今日のMSN産経ニュース(5/23分)

慰安婦問題で産経新聞が何を考えてるかさっぱりわからない
 まあ、安倍一派と「橋下及び維新の怪」、西村眞悟慰安婦認識には基本的に違いなどないのですが、政治的生き残りのために「橋下及び維新の怪」は「俺達は西村のような屑とは違う」として「維新の怪から除名」することで切断処理し、安倍一派は「俺達は橋下や維新の怪とは違う」として橋下批判して切断処理していることは皆さんご承知でしょう。稲田に至っては「慰安婦は重大な人権侵害」とまで言い出しました。間違ってないんですけど「河野談話撤回を主張してきた稲田がそういうことを言うか」とは思います。マスコミの追及がぬるいこともあって稲田は「過去のTHE facts支持」と「人権侵害発言」との整合性についてまともに説明もしませんし。
 それはともかく、安倍一派の橋下批判を受けて産経も『【主張】橋下市長発言 女性の尊厳損ね許されぬ』(http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130515/stt13051503370002-n1.htm)などと橋下批判していましたが、その後こんな記事が掲載されました。橋下を批判したいのか擁護したいのか産経の中でも混乱があるんでしょうか?
『【正論】現代史家・秦郁彦 橋下発言*1の核心は誤っていない』
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130523/stt13052303220000-n1.htm


・しかしどうでもいいんですが「元千葉大学教授」「元日本大学教授」ではなく現代史家って肩書きが面白い。「大学の肩書きを出すような権威主義は嫌い」なのか、はたまた千葉大や日本大に対し「『俺程のエリートがあんな程度の大学とは、本来旧帝大や早稲田、慶応レベルが俺の居場所』という変なコンプレクス」でもあるのか。あるいは大学サイドから「迷惑だからお前は大学の名前出すな」という反応があるのか。
 まあ、いずれにせよ千葉大や日本大も秦に名前出されても迷惑ですが。ただ千葉大はともかく日本大の場合、秦と同レベルの「百地章」ってものすごいのがいますから拓殖みたいなそういう右翼的学風なのかって気が少しだけする。
・一応、秦が擁護する橋下主張に俺流に反論してみましょう。
1)軍自体が、日本政府自体が暴行・脅迫をして…女性を拉致をしたというそういう事実は今のところ証拠で裏付けられていない
 これを正論だとして橋下を擁護する秦ですがバカも大概にしろと言いたい。仮にそうした事実(奴隷狩り的慰安婦集めはなかった)がある*2としても慰安婦の問題は秦らが騒ぐ「狭義の強制連行」限定じゃない。「当時の国際法に違反していたかどうか(もちろん反していた)」なんですから、こんなことを言ったって何の弁解にもなりません。自分で勝手に俺様ルールを作っても誰もそんなものは相手をしません。
2)当時慰安婦制度は世界各国の軍は持ってたんですよ
 これは明らかに大嘘ですね。こんな橋下発言を擁護する秦はどうかしている。日本類似の制度があったと言われるナチスドイツなど一部例外を除けば、あったのは売春宿です。もちろんあっていいとは言いませんが慰安婦とは性格が違う。慰安婦の方が違法性は大きい。秦の主張は「サラ金ヤミ金と一緒扱い」にしたり、「違法ギャンブルと公営ギャンブルを一緒扱い」にしたり、「風俗営業法に基づく性風俗営業と基づかない明らかな違法売春行為を一緒扱い」にしたりするくらいアバウトというかいい加減な行為です。
3)なぜ日本のいわゆる従軍慰安婦問題だけが世界的に取り上げられるのか
 「何故」って「日本以外のほとんどの国はそんな事していないから」です(ドイツなど一部似た例はあるようですが)。橋下と秦は詭弁で「みんなやっていた」として正当化したいようですが。
 つうかこんなふざけた発言が許されるんだったら「虐殺なら他にもいろいろと例がある。何故ホロコーストだけが騒がれるのか(ネオナチがよく言います。その場合、スターリン粛清が持ち出されることが多い)」「拉致なら南米軍事独裁政権(コンドル作戦)や軍事独裁時代・韓国(金大中事件)もやっていた。何故北朝鮮だけが(以下略)」とか言うことも可能になってしまう。で、「そうだ、ホロコーストなんてたいした問題じゃない」「北朝鮮拉致なんて(以下略)」なんてどこの誰が言うのか?。
 大体幼稚園児のガキじゃあるまいし「みんなやってた」なんて恥ずかしい言い訳はよして欲しい。それに辻元清美氏が秘書給与詐取事件の時に「申し訳ないことをしたと思うが、でも私の行為は当時政界ではみんなやってたと思う。違法性の認識はなかった」と言ったときに非難した産経が言っていいセリフじゃないですよね。
 興味深いのは秦が「慰安婦は違法(国際法違反)じゃない」とか「慰安婦は公娼」とか言わない点ですね。そこまで言ったらやばいという変な保身があるのか?。「みんなやってたから日本悪くない」なんて主張は充分恥さらしで世間の秦への批判は大して変わらないと思いますけどね。
秦がこういうバカを言うことによって「南京事件の被害者数算出が笠原さんより少ないのも慰安婦と同じで日本軍免罪かよ?」と疑惑を持たれても文句言えないでしょう。
他にも秦の文章に突っ込んでみましょう。

