今日の産経&人民日報ニュース(12/12分)(追記・修正あり)

■人民日報『南京大虐殺犠牲者国家追悼式 兪正声*1全国政協主席がスピーチ』
http://j.people.com.cn/n3/2017/1213/c94474-9304143.html

「今年で80年もの月日が流れ、南京大虐殺の凄惨な歴史は国連教育科学文化機関(ユネスコ)によって世界記憶遺産に登録され、人類が永遠に忘れることのない記憶となった」。
「日本の侵略者が行った殺戮行為に対して、我々の同胞たちは互いに警戒し、助け合い、苦楽を共にして協力しただけでなく、多くの海外の友人たちが自らの危険を顧みず援助の手を差しのべ、様々な方法で無辜の民衆を保護し、日本の侵略者たちの残虐行為を記録した。ドイツのジョン・ラーベ*2デンマークのベルンハルト・シンドバーグ*3、米国のジョン・マギー*4らがそうした人々だ。中国の人々は、彼らの何事をも恐れぬ精神と人道的な義挙を永遠に銘記するだろう」。
南京大虐殺やマニラ大虐殺だけでなく、バターン死の行進や『死の鉄道』とされた泰緬鉄道についても、中国の人々や世界各国の人々が忘れることはない。」

 中国が「南京事件単独で物事を考えてないこと(バターン死の行進などへの言及)」や「ユネスコ世界記憶遺産などに触れることで南京事件の国際的評価(南京事件実在論こそが当然ながら国際社会のコモンセンス)を強くアピールしてること」がよくわかります。


■人民日報『「南京大虐殺」は抗日戦争時すでに国内外の認める戦時暴挙だった』
http://j.people.com.cn/n3/2017/1212/c94474-9303500.html

 「南京大虐殺史と国際平和研究院」の胡卓然副研究員の最新の研究は、外国メディアもこの史実を十分に認識していたことを明らかにした。 
 1943年5月18日付「中央日報」は「ノックスが枢軸国に警告:米国は南京大虐殺を忘れない」と題する記事を掲載した。注目に値するのは、この記事が当時の中国「中央通信社」が米「ユナイテッド・プレス」の1943年5月16日ボストン発の報道を転載したものであることだ。記事はノックス米海軍長官(当時)が日独伊枢軸国に対し「われわれは南京の殺戮を決して忘れない。ユダヤ人の大量殺戮もまた忘れない。憎むべき行為に携わった者には、いずれも詳細な記録がある……血腥い犯罪行為に携わった首領には厳罰を与える」と警告したと報じた。
 「このことから、米政府の重要な高官が早くも1943年には南京で起きた大虐殺について国際反ファシズム陣営の共通の憤りを表明しただけでなく、ユダヤ人の大虐殺と同列に並べたことが分かる」。
 胡氏によると、ノックスは海軍長官就任前は「シカゴ・デイリー・ニュース」の発行者だった。同紙は1937年12月15日――つまり南京大虐殺発生後間もなく――南京駐在の記者による南京大虐殺の記事を掲載した。これは日本軍の暴挙を世界に向けて暴いた初の公の報道でもある。
 こうした史料について専門家は、南京大虐殺は発生後すぐに国内外の一致して認める日本侵略者による重大な暴挙とされており、日本軍が南京で犯した犯罪行為についてしらを切ることは許されないと考える。

 まあ南京事件の存在を知らなかったのは「政府の検閲があった日本国内の日本人」だけで世界的にはリアルタイムで日本軍の蛮行が報じられていたわけです。


【ここから産経です】
■産経『日中議連会長に林芳正*5文部科学相を選出』
http://www.sankei.com/politics/news/171212/plt1712120045-n1.html
 安倍政権の文科相をよりによって日中議連会長にするとは「バカなの?」「中国にけんか売ってるの?」ですね。


