新刊紹介:「経済」11月号

「経済」11月号について興味のある記事だけ紹介してみます。
 http://www.shinnihon-net.co.jp/magazine/keizai/

■随想『「地域猫」は人間の関係づくり』(野田静枝)
(内容紹介)
 NPO法人・アニマルサポートメイト(http://www.asmworld.org/代表理事を務める筆者によるNPOの活動紹介。


■世界と日本
【G20杭州サミット】(金子豊弘)
(内容紹介)
 赤旗の記事紹介で代替。

赤旗『持続的開発へ行動計画:G20首脳会議閉幕 政策協調を宣言』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik16/2016-09-06/2016090601_03_1.html


【第6回TICADアフリカ開発会議)】(佐々木優)
(内容紹介)
 安倍政権下での第6回アフリカ開発会議については日本の一部反中国右派から
■産経『【主張】アフリカ開発会議 「頼もしい日本」売り込め』
http://www.sankei.com/column/news/160826/clm1608260002-n1.html
■産経『【主張】日本とアフリカ 「平和な海」でも連携図れ』
http://www.sankei.com/politics/news/160830/plt1608300005-n1.html
日経ビジネスオンライン『日本は中国から「アフリカの支持」を奪えるか』(福島香織
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/218009/090500062/?rt=nocnt
など中国封じ込め論の一環として主張され、『当然ながら』その結果「日本側のTICADに対する態度」については
人民日報
■『外交部、日本は私利のために中国・アフリカ関係を挑発』
http://j.people.com.cn/n3/2016/0830/c94474-9107512.html
■『外交部、自らの意志をアフリカに押しつける日本は支持されない』
http://j.people.com.cn/n3/2016/0902/c94474-9109171.html
などの反発が中国側から表明されている。TICADの目的はあくまでも「アフリカの経済支援」であり一部右派勢力のように「アフリカというショバ(市場)」を日本と中国どちらが「自分の縄張りにして儲けるか」的に理解するのはアフリカに対して失礼であり、あげく「中国のアフリカ支援は利権目当てで汚いが日本の支援はきれい*1」云々と中国に悪口雑言するのは、日中友好にも反する。過去日本が「レアアースなど資源目当て」にアパルトヘイト南アとつきあい続けて国際的非難を浴びた過去を反省し、「真にアフリカに役立つ支援」を目指す必要がある。
 筆者は「日本のアフリカ支援が適切か疑わしい一例」として「ケニアのコメ栽培支援」を上げている。
 この場合のコメは主食と言うより輸出作物、換金作物として栽培*2されているが「輸出作物、換金作物栽培も大事だが、主食の自給にまず取り組むべきではないか」としている。


特集「東京集中と地方消滅論」
■「グローバル化と地域経済の変貌:「地方創生」政策で深まる矛盾」(岡田知弘*3
(内容紹介)
 アベノミクスはかえって「中央と地方の格差を拡大」させたため、「地方創生」を打ち出さざるを得なくなったが、今のところはかばかしい成果をあげていない。これに対し、安倍政権批判派は、個別具体的な地域振興策を打ち出して対抗していく必要がある。

参考
赤旗
■主張『反省なき安倍政権「地方創生」:衰退させているのは誰なのか』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2015-01-05/2015010502_01_1.html


■「東京再開発フィーバーの危うさ:暴走する「アベノピックス」」(岩見良太郎*4
(内容紹介)
 アベノミクス及び東京五輪(筆者曰くアベノピックス)による東京再開発は、計画的開発とは到底言えず、五輪終了後の経営負担などが危惧される。東京再開発についての厳しい監視が必要である。

参考

http://ameblo.jp/maronrepo2013saisyohagu/entry-12083428791.html
おぐり智恵子の活動日誌『「東京大改造計画と道路・まちづくりを考えるシンポジウム」に参加しました。』
 宮本徹議員が国会報告、松村友昭都議が都政報告を行いました。シンポジウムでは、田村智子参院議員、山添拓参院東京選挙区予定候補があいさつを行い、池内さおり衆院議員も参加しました。
 埼玉大学名誉教授の岩見良太郎氏は、いまアベノ・ピックス(アベノミクス+オリンピック)をテコに東京大改造が急ピッチですすめられている中で
○3環状をはじめとする道路づくりは、東京大改造において、なぜ重視されるのか
○東京大改造・道路づくりの矛盾はどこにあるか
○それに対抗する住民のまちづくりは、いかにあるべきか
という3つの論点で講演がありました。


