お前が言うな、産経(天皇の政治利用?)

「悪しき前例」 天皇陛下面会の一カ月ルールを逸脱した官邸のごり押し
http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/091211/stt0912112141015-n1.htm

・私が言いたいことはタイトルにつきる。
憲法9条という明文ルールでさえ日米友好のために破れというくせに。1ヶ月ルールなんて不文律にすぎないじゃないか」
「もっと重大な問題がいくらでもあるだろうに。子ども手当が有効か、とか別の問題で民主叩いた方が有益だろ」*1
「『民主は、麻生総理の定額給付金でのぶれ(所得制限するかどうか)を叩いていたのに、自分たちが子ども手当で同じ事をやっている』とか『スパコンを巡る迷走ぶり(凍結から一部予算削減で復活)は政府の体を成していない』とか『基地問題先送りは卑怯。公約通り、県外移設の方針で交渉せよ』とか叩いた方が攻撃として有効じゃないの?」
天皇、皇族の政治利用なんて過去(自民党政権時代)にいくらでもあるだろ」(例えば今上天皇の賢明な対応*2で、未遂に終わったが米長邦雄(将棋連盟会長で東京都教育委員)の例の発言も、激励と取られかねない発言を明仁氏が米長相手にうっかりしたら*3確実に産経に代表される極右は天皇の「お墨付き」を振り回していたことだろう。米長を「天皇の政治利用」と非難しないってことはそう言うことですよね?)
「羽毛田伸吾宮内庁長官はオリンピック招致に皇太子を、と主張した石原都知事を批判したこともあったと思うけどそう言うのは無視かよ」(もちろん石原の行為も立派な政治利用です。「オリンピック招致に協力」って明らかに国事行為でも純然たる私的行為でもないですから。なお、この時、要請に応じなかった宮内庁を石原は中傷してますがそう言うのは無視して民主だけを「不敬」「政治利用」と叩くのが産経とネトウヨのクオリティ)
「自分に都合の良いときはやれ皇室だ、元皇族だと産経は政治利用するくせに」(そもそも天皇がやらなければいけない憲法上の国事行為はともかく、それ以外の必ずしもやらなくても良い行為(海外要人との会見等)は、全くの私的行為でない限り、当人の主観はともかく、客観的には政治性を持たざるをえないと思う。政治利用云々というなら国事行為以外やらせなきゃいい。個人的には天皇制を廃止してほしいけど)。

・上に書いたように自民党や産経の民主批判には全く賛同できない。とは言え、民主党のやったことが良いことかというと「うーん」。どんな形であれ、天皇の政治利用自体は良いことではない(現在、天皇に政治的権能はないのだから)と私は思うし、右派にああだ、こうだ言われてまで、天皇習近平氏(中国国家副主席)の会見をセットする必要があったのだろうか?
・なお、右翼の皆さんはルールを問題にしている方が多いが、中には反中意識モロ出しの方もいらっしゃる。「1ヶ月ルールに合致しても文句言ったんじゃないの?」「アメリカとか右翼の皆さんが親日と見なす国ならルールに反しても大目に見たんじゃないの」と思う。
はてブに「秋篠宮の発言を捏造した産経がふざけるな」と言う物があったがそう言えばそんな事件ありましたね、極右の皆さん。そのとき産経にちゃんと抗議しましたか?(皮肉)
・今回の件についてどうやら各党とも批判的らしい(多くの党が「政治利用では?」と批判。なお、共産の小池晃氏(参議院議員、党政策委員長)は「高齢でガン手術も受けた天皇の健康に配慮したのか?」と右翼的(?)な批判をしている様)。
しかし、賛同できないというか引っかかる。過去の天皇の会見が全て「政治的でなく」「健康に配慮した」といえるのだろうか?
また1ヶ月ルールを守れば、それだけで常に「政治的でなく」「健康に配慮した」とはいえないだろう(1ヶ月ルールをみんな問題にしてるんですよね。それとも守っても問題なの?)。
・ちなみに1ヶ月ルール天皇の健康に配慮して作られたので、これを根拠に「天皇の健康に配慮してるのか?」と非難するのは分かる。「政治利用だ!」と非難するのは意味不明である(政治利用かどうかを判定する基準じゃないから)。
・なお、健康を問題にするなら、いっそのこと明仁氏には隠居してもらって、健康な皇太子に全て「公務」を任せるという方法もあると思う。あの年齢ではリタイアする人の方が多いのだし。