■産経【歴史戦・第19部 結託する反日(上)】「南京」の嘘、カナダで拡散 慰安婦像の増殖が止まらない 女性議員、大虐殺信じ「ネバー・アゲイン」
http://www.sankei.com/premium/news/171212/prm1712120008-n1.html
 以前も指摘しましたが産経も『蒋介石*6秘録』(1970年代)では『南京事件に衝撃を受ける蒋介石の日記』を紹介するなどして細部の認識はともかく南京事件の存在「それ自体」を認めています。 
 「敵(毛沢東)の敵は味方」「蒋介石は日本ウヨの友達サー」時代は産経も蒋介石に配慮して「南京事件は捏造だ」なんていわなかったわけです。何せ南京事件東京裁判で裁かれて松井石根南京事件当時、中支那方面軍司令官)が死刑になったのは蒋介石政権時代ですから。蒋介石と付き合いがあるのに彼を嘘つき呼ばわりはできないでしょう。
 今では国民党の中国共産党への接近を理由に「二・二八事件蒋介石を非難する」「その反動で蒋介石政権時代は無視していた民主進歩党を高く持ち上げる」まで掌返ししてますが(苦笑)。まあそもそも戦前は「蒋介石を相手とせず」(近衛声明)ですからねえ。
 蒋介石と日本ウヨの「戦後の友好関係」は所詮「党利党略」にすぎなかったわけです。
 それはともかく、当然ながら南京事件が嘘だというなら『蒋介石秘録の南京事件記述は嘘だ、産経は嘘つきだ』ということになります(もちろん『蒋介石秘録の記述』が細部はともかく「南京事件の実在」という意味では正しくて、産経の今の否定論がデマですが)。
 こうした指摘は既に笠原十九司*7本多勝一*8などによって何度もされています。
 ネット上にも
■模型とかキャラ弁とか歴史とか 『南京事件犠牲者数40万人説は蒋介石秘録(産経新聞社)にも載っている昔からある話』
http://d.hatena.ne.jp/D_Amon/20120223/p1
■誰かの妄想・はてなブログ版『「蒋介石秘録」に見る南京大虐殺
http://scopedog.hatenablog.com/entry/20120226/1330258512
などの指摘があります。
 しかしこうした指摘を平然と無視し「南京事件は中国の捏造だ」というのだから産経の恥知らずぶりも相当のもんです。

「80年前、旧日本軍はおよそ2万〜8万人の中国人女性や少女をレイプし、30万人余りが殺害された。当時南京にいた欧米人の目撃者*9はこの世の地獄のような虐殺だったと証言している」
 11月30日のカナダ連邦議会下院。西部ブリティッシュコロンビア州選出で香港出身の女性議員、ジェニー・クワンの熱のこもった発言に議場から拍手が起きた。

 この数字が正確かどうかは俺は無知なので知りません。もちろん数字は正確な方がいいですが、演説場所は学会ではなく、演説者も学者ではありません。こういうケースで数に「異常にこだわる」のは産経くらいのもんでしょう。
 ここでの問題はあくまでも「南京事件では相当の規模の虐殺とレイプがあった」という話です。
 そういう意味ではこの演説には何の問題も無い。
 大体産経は正確な数が知りたいわけではない。数を口実に南京事件否定論を放言したいだけです。なお、笠原氏、本多氏も指摘していますが、「日本軍が南京を長期にわたって支配したため事件直後の客観的調査などできなかった」「また都合の悪い書類は終戦直前に日本軍がガンガン廃棄処分した」という事情がある以上もはや「正確な数の算出」には限界があります。どんなに頑張ってももはや推計値しか出ません。

 中国系住民が170万人を超える移民大国のカナダで「反日運動」が近年に例を見ないほど盛り上がっている。

 戦前日本の戦争犯罪を追及することは別に「反日」ではありません。それが反日ならホロコースト追及は「反ドイツ」になるでしょう。
 なお、これらの移民のかなりの部分はおそらく「国共内戦時にカナダに移住」「香港返還時にカナダに移住」、つまりは中国共産党とは距離を置いてる人々でしょう。
 産経のいう「南京事件が騒がれるのは中国共産党のせい」は全くのデマの訳です。

