新刊紹介:「経済」11月号

「経済」11月号について、俺の説明できる範囲で簡単に紹介します。
 http://www.shinnihon-net.co.jp/magazine/keizai/
◆随想『記憶する街ワルシャワ』(尾崎俊二)
(内容紹介)
 『記憶するワルシャワ:抵抗・蜂起とユダヤ人援助組織ジェゴダ*1』(2007年、光陽出版社)、『ワルシャワ蜂起:一九四四年の六三日』(2011年、東洋書店→2015年、御茶の水書房)、『ワルシャワから・記憶の案内書:トレブリンカ*2、ティコチン、パルミルィ、プルシュクフへ』(2016年、御茶の水書房)、『歴史を歩くワルシャワ:国王選挙の始まりから1944年8月蜂起前まで』(2020年、本の泉社)の著者があり「ワルシャワ蜂起」研究をライフワークとする筆者がワルシャワへの思いを述べている。


◆世界と日本『どう動く2020年の中国経済』(平井潤一)
(内容紹介)
 ネット上の記事紹介で代替。多くのエコノミストの認識は「コロナのダメージなどマイナズ材料はあるが、中国政府が徹底したPCR検査の実施などによりコロナを終息させたこともあって、基本的には中国経済は回復傾向にある」という好意的見方とみられる。

IMFトップ 世界経済は中国の回復基調で想定より上向く | 新型コロナ 経済影響 | NHKニュース
 IMF国際通貨基金のトップ、ゲオルギエワ*3専務理事は、ことしの世界全体の経済成長率の見通しについて、新型コロナウイルスの影響は依然深刻なものの、中国経済の回復が予想を上回るものだなどとして、これまでの想定よりいくぶん上向くとの認識を示しました。


特集「安保60年と日本経済」
◆座談会「日米経済関係の構造と特徴」(坂本雅子*4、萩原伸次郎*5佐々木憲昭*6
(内容紹介)
 坂本雅子氏の著書『空洞化と属国化』(2017年、新日本出版社)と同様の問題意識から日米経済関係の構造と特徴を「産業空洞化と米国の属国化」とみなし、議論が行われている。経済面での「米国の属国化」と評価されるのが(かなり古いが)中曽根*7政権での「オレンジ、牛肉自由化」、橋本*8内閣での「大規模小売店舗法大店法)の廃止*9」、小泉*10内閣の郵政民営化*11、最近だと「第二次安倍*12政権以降での日米貿易協定(日米FTA)」などです。
【参考:坂本氏の主張】
グローバル経済の迷宮 日本の新属国化① 企業本位に政策を支配 - きんちゃんのぷらっとドライブ&写真撮影
グローバル経済の迷宮 日本の新属国化② 米のアジア戦略の先兵に - きんちゃんのぷらっとドライブ&写真撮影
グローバル経済の迷宮 日本の新属国化③ 米国のための「成長戦略」 - きんちゃんのぷらっとドライブ&写真撮影
【参考:大店法廃止】
大店立地法は大店法とどう違う?
【ニッポンの分岐点】流通革命(3)大店法 外圧に崩された商店街の盾 - SankeiBiz(サンケイビズ)
【参考:日米貿易協定】
主張/日米協定案の可決/国会と国民を無視した暴挙だ衆院委員会可決時)
主張/日米協定承認可決/国民無視した強行を糾弾する参院本会議可決、法成立時)


日米安保と日米経済の戦後史と展望(山本義彦*13
(内容紹介)
 日米安保の戦後史を展望するに辺り「冷戦中と冷戦後」の違いが指摘されている。
 冷戦中においては建前では日米安保は「ソ連からの防衛」が目的であった。そのため、ベトナム戦争自衛隊出動を求める動きも米国側にあった物の、自衛隊の海外派兵は「ソ連からの防衛」と言う建前に反し適切で無いとして、阻止され、日本の軍事負担も比較的に軽いものであった。そうした比較的に軽い軍事負担によって日本は池田*14、佐藤*15政権時代に高度成長を実現し、自民党政権の基盤がこの時期に確立したと言える。
 しかしソ連が崩壊し冷戦が終了しても、日米安保は終了しなかった。むしろ「イラククウェート侵略」を契機に「自衛隊の海外派兵」がPKOという形で行われ、その後もl小泉政権での自衛隊イラク派兵などを経て、安倍政権以降では「安保関連法による集団的自衛権行使」が危惧される状況である。
 今後の展望としてはまず「九条明文改憲」「安保関連法の発動」をどう阻むか重要である。
 そのためには「安保関連法の発動が想定される中東紛争や、台湾有事、南シナ海紛争、朝鮮半島有事」「九条改憲の口実にされるであろう中台対立、中国とフィリピン、ベトナム南シナ海領土紛争、北朝鮮の核ミサイル問題」にどう対処していくかが重要な課題である。
 中東について言えば「シリア内戦、イラク内戦」など内戦の早期終結や、パレスチナ紛争を助長している「イスラエル政府の強権体質」や「イスラエルのそうした体質を助長するトランプ政権の外交」をどう是正するかが問われている。
 中国、北朝鮮について言えば「香港、ウイグルチベット問題(中国)」「核ミサイル問題、拉致問題北朝鮮)」などを口実に中国、北朝鮮といたずらに対立するのでは無く、どう「ある種の信頼関係、経済相互依存関係」を構築して紛争を防止するかが問われている。中国について言えば「習主席の国賓訪問」は予定通り実施すべきである。トランプ政権のファーウェイ潰しなどの反中国政策にも加担すべきではない。
 北朝鮮について言えば日朝平壌宣言を前提に交渉を進め早急に国交正常化すべきであろう。
 また、中朝との関係改善という点では、「中朝と関わりの深い」韓国とも早急に関係改善すべきであり、最低限「ホワイト国除外」「フッ化水素水輸出規制」のような無法は撤回することが必要である。