■「地方消滅論」と都道府県の地域政策:高度成長期の二つの事例を検討」(入谷貴夫*5
(内容紹介)
 高度成長期時代の地域政策として蜷川京都府政と大分県政が取り上げられる。大分県が国の全国総合開発計画(いわゆる全総)べったりで、「重化学工業コンビナート」に傾斜し、「第一次、第二次、第三次産業のバランスの取れた発展がなされたとは言いがたい」と批判的に評価する一方で、蜷川府政についてはある種の自主性を持ち「第一次、第二次、第三次産業のバランスの取れた発展がなされた」と好意的に評価される。地域発展において、「第一次、第二次、第三次産業のバランスの取れた発展」が重要な要素として指摘される。


■「都道府県別ワーキングプア率の検討」(戸室健作*6
(内容紹介)
 政府の経済データから「都道府県別ワーキングプア率」の試算が行われる。
 ここからは
1)首都圏、中部圏以外の地域ではワーキングプア率が、全国平均を上回っており、明らかにワーキングプア率の地域格差が見られること
2)ただし首都圏、中部圏においてもワーキングプア率はいわゆる新自由主義的経済政策の影響を受けて増加傾向にあること
3)「子どもの貧困率」と「ワーキングプア率」には明らかに相関関係が認められること
が指摘される。
 筆者はワーキングプア率を下げる方策として、1)最低賃金の引き上げ(目標として筆者は時給1,500円を主張)、2)雇用の安定(正社員の増加)を上げている。

参考

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2016-03-15/2016031501_03_1.html
赤旗『貧困世帯、20年で2.5倍、山形大・戸室氏の研究で明らかに、都道府県別の実態示す』
 戸室氏は、「貧困は、特定の地域に固有の問題ではなく全国一般の問題へと深刻化している」と指摘。「国が率先して貧困対策を進めることが重要」だとして、生活保護費の全額国庫負担化、最低賃金の大幅引き上げ、非正規雇用の活用規制を提言しています。また貧困世帯数(12年)の4割の400万世帯が「年金・恩給」が主な収入だとして、「最低保障年金の創設」を求めています。

