新刊紹介:「経済」2022年1月号

「経済」1月号について、俺の説明できる範囲で簡単に紹介します。
世界と日本
◆COP26 が開かれる(早川光俊)
(内容紹介)
 架空問答形式で書いてみます。
◆俺
 cop26は成功だったといえるのでしょうか?
◆早川氏
 「合意が一応成立した」「合意不成立という最悪の事態は回避した」という意味では「成功」ですが、一方で手放しで評価できないのも否定できません。

WEB特集 議長の涙のワケは COP26交渉の舞台裏 | COP26 | NHKニュース2021.11.13
 インドのヤーダブ環境相が「残念ながらコンセンサスは得られなかった」と発言。反発の対象は、「(ボーガス注:石炭火力発電)廃止」という文言だった。
 全会一致を原則とするCOP。
 このまま合意できなければ、「1.5度」を含めた成果文書全体が破棄されてしまう。
 南アフリカなど、インドの主張に同調する国も出て、議場は混乱。
 その後、ようやく再開された会議で、インドは「段階的な廃止」を「段階的な削減」と変更することを提案。
 終始「石炭」にこだわってきたシャルマ議長は、最終盤で表現をさらに弱めざるを得なかったことを受け「このような展開になってしまったことをおわびします。しかし、文書全体の合意を守ることが何よりも大事なことです」と述べた。
 シャルマ議長の目には涙が浮かんでいた。
 シャルマ議長は、合意のあと「各国が互いの違いを乗り越えて共通の課題に立ち向かうために団結できることを世界に示した」と意義を強調。
 しかし、一部の交渉関係者からは「シャルマ議長は『石炭の段階的な廃止』を死守できると賭けに出たが失敗した」といった声も聞かれた。
 一方、アメリカと中国の動きは何だったのか。
 複数の交渉関係者とパイプをもつ、シェフィールド大学のマイケル・ジェイコブス教授は、「石炭」に関するインドの反発の影で、中国が動いていたと推測。
 その理由として、インドの発言の直前の中国代表のスピーチを挙げた。
 このとき中国の代表は、「いくつかの表現は、中国とアメリカの共同宣言に従ったものにしてもらえると良い」と述べていた。
 共同宣言とは、COP26の会期中に、中国とアメリカが、突然発表し、世界を驚かせたもの。
 ここに「中国は5か年計画にそって石炭の消費を段階的に削減し、その加速のために努力する」と石炭に触れた部分がある。
 教授は、「両国はこの部分について非常に激しく交渉したのだろう。そして、COPの成果文書でも同じ言葉を使うことを望んだのでは」と分析した。
 長年アメリカ政府に気候変動政策を提言してきたオールデン・メイヤー氏は、COPの会期中にバイデン政権の看板政策となる法案を巡って、アメリカ国内で調整が行われていた事情に着目。
「法案には電力部門の脱炭素施策が盛り込まれているが、石炭産地から選出された議員との交渉も続いていて、石炭に関して踏み込みたくなかったのではないか」と話す。
 利害が一致したアメリカと中国。
 唐突とも思われたインドの提案どおりに合意が成立した裏には、2つの大国の思惑も見え隠れした。

という記事でも「この合意に限界があったこと」は明白です。議長が「涙を流し言葉を詰まらせながら謝罪する」など異例の事態です。
 またグレタさんなど一部の環境活動家も「期待外れだ」と酷評しています(私個人はそこまで酷評するのは極論だと思いますが)。
◆俺
 「インドの無法な態度(『中国と米国』がインドとぐるだったのかどうかは不明なのでひとまずおきます)=枝野立民や泉立民の共産党に対するふざけた態度」「それでも合意維持に動いたシャルマ議長=それでも野党共闘を維持した志位共産」を連想して俺も涙が出てきました。
 しかしWEB特集 議長の涙のワケは COP26交渉の舞台裏 | COP26 | NHKニュースが疑う「石炭火力廃止阻止のために、三大国『インド、米国、中国』が裏で手を握っていた(三大国がグルという事態にシャルマ議長も彼らの思惑に屈せざるを得なかった)」と言う憶測が事実ならば、「彼らの態度が非難に値する」のは勿論ですが、反中国ウヨ(産経や黒井文太郎など)が言いたがる「民主主義陣営の米国やインド」VS「独裁の中国」という描き方は明らかに不適切ですね。話はそれほど単純な勧善懲悪ではない。
◆早川氏
 なお、石炭火力廃止については「岸田政権も後ろ向き」で今回の顛末を「内心では喜んでる」とも言われますので日本人としては「インド、米国、中国」ばかりを非難できません。


