏付けとして、中国政府は政府系の投資ファンドシルクロード基金」を14年に設立しました。中国主導で15年にアジアインフラ投資銀行(AIIB)を設立したのも、その一環といえます。
■問:
 進展に伴う副作用や問題点はありますか。
■答:
 強権的ともいえる中国の発展モデルを他国に輸出しようとしている、といった警戒感が出ています。日米欧などに比べると、投融資先の民主化の度合いや透明性、環境保全などに配慮していないとの指摘が多いのです。スリランカ南部ハンバントタ港の整備では、スリランカ政府が返済に行き詰まり、港の運営権を99年にわたり中国に譲渡しました。いわば借金漬けにする経済侵略のようなやり方です。
 中国のインド洋への進出を警戒するインドは、スリランカパキスタンの港湾などを中国が軍事利用するのでは、と強く危惧しています。米国や日本、オーストラリアも中国の軍事的な存在感が高まることを警戒しています。だからこそ安倍晋三首相やトランプ米大統領は「自由で開かれたインド太平洋戦略」を唱えているのです。
 エチオピアの首都アディスアベバでは今年、スパイ疑惑が浮上しました。仏有力紙「ルモンド」によると、アフリカの地域協力機構であるアフリカ連合AU)の本部ビルで、建設した中国がビル内のコンピューターなどを利用してスパイ活動をしてきたというのです。一帯一路は情報通信インフラの整備にも重点を置くので、懸念を抱く国は少なくないでしょう。
■問:
 これからも勢いは持続しそうですか。
■答:
 最終的には中国の経済成長の持続力にかかっているといえます。一帯一路の提唱時に比べ、目ぼしい計画が出ていないという見方もあります。中国国内では需給の見込み違いから「鬼城(ゴーストタウン)」が生まれていますが、国外で頻発しても困ります。
 日本は(ボーガス注:将来はともかく現時点では)AIIBに不参加ですが、政府が2月、一帯一路について日中の企業が第三国で協力する構想をまとめました。日本に限らず、事業ごとに協力するかどうか慎重に吟味して決める「是々非々」の対応が求められそうです。
■ちょっとウンチク:資金力に期待集まる
 アジア開発銀行(ADB)の2017年の報告によると、アジア太平洋の途上国がこれまでのような経済成長を続けるなら、30年までに26兆2000億ドル(約2700兆円)のインフラ投資が必要という。各国独自の財政支出や、ADBなど既存の国際金融機関の融資などでまかない切れる規模ではない。
 新たに、しかも急速に台頭する中国マネーへの期待は大きい。一帯一路が提唱された当初、「中国版マーシャル*19プラン(西欧の復興計画)」といった見方が浮上した。懸念される副作用や問題を最小限に抑えて構想を前に進められれば、歴史に刻まれるかもしれない。

https://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2015-10-16/2015101604_01_1.html
赤旗『アジア政党国際会議「一帯一路」会合、緒方副委員長が発言』
 15日の会議では、日本共産党の緒方靖夫副委員長が「一帯一路構想と地域協力」と題して発言。緒方氏は、陸上・海上にわたる国境を超えた巨大な地域の共同開発である同構想に関し、「国の大小、発展段階を考慮した新しい型の協力関係により、相互利益・相互信頼を強化し、平和的・発展的に進むことを願っている」と述べました。
 購買力平価(PPP)を基準にした国内総生産GDP)で、2014年に中国が米国を追い抜き、南北関係(先進国と新興国)や東西関係(アジアと欧米)の逆転という世界経済の構造変化のもとで同構想が提起されていると指摘しました。
 そのうえで緒方氏は、同構想の対象に、領土紛争が存在し、関係国のシーレーン海上交通路)も含まれるとし、「紛争や問題を複雑化しない配慮が望まれる」と表明。「まず相手の立場に立って考える」という精神で、対等・平等が合意されているとしても、「中小国の立場や感情を考慮して行動することが肝要だ」と求めました。
 さらに、21世紀に大きな国となる中国は、帝国主義国間の覇権争いの結果として現れた20世紀型の大国とは異なるはずだと指摘。その特徴として、(1)G193といわれるように、中小国も国際政治のプレーヤーの時代だ(2)アジア・アフリカ諸国の主要国として、「バンドン10原則*20」に代表されるように、民族自決・主権の擁護など現代国際政治の原則形成に率先して関与してきた(3)従来の帝国主義国ではなく、社会主義を標榜(ひょうぼう)している―の3点を挙げ、「中国が世界の信頼と尊敬を得る形で、同構想が展開されることを望む」と表明しました。

