新刊紹介:「経済」2024年2月号

「経済」2月号を俺の説明できる範囲で簡単に紹介します。
世界と日本
◆スペイン・第3次サンチェス政権:難航した多数派形成とカタルーニャ問題(宮前忠夫*1
(内容紹介)
 総選挙では右派PP(民衆党)が「48議席増の137議席」と大勝し、最大議席となったが過半数176議席(総議席数350)は獲得できず「1議席増の与党PSOE(中道左派社会労働党)121議席」が「左派政党スマール26議席(当初、スマールとポデモスは左派連合(改選前38→改選後31)を組んでいたが、スマールの連立参加を契機に連合を解消、ポデモスは閣外協力に留まった)」と連立を組み、「カタルーニャ民族主義政党のジュンツ7議席(1議席減)、カタルーニャ共和主義左翼7議席(6議席減)」「ポデモス5議席」などの閣外協力を得ることで与党の地位をキープした(閣外協力も含めて与党179議席、野党171議席少数与党政権)。この際「カタルーニャ民族主義政党」の閣外協力を得るため、PSOEの選挙公約にはなかった「カタルーニャ政治犯恩赦法案」を約束。右派を中心に恩赦反対の強い反発を受けた(但し、恩赦法はまだ可決できていないし、仮に可決されても右派が違憲訴訟に打って出るとみられ、対立はしばらく続くと思われる)。ということでスペイン 新政権に入るのは極右か独立派か NHK解説委員室(2023.9.17)の回答は「閣外協力の形でカタルーニャ独立派ジュンツ7議席カタルーニャ共和主義左翼7議席が新政権入り」ですね。極右政党VOX33議席が野党になりました。なおVOXは19議席減であり、VOXの躍進にストップがかかったが、左派政党(中道左派のPSOE含む)の躍進でなく右派PPが伸びたこと(PP一人勝ちの様相)は小生的に残念です。なお、2023年スペイン総選挙 ― 極右含むポピュリズムの後退と世界の自由民主主義への教訓 ― - グローバル・ガバナンス研究センター(Institute for Global Governance Research:GGR)- 一橋大学は「カタルーニャ民族主義に否定的な保守層」がサンチェス政権のカタルーニャ政策を生ぬるいと見なし、しかし極右のVOXを嫌い、大挙して「最大野党にして保守政党」PPに投票したことがPP躍進(そしてVOX議席減)の大きな要因とみている(しかし結果的にはPPが過半数を取れなかったことで、サンチェス政権が政権維持のためにさらにカタルーニャ民族主義に配慮せざるを得ない皮肉な結果になっている)。それにしても「中国に限らず」何処の国も「自国内からの独立(スペインの場合、バスクカタルーニャ)なんか認めたがらないのだ」ということは改めて痛感します。中国が仮に民主化しても「スペインのようなチベットウイグル独立反対派」が国民の大多数でしょう。
参考

スペイン首相、続投決まる 4カ月の政局膠着に終止符 | ロイター2023.11.16
 スペイン下院(定数350議席)は16日、サンチェス首相の信任投票を実施し、賛成179票・反対171票で首相の続投が決まった。7月23日に行われた総選挙以来、新政権樹立は膠着していたが、ようやく終止符が打たれた。
 サンチェス氏が率いる社会労働党(PSOE)は、支持獲得に向けて争点となっているカタルーニャ自治州の分離・独立派*2に対する恩赦などを巡り多くの地域政党と個別に合意に達した。
 一方、カタルーニャのスペインからの独立を試みた罪に問われている政治家や活動家に恩赦を与える法律に対しては有権者の多くが反発し、マドリードにあるPSOE本部前に約4000人が集まり、14夜連続で抗議デモが行われた。デモ隊の一部が警察やメディア関係者にビール缶や爆竹などを投げたため、一時騒然となった。

第3次サンチェス内閣が発足、独立問題解決に向けた布陣(スペイン) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース - ジェトロ2023.11.4
 スペインのペドロ・サンチェス首相の第3次内閣が11月21日に発足した。中道左派社会労働党(PSOE)と急進左派スマール(SUMAR)による連立政権で、首相を含めた閣僚22人のうち女性は12人と、これまで同様、女性過半数*3の内閣となった。
 サンチェス政権は引き続き少数与党政権であり、続投のカギとなったカタルーニャ独立派への恩赦法案は右派から強い反発を受けている。また、上院では最大野党の中道右派・民衆党(PP)が過半数を握るねじれ状態にあるほか、2023年5月の地方選挙で自治州政権の多くがPP政権に交代しており、政権運営は容易ではないとみられる。

スペインで17万人デモ、カタルーニャ独立派恩赦に反対 - 日本経済新聞2023.11.19
 スペインの首都マドリードで18日、北東部カタルーニャ自治州独立運動に絡んで(ボーガス注:国家反逆罪で)有罪となった受刑者らの恩赦に反対するデモが行われた。
 サンチェス首相率いる与党社会労働党が、独立派政党の要求を受け入れて恩赦法案を議会に提出。
 下院で今月16日に行われた投票で独立派の信任を取り付け、首相続投を決めた。
 首都中心部のシベレス広場と周囲の道路は、大勢のデモ隊で埋め尽くされた。参加者は国旗や「民主主義の危機だ」と書かれたプラカードを掲げ、「サンチェスは裏切り者だ」「刑務所送りにしろ」と気勢を上げた。