◆テロが続くアフガニスタン(豊田栄光)
(内容紹介)
 架空問答形式で書いてみます。
◆俺
 アフガンでISによると見られるテロが多発してるそうですが?
◆豊田氏
 タリバンは「アフガン政権」を奪取した後は、米国と関係を良好なものとするため、アフガン国内のイスラム過激派勢力(IS、アルカイダなど)を厳しく取り締まろうとしていると言われます。そのことがこうしたテロの背景にはあると思われます。タリバンの問題点を軽視するわけにもいきませんが、一方でタリバンの協力なしでは現実的に「アフガン国内での過激派勢力」は取り締まれません。


◆韓国・非正規 800 万人時代(洪相鉉)
(内容紹介)
 文在寅政権が政権発足当初「非正規を減らす」と公約したことに反し、非正規はむしろ増えてついに800万人を超えた。
 文政権の無為無策は厳しく批判されざるを得ない。


◆鉄鋼業 V 字回復へ(大場陽次)
(内容紹介)
 架空問答形式で書いてみます。
◆俺
 長年、斜陽産業扱いされてきた鉄鋼業がV字回復だそうですが?
◆大場氏
 これについて業界では「神風が吹いた」と言われています。コロナの影響で鉄鋼需要が下降気味だったところ、ワクチンの接種などで「米国、中国需要が回復してきた」。その結果「自動車、船舶、建材などに使われる鉄鋼需要も回復してきた」。
 日本鉄鋼業の「廃炉などのリストラの成果」といった「自主努力の要素」がないわけではありませんが多分に「神風(外的な要因)」と言う面が否定できません。これは裏返せば今後「新型株によるコロナ再拡大→鉄鋼需要減」となれば「赤字経営に逆戻りしかねない」という話でもあります。鉄鋼メーカーはその面ではどこもこの「V字回復」を手放しでは喜んでいません。


SBIの新生銀TOB田中均
(内容紹介)
 架空問答形式で書いてみます。
◆俺
 「SBIの新生銀TOB」についてのお考えをお聞かせ下さい。
◆田中氏
 私としては
1)新生銀行には公的資金が投下されておりまだ未返済。国は「SBIが子会社化しても返済義務は残る」「むしろ経営体力が強化され返済に資するのではないか」と歓迎しているが果たしてそううまくいくのか
2)SBIのような形で「既存の銀行を子会社化すれば」免許申請を受けずに銀行設置したことと同じようなことになるがそれでいいのか(銀行免許制の形骸化ではないか)
3)SBIは「第四のメガバンクを目指す」としているが、これは新生銀行が従来目的としていたはずの「地域の中小企業支援」に逆行しないか
を危惧しています。


特集「パンデミックと激動の世界」
◆2022年の世界経済展望:バイデン政権下のアメリカ経済のゆくえ(萩原伸次郎*1
(内容紹介)
 架空問答形式で書いてみます。
◆俺
 アメリカ経済の現状についてのお考えをお聞かせ下さい。
◆萩原氏
 アメリカ経済の抱える大きな問題は「急激なインフレ(物価上昇)」です。
 この要因としては
1)『コロナ禍不況に対応したバイデン政権の積極財政』や『ワクチン接種などによるコロナ禍の終息傾向』→景気回復
2)産油国の減産による石油価格の上昇
でしょう。物価上昇は「米国民の生活を苦しくしており」、バイデン政権支持率を引き下げています。バイデン政権が物価上昇にどう対応するかは、「米国や世界の経済」はもちろん、「バイデン政権の今後(共和党中間選挙勝利による政権レイムダックの危険)」にも大きく影響します。


◆コロナ禍とアフリカの苦闘(福田邦夫*2
(内容紹介)
 コロナワクチン接種はアフリカで進んでおらず感染状況は深刻な状況にある。またコロナ禍はアフリカ諸国の「深刻な債務危機」「格差拡大」を助長している。