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2016-03-01/2016030106_02_1.html
赤旗『中国「一帯一路」どうみる、東京 研究者らシンポ』
 中国の習近平国家主席が提唱する「一帯一路」構想やアジアインフラ投資銀行(AIIB)をどう見るか。東京都内で2月22日開かれたシンポジウム「現代のシルクロード構想と中国の発展戦略」で研究者らが議論を交わしました。
 基調講演で高原明生*21東京大学教授は、海外でチャイナ・マネーへの期待がある一方、中国の影響力拡大などへの懸念があると分析します。また中国国内では需要拡大や予算増への期待の半面、採算性やロシアとのあつれきを懸念していると指摘。「(一帯一路の)概念そのものは『衰退』の可能性があり、採算性を重視する現実的なところに落ち着くのではないか」との見方を示しました。
 パネルディスカッションで発言した上智大学の渡辺紫乃准教授は、「一帯一路」構想について従来政策の延長と海外需要喚起のための開発思想の転換という両側面を示し、「国内の改革・開放から中国と周辺諸国の『運命共同体』全体の発展という『ナラティブ』(物語)の提示だ」と指摘。「中国が日本をどう位置づけようとしているのか、注目する必要がある」と語りました。
 中国研究家の津上俊哉(ボーガス注:津上工作室)代表は50カ国以上が参加するAIIBについて、「中国にとって『想定外』でうれしい誤算であると同時に、手前勝手な運営ができなくなった」と指摘しました。
 法政大学の李瑞雪*22教授は、中国と欧州を結ぶ国際定期貨物列車「中欧班列」について報告。路線乱立や往復貨物量のアンバランス、補助金依存体質などの問題点を指摘するとともに、海運・航空便に代わる選択肢となり、国際的なネット通販の急成長が追い風になるなど、その発展の可能性について語りました。

http://www.spc.jst.go.jp/event/symposium_reports/conf160222.html
■日中シンポジウム「現代のシルクロード構想と中国の発展戦略」開催報告
 高原教授がまず、「中国政治と一帯一路構想」と題して基調講演を行った。同教授はこの中で、同構想を打ち出した習近平政権について「強い危機感と使命感をもって腐敗運動を展開し、党内の引き締めを図っているが、官僚が萎縮するといった問題もでており、地方政府などの抵抗に遭っている」と指摘。また、経済についても「経済の減速が深刻化しており、閉塞感が中国の人たちの中に広がっている」と報告した。同教授はその上で「一帯一路」構想の動因について言及し、中国の過剰な生産や建設能力の解消や「国力の発展方向としては西に向かった方がいい」との考えがあると指摘。しかし、同構想に対する内外の期待が大きい半面、プロジェクトの採算性に対する懸念などもでてきており「概念そのものは数年で衰退する可能性がある」との見通しを明らかにした。
 一方、山本*23教授は、政治学者としての立場から、「一帯一路構想とアジアの国際秩序」と題して基調講演を行い、中国側の狙いについて「欧州がアジア大陸の先の単なる半島となり、(中略)米国は遠くの島国という地位に追いやられ、大西洋と太平洋の波間に漂う存在となる」ことだとするフランスの研究者の見解を紹介しながらも、同構想には「マーシャル・プラン」的な要素があり、国際秩序をめぐっては相互作用も存在していると強調。ただ、「バラマキの政治には限界がある」とし、同構想が今後、「どうなっていくか注意深く観察し、対応していく必要がある」と語った。
 シンポジウムはこのあと、パネルディスカッションに移り、瀬口氏*24が司会を務め、4人のパネリストから基調報告者に対する質問が行われ、感想も表明された。また、4人は与えられた10分間で「一帯一路」構想について発言。周教授はこの中で、文化的多様性や孔子学院の役割を強調した。渡辺准教授は同構想について「中身は過去の政策の延長である」と指摘し、「(この構想の中で)中国が日本をどう位置づけようとしているか、注目しておく必要がある」と表明した。また、津上氏は特にアジアインフラ投資銀行(AIIB)問題に触れ、「57カ国の参加は中国にとってうれしい誤算だったが、それと同時に、手前勝手な運営ができなくなった」などと述べ、最後に登壇した李教授は中国と欧州を結ぶ定期貨物列車の現状について報告し、「クロスボーダーのネット通販の急成長が同列車の追い風となっていると語った。シンポジウムには約120人が集まり、午後5時10分に終了した。