【12/16追記】
1)この件について、志位和夫氏(共産党委員長、衆議院議員)が小沢一郎氏(民主党幹事長)らを批判する記者会見をしたようなので紹介。
天皇会見問題・政府の対応は憲法の精神をたがえたもの:小沢氏こそ憲法をよく読んで発言すべきだ・志位委員長が会見」
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik09/2009-12-16/2009121602_01_1.html

なお、志位氏は「憲法に定められた国事行為」以外の行為(「軽井沢でテニス」「ナマズの研究」「一家で野球観戦」等のような純然たる私的行為はもちろん除く)を天皇が行うことは憲法上問題がある(違憲の疑いがある)と言っているのであり、1ヶ月ルールを問題にしているわけではない事に注意。つまり志位氏は国事行為以外にはおそらく純然たる「私的行為」しか認めていないと言うことである。
一方、小沢氏は国事行為を拡大解釈して、この問題を正当化しようとしていると考えられる。結論の是非はともかく、そうした解釈は一応論理的には可能だろう(政府解釈とは違うが)。あるいは「小沢氏の言う国事行為」=「国事行為+いわゆる公的行為(準国事行為)」なのかもしれない(こちらは政府解釈)。産経は公的行為には「助言と承認が必要ない」などと書いているようだがもちろん大嘘である。助言と承認なしでは、公的行為の最終責任者は天皇になってしまう。それでは憲法4条の趣旨(天皇は政治的権能を持たない)に反するし、公的行為で政治的問題が起こったら、産経は天皇に退位などさせて、本人に責任を取らせるつもりなのだろうか?。
助言と承認が出来ないのに、内閣に責任を取らせるのもおかしいし、天皇無問責というのもおかしいしね。
志位氏の立場だと、天皇が外国の政治家と会見すること(もちろん天皇の外国訪問を含む)自体すべきではないと言うことになる。また、いわゆる「国会開会での天皇のお言葉」に対しても、私の記憶が正しければ、同様の理由から共産は批判しており抗議の意志を示すため毎回、欠席していたと思う。従って一部ネトウヨが志位発言を「宮内庁自民党と同意見だ」等と評価しているのは感覚が明らかにずれている。

2)小沢氏の「文句があるなら長官を辞めてほしい」発言に「ひどい」とか言ってるネトウヨがいるようだがご都合主義にも程がある。卒業式での「日の丸・君が代」を批判する教員の方に「上司の命令に逆らうのか」「文句があるなら辞めろ」と言ってたのはお前らじゃないのか?
(ご都合主義が不快なだけで小沢発言を支持しているわけではありません、念のため)

【12/17追記】
1)私は国事行為への助言と承認も、公的行為への助言と承認も、根拠は憲法3条だと思っていたのだが、政府見解では、後者に対する助言と承認の根拠は憲法65条(行政権は内閣に属する)らしい。「公的行為は国事行為じゃないから3条対象ではない」→「しかし天皇も行政機関の一種だから65条で内閣のコントロールを受ける」と言うことか。(3条の類推適用や準用の方がわかりやすいと思うのだが)
一部ネトウヨは「政府見解では、公的行為は憲法3条の対象とならない」を勝手に「政府見解では公的行為は内閣のコントロールを受けない」と脳内変換しているようだがデマカセは止めてほしい。
2)この問題について、渡辺治「日本の大国化とネオ・ナショナリズムの形成:天皇ナショナリズムの模索と隘路」(桜井書店)を紹介(長いので一部省略します)。

