今日のロシアニュース(2023年12月8日分)

兵士の数も武器の数もロシア軍に劣る……「地獄」の前線、ウクライナ兵がBBCに証言 - BBCニュース

 ウクライナ軍は兵士の数でも、武器の数でもロシア軍に劣っている。前線に立つウクライナ兵の1人は、脈々と流れるドニプロ川の東岸に築いた拠点に必死にしがみつこうとする自軍の厳しい状況についてBBCに語った。
 BBCは今回証言したウクライナ兵の身元を(ボーガス注:ウクライナ政府の迫害、弾圧のリスクから)保護するため、名前を伏せている。
「一番の弱点は物資の供給でした。ロシア兵が私たちの供給路を監視していたので、物資の運搬がなおさら困難になった。ボートやドローンを使って運んではいたものの、飲料水が本当に不足していました」
「自分の装備はかなり自分でまかなっています。発電機やポータブル充電器、防寒着などを、自前で買いました。いまは霜が降り始めていて、今後状況は悪化するばかりです。実際の状況は公表されないので、誰もこの状況を変えようとしません」
「何がゴールなのか、誰も分かっていません。多くの兵士は、司令部が単に自分たちのことを見捨てたのだろうと考えています。あの人たちは、私たち兵士の存在意義はは、軍事面より政治面で大きかったと考えている。」
「この場所には本来、個別の中隊ではなく、複数の旅団が配備されるはずでした。ともかく人員が足りません」
「私たちの部隊には若い兵士がたくさんいます。人手が必要です。でも欲しいのは、今ここにいるような新兵ではなく、訓練を受けた兵士です。3週間しか訓練を受けていない人もいます。数回しか発砲できない人もいます」
「完全に悪夢です。1年前ならそんなことは言わなかっただろうけど、今は、申し訳ないけど、うんざりしています」