http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/400/240443.html
NHK視点・論点「子どもの貧困とワーキングプア」(山形大学准教授・戸室健作)
 2012年の「子どもの貧困率」は、高い順に沖縄(37.5%)、大阪(21.8%)、鹿児島(20.6%)、福岡(19.9%)、北海道(19.7%)と続いています。
 子どもの貧困率急増の原因は何なのでしょうか。主な原因は労働条件の悪化にあると考えています。実際、子育て世帯の多くは就労世帯でもあり、親の就労条件の悪化は子どもの生活状況に直接影響を与えます。私は、都道府県別に「ワーキングプア率」についても調べてみました。ここでいうワーキングプア率とは、収入の多くを働いて稼いでいる世帯のうち、生活保護基準以下の収入しかない世帯の割合のことです。ワーキングプア世帯は1992年の133万世帯から2012年には320万世帯へ、ワーキングプア率は同じ期間に4.0%から9.7%に増大しています。重要なことは、ワーキングプア率が高い都道府県は、子どもの貧困率も高くなっていることです。
 さらに注目したいことは、この20年の間に、貧困の地域間格差が縮小しているという事実です。地域間格差が縮小しているということは、どういうことでしょうか。私は、子どもの貧困率が高かった上位10の地域の合計貧困率と、子どもの貧困率が低かった下位10の地域の合計貧困率の格差についても計算しました。その結果、上位10と下位10の地域の子どもの貧困率の格差は、1992年は5.37倍もありましたが、その格差は徐々に縮まっていき、20年後の2012年には2.35倍に縮小していました。なぜ縮小したのでしょうか。それは、上位10の地域の合計貧困率も増大しているのですが、下位10の地域の合計貧困率がそれを上回る高さで増大しているからです。そのため、格差縮小と言っても歓迎すべきもので全くなく、その実は、貧困率の高位平準化が進んでいるのです。
 同じことはワーキングプア率の地域間格差でも見られることです。ワーキングプア率の上位10の地域と下位10の地域の格差も、この20年間に、4.34倍から2.06倍に縮小しています。縮小した理由は、子どもの貧困率と同じように、高位平準化によって、全体的にワーキングプア率が高まる中で、下位10の地域のワーキングプア率の上昇が大きいために格差の縮小が起きているのです。
 このように見てみると、現在でも貧困率の高い地域と貧困率の低い地域は存在していますが、その差は徐々に悪い方向で縮小してきていることが分かります。これは何を意味するかというと、もはや貧困は、特定の地域に固有の問題ではなくなってきていて、全国一般の問題、全国どこにでも見られる問題に深刻化してきているということです。その原因として、全国的にワーキングプアの仕事が拡散・増大してきていることが指摘できます。
 それでは、こうした状況の中で求められる貧困対策とは、どのようなものでしょうか。各地域レベルでの努力によって貧困の解消を図ることはもちろん大切です。また、貧困が全国一般の問題となっていることを考えると、地域の努力と平行して、国が率先して貧困の削減を進めることが重要になっています。
 それでは、貧困対策として国が行うべきことは何でしょうか。これは、子どもの貧困率の高さとワーキングプア率の高さが関係していることからして、ワーキングプアの仕事をなくしていく政策が必要です。具体的には、労働者の4割にも達した非正規労働者の活用を規制しなければいけません。あるいは、最低賃金の金額を最低でも時給1500円以上に抜本的に引き上げる対策が求められます。
 自治体レベルでも行えるワーキングプアを削減する方法としては、役所において非正規職員の数を減らし、正規職員に置き換えていく施策が挙げられます。また、現在では多くの自治体が仕事を民間に委託していますが、この民間委託の際にワーキングプアが生み出されることが問題になっています。競争入札で一番安い見積額を提示した会社が、自治体の仕事を落札することになれば、その会社は人件費を削り、安い労働力を使って、請け負った仕事をこなそうとします。そうさせないために、見積金額だけではなく、正社員数の多さや、賃金の高さなどを業者選定の評価項目に加えていくことが必要です。さらに進んで、仕事を請け負う会社には、社員に一定額以上の賃金を支払うことを義務づけた公契約条例を制定する自治体も徐々にですが、広がってきています。
 2014年1月に子どもの貧困対策法が施行されて、自治体では子どもの貧困対策の施策策定と実施が義務づけられました。「隗より始めよ」という言葉がありますが、子どもの貧困対策に自治体が取り組むのであれば、まず、自らが「官製ワーキングプア」を作り出していないか点検し、作り出しているのであれば、早急にその見直しに着手することが必要です。
 子どもの貧困とワーキングプアとの関連について述べてきましたが、貧困問題の解決は、たとえ今現在、安定した正規の仕事に就いていて、貧困とは無縁に見える人々にとっても大いに関係している事柄です。それというのも、ワーキングプアの増大は、そうした人々の生活保障をも脅かすからです。どういうことでしょうか。ワーキングプアの存在は、労働市場において正社員の働き方を引き下げる錘の役割を果たします。ワーキングプアの活用が広がることは、そのコスト面と競争させられることによって正社員の労働条件を低下させるのです。賃金の引き下げや、さらなる長時間労働が正社員に負わされます。長時間労働の広がりは、労働市場において働く機会の縮小をもたらすので、そのことがワーキングプアの増大に拍車をかけます。つまり、正社員の労働条件の悪化とワーキングプアの増大は相互促進的な関係にあるのです。そうであれば、ワーキングプアの解消を図ることは、ワーキングプアの生活を強いられている人々だけでなく、正社員として働く人々にとっても大いに求められることです。
 最後に、子どもの貧困問題の解消には、労働条件の改善だけではなく、生活保護制度の拡充、児童手当の増額、医療費の窓口負担の無料化、働きつつ子育てができるように保育所の増設など、社会保障制度による対策も当然必要になってきます。今こそ当事者の運動やその他の市民運動、労働運動等が連帯して、貧困削減のために大きなうねりを起こす必要があります。

 

■データで見る日本経済26「深刻化する消費の低迷」
(内容紹介)
 国内消費が深刻に落ち込んでいることを統計データを元に指摘。消費税減税、福祉の充実など、消費意欲を高める政策の必要が主張される。


■「一億総活躍プランと同一労働同一賃金」(藤田宏)
(内容紹介)
 安倍政権が「同一労働同一賃金」を口にしたことは「深刻な格差問題」を安倍政権ですら無視できないことの表れであり、一概に悲観する話ではない。
 ただし安倍政権がまともに「同一労働同一賃金」を検討しているかは甚だ疑問であり、警戒や批判が必要である。
 一方で警戒、批判を行うだけでなく「あるべき同一労働同一賃金」の形を「欧米の実践」を参考にした上で対抗案として提示していく必要がある。