◆「アラブの春」から10年の中東:チュニジアの実態から(山中達也*3
(内容紹介)
 チュニジアの深刻な政治危機が説明されている。筆者は
1)「ベン・アリ政権打倒」が「軍部もアリを見捨てたため」に打倒自体はスムーズに行ったが、その結果、軍の影響で民主化がスムーズに進まなかった
2)また、経済が深刻化するにつれ「ベン・アリ時代の方がましだった」という世論が高まる一方、「民主化を掲げてアリを打倒したはずのサイード大統領」が反発を抑え込むため皮肉にも「独裁色を強めている」
3)ただし、「ベン・アリ打倒」に動いた勢力が一様にサイード批判しているかと言えばそうではなく「これ以上混乱が続くくらいなら独裁でも安定の方がいいという安定志向」「ベン・アリを打倒してもこれだった、どうせサイードを打倒しても状況は変わらないという諦観」など「理由はともかく」サイード支持者(消極的支持含む)も多い
としている。
参考

アラブの春は「悲劇の秋」だったのか 「革命前の方が良かった」悩むチュニジア | 毎日新聞【シディブジド(チュニジア中部)で真野森作】2020.12.19
 「この町はずっと罰を受けている。革命を最初に始めたからだ」。
 チュニジア中部シディブジド市。屋外市場で青果を商うムハンマド・ジェブリさん(46)は販売台にオレンジを並べながらそう話した。
 「革命前の社会は抑圧されていたが、生活は安定していた。今は悲惨だ。次は生きる糧を求めて新たな革命が起きるだろう」
 2010年12月17日、友人の青果商ムハンマド・ブアジジさん(当時26歳)が同市中心部で焼身自殺した。
 この悲劇を機に、もともと高圧的だった当局への抗議活動が始まった。情報が統制される中、フェイスブックなどのインターネット交流サービス(SNS)を通じてデモの動画は拡散。これが中東民主化要求運動「アラブの春」の始まりだった。翌11年1月、ベンアリ大統領(当時)はサウジアラビアへ逃亡し、23年続いた独裁政権は倒れた。
 シディブジドでは12月17日を革命の記念日として、毎年式典を開催。今年もブアジジさんが自殺を図った現場近くの広場でコンサートが開かれた。近くにはブアジジさんの巨大壁画が描かれたビルもある。
 だが混乱の影響で経済は悪化。世界銀行によると、10年に4000ドル(約41万円)を超えていたチュニジアの1人あたり国内総生産GDP)は18年に3500ドルに落ち込んだ。無職女性のカウラさん(24)は「彼は私たちに何一つ良いことをもたらさず、無駄に命を絶った」と突き放し、こう話した。
 「私は革命前の方が良かった」
 革命の幻想からは既に覚めている。当時デモの情報発信に奔走した一人で運転手のアブドゥーリさん(35)は「式典のイベントに金を使うくらいなら、貧困層に食料を配ってほしい」と話す。
 「春」は幻だったのか。10年後のアラブの今を報告する。

「アラブの春」発火点のチュニジアで混乱拡大 - 産経ニュース2021.9.27
 「アラブの春」と呼ばれる2011年の反政府デモで独裁政権を打倒し、民主化の成功例とされた北アフリカチュニジアの首都チュニスで26日、サイード大統領に抗議する数千人規模のデモが行われるなど、同国の政治危機が拡大している。2カ月前に首相を解任して国会の機能を停止したサイード氏が最近、自らへの権力集中を強化する意向を示したことが発端だ。
 サイード氏は22日、大統領令によって国を統治するとし、憲法改正を目指して委員会を設置する方針を表明した。現行の憲法は同氏の施策に矛盾しない範囲に限り有効だと述べた。
 国会で最大多数を占めるイスラム主義政党「アンナハダ」は、サイード氏の行動を「独裁統治に向かう明確な兆候だ」として批判したものの、25日には同党指導部に対する不満から元閣僚や国会議員を含む百人以上が離党を表明するなど混乱が広がっている。