 米西部カリフォルニア州に本部を置く反日団体「世界抗日戦争史実維護連合会」(抗日連合会)

 「世界抗日戦争=日中戦争」で一つの単語なので産経のように「抗日連合会」と略するのは変です。そもそもこの会の目的は「史実維護」、つまり歴史修正主義批判であって「抗日」ではありません。

南京大虐殺」の嘘を世界に拡散した『ザ・レイプ・オブ・南京』の著者で中国系米国人ジャーナリスト、故アイリス・チャン*10

 産経がいうほどアイリス・チャンって影響力あるんですかねえ。まあそれはともかく、産経のいってることは

ユン・チアンの『マオ』*11張作霖暗殺コミンテルン陰謀論のデマ本*12だから毛沢東*13には何の問題も無い

レベルの詭弁です。ユン・チアン以外にも毛沢東評伝*14があるように、アイリス・チャン以外にも南京事件研究書*15はあるわけです。

 ウォンは70年代後半、ベトナム難民の受け入れに尽力。現在は複数の老人ホームを運営する「慈善家」としての顔を持ち、地元トロント*16では尊敬を集める。だが、日本への“追及”は容赦ない。

 意味がわからないですね。慈善家ならむしろ戦争犯罪の追及は自然です。

ホロコーストユダヤ人大量虐殺)に対するユダヤ人の努力に感銘を受けて中国人は今まで何をしてきたんだと突き動かされた」
 ウォンは周囲にALPHA設立の理由をこう語っているという。

 ユダヤ人と単純比較はできないとはいえ、その気持ちはわかる気がします。

【追記】
■【浪速風】朝日新聞が「南京大虐殺」広めた…「虚構」が「史実」に(12月14日)
http://www.sankei.com/west/news/171214/wst1712140058-n1.html
 上でも指摘しましたが蒋介石秘録では産経も南京事件の存在を認めていたのによくもまあこんな出任せが言えるもんです。
 大体、南京事件については東京裁判松井石根が死刑になったことで既に法的な決着はついています。
 もちろん松井が死刑になったのは産経らウヨが悪口する本多勝一「中国の旅」「南京への道」の出版よりずっと前のことです。本多氏のしたことは「既に決着のついていたこと(しかし日本人が忘れ去りたがっていたこと)を改めてアピールした」にすぎません。
 大体ユネスコ世界記憶遺産(南京事件資料)が「デマ」だなんてよくもまあでたらめなことが抜かせるもんです。

南京での犠牲者は時とともに増え、中国は「30万人が虐殺された」とする。

 30万人とする説は南京事件当時からあったので何ら「増えてはいません」し、そもそも蒋介石秘録においては産経も「死者は30万人とも言われる」と書き、「30万人説に一定の信用性を認めていた」のにこれです。
 「30万人なんてあり得ない」と産経が言うなら「30万人の死者が出たとも言われる」と産経が書いた蒋介石秘録の記述を公式に撤回し、謝罪すべきでしょう。

*1:青島市長・党委員会書記、建設大臣湖北省党委員会書記などを経て全国政協(中国人民政治協商会議全国委員会)主席(前党中央政治局常務委員)

*2:シーメンス社の中国駐在員(のち中国支社総責任者)として約30年に渡って中国に滞在し、日中戦争の南京攻略戦時には民間人の保護活動に尽力した。ナチス党南京支部支部長。南京安全区国際委員会委員長。ヒトラーに上申書を提出し、日本軍による非人道的行為を止めさせるよう働きかけることを提言した。しかし、政府からはまったく相手にされないどころか、直後にゲシュタポによって逮捕勾留される。シーメンス社の介入によってすぐに釈放されたが、写真の類を没収されるとともに、以後公での発言を禁止された。1950年に脳卒中のため死去。ラーベのドイツでの知名度は低かったが、ヨハネス・ラウ大統領(1999〜2004年在任)は中国訪問の際に記念碑を訪れてその功績を顕彰した(ウィキペ「ジョン・ラーベ」参照)。