参考
赤旗・主張『同一労働同一賃金:真に実効性ある法律改正こそ』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2016-03-07/2016030701_05_1.html


■「プーチン*7の東方政策:極東新政策体系は成功するか」(望月喜市*8
(内容紹介)
 筆者はプーチンの東方政策(極東新政策体系)は今のところ、大きなトラブルはなく、今後の進展が期待できると見なしているようである。また「安倍の領土問題に対する軽口」はともかく日露経済交流それ自体は日本の国益上、支持する立場のようである。いわゆる制裁問題(クリミア問題)については「下手にロシアに接近すると米国やEUウクライナとの関係がまずくならないか?」などといった疑問について明確な形では特に触れられていない。

参考

http://yuken-jp.com/report/2016/05/10/russia-2-2/
■新段階に入る極東開発(伏田寛範)
 2015年は極東開発にとって新たな転機の年であった。まず注目されるのは、同年3月30日に「優先的社会経済発展区域(TOR)」と呼ばれる新型の経済特区を設置する法律が発効したことである。これは、アジア太平洋地域を主なターゲットとした製品の生産拠点となる地区を極東地域に創出しようというものである。TORを設置することで、これまで極東開発の中心となっていたエネルギーや資源分野だけでなく、農業、輸送、ハイテク産業など新たな分野においても国内外の投資家を呼び込むための条件作りが急速に進んでいる。
 2015年10月に始動した「ウラジオストク自由港」もまた、TORと並び注目されている。ウラジオストク市とその周辺地区を領域とするこの経済特区は「輸送網を整備し、天然資源以外の輸出産業育成を目指す」ものであり、関税・検疫・出入国管理などに関する規制が大幅に緩和される他、入居者に対しては諸税の減免やインフラの無償提供などといった優遇措置が与えられることになっている。
 投資家の誘致という点で注目されるのは、2015年9月にウラジオストクで開催された第1回東方経済フォーラムであろう。ロシア国内外から32カ国約4,000人(そのうち外国人は約1,500人)もの参加申し込みがあったこの会議には、プーチン大統領をはじめ閣僚や政府高官が参加し、大統領自ら極東地域のトップセールスを行った。
 こうしたプーチン政権の強力なイニシアチブと次々と打ち出される新政策に目が奪われがちであるが、現場の極東地域においても着実に変化が生じている。本稿では極東開発を担う経済主体の変化に注目し、新たな局面に入りつつある極東地域の姿を描きたい。
■スピンオフの進むコムソモリスク・ナ・アムーレの産業
 2015年2月、政府小委員会は、沿海地方のナデジンスキー市、ハバロフスク市とともに、コムソモリスク・ナ・アムーレ市をTORの設置区域として選定した。同市は、ハバロフスク市の北東約360キロメートルのアムール川左岸に位置する極東第3の工業都市である。コムソモリスク・ナ・アムーレ市は、ソ連時代に極東地域における機械製造業・軍需産業の拠点として建設され、スホーイ・ブランドの航空機を製造するコムソモリスク・ナ・アムーレ航空機工場(KnAAZ)や、タンカー、貨物船、潜水艦などを建造するアムール造船所(ASZ)などが立地する。TOR「コムソモリスク」は、同市の経済を支えるKnAAZを中心とした航空機関連のハイテク産業クラスターを創設することを目的としているが、既にこうしたクラスターの形成の兆しは現れている。ここではKnAAZとコムソモリスク・ナ・アムーレ国立工科大学(KnASTU)を例に、クラスター形成の鍵となるスピンオフの進展について紹介しよう。
 長年、主に軍用機の生産に携わってきたKnAAZは、1990年代から生産の多角化に取り組むようになり、2003年からは新型旅客機スホーイ・スーパージェット100(SSJ-100)の開発生産に参加するようになった。KnAAZにはSSJ-100の一部コンポーネントの生産と最終組み立てラインが設置され、さらに、この新型旅客機を開発した航空機メーカー「スホーイ民間航空機」(本社:モスクワ)のコムソモリスク・ナ・アムーレ支社も置かれた。KnAAZによると、今後、SSJ-100の生産により同工場で生産された50%は民需品になると見込まれている。このように、ソ連時代以来の軍用機の生産工場であったKnAAZに本格的な民間機部門が誕生しつつあるのだ。