バングラデシュの繊維・縫製産業:持続可能な*4アパレル・サプライチェーンを考察する(深澤光樹*5
(内容紹介)
 ネット上の記事紹介で代替。
激安ファッションの犠牲者 バングラデシュの悲劇とユニクロ「年収100万円」(木村正人) - 個人 - Yahoo!ニュース2013.5.2
月収3900円…世界のファストファッション工場、バングラデシュの苦境(梶井 照陰) | 現代ビジネス | 講談社(1/5)2019.8.3
バングラデシュの縫製業打撃 コロナの影響|日テレNEWS242020.9.16


◆コロナ危機と東南アジア経済(井出文紀*6
(内容紹介)
 コロナワクチン接種は東南アジアで進んでおらず感染状況は深刻な状況にある。またコロナ禍はアフリカ諸国の「深刻な債務危機」「格差拡大」を助長している。特に「東南アジア(フィリピンなど)」の特徴として「海外への出稼ぎ労働者の送金」が経済を支えているという問題がある。コロナの影響で海外渡航が困難なため、「出稼ぎ労働者による送金は激減」。これが東南アジア経済にダメージを与えている。
 「東南アジアから海外への出稼ぎ」は日本も「無関係のこと」ではない。日本は「技能実習生名目」で大量の労働者を受け入れており、そうした実習生が「農業、建設業、介護」など「日本人が就業したがらない3K職場」を支えているという現実があるからである。
 「技能実習生」でググる

◆巣内尚子『奴隷労働:ベトナム人技能実習生の実態』(2019年、花伝社)
◆澤田晃宏『ルポ 技能実習生』(2020年、ちくま新書)

等の著書がヒットし、この問題が近年注目されていることも分かる。
 なお、「タイでのコロナ蔓延によってコンビニの鶏肉商品が品薄」というニュースが最近報じられたがこれも「コロナが東南アジアと日本経済に与えた影響」の一つである。
参考

コンビニでチキン製品販売を減量調整 タイ工場コロナ禍で品薄2021.11.16
 コンビニエンスストアで、鶏肉加工製品が品薄となっている。
 ファミリーマートによると、タイで製造している「ファミチキ」の販売数を、先週から調整しているという。
 新型コロナウイルスの感染拡大で、タイの工場の人手不足や、原材料の不足が続いているためとしている。
 また、セブン・イレブンも、一部のエリアで「からあげ棒」などの販売数に影響が出ていて、在庫調整をしながら対応しているという。

新型コロナ 留学生また足止め 入国禁止、緩和つかの間 | 毎日新聞2021.11.30
 新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」の感染拡大を受け、政府は29日、全世界からの外国人入国を原則禁止すると発表した。外国人の入国は今月、ビジネス目的の短期滞在者や技能実習生、留学生の制限がようやく緩和されたところだったが、喜びもつかの間。貴重な働き手や学生、生徒の入国を待ちわびていた受け入れ側の落胆は大きい。


◆「食」から問うグローバル資本主義(平賀緑*7
(内容紹介)
 ネット上の記事紹介で代替。

食べものから学ぶ世界史 人も自然も壊さない経済とは? 平賀緑著:東京新聞 TOKYO Web
 資本主義は自ら商品を生産するだけでなく、それまであったさまざまなものを商品に変えていく。食べ物もそのひとつである。必要なものを自分たちでつくっていた食べ物が、農家は作物という商品を生産し、消費者はその商品を購入するかたちに変わった。そして商品の生産と流通が浸透すれば、この過程を支配し、利益を上げようとする企業が暗躍するようになる。気づかないうちに、私たちは資本主義のメカニズムのなかにのみ込まれていく。
 もっとも著者が「おわりに」で述べているように、消費者からも農民からも、この資本主義の展開に抗する動きもでている。生活のなかに農的なものを取り入れたり、農民と消費者を新しいかたちでつなごうとする試みは、いまでは世界のいたるところで発生している。資本主義の時代とは、資本主義に抵抗する人たちの時代でもあったのである。


◆新国際課税ルールの特徴と課題:巨大多国籍企業と「底辺への競争」への対応(河音琢郎*8
(内容紹介)
 ネット上の記事紹介で代替。
日本など136の国と地域が合意 国際課税の新ルールとは | NHK2021.10.13
赤旗主張/国際課税の合意/大企業の税逃れ防ぐ改革前へ2021.11.1