◆戦後日本の農業食糧貿易構造の変化(磯田宏*16
(内容紹介)
 1980年代の中曽根政権による「オレンジ、牛肉自由化」をはじめとし、最近も日米貿易協定(第二次安倍政権以降)で、米国の要求に応じる形で「農業市場開放」が推進されたことが批判的に評価されている。

参考
農業と経済に大打撃/日米貿易協定認めない/衆院審議入り 笠井氏追及
日米貿易協定 国内の農業に大打撃/井上氏「ご都合主義」批判/参院外防委


◆日米デジタル貿易協定の危険性(高野嘉史)
(内容紹介)
 赤旗の記事紹介で代替。

日米貿易協定・デジタル貿易協定承認案に対する笠井議員の質問(要旨)/衆院本会議
 突如締結された「デジタル貿易協定」は、米IT企業を保護するための協定に他なりません。個人情報保護や中小企業の利益よりも、GAFA(グーグル、アマゾンなどの米巨大IT企業)に代表される米国の巨大プラットフォーマーの利益を優先し、ビッグデータを制約なくビジネスに活用させようとするものではありませんか。

日米貿易協定承認案に対する井上議員の反対討論(要旨)/参院本会議
 日米デジタル貿易協定は、世界で事業を展開する米国のIT産業の要求に応えて、国境を越えた自由なデータ流通の「障壁」を取り払ってその利益を保護するためのルールづくりです。世界でデジタル・プラットフォーマー規制の強化をどう進めるかの議論が高まっているなか、米国IT産業の求めるルールづくりを優先することは、世界の流れに逆行します。
 日本国内で個人情報や消費者の保護などのために何らかの新たな規制を採用しようとする場合に、とりうる措置の内容が制約を受ける恐れがあります。


アメリカ的経営の導入と日本的経営(柚木澄)
(内容紹介)
 アメリカ的経営として「非正規雇用の増大」「株主配当の増大とそれを口実とした従業員賃金の縮減」などが行われたことが批判的に評価されている。
 しかし「コロナ禍」の中でそうした状況に批判が強まりつつあることを「コロナという不幸中の幸い」とし、そうした動きを今後どう展開していくかが重要だとしている。


国家安全保障局・経済班の発足:日本経済の平和的発展をゆがめる(金子豊弘)
(内容紹介)
 国家安全保障局に「経済班」が設置されたことで経済施策の軍事化が推進される恐れがあるとの危惧が示されている。
 特に金子氏は「日米両国での反中国右翼」の思惑からこの経済班が「中国締め上げ的な方向」に向かうことを警戒している。

【参考:産経などの中国締め上げ論】

【安倍政権考】NSS経済班が来月発足 背景にあるのは中国の台頭、米国と連携し対抗へ(1/3ページ) - 産経ニュース
 「経済班、急いでやろう」
 昨年9月、(ボーガス注:日本の)NSS内で開かれた幹部会議で、警察庁出身の北村滋局長がこう指示を飛ばした。北村氏は第1次安倍政権で首相秘書官、第2次政権では内閣情報官を歴任してきた首相の最側近の一人。NSS内では、以前から経済班の必要性が検討されてきたが、北村氏が局長に起用され、実現に向けた動きが一気に加速した。「経済班の立ち上げは北村氏のイニシアチブが大きかった」(関係者)という。
 経済班の設置に向けて首相や北村氏が念頭に置くのは、ハイテク覇権をうかがう中国の存在だ。米国も警戒感を強め、2017(平成29)年12月に発表した国家安全保障戦略(米国NSS)では中露を「修正主義勢力」と明確に定義。米国は中国当局が通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)などと結託し、通信機器を通じて重要情報を盗み出すスパイ行為を行っているとみており、トランプ大統領も「安全保障の観点からも軍事面からも極めて危険だ」と訴えている。
 日本も中央省庁が使う情報通信機器からファーウェイを事実上排除するなど、米国と歩調を合わせてきたが、経済班設置で米国との経済安保分野での連携を一層加速させたい考えだ。
 また、日米豪が中国の巨大経済圏構想「一帯一路」の対抗軸とするインフラ支援構想「ブルー・ドットネットワーク」の実現に向けた連携も模索する。
 (ボーガス注:日本の)NSS幹部は「米国の立場からすると、日本は誰が経済安保戦略を担っているのか分からなかったが、経済班が