 ついに西側メディアですら報じるウクライナの苦戦です。


浅井基文ウクライナ危機:反転攻勢の失敗原因とゼレンスキーの戦争責任

 11月1日付けのエコノミスト誌は、ウクライナ軍総司令官であるザルジュヌイ*1将軍とのインタビュー発言を掲載しました。喧伝された反転攻勢が成果なく、対ロシア戦争は膠着状態に陥っており、先行きも明るくないとする悲観的見解は、失地全面回復まで戦争をやめないと言い続けるゼレンスキー大統領の立場・姿勢を根底から揺るがす「爆弾発言」として、西側メディアがこぞって注目するところとなりました。
 反転攻勢が不首尾に終わったことは公知の事実です。反転攻勢の「成功」に一縷の望みを託していた米欧諸国は、今や(ボーガス注:失地全面回復まで戦争をやめないと言い続けるゼレンスキー大統領の立場からの)方向転換(ボーガス注:つまりロシア相手の妥協)を模索することを余儀なくされています。
 しかし、この方向転換の具体化には、「抗戦一本槍」のゼレンスキーの存在が大きな障害になります。ゼレンスキーが「首を縦に振る」のであれば話はスムーズですが、そうでなければ「首のすげ替え」が不可欠になります。西側メディアがザルジュヌイ発言に飛びついたのはそういう背景事情があるからだ、というのが私の判断です。
 ザルジュヌイが評価に値する指導者であるか否かはともかく、ロシア・ウクライナ戦争が重大な転機にあることを率直に指摘した彼の発言は重要です。この機会にロシア・ウクライナ戦争の中間総括を思い立ちました。①ウクライナの反転攻勢が不首尾に終わった根本原因は何か。②ウクライナ最高指導者としてのゼレンスキーの政治責任をどのように理解するべきか。③ロシア・ウクライナ戦争は今後どのような形で終結に向かうことが考えられるか。④そのことは今後の国際関係にいかなる影響をもたらすだろうか。以上4点について考えたいと思います。今回は最初の2点について。
1.反転攻勢の失敗原因
(ロシアに対する過小評価)
 その中でも最大の誤りは対ロシア経済制裁の効果に対する過信です。ウクライナに反転攻勢を督促したアメリカは、ロシアの軍事能力も過小評価していました。
(目標・戦略と手段・戦術の乖離)
 米欧諸国の「ロシアを敗北に追い込む」という目標・戦略の問題は、この目標・戦略を実現するために採用している手段・戦術が中途半端を極めることです。(ボーガス注:NATO国民がロシアとの全面戦争を望まないので、ウクライナを戦わせるだけで)NATO軍は投入しない(NATO軍投入に直結するウクライナNATO加盟も将来的課題)、(ボーガス注:ウクライナへの武器支援もロシアの核兵器使用を恐れてか、はたまたウクライナの軍事大国化を恐れて*2か)「脚の長い」兵器は提供しない(要すれば、戦場はウクライナ領内に限定する)、戦略兵器投入は論外、等々。伝統的軍事理論が早くから教えているとおり、攻撃側は防御側を打ち破るためには3倍以上の兵力を必要とするのは軍事的常識です。
 ゼレンスキーに対するウクライナ人の支持も下降傾向です。ゼレンスキーに対する国民の支持率がザルジュヌイを大きく下回っているという報道もあります。11月28日付けのエコノミストは、最近行われた内部世論調査結果として、ザルジュヌイ(支持率:70%)のみならず、軍諜報機関トップのブダノフの支持率(45%)さえもゼレンスキー(32%)を上回ったことを紹介しています。
2.ゼレンスキーの戦争責任
(地位への執着とそのツケ)
 政治責任を強く意識して行動する政治指導者であるならば、反転攻勢が不首尾に終わった時点で、責任を取って辞任するのが当然です。しかし、AP通信とのインタビュー発言から浮かび上がるのは、大統領という地位にしがみつく姿です。
 ゼレンスキーが自己保身しか頭にないことは、冒頭で紹介したザルジュヌイ発言(11月1日付けエコノミスト誌)が飛び出した時の反応ぶりにも窺われました。
 11月4日付けのニューヨーク・タイムズ紙(NYT)によれば、ゼレンスキーはこの日に行った記者会見で、戦いは膠着状態と規定したザルジュヌイの発言に対して、「時間が経って、人々は疲れている。これは理解できる」と述べた上で、「しかし戦争は膠着状態ではない。このことを今一度強調しておく」と、ザルジュヌイ発言を否定しました。
 また、ゼレンスキーの以上の発言に先立って大統領府副長官は、ザルジュヌイ発言は「侵略者の行動を手助けする」、「西側同盟諸国のパニックを引き起こしている」と厳しく非難しています。NYTは、「公に行われたこの衝撃的な非難は、試練の時を迎えているさなかのウクライナで、軍部と政治指導部との間で亀裂が生まれつつあることを示している」、「総司令官と大統領との亀裂は、ウクライナが戦争でもがいているさなかに浮上した」と、事態の深刻さを強調しています。
 西側メディアがこのように反応し、そのことがまた米欧諸国の「ゼレンスキー離れ」を助長・加速するであろうことは見やすい道理です。しかし、「我が身に降りかかる目前の火の粉」を振り払うことしか念頭にないゼレンスキーは、「ぼや」を「大火事」にしてしまっているのです。

 浅井先生の「ロシアへの甘さ」には賛同できませんが、「ウクライナの苦戦を、欧米やウクライナも否定できなくなってきた」「もはやロシア相手の妥協は不可避ではないか」と言う指摘には全く同感です。

*1:一般にはザルジニーと呼ばれる。

*2:イラン・イラク戦争で米国が支援したイラクがその後「クウェート侵攻」で米国を苦慮させたことを思えば、(ウクライナ相手に公言できないとはいえ)米国が「戦争終結後にウクライナが同様の問題児と化すこと」を危惧したとしても不思議ではない。