◆韓国の「黄色い封筒法」(洪相鉉)
(内容紹介)
 「黄色い封筒法」とは労組法改正案(ストライキに対する企業の損害賠償請求を原則禁止する*4)で「共に民主党」「左派新聞ハンギョレ」、労組など左派が支持する一方で、尹錫悦政権と与党「国民の力」、「右派新聞・朝鮮、中央、東亜日報」など右派が反対。議会で可決されたものの尹錫悦が拒否権を発動、再可決(2/3以上の賛成)ができずに残念ながら廃案となった。「共に民主党」や労組は「再度の法案提出」を目指すとしている(勿論、洪氏は「黄色い封筒法」支持の立場)。
参考
尹大統領が拒否した「黄色い封筒法」と放送3法、結局廃案に(ハンギョレ新聞) - Yahoo!ニュース2023.12.10

日韓弁護士が議論 スト参加者への賠償請求「許しがたい」 [大阪府]:朝日新聞デジタル2023.2.12
 韓国ではストライキをした労働者に対し、使用者側が多額の損害賠償を請求するケースが多いという。これを見直そうという運動が起きており、かつての韓国の月給封筒を象徴して「黄色い封筒」と名付けられた。
 交流会では「ストライキに対して損害賠償を請求し、憲法上の基本権である団体行動権を形骸化させる昨今の現実は、非人間的で許しがたい」とする共同宣言が発表された。


◆急がれるPFAS検査と規制(高橋文夫)
(内容紹介)
 「米軍基地のPFAS問題」について以下の記事紹介で代替。
PFAS除去設備、地元に知らせず稼働ストップ 横須賀の米海軍基地「検出値が安定」…でもデータ公表は拒否:東京新聞 TOKYO Web2023.12.21

<東京NEWS2023>(11)PFAS汚染、深刻化の一途 基地内調査へ行政動かず:東京新聞 TOKYO Web2023.12.31
 日本側の関係機関が米国側の許可なしに米軍施設内に立ち入ることは、日米地位協定で禁じられていることを理由に汚染源特定や除染作業の前提となる「基地内への立ち入り調査」に向けた行政の動きは鈍い。
 住民の健康と米軍。行政はどちらを優先するべきかが、いま問われている。

赤旗
横田基地で高濃度PFAS/1月漏出報道 山添議員が防衛省を追及2023.11.7
PFAS暫定値11倍/沖縄 嘉手納基地周辺で検出/米専門家ら調査2023.11.9
PFAS調査応じよ/宮本徹議員 横田基地入り2023.11.10


特集「2024年の日本経済をどうみるか」
◆紙上討論「日本経済『失われた30年』の転換を考える」(黒沢幸一*5大門実紀史*6竹信三恵子*7、真嶋良孝*8吉田敬*9
(内容紹介)
 それぞれの問題意識から「労働運動(黒澤氏)」「男女間賃金格差など女性労働(竹信氏)」「農業問題(真嶋氏)」「中小企業問題(吉田氏)」「共産党日本共産党の経済再生プラン 30年におよぶ経済停滞・暮らしの困難を打開するために 三つの改革で暮らしに希望を│くらし・社会保障・経済│日本共産党の政策│日本共産党中央委員会(大門氏)」の報告がされた上で、議論がされているが小生の無能のため詳細な紹介は省略します。


◆岸田政権の「労働市場改革」を検討する(石井まこと*10
(内容紹介)
 以下の記事紹介で代替。

赤旗主張/「労働市場改革」/働くルール確立が政治の責任2023.6.9
 「労働移動の円滑化」は、経済財政諮問会議に代表を送り込む財界・大企業の積年の要求です。
 多くの買い手と売り手が激しい競争を繰り広げるのが市場です。雇用・労働分野では雇用主が圧倒的に優位な立場にあります。法的な規制を緩めたことで、働くルールが壊され、労働条件が悪化しています。

ジョブ型、労働移動の促進で賃下げが増加?岸田政権「三位一体の労働市場改革」が愚策なワケ | DOL特別レポート | ダイヤモンド・オンライン2023.7.11
 (3)成長分野への労働移動の円滑化。
 成長していて人手不足の分野であれば、労働移動を円滑化しなくとも転職は進んでいくだろう。
 「日本に成長産業が生まれないのは、成長分野への労働移動が円滑ではないからだ。円滑にするためには解雇規制を緩和すべきだ」という話を聞いたことがある方もいるのではないだろうか。
 なんとなくもっともらしく聞こえてしまうのかもしれないが、筆者からすれば支離滅裂な話でしかない。本丸は「解雇規制の緩和」ということだろう。容易に解雇ができるようになって、雇用が不安定化すれば、(中略)賃金が上がりにくくなるか、下がりやすくなるということである。つまり、賃上げは極めて期待薄になるだろうということである。
 以上見てきたように、岸田政権の三位一体の労働市場改革を検証していけば、賃上げなど夢のまた夢どころか、多くの人にとってはかえって賃下げにつながることになりかねないことがお分かりいただけたのではないか。