 KnAAZと並んでTOR「コムソモリスク」の核となるのが、KnASTUである。同大学は1955年の創立以来、コムソモリスク・ナ・アムーレ市の地元経済を支える企業で働く技術者の養成に携わってきたが、近年は地元企業との共同研究・開発活動にも力を入れている。2010年に設立されたKnASTU付属の技術移転センター(テクノパーク)では、石油精製用の触媒や複合素材、特殊金属によるメッキ加工技術、レーザー測定技術などの新技術が開発され、実際にKnAAZやASZ、石油会社ロスネフチなどで採用されるに至っている。テクノパーク以外にも、KnASTUからスピンオフする形で、若手研究者らによる小規模イノベーション企業が多数設立され、新技術の事業化が取り組まれている。こうした企業群がKnAAZなどの中核企業の周辺に集積することでクラスターを形成し、さらには新産業の創出や多角化に寄与することが期待されている。
■極東発のバリューチェーンは形成できるのか? −新型経済特区の展望
 新型経済特区TORの成否は、何を極東地域で生み出し、アジア太平洋地域で売っていくのか、という点に懸かっている。ロシア政府首脳はたびたび「TORや自由港は外国の『最良の実践』を取り入れたものであり、アジア太平洋地域において最も恵まれた条件を提供するものだ」といった内容の発言を繰り返しているが、そうしたビジネス環境を整えることは必要条件にすぎない。むしろ課題は、TORや自由港の枠組みを活用して、アジア太平洋地域に見られる高度なバリューチェーンの中に極東地域をいかに統合していくのか、あるいはロシア極東地域を軸とした新たなバリューチェーンを形成することができるのか、といったことにある。
 例えば、TOR「コムソモリスク」の中核企業KnAAZは、旅客機(SSJ-100)の国際共同開発・生産のプロジェクトを通じて極東地域発のバリューチェーンを築き、ロシア国内だけでなくアジア太平洋地域にも製品を販売している。また、メキシコのInterjetはSSJ-100を17機運用しており、さらに10機を追加導入するという。他にも、中国やベトナムにもSSJの販路を拡大する計画があると報じられている。こうした成功例を積み重ねることが必要なのである。
 新たなバリューチェーンの形成という意味では、極東地域に眠っているビジネスの種(シーズ)をいかに花開かせるのかといった視点も重要となる。前節で紹介したように、既にコムソモリスク・ナ・アムーレでは大学発のベンチャー企業が多数設立されており、こうした独自技術を持った企業がロシア国内外の企業と協力することで新たなビジネスを生み出すことが期待されている。TORや「自由港」が提供するさまざまな優遇条件は、そうした新ビジネスを育てていくための養分となるだろう。
■開かれた地域に変貌する極東地域−新たな段階に入りつつある日ロ経済協力
 これまで、ロシア極東地域は狭い市場故に十分な関心が払われてこなかった。だが、極東地域の背後には1億人の規模を誇る中国東北部中央アジア諸国市場が控えている。こうした新たな市場を確保するための橋頭堡(ほ)としても、極東地域の重要性は高まってきているのだ。2015年9月に開催された東方経済フォーラムにロシア国内外から多数の参加者があったことは、彼らが極東地域のポテンシャルを高く評価していることの証左であろう。極東開発に参加する主体の多様化・多国籍化が急速に進んでおり、極東地域は文字通り開かれた地域へと変貌しつつある。
 極東地域を舞台とした日本とロシアの経済関係や経済協力もまた、新たな転機を迎えつつある。ソ連時代から続く両国の経済協力の歴史をひも解くと、従来は大企業による資源分野での協力が主であったが、近年では経済協力の分野も主体も共に多様化していることに気が付く。ウラジオストクでの自動車工場建設やハバロフスクでの温室農業事業などは、その好例であろう。中小企業もまた極東地域への進出を検討するようになり、一部の事業では既に成果を挙げているものもある。さらに今後は、上記で紹介したような現地のスピンオフ企業との合弁事業なども見込まれるだろう。これからの日ロ経済協力は、資源開発のような巨大プロジェクトだけでなく、日ロ両国で多様なニーズとシーズを掘り起こし、どのように事業化していくのかという観点も重視されるようになるだろう。