*3:南京大虐殺紀念館は、シンドバーグの写真や書簡は、日本による南京大虐殺を告発する重要な記録・証拠であるとし、展示しており、訪中したデンマーク女王も閲覧した(ウィキペ「ベルンハルト・シンドバーグ」参照)。

*4:日本軍による南京事件(南京虐殺)についての証言を東京裁判で行った。また事件の記録映像(マギーフィルム)は中国政府がユネスコ世界記憶遺産へ申請し、2015年登録された。(ウィキペ「ジョン・マギー」参照)

*5:福田内閣防衛相、麻生内閣経済財政担当相、第2次、第3次安倍内閣農水相、第4次安倍内閣文科相など歴任

*6:中国国民政府主席(後に台湾総統)、中国国民党総裁

*7:著書『アジアの中の日本軍』(1994年、大月書店)、『日中全面戦争と海軍:パナイ号事件の真相』(1997年、青木書店)、『南京事件』(1997年、岩波新書)、『南京事件三光作戦』(1999年、大月書店)、『南京事件と日本人』(2002年、柏書房)、『南京難民区の百日:虐殺を見た外国人』(2005年、岩波現代文庫)、『南京事件論争史』(2007年、平凡社新書)、『「百人斬り競争」と南京事件』(2008年、大月書店)、『日本軍の治安戦:日中戦争の実相』(2010年、岩波書店)、『海軍の日中戦争:アジア太平洋戦争への自滅のシナリオ』(2015年、平凡社)、『日中戦争全史(上)(下)』(2017年、高文研)など

*8:著書『ニューギニア高地人』、『戦場の村』、『アメリカ合州国』、『中国の旅』(1981年、朝日文庫)、『殺される側の論理』(1982年、朝日文庫)、『ルポルタージュの方法』(1983年、朝日文庫)、『アラビア遊牧民』、『殺す側の論理』、『事実とは何か』、『職業としてのジャーナリスト』(1984年、朝日文庫)、『憧憬のヒマラヤ』、『冒険と日本人』(1986年、朝日文庫)、『検証・カンボジア大虐殺』、『子供たちの復讐』(1989年、朝日文庫)、『NHK受信料拒否の論理』(1991年、朝日文庫)、『マゼランが来た』、『日本環境報告』(1992年、朝日文庫)、『新版・山を考える』、『先住民族アイヌの現在』 (1993年、朝日文庫)、『実戦・日本語の作文技術』(1994年、朝日文庫)、『滅びゆくジャーナリズム』(1996年、朝日文庫)、『きたぐにの動物たち』(1998年、朝日文庫)、『マスコミかジャーナリズムか』(1999年、朝日文庫)など

*9:マギーフィルムのマギー、スマイス調査のスマイス、ラーベ日記のラーベなど

*10:チャンの本は読んだことがないので評価できませんが、笠原十九司氏、本多勝一氏などが批判していたと記憶してるのでやはり何らかの問題はあるのでしょう。

*11:2005年、講談社

*12:もちろんこうしたデマをかっ飛ばしたことによって『マオ』はまともな本とは評価されていません。「マオ以外の本に記述があるものはマオ以外から引っ張ればいい、マオにしか記述がないものは危なくて使えない」つう評価です。

*13:中国共産党主席

*14:ググって見つけた物では例えばスチュアート・R・シュラム『毛沢東の思想』(1989年、蒼蒼社)、ジョナサン・スペンス『毛沢東』(2002年、岩波書店)、フィリップ・ショート『毛沢東(上)(下)』(2010年、白水社)。

*15:例えば、藤原彰南京大虐殺』(1988年、岩波ブックレット)、笠原十九司南京事件』(1997年、岩波新書)、秦『南京事件:「虐殺」の構造(増補)』(2007年、中公新書)、清水潔『「南京事件」を調査せよ』(2017年、文春文庫) (あの南京事件否定論本『「南京事件」の探究』(北村稔、2001年、文春新書)を出した文春ですが清水本はまともな本のようです)。

*16:オンタリオ州の州都