特集「誰一人取り残さない教育を(下)」
◆学校統廃合と新自由主義的改革(山本由美*9
(内容紹介)
 学校統廃合を中心に新自由主義的教育改革が批判されている。
参考
赤旗
主張/学校統廃合/一方的な推進許さない運動を2008.3.28
吉良氏に文科相「可能」答弁/学校統廃合後の分離新設2019.3.24


◆少人数学級の実現と正規教員の増員を(宮下直樹*10
(内容紹介)
 赤旗の記事紹介で代替。
主張/中教審・働き方答申/教職員の増に踏み込むべきだ2019.1.27
主張/少人数学級/中学高校含め本格的な実施を2020.12.18


◆非常勤講師に光を! 各政党に要請:JAICOWS(女性科学研究者の環境改善に関する懇談会)が記者会見
(内容紹介)
 赤旗の記事紹介で代替。

非常勤講師の地位改善/女性研究者ら 各党回答を公表/共産 国が環境づくりを/自公 大学に責任を転嫁2021.10.28
 羽場久美子*11青山学院大学名誉教授は「コロナ禍で非正規雇用労働者が収入を失った。大学の非常勤講師もひどい状況に陥った」と指摘。「このままでは、教育研究が崩壊する。総選挙で、状況を改善する政党を伸ばしてほしい*12」と述べました。
 要望書は、非常勤講師の賃金改善、研究環境改善、研究員としての肩書付与▽コロナ禍のオンライン化負担への支援▽女性差別パワハラ・セクハラの外部中立機関による不服申し立て制度確立▽奨学金返済への配慮▽保育所入所への配慮、育児・介護休業制度の適用▽コロナ禍のひとり親と子どもの支援―などを求めました。


◆米中対立先鋭化と「経済安全保障」論(金子豊弘)
(内容紹介)
 岸田政権の主張する「経済安全保障」論は一般論としては間違いではない。ただし個別具体論としては1)「米国による中国封じ込め」に加担し、日中関係を悪化させる疑いが強い(例えば今年、反中国右翼の運動をバックに制定された、土地規制法は経済安保の一例として宣伝されている)、2)「経済安全保障の強化」を口実に軍拡や公安分門の権限拡大が行われる恐れがあるなどの問題がある(例えば早速、公安調査庁経済安全保障リーフレット | 公安調査庁を作成しているし、防衛省や警察にも経済安保を口実とした権限強化の動きが見られる)。

参考

警察が経済安保コンサル 技術窃取の手口、対策伝授: 日本経済新聞2021.10.9
 先端技術の海外流出を防ぐため、警察庁都道府県警が、民間企業や大学向けの対策説明会や意見交換といった「経済安全保障コンサルティング」に取り組む方針を固めたことが9日、同庁への取材で分かった。捜査で蓄積した技術窃取の手口など最新情報を伝え相談も受ける方針で、年内にもスタートする。

<独自>防衛省、経済安保の情報収集態勢強化へ - 産経ニュース2021.11.13
 防衛省が経済安全保障に関する情報収集態勢を強化するため、来年度から専従職員を新たに置くことが13日、分かった。

経済安保、警察の対策本格化 初の戦略会議 - 産経ニュース2021.12.1
 警察の経済安全保障対策が本格化している。警視庁は具体的なスパイの手口などを企業に対して解説したり、個別相談に応じたりするアウトリーチ(訪問支援)活動を展開し、1日には全署の担当者を集め、経済安全保障戦略会議を初開催した。
 警視庁では今年3月に公安部に経済安全保障のプロジェクトチーム(PT)を発足。9月からアウトリーチ活動を本格化させ、半導体などの最先端技術を取り扱う製造系の大企業を中心にこれまで約50社を訪問した。
 警察庁も今年1月に「経済安全保障対策官」を新設しており、来春にはさらなる体制強化を目指している。

スパイの手口は…経済安保で警察が企業訪問本格化 技術流出防止 | 毎日新聞2021.12.3
 日本の最先端技術の海外流出を防ごうと、警察当局の捜査員らが民間企業への注意喚起を始めた。政府が重要政策として掲げる経済安全保障の強化が狙いだ。スパイ事件の手口を紹介し、流出の未然防止を図る。
 11月30日、東京都千代田区内のビルの一室。スパイ事件を担当する警察庁外事課の吉田知明・経済安全保障対策官がオンライン形式で説明を続けていた。参加したのは半導体関連産業の事業者でつくる日本半導体製造装置協会に加盟する約40社の担当者だ。