http://www.spc.jst.go.jp/event/crc_study/study-105.html
■困難な経済状況下で進む巨大開発計画
・中国人ジャーナリスト、徐静波*25アジア通信社社長が6月16日、科学技術振興機構JST)中国総合研究開発センター主催の研究会で講演、中国の政治状況から一帯一路構想をはじめとする経済情勢について、随所に独自の見通し、見解を盛り込みながら詳しく解説した。
・現状を冷静に見ているのは、国際的にも注目され、前向きなニュースばかりが目立つ「一帯一路」についても同様だった。「中国が世界の中心だった唐の時代の再現を狙っている」という大きな狙いがあることを指摘する一方で、「3年間頑張っても予定通りのスピードでは進んでいない」との見方を示した。思惑通りに進まない理由の一つに、旧ソ連に属する中央アジア諸国がロシアの意向を無視して中国と積極的に協力しにくい事情があることを指摘している。
 とはいうものの海上ルートである「一路」の経由地であるアフリカ・ケニアのモンバサ港で中国主導の経済活動が着々と進んでいることを紹介し、日中企業の協力を提言した。モンバサ港には、中国、日本がそれぞれ資金を援助して造られた大きな埠頭がある。日本製の中古車がここで大量に積み降ろされている。モンバサ港から首都ナイロビには、かつて英国が建設した鉄道が通っていた。現在は、中国が再建した鉄道が5月に開通したばかり。埠頭と鉄道をつなぐ流通合弁会社を、ケニア、中国、日本で協力してつくったらどうか、というのが氏の提案である。ちなみにケニアで走っている車のほとんどは日本製の中古車。ところが日本の部品企業は全くないため、もっぱら中国企業が日本製自動車の部品を作って現地の修理需要に応えているという。

https://www.asahi.com/articles/ASL7P0QYJL7NUHBI01Z.html
朝日新聞『習主席がUAE訪問 「一帯一路」協力に合意』
 アラブ首長国連邦(UAE)を訪問した中国の習近平(シーチンピン)国家主席は20日、アブダビ首長国ムハンマド皇太子やUAEのムハンマド副大統領らと会談した。UAEの国営通信によると、習氏が提唱する「シルクロード経済圏構想(一帯一路)」での協力や、農業、科学技術分野での連携を深めることで合意した。

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/07/post-10607_1.php
ニューズウィーク日本版『中国が「一帯一路」で目指すパクスシニカの世界秩序』(三船恵美*26
 中国は「一帯一路」を新規で創ろうとしているのではありません。中国が提唱する「一帯一路」とは、既存の地域協力のプラットフォームを戦略的にドッキングさせ、優位性の補完を実現しようとする構想です。中国は「一帯一路」を沿線国と、カザフスタンの「光明の道」、ロシアが提案した「ユーラシア経済同盟*27(EAEU/EEA)、ASEAN*28の「連結性マスタープラン(MPAC)」、トルコの「中央回廊」、モンゴルの「発展の道」、ベトナムの「両廊一圏(中国南部とベトナムを結ぶ二つの回廊とトンキン湾経済圏)」、イギリスの「イングランド北部の経済振興策(Northern Powerhouse)」、EUの「ユンケル*29・プラン」、中東欧諸国と中国の「16+1協力」、ポーランドの「琥珀の道」などをはじめ、ミャンマーハンガリーなどの政府計画とドッキングしようとしています。
 中国はヨーロッパ諸国に対して、2国間、「中国・欧州連合EU)」、「中国・中東欧諸国首脳会議(16+1)」、多国間機構などとの多層、重層、複層的な枠組みで、「一帯一路」の枠組みによる協力を進めています。そのなかでも注目されている一つが、2012年に中国が提唱した「16+1」と呼ばれる中国と中東欧16ヵ国の地域協力の動向です。
 16カ国は、アルバニアボスニア・ヘルツェゴビナブルガリアクロアチアチェコエストニアハンガリーラトビアリトアニアマケドニアモンテネグロポーランドルーマニアセルビアスロバキアスロベニアです(そのうち11カ国*30EU加盟国)。「16+1」サミットには、EUオーストリア、スイス、ギリシャベラルーシ、ヨーロッパ復興開発銀行(EBRD)などがオブザーバーとして参加しています。
 国務院総理の李克強氏は、2017年11月、ブダペスト*31で開催された第六回中国・中東欧諸国首脳会議で、経済・貿易規模の拡大、陸海空・サイバー空間のコネクティビティの強化、国際定期貨物列車「中欧班列」と直航便航路の増発、金融面の支援の確実化などを提案しました。「16+1」サミットの開催に合わせて、「中国・中東欧銀行共同体」を正式に発足させ、中東欧向けの「中国・中東欧投資協力基金」の第二期を設けました。
 中国は中東欧諸国と、「16+1」によるアドリア海バルト海黒海沿岸の「三海港区協力」ならびに「中国・中東欧協力リガ交通・物流協力」に合意しています。ハンガリーセルビア鉄道が完成すれば、ギリシャ最大のピレウス港に通じ、「三海港区」と「一帯一路」が陸路でも連結されることになります。ピレウス港は、アジアからヨーロッパへ向かう航路の玄関口にあたります。