◆ガバメントクラウド自治体はどう変わるか(稲葉多喜生*11
(内容紹介)
 ガバメントクラウド(デジタル庁が整備し、統括・監理する全国的なクラウド)によって地方自治が形骸化し、行政の中央集権化が進行することについての危惧が述べられていますが小生の無能のため詳細な紹介は省略します。


◆中小企業の抜本的賃上げと労働運動(梶哲宏*12、佐久間英俊*13
(内容紹介)
 中小企業の抜本的賃上げにおいて、労働運動が果たすべき役割について述べられていますが小生の無能のため詳細な紹介は省略します。


SDGsの危機と資本主義の変革(小栗崇資*14
(内容紹介)
 SDGsについて「資本主義の変革」と言う意味では共産主義社会主義と通じるものがあり、共産主義社会主義の観点からはSDGsについて、基本的には「その価値を認め」推進していくべきであろうとされていますが、小生の無能のため詳細な紹介は省略します。


◆インド経済の現状と課題(上):コングロマリット資本主義とその行方(西海敏夫)
(内容紹介)
 インド経済の現状について、国民会議派政権から現在の人民党モディ政権に至るまでの流れが論じられていますが、小生の無能のため詳細な紹介は省略します。(下)で課題が論じられる予定とのこと。


日本銀行国債(1)(金子貞吉*15
(内容紹介)
 安倍政権での「異次元の金融緩和」が批判されているが、小生の無能のため詳細な紹介は省略します。
参考
赤旗
「異次元の金融緩和」は完全に破綻 政治の責任で実効ある賃上げ政策を/志位委員長が会見2022.9.23
主張/日銀の政策検証/異次元緩和の害 総括してこそ2023.5.2

*1:著書『あなたは何時間働きますか?:ドイツの働き方改革と選択労働時間』(2018年、本の泉社)

*2:例えば現在、国外亡命中のプチデモン元カタルーニャ州首相(カルラス・プッチダモン - Wikipedia参照)

*3:「スペインに限らず」最近の欧米では珍しくない話ですが、日本ではあり得ないのでため息が出ます。

*4:韓国では「黄色い封筒法で違法ストライキへの歯止めがなくなる、韓国経済が崩壊する」とする右派の非難に対し「デマ中傷(違法ストライキへの損害賠償請求は認めている)」「むしろ企業の労組に対する損害賠償請求行使に全く歯止めがない現状が正当なストライキ権行使を阻害している」と左派は反論している。なお、日本の労組法第8条では「使用者は、同盟罷業(注:ストライキのこと)その他の争議行為であつて正当なものによつて損害を受けたことの故をもつて、労働組合又はその組合員に対し賠償を請求することができない」として「原則としてストライキに対する企業の損害賠償請求を禁止」している。

*5:全労連事務局長

*6:日本共産党政策副委員長(中央委員兼務)。著書『「属国ニッポン」経済版』(2003年、新日本出版社)、『新自由主義の犯罪』(2007年、新日本出版社)、『ルールある経済って、なに?』(2010年、新日本出版社)、『カジノミクス』(2018年、新日本出版社)、『やさしく強い経済学』(2022年、新日本出版社

*7:元朝日新聞編集委員和光大学名誉教授。著書『ルポ雇用劣化不況』(2009年、岩波新書)、『女性を活用する国、しない国』(2010年、岩波ブックレット)、『ルポ賃金差別』(2012年、ちくま新書)、『しあわせに働ける社会へ』(2012年、岩波ジュニア新書)、『家事労働ハラスメント』(2013年、岩波新書)、『正社員消滅』(2017年、朝日新書)、『これを知らずに働けますか?:学生と考える、労働問題ソボクな疑問30』(2017年、ちくまプリマー新書)、『10代から考える生き方選び』(2020年、岩波ジュニア新書)、『女性不況サバイバル』(2023年、岩波新書)等

*8:農民連常任委員

*9:駒澤大学名誉教授。著書『転機に立つ中小企業』(1996年、新評論

*10:大分大学教授

*11:東京自治労連副委員長。著書『保育・教育のDX が子育て・学校、地方自治を変える』(共著、2022年、自治体研究社)

*12:全労連全国一般・東京地方本部書記長

*13:中央大学教授

*14:駒澤大学名誉教授。著書『アメリ連結会計生成史論』(2002年、日本経済評論社)、『株式会社会計の基本構造』(2014年、中央経済社

*15:中央大学名誉教授。著書『資本主義発展の基本理論』(1980年、青木書店)、『戦後日本経済の総点検』(1996年、学文社)、『現代不況の実像とマネー経済』(2013年、新日本出版社