◆「みどりの食料システム戦略」をどう見るか(柳重雄*13
(内容紹介)
 赤旗の記事紹介で代替
みどり食料戦略 追及/紙氏 「政策の具体性欠ける」2021.6.2
「みどり戦略」/先端技術偏重を批判/田村貴昭氏2021.6.22


ノーベル経済学賞受賞「デビッド・カード*14」の研究とその意味(伊藤大一*15
(内容紹介)
 伊藤論文では、カードの業績のうち、一般に最も論じられることが多い「最低賃金上昇は必ずしも雇用減少をもたらさない」という研究結果についてもっぱら説明がされています。詳しくはネット上の記事紹介で代替します。

最低賃金論議に一石、ノーベル経済学賞カード教授の主張とは:日経ビジネス電子版安部由起子(北海道大学教授)
 今回のノーベル経済学賞発表の際にカード教授の貢献と強調して言及された論文は、(1)最低賃金に関する一連の研究、(2)移民に関する研究、(3)教育の質と教育の収益率に関する研究、であった。
 このうち、最低賃金の研究が研究以外の場面で受け止められるとき、前提条件などがもう少し明確に伝わったほうがよいのではないかと筆者は考えている。カード教授とプリンストン大学の故アラン・クルーガー*16教授による最低賃金の研究から、「最低賃金を上げても雇用は減らない」という結果の部分だけを取り出すことで、「それなら最低賃金を上げても問題はない*17」という解釈になりうるからだ。
 そしてそのことが、最低賃金を上げるほうが望ましいという意見を持つ人たちからの「経済学の科学的な研究によれば、最低賃金を上げても雇用は減らないことが示されている。だから、最低賃金を上げるべきだ」という主張をサポートすることにつながるかもしれない。
 だが筆者は、カード教授とプリンストン大学の故アラン・クルーガー教授による本『Myth and Measurement: The New Economics of the Minimum Wage』(Princeton University Press、1995年)の最終章、「Policy Implications(最低賃金の政策的含意)」について書かれていることを字義通りに読めば、「最低賃金の引き上げ」を直接主張する内容はないと理解している。
 第1に上記の書籍では、「最低賃金を上げても雇用の減少は大きくない」ことには、いくつもの留保条件が付いている。本の中での説明は、「最低賃金の上昇が大幅なものでなければ、その上昇が雇用を減らす程度は、さほど大きくない。したがって、(当時思われていたよりも)最低賃金の非効率性は実際の大きさ以上に強調されている」というものである。ここで、「最低賃金が大幅なものでなければ」という条件が付いている
 第2は、「最低賃金に関する政治の上での政策論争は、政策の経済全体に占める重要性の程度と比較すると過大である。最低賃金は、所得分配政策ではあるが、再分配される所得は大きいものではなく(1990~91年の米国の最低賃金上昇によって再分配された額は、賃金として支払われる総額のうちの0.2%であった)、それに比較すると政策論争は過大といってよい。(他の再分配政策でより多くの所得を分配している政策はいくつかあるが、それらが同程度の政治的注目を集めてはいない)」という部分である。この部分は、最低賃金が雇用を減らすというコストが小さい一方で、それによる所得再分配上の便益も小さいこと*18を述べている。
 「この授賞が結果的に最低賃金引き上げを求める声を一段と強める」というのは、少なくともこの本に書かれている内容から直接的に導かれることではないと、筆者は理解している。最低賃金を上げることの効率性で見たコストが小さいとしても、それで達成できる所得再分配もそれほど大きくないのであれば、コストも小さいが便益も小さい政策を実施するのは合理的なのか?という議論が求められていると理解するほうが妥当であろう。

ノーベル経済学賞を受賞したカードによる最低賃金の研究をどこよりもわかりやすく解説! | 「原因と結果」の経済学 | ダイヤモンド・オンライン
 カードらの分析の結果、最低賃金の上昇は雇用を減少させないことが明らかになった*19。また、最低賃金の上昇は、ニュージャージー州の企業による価格の上昇をもたらしていることも明らかになった。つまり、企業は、最低賃金によるコスト増をリストラではなく、価格に転嫁することによって切り抜けようとしたのである。
 マサチューセッツ大学アマースト校のアリンドラジット・デューブらが、ニュージャージー州ペンシルベニア州のケースを全米に拡張した論文でも、同様に最低賃金が雇用に与える因果効果は確認できず、穏やかな最低賃金の上昇がもたらす雇用への悪影響は限定的との見方を示している。