 「経済特区による外資導入」というのは中国やベトナムの成功例にヒントを得たもんでしょう。成功するかどうかはともかく、プーチンも単なる「資源大国」ではなく「工業大国」を目指してるわけです。旧ソ連全盛期は「工業大国」だったわけですしね。

http://synodos.jp/newbook/13691
シノドス『ロシア外交のひも解き方:プーチンの「脱欧入亜」政策を論じる:『プーチンはアジアをめざす』(2014年、NHK出版新書)著者・下斗米伸夫氏*9インタビュー』
インタビュアー
 本書のテーマである、プーチン政権のアジアシフト、先生のお言葉を借りれば「脱欧入亜」という外交政策(中略)、まずこの新しい方向性の内容と、こうした外交の変化が起こっている背景について、教えてください。
下斗米
 プーチンの外交指針は、次の6つに大きく整理できます。まず一つ目が「超大国でなく、多極のなかの一極としてのロシア」。次に「旧ソ連CIS地域の重要性」。3つ目が「エネルギーを中心とする経済外交」。そして「反テロ活動や原理主義との闘争の重要性」、「対米協調と対外投資の推進」。最後に、私が最も注目しており、プーチン外交の核心であると考えているのが、「アジア重視外交」です。
 プーチンは第三期政権の現在、欧米からますます距離を置き、ロシアを「アジアの国」に変えようとしています。2012年の5月に大統領に再任されると、プーチンはすぐさま極東・シベリアをめぐる経済開発や、安全保障面での東方重視政策を開始しました。
 その後も「ユーラシア連合」の構想やパイプラインの建設など、重要なアイデアや政策を次々と打ち出しています。
 こうしたアジア重視の外交が行われるようになった背景には色々な要因があり、それらが複雑に絡まり合っているのですが、まずひとつにはCISとの関係の変化が挙げられるでしょう。
 冷戦後の混乱期を抜けて、ロシアはCISを「ポスト・ソビエト空間の再統合」と捉え直していたのですが、2004年にウクライナで発生した(ボーガス注:親ロシアのヤヌコビッチ大統領が失脚し、親欧米のユシチェンコが大統領に就任した)オレンジ革命により、CIS内でロシアに次ぐ経済力を有するウクライナが去ってしまうと、もはやロシアはCISを裏庭として覇権的な立場を取ることはできなくなりました。これが、プーチンがアジアに目を向けるひとつのきっかけになっています。
 その後さらに(ボーガス注:オレンジ革命後、大統領に返り咲いて復権したヤヌコビッチが失脚し親欧米のポロシェンコが最終的に大統領に就任した)今回のユーロマイダン革命によって、ウクライナは決定的にヨーロッパ世界の方へと舵を切ってしまったわけです。
 ただ、もちろんそれだけが理由なのではなく、アジア、特に北東アジアにはロシアの具体的な利益が存在することも、大きな要因になっています。「北のサウジアラビア」としばしば自嘲的に言われるように、現在のロシアの経済はその多くを資源に頼っています。
 一方、2005年に世界の石油消費量において北米を超えて世界最大となったアジア太平洋地域では、慢性的なエネルギー不足が生じており、ここにロシアにとっての商機が存在するわけです。
 シベリアや極東の開発も非常に重要度の高い課題です。ロシアという国は、資源の8割がシベリアに集中しているにもかかわらず、人口は2割しかないという、ある種不均衡な分布をしています。このシベリアを開発することはロシアの長期的な課題でありました。
(中略)
 そうした条件がある中で、今回のように、ロシアと「特殊な関係」にあったウクライナがロシアと決別し、ヨーロッパ世界の一員となるというような出来事があると、ロシアの振り子は逆に東に振れることになるのです。
インタビュアー
 振り子というたとえが出ましたが、そうであれば、今の東方シフトの流れがまたヨーロッパに向けて振り戻されるという可能性もあるのでしょうか。
下斗米
 たしかに、論理的にはその可能性はあります。何らかの原因によって、再びロシアがヨーロッパをより重視した外交を行うようになる可能性は否定できません。しかしながら、現在について言う限りでは、世界経済の大きな潮流はヨーロッパではなく、アジアに向かっているという意識がプーチンの中にもあるはずです。ですので、こうした認識が続くかぎり、少なくとも当分の間は、こうしたアジアへのシフトは続くと考えています。
インタビュアー