p333−335
 まず、「象徴としての行為」を否定し、それら行為を違憲とする説から見よう。念のために一言しておけば、私も「象徴としての行為」を否定すべきであると考えている。ここで問題にしたいのは、その理由付けである。
 否定説は憲法の認める「国事行為」以外の公的行為は認められず、それを認めることは(中略)「象徴」制からの逸脱だと攻撃する。ならば「国事行為」であれば−たしかに憲法はそれを認めている−憲法問題は生じないのであろうか。行政権の長である内閣総理大臣を決めるのに(中略)わざわざ天皇の任命にかかわらせるのは、憲法の持つ民主主義の原理に適合するのであろうか。(中略)天皇に「栄典を授与」させたり、「儀式を行」わせて、国民を動員させるのは民主主義や自由に反しないのであろうか。(中略)象徴天皇という制度をつくり、(中略)民主的過程に介在させることにこそ問題の本質があるのであり、(中略)その害悪は「国事行為」であるかないかにより左右される物ではないのではないか。(中略)
 そういうと、論者は「いや『国事行為』とてその態様のいかんでは国民主権と抵触するのだ、われわれはその害悪に警戒を緩めてはいない」というかもしれない。しかし、もし、そうなら、なぜ端的に憲法上の制度としての「象徴」制を批判し、その廃止が望ましいことをいわないのか?また、もし、逆に「象徴」制自体は本来国民主権と適合する新しい制度として意味あるものだ、というなら(中略)国民主権や自由にプラスであることを積極的に立証しなければなるまい。そしておそらく、そんなことはできないと思われる。
 もちろん、このようにいうことは、「象徴としての行為」や「公的行為」を認める論者を助けることにはならない。(中略)「象徴としての行為」を認めようという説は(中略)一層問題の多いものであることはいうまでもないからである。

なお、「日本の大国化とネオ・ナショナリズムの形成」も指摘しているが、美智子妃バッシングで彼女を失声症に追い込んでおきながら、こういう時に愛国保守面する「週刊文春」、「週刊新潮」には本当に怒りを覚える(そしてこういう連中は雅子妃バッシングもやってるようだ)。

3)秋原葉月氏の文章(http://akiharahaduki.blog31.fc2.com/blog-entry-352.html)になるほどという文章があったので紹介。

 自民党では安倍元総理が率先して「天皇の政治利用は許せない」と張り切っていますが、これに関しては「お前が言うな」です。2006年に、天皇はインド洋やイラクに派遣された自衛隊員ら約180人を皇居に招いて慰労しました。これは安倍内閣のもとにおこなわれたのではなかったでしょうか。これこそ、世界から非難された戦争を支持し、憲法上疑義を呈されたイラク派遣を天皇の慰労で鼓舞しようという、天皇の政治利用だと思います。

おっしゃる通りでしょうね。自衛隊員の慰労なんてのは、国事行為でも純然たる私的行為でもありませんから。ただ政治利用の効果があったかどうかは疑問ですが。

*1:「扶養控除廃止は止めて」とか「事業仕分けで科学技術予算を減らすのは止めて」(若手研究者)とか「不況対策、雇用対策をもっとやってくれ」(中小企業経営者や失業者)など、自らの生活に密接に関わることならともかく、こんな事で騒ぐ、ネトウヨって能天気で良いなあ。生活不安がないなんてとてもうらやましいです。大体JALの問題とか、いろいろ重要問題はあるのにそれより、これが大切なんですか?

*2:個人的には「バカは黙ってろ、米長」ぐらい厳しいことを言ってほしいが、あの方の立場ではアレが皮肉の限度だろう。

*3:なお明仁氏は米長への対応以前から、右翼とは距離を置いていたと思われるので積極支持することはあり得ないだろう。それに気づかなかった米長はバカすぎる。それとも、面と向かって他人を批判するのは誰しも心情的に難しいので、賞賛と受け取られかねない失言を明仁氏がすることを期待していたのか?