 論文の全体的論調が、

 「一帯一路」の一翼を日本が担っていこうと語ることは、日本の安全保障環境と如何に向き合っていくのかという選択でもあります。また同時に、パクスアメリカーナを支持し続けるのか、それともパクスシニカへの構築へ乗り替えていくのか、という選択でもあります。

と「一帯一路」を「反米の選択」であるかのように否定的に描き出す「反中国ウヨテイスト」「産経テイスト」でうんざりさせられる三船論文です。
 もはや「一帯一路」への参加は「日本が日中友好関係を築き、かつ経済的繁栄を目指すために不可避」であり、問題はどう参加していくかでしょう。一帯一路が反米であるのなら、EU諸国や日本財界がこうした構想に概ね好意的であることが説明がつかなくなります。
 そして「パクスアメリカーナ(アメリカ中心の世界体制)かパクスシニカ(中国中心の世界体制)か」という問題設定自体が不適切でしょう。
 一帯一路自体はそうしたことを必ずしも意味しない*32。また、「ややきれい事ではあります」が、「米国や中国に限らず」もはや特定の国を中心とした世界体制を目指すこと自体が不適切でしょう。
 そもそも「パクスアメリカーナ」は当然に誕生したわけではありません。
 「第二次大戦後の資本主義体制(西側)と社会主義体制(東側)」の対立構造(いわゆる冷戦構造)の中、「第二次大戦後、米国の政治、経済力が、英仏独といったヨーロッパ諸国を凌駕し、事実上、西側のリーダーに米国が躍り出たこと」で成立したものにすぎません。当然ながら冷戦崩壊、EU誕生、中国の発展などといった環境変化によって「パクスアメリカーナ」が終了することは「必ずしも悪いことではない」。
 ただし、事実指摘はそれなりに勉強になります。
 中国の一帯一路が他国(ベトナム、トルコなど)、他組織(EUASEANなど)の経済計画との連携を模索してるというのは重要な指摘かと思います。

*1:著書『人間らしく働くルール:ヨーロッパの挑戦』(2001年、学習の友社)、『企業別組合は日本の「トロイの木馬」』(2017年、本の泉社)

*2:オランド政権経済相を経て大統領

*3:アイルランドの首都

*4:具体的にはオーストリア、ベルギー、ブルガリアクロアチアキプロスチェコデンマークエストニアフィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャハンガリーアイルランド、イタリア、ラトビアリトアニアルクセンブルク、マルタ、オランダ、ポーランドポルトガルルーマニアスロバキアスロベニア、スペイン、スウェーデン、英国

*5:著書『北米地域統合と途上国経済:NAFTA多国籍企業・地域経済』(2009年、明治大学軍縮平和研究所)、『米州の貿易・開発と地域統合新自由主義とポスト新自由主義を巡る相克』(2017年、法律文化社

*6:著書『国民を切り捨てる「社会保障と税の一体改革」の本音』(2010年、自治体研究社)、『安倍政権の医療・介護戦略を問う』(編著、2014年、あけび書房)、『高齢期社会保障改革を読み解く』(共著、2017年、自治体研究社)など

*7:つくろい東京ファンド代表理事、「住まいの貧困に取り組むネットワーク」世話人生活保護問題対策全国会議幹事、「いのちのとりで裁判全国アクション」共同代表、「ホームレス問題の授業づくり全国ネット」理事、「自由と生存の家」理事、NPO法人ビッグイシュー基金理事など歴任。個人サイト(http://inabatsuyoshi.net/)。著書『ハウジング・プア』(2009年、山吹書店)、『生活保護から考える』(2013年、岩波新書)、『鵺の鳴く夜を正しく恐れるために:野宿の人びととともに歩んだ20年』(2015年、エディマン)など

*8:著書『漂流老人ホームレス社会』(2015年、朝日文庫)、『その島のひとたちは、ひとの話をきかない:精神科医、「自殺希少地域」を行く』(2016年、青土社)など

*9:著書『財界支配:日本経団連の実相』(2016年、新日本出版社)など

*10:著書『アメリ連結会計生成史論』(2002年、日本経済評論社)、『内部留保の経営分析』(編著、2010年、学習の友社)、『株式会社会計の基本構造』(2014年、中央経済社)、『内部留保の研究』(編著、2015年、唯学書房)など

*11:著書『中国社会主義と経済改革』(1988年、法律文化社

*12:吉田内閣蔵相、通産相、石橋内閣蔵相、岸内閣蔵相、通産相などを経て首相

*13:具体的にはアルゼンチン、ベラルーシ、チリ、チェコインドネシアカザフスタンケニアラオス、フィリピン、ロシア、スイス、トルコ、ウズベキスタンベトナムカンボジアエチオピア、フィジーギリシャハンガリー、イタリア、マレーシア、モンゴル、ミャンマーパキスタンポーランドセルビア、スペイン、スリランカキルギス

*14:小渕、森内閣運輸相、小泉、福田、麻生内閣経産相自民党総務会長(第二次安倍総裁時代)を経て幹事長

*15:著書『「一国二制度」下の香港』(2000年、論創社)、『現代中国:グローバル化のなかで』(2002年、岩波新書)、『中国 巨大国家の底流』(2009年、文藝春秋)、『中国激流:13億のゆくえ』(2005年、岩波新書)、『中国 目覚めた民衆:習近平体制と日中関係のゆくえ』(2013年、NHK出版新書)など

*16:著書『中国停滞の核心』(2014年、文春新書)、『巨龍の苦闘 中国、GDP世界一位の幻想』(2015年、角川新書)、『「米中経済戦争」の内実を読み解く』(2017年、PHP新書)など

*17:福州市党委員会書記、福建省長、浙江省党委員会書記、上海市党委員会書記、国家副主席、党中央軍事委員会副主席、国家中央軍事委員会副主席などを経て党総書記、国家主席党中央軍事委員会主席、国家中央軍事委員会主席

*18:具体的にはシンガポール、チリ、ニュージーランドブルネイ、オーストラリア、ベトナム、ペルー、マレーシア、カナダ、メキシコ、日本

*19:トルーマン政権国務長官、国防長官を歴任。1953年にマーシャルプランの功績でノーベル平和賞受賞。

*20:この原則については例えば、赤旗『バンドン10原則って?』(https://www.jcp.or.jp/akahata/aik3/2004-11-13/12_01faq.html)参照

*21:著書『開発主義の時代へ 1972-2014〈シリーズ 中国近現代史 5〉』(共著、2014年、岩波新書)など

*22:著書『中国物流産業論』(2014年、白桃書房)など

*23:著書『「帝国」の国際政治学:冷戦後の国際システムとアメリカ』(2006年、東信堂)、『国際レジームとガバナンス』(2008年、有斐閣)など

*24:著書『日本人が中国を嫌いになれないこれだけの理由』(2014年、日経BP社)

*25:著書『株式会社中華人民共和国』(2009年、PHP研究所)、『2023年の中国:習近平政権後、中国と世界はどうなっているか?』(2015年、作品社)など

*26:著書『中国外交戦略 その根底にあるもの』(2016年、講談社選書メチエ)、『米中露パワーシフトと日本』(2017年、勁草書房)など

*27:参加国はロシア、ベラルーシカザフスタンアルメニアキルギス

*28:参加国はインドネシアカンボジアシンガポール,タイ,フィリピン,ブルネイベトナム,マレーシア,ミャンマーラオス

*29:ルクセンブルク財務相、首相などを経て、現在、欧州委員会委員長

*30:具体的にはブルガリアクロアチアチェコエストニアハンガリーラトビアリトアニアポーランドルーマニアスロバキアスロベニア

*31:ハンガリーの首都

*32:米国がいずれ一帯一路やAIIBに参加するのではないかといわれてることはそういうことです。