 先生のお話を伺っていると、私たちが普段考えている「ロシアの行動にフラストレーションを感じる西洋諸国」という像ではなく、「アメリカなどの西洋諸国の行動にフラストレーションを溜めているロシア」という像が浮かんでくるように思うのですが、その点に関してはいかがでしょうか。
下斗米
 それはその通りでしょうね。というのも、国際情勢を西側から見るのと、モスクワから見るのとでは、見えてくるものが全く異なります。
(中略)
 ロシアにしてみれば、お互いに同盟は拡大しないはずであったのに、アメリカを始めとする国々が一方的にNATOを拡大し、ロシアのお膝元であるウクライナのような国々にまで勢力を拡大してきている現状は、到底容認できないものです。
インタビュアー
 そうした状況の中で、一方のアメリカもオバマ政権になって、”Pivot to Asia”、すなわちアジア重視の動きを見せています。こうした二つの動きはどのように関連していくのでしょうか。
下斗米
 現在、アメリカはひとつのジレンマを抱えています。今までNATO中心に考えられてきた政策に不満を持つ人びとが、これを契機に発言力を強めており、こうした人びとは、ヨーロッパは衰退の流れにあると見てアジアとの関係強化に向かうべきだと考えています。
 国内でヨーロッパ、あるいはNATOを重視する人々と、アジアを重視する人々が分かれていて、そうした意味では次期大統領が誰になるかを含め、今後の展開を注意深く見ていく必要があります。
 ただ、一つ気をつけなければならないのは、アメリカとロシアがどちらもアジアを重視する政策を取ったからといって、日本を含めアジアの国々が、アメリカかロシアのどちらかを選択しなければいけない、というわけではありません。日本も韓国も、アメリカとの同盟関係を維持しつつもロシアとの関係強化を行っているわけですし、アメリカとロシアは二者択一ではないのです。
インタビュアー
 次に、日本に目を転じて、日ロ関係が冷戦後どのように展開してきたのか、またそれがアジアの国際政治の文脈の中でどのような意味合いを持つのかについて、教えてください。
下斗米
(前略)
 中ロ関係は親密なようですが、ロシアにしても、中国の力が圧倒的に大きくなりすぎてしまうと、単独で対処するのは難しくなります。ロシアにとって中国という存在は、何にも代えがたい経済的魅力であると同時に、安全保障上の大きな脅威なのです。
 ここに日本も含めた協力の余地があるとも言えます。日本との関係で言えば、ロシアの発展に日本が協力する、その代わりにロシアから資源を輸入する、そういった関係があり得ると思います。
 近年ロシアは外交的にも、中韓関係が蜜月期にあるのを快く思わない北朝鮮を利用して、仲介の労をとって南北会談を働きかけたり、拉致問題の話し合いを仲介したりするといった独自の役割を果たすようになっています。
 こういう状況の中で、アメリカの一部の人びとが考えるように、ロシアに対してあまりに強い態度をとって追い込んでしまうと、今度は中国との協調により重点を移し、結局アメリカのためにもならない、ということになる可能性があると私は思います。
インタビュアー
 最後に、現在の日ロ関係は制裁等もあり、必ずしも思うように進んでいない印象を受けますが、近い将来これは変わっていくと考えてよいのでしょうか。
下斗米
 昨年*10延期されたプーチン大統領の訪日が今年*11行われるとすると、日ロ関係はそれを契機に大きく進展する可能性があります。また、2年後*12にはプーチンが大統領選挙を迎えますので、それに向けてもエネルギー面での協力も進むかと思います。また、そもそも日本が現在行っている対ロ制裁は中堅幹部に対するものが多く、そこまで実効的なものではありません。
 現在日本は安倍政権でロシアはプーチン政権ですが、外交というのは一種の化学反応があるようで、安部首相とプーチン大統領は、例えばオバマ大統領とプーチン大統領の関係に比べても、保守同士かつ双方が安定政権であるということもあり、波長が合う部分が大きいように思われます。
 また安倍晋三首相の父親である安倍晋太郎*13は、ゴルバチョフ来日を実現させた人物であり、祖父にあたる岸信介*14は、1956年の日ソ共同宣言を締結した鳩山一郎政権において、自民党幹事長を務めていました。ロシアからすれば、安倍ファミリーは、鳩山ファミリーとならんで、非常に大きな対日アクセス・ポイントなのです。両国で現在の政権が続いているこの期間に、日ロ関係が強化されることは大いに考えられます。