たとえ、こそ泥レベルの微罪でも「被害者」の申し立てだけで有罪と判定する例はないはずだ。

やれやれですな。まず第1に誰も刑事裁判なんかやってない。第2に慰安婦の違法性認定について言えば、「被害者の申し立て」だけじゃないですけど。彼女らの被害証言それ自体を直接裏付ける物はないかもしれない。しかし一定の真実性があって、「彼女らの主張は真実ではないかと裏付ける状況証拠(日本政府、軍の公文書や連合国による戦後のBC級戦犯裁判資料など。一部の慰安婦事件は戦後裁かれています)」もあるわけです。であるなら彼女らの主張を「大筋で真実」と信じて、評価して何が悪いのか。今更「お前たちの主張が正しいという動かぬ証拠を出せ」なんて無茶なことをいうのは「遠山の金さん」で「証人は遊び人の金さん以外ないんだろうが。その金さんはどこにいるんだ。とっとと釈放しろ」と悪態つく悪徳商人みたいなもんです。金さんじゃないですが「ふざけたこと抜かしやがって悪党」と言いたくなりますな。
 大体こんなことを言う産経が工作員証言しかない時点で「めぐみさん拉致は間違いない」とか言い出すんだからご都合主義きわまりない。

最近になって明るみに出た朝鮮戦争期(50〜53年)における韓国軍の慰安婦事情を紹介しよう。

こういう調査がされるようになった背景はもちろん「旧日本軍慰安婦研究」の発展が原因です。旧日本軍慰安婦研究がなければ、こうした事への注目は遅れたかもしれない。
また、韓国軍「慰安婦」を批判してる人間は「みんなやってるから無問題」と日本を擁護したいわけでもない。告発証言した元慰安婦氏も日本を擁護したいわけではない。人道的観点から韓国軍も批判したいだけです。にもかかわらず韓国軍「慰安婦」を日本軍「慰安婦」の正当化に使おうとする秦の屑ぶりには吐き気がしますね。


【追記】
この秦の文章には以下の批判エントリがあるので紹介しておきます。

黙然日記『産経「主張」のドミノ理論。他。』
http://d.hatena.ne.jp/pr3/20130523/1369320952


誰かの妄想・はてな
秦郁彦氏は従軍慰安婦の話題になるとバカになる』
http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20130523/1369319410
『歴史を知らない現代史家』
http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20130524/1369350241


また慰安婦以外でも秦が酷いことの証明として
『『諸君!』2002年2月号秦郁彦氏の文章を嗤う』
http://rekiken.jp/archives/ebara_2002.html
をあげておきます。
素人の俺には宮地正人氏や、榎原雅治氏の「つくる会教科書のペリーの白旗記述批判」が正しいかどうかは何とも言えませんが、それとは関係なく次の点において「秦は酷い」と思います。
1)榎原論文につけたブクマにも書きましたが秦は南京事件についてはプロの学者たる自らがいわゆる「中間説」であることを理由に南京事件の犠牲者数には通説がないとして笠原説など「秦より犠牲者算定数が多い説」に立脚することに否定的です。
 であるなら秦が「通説でも何でもない」「宮地氏、榎原氏らプロの学者から異論が提出されている」つくる会教科書の「ペリーの白旗記述」を擁護するのはおかしい。秦の立場なら「通説でないから教科書には書くべきでない」と言わなければ筋が通らないはずです。
 また榎原論文を信じれば秦はつくる会教科書を事実上全面肯定(つくる会批判派に難癖だけつけるとはそういうことでしょう)しているようですが、あれを全面肯定などまともな人間のやることじゃない。
2)榎原論文によれば秦はこの「ペリーの白旗」云々の件で重大な事実誤認をやらかしています。

まず秦稿の中に、本会に関する誤謬を含んだ言及がなされている点があるので、これを会として正しておきたい。
(中略)
 本会が指摘した『新しい歴史教科書』の初歩的誤りは「難くせぞろい」であり、「文部省が無視して、返事もしなかったのは当然だろう」とした下りがある。
 秦氏は、本会が指摘した箇所はいずれも誤りというほどものではない、といいたいのであろうが、とんでもないことである。詳しくは『歴史家がよむ「つくる会」教科書』(歴史学研究会編、青木書店刊、定価1200円)をお読みいただきたいが、何しろ、この教科書は、ひらがなの成立を奈良時代の文化*3として扱い、「今昔物語」を鎌倉時代の文学*4としているようなレベルの教科書なのである。
(中略)
 また「文部省が無視して、返事をしなかった」とあるが、そもそも、本会はこの誤り一覧を文部(科学)省に送ってはいない。何も送られていない文科省が返事もしなかったのは当然だろう。文科省に送る意思がないことは6月20日の記者会見でも明言している。この点には本会会員の中にも異論があるかもしれないが、現委員会としては、教科書は基本的に自由発行であるべきであり、記述についての評価・批判は国家機関ではなく、学界や市民によって行われるべきであると考えたので、誤り一覧を文科省に送ることはしなかった。

太字部分は俺の強調ですがおっしゃるとおりで「回答要求されてもいない文科省」が進んで回答するわけもないでしょう。「確かに間違いだ」と認めれば自分らの検定がお粗末であることを認めることになる。かといって「全部歴史学会側が間違い」ともおそらく言えないんでしょう。なら無視するしかない。回答要求されてない以上、無視することは「ほめられたことではないかもしれないが不当行為とまでは言えない」でしょう。
それとも
1)「回答要求されてなくても」文科省は回答すべきであり
2)「回答しなかったのは逃げたのではなく、ばかばかしいから相手をしなかったのだ」と秦は強弁する気でしょうか?
1)はともかく2)は秦の勝手な推量に過ぎません。そもそも文科省は何ら意見表明していない以上、何を考えてるかわからないと見るのが普通の人間でしょう。

*1:ただし秦が問題にする発言は慰安婦オンリーでさすがに「米軍性風俗使用奨励発言」は支持していない

*2:無知なのでこの辺り俺はよく知りませんが

*3:勿論平安時代

*4:勿論平安時代