明仁天皇の「平成流」天皇(2023年7月3日記載)

【正論】「令和流」両陛下の国際親善訪問 作家・竹田恒泰 - 産経ニュース
 「令和流」と呼べるような新しい物があるとは思いませんけどね。
 一方「平成流」はあって、それは以前拙記事で以下の通り、識者(河西名古屋大准教授、井上日経編集委員、原放送大教授)の見解を複数紹介しましたが「膝を突いて話しかける」「ノーネクタイ」などで「相手(日本国民等)との距離を近づけること」です。この点では昭和天皇には明らかに「距離があった」わけです。

高世仁に突っ込む(2020年10/8日分)(追記あり) - bogus-simotukareのブログから一部引用
平成皇室は「皇太子への憂鬱」から始まった | 文春オンライン

■河西秀哉*1神戸女学院大准教授*2象徴天皇制を研究)
 昭和の時代、明仁皇太子(当時)が福祉施設を訪れたときの新聞記事を見ると、立ったままで少しぎこちない様子に見える写真が載っています。その一方で、ベッドに横たわっている人に顔を近づけて、話しかけているのは美智子皇太子妃(当時)なんですね。
 「雲仙・普賢岳被災者のお見舞い」(1991年)では、はじめて天皇皇后としてひざをついて、 避難所で生活する被災者に語りかけました。この時はまだ手探りであったと思いますが、その後様々な場所への「お見舞い」を経る中で、次第に現在のスタイルが確立します。私は、お二人が一緒になって公務に取り組むうちに、だんだんと明仁天皇が慣れていったのではないかと考えています。

平成の天皇と皇后 昭和の残像を乗り越え - 日本経済新聞編集委員 井上亮*3
・1991(平成3)年7月10日、天皇、皇后両陛下は長崎県雲仙・普賢岳噴火の被災者を見舞うため、島原市などを日帰り訪問された。
・避難所で床に膝をついて被災者に言葉をかける両陛下。同じ目線で人々に寄り添う「平成流」の始まりとして"伝説"となっている。
・ただ、当時注目されたのは「膝をついてのお声かけ」よりも、ノーネクタイでワイシャツを腕まくりした天皇陛下の姿だった。天皇はどんな場でも国民の前ではスーツの正装というイメージを覆した。
 天皇と国民の距離を一気に縮めたこの被災地訪問に対して、称賛と同時に「天皇らしくない」と昭和時代を知る宮内庁関係者から批判があったことも定説化している。

平成の皇室の象徴「ひざまずき」のスタイルはいかにして生まれたのか?(2/2)〈AERA〉 | AERA dot. (アエラドット)放送大学教授・原武史*4
 (ボーガス注:明仁・美智子夫妻の)最初の本格的な地方視察は、1961年の長野県行啓であった。この行啓で早くも、同時代の昭和天皇香淳皇后行幸啓との違いが明らかになる。穂高町(現・安曇野=あずみの市)の養護老人ホーム「安曇寮」を訪れたとき、美智子妃がひざまずいたのだ。
美智子さまは、タタミにヒザをおろし、室内の鈴木まさえさん(68)、中村たつさん(73)らと顔をよせるようにして『ここへきて何年になります。町へもときどきは出かけますか』などご質問。耳の遠い老人たちがぽつぽつお答えすることばに、やさしくうなずいておられた」(「信濃毎日新聞」1961年3月28日)
 当時の写真を見ると、ひざまずいているのは美智子妃だけで、皇太子は立っている。昭和天皇香淳皇后福祉施設を訪れることはあったが、ひざまずくことはなかった。皇太子は「昭和」のスタイルを踏襲していたのに対して、美智子妃はこの時点で早くも「平成」を先取りしていたのだ。
(中略)
 美智子妃が始めたスタイルに、皇太子も従うようになるのだ。

*1:著書『「象徴天皇」の戦後史』(2010年、講談社選書メチエ)、『皇居の近現代史:開かれた皇室像の誕生』(2015年、吉川弘文館歴史文化ライブラリー)、『明仁天皇と戦後日本』(2016年、洋泉社歴史新書y)、『天皇制と民主主義の昭和史』(2018年、人文書院)、『近代天皇制から象徴天皇制へ』(2018年、吉田書店)、『平成の天皇と戦後日本』(2019年、人文書院

*2:この文春記事当時。現在は名古屋大学准教授

*3:日経新聞で皇室担当記者を長く務め、2006年にいわゆる富田メモをスクープし、2006年度新聞協会賞を受賞。著書『天皇と葬儀:日本人の死生観』(2013年、新潮選書)、『昭和天皇は何と戦っていたのか:「実録」で読む87年の生涯』(2016年、小学館)、『天皇の戦争宝庫:知られざる皇居の靖国「御府」』(2017年、ちくま新書)、『象徴天皇の旅:平成に築かれた国民との絆』(2018年、平凡社新書

*4:皇室関係の著書として『昭和天皇』(2008年、岩波新書)、『「神々の乱心」を読み解く:松本清張の「遺言」』(2009年、文春新書→後に『松本清張の「遺言」:『昭和史発掘』『神々の乱心』を読み解く』と改題して2018年、文春文庫)、『皇居前広場』(2014年、文春学藝ライブラリー)、『大正天皇』(2015年、朝日文庫)、『「昭和天皇実録」を読む』(2015年、岩波新書)、『皇后考』(2017年、講談社学術文庫)、『〈女帝〉の日本史』(2017年、NHK出版新書)、『平成の終焉:退位と天皇・皇后』(2019年、岩波新書)、『天皇は宗教とどう向き合ってきたか』(2019年、潮新書)