特集「異次元緩和マネーの行き着く先」
■「対外M&Aの増大とメガバンクの展開」(中野瑞彦)
(内容紹介)
 異次元緩和で市場に供給された大量の資金が「外国企業買収(対外M&A)」や「メガバンクの海外進出」に利用されていることを指摘。
 「政策の建前上の目的(国内景気を刺激することによる日本経済の回復)」と「実態(対外M&Aやメガバンクの海外進出)」にズレがあることが批判される。
 政府が「対外M&Aやメガバンクの海外進出」を支援したいのでなければ異次元緩和をする意味がないし、また「対外M&Aやメガバンクの海外進出」は「異次元緩和で推進すること」が「当然の善」と評価できる物でもないと批判される。
 

■「マイナス金利政策と不動産市場の過熱」(豊福裕二*15
(内容紹介)
 マイナス金利政策を契機に不動産価格が上昇しているが買い手の多くは中国マネーであることが指摘される。
 日銀が無理矢理作り出した不動産バブルに中国マネーが投資している形だが、今後の中国景気の動向によっては、不動産価格の反動下落が危惧される。今のようなマイナス金利政策はリスキーであり早急な政策転換が望まれる。

参考
■産経『【田村秀男のお金は知っている】マイナス金利の受益者は中国人 東京などで不動産買い加速「日本のサラリーマンでは考えられない頭金」』
http://www.sankei.com/premium/news/161008/prm1610080006-n1.html
 田村と豊福氏では立場や考えが違いますが「マイナス金利で一番メリットを得てるのはチャイナマネーではないのか」という事実認識は一致するようです。

*1:どう見てもそうは思えないが

*2:というのはケニアにおいてはコメは主食扱いではないため

*3:著書『地域づくりの経済学入門』(2005年、自治体研究社)、『一人ひとりが輝く地域再生』(2009年、自治体研究社)、『増補版・道州制で日本の未来はひらけるか』(2010年、自治体研究社)、『「自治体消滅」論を超えて』(2014年、自治体研究社)など

*4:著書『「場所」と「場」のまちづくりを歩く』(2004年、麗澤大学出版会)、『場のまちづくりの理論:現代都市計画批判』(2012年、日本経済評論社)など

*5:著書『第三セクター改革と自治財政再建』(2008年、自治体研究社)、『地域と雇用をつくる産業連関分析入門』(2012年、自治体研究社)

*6:著書『ドキュメント請負労働180日』(2011年、岩波書店

*7:エリツィン政権大統領府第一副長官、連邦保安庁長官、第一副首相、首相を経て大統領

*8:著書『ロシア極東と日ロ経済』(2001年、東洋書店ユーラシア・ブックレット) 、『日ロ平和条約締結の活路:北方領土の解決策』(2015年、ロゴスブックレット)

*9:著書『ソ連=党が所有した国家:1917〜1991』(2002年、講談社選書メチエ)、『モスクワと金日成:冷戦の中の北朝鮮・1945〜1961』(2006年、岩波書店)、『宗教・地政学から読むロシア:「第三のローマ」をめざすプーチン』(2016年、日本経済新聞出版社)など

*10:2014年のこと

*11:2015年のこと

*12:2016年のこと。ただしメドベジェフ大統領(当時。現首相)による2008年の憲法改正で2012年以降は大統領任期が「4年から6年に延長」されてるので実は「2018年」が正しい。下斗米氏が「任期延長のことを忘れて」勘違いしていると見られる。今後、プーチンが再選されれば「2018+6=2024年」までの任期だし、連続三選禁止規定が廃止されれば(あるいは廃止されなくてもまた前回のようなワンポイントリリーフ作戦を実行し成功すれば)、2024年以降もプーチン大統領があり得る。いずれにせよ2000年に大統領に就任しているので現時点でもプーチンは「メドベージェフ大統領、プーチン首相(与党統一ロシア党首兼務)時代も含めて」約16年の長期政権である(再選で2024年まで務めれば24年の長期政権)。

*13:三木内閣農林相、福田内閣官房長官自民党政調会長(大平総裁時代)、鈴木内閣通産相、中曽根内閣外相、自民党総務会長(中曽根総裁時代)、幹事長(竹下総裁時代)を歴任

*14:自民党幹事長、石橋内閣外相を経て首相

*15:著書『資本主義の現在』(編著、2015年、文理閣