*1:横浜国立大学名誉教授。著書『アメリカ経済政策史:戦後「ケインズ連合」の興亡』(1996年、有斐閣)、『通商産業政策』(2003年、日本経済評論社)、『世界経済と企業行動:現代アメリカ経済分析序説』(2005年、大月書店)、『米国はいかにして世界経済を支配したか』(2008年、青灯社)、『日本の構造「改革」とTPP』(2011年、新日本出版社)、『TPP:アメリカ発、第3の構造改革』(2013年、かもがわ出版)、『オバマの経済政策とアベノミクス』(2015年、学習の友社)、『新自由主義と金融覇権:現代アメリカ経済政策史』(2016年、大月書店)、『トランプ政権とアメリカ経済:危機に瀕する「中間層重視の経済政策」』(2017年、学習の友社)、『世界経済危機と「資本論」』(2018年、新日本出版社)、『金融グローバリズムの経済学』(2019年、かもがわ出版)など

*2:明治大学名誉教授。著書『独立後第三世界の政治・経済過程の変容:アルジェリアの研究事例』(2006年、西田書店)、『貿易の世界史:大航海時代から「一帯一路」まで』(2020年、ちくま新書)など

*3:駒澤大学専任講師

*4:「持続可能な」とは「バングラデシュの工場労働者は低賃金長時間労働で持続可能とは言いがたい」という批判の意があります。

*5:関西大学准教授

*6:近畿大学准教授

*7:京都橘大学准教授。著書『植物油の政治経済学』(2019年、昭和堂)、『食べものから学ぶ世界史:人も自然も壊さない経済とは?』(2021年、岩波ジュニア新書)

*8:立命館大学教授。著書『アメリカの財政再建と予算過程』(2006年、日本経済評論社

*9:和光大学教授。著書『教育改革はアメリカの失敗を追いかける:学力テスト、小中一貫、学校統廃合の全体像』(2015年、花伝社)、『小中一貫・学校統廃合を止める:市民が学校を守った』(2019年、新日本出版社

*10:全日本教職員組合委員長

*11:著書『ハンガリー革命史研究』(1989年、勁草書房)、『統合ヨーロッパの民族問題』(1994年、講談社現代新書)、『拡大するヨーロッパ:中欧の模索』(1998年、岩波書店)、『グローバル時代のアジア地域統合:日米中関係とTPPのゆくえ』(2012年、岩波ブックレット)、『ヨーロッパの分断と統合』(2016年、中央公論新社)など

*12:自民や維新ではそうした状況はどう見ても改善されないでしょうから残念な限りです。

*13:埼玉食健連(農林業と食糧を守る埼玉連絡会)会長。弁護士

*14:2021年ノーベル経済学賞受賞。カリフォルニア大学バークレー校教授(デヴィッド・カード - Wikipedia参照)

*15:大阪経済大学准教授。著書『非正規雇用と労働運動』(2013年、法律文化社

*16:1960~2019年(自殺のようですがググった限りでは動機は不明です)。オバマ政権で大統領経済諮問委員会(CEA)委員長。著書『テロの経済学』(2008年、東洋経済新報社)、『経済はロックに学べ!』(2021年、ダイヤモンド社)(アラン・クルーガー - Wikipedia参照)

*17:いずれにせよ「最低賃金を上げれば(企業が雇用を減らし)雇用が減少する」という「新自由主義ウヨの雑な議論」に対する反証(そこまで話は簡単ではなくもっと複雑)ではあるようです。日本ではそうした「雑な議論」が横行しているため、カードの受賞は大変良かったと思います。

*18:つまり「所得再分配」と言う意味では「最低賃金アップがベストの政策かどうかは疑問」と言う意味。

*19:注1:カードらの論文には、カリフォルニア大学アーバイン校のデビッド・ニューマークらによる反論がある。また、今なおさまざまな研究が行われており、最終的な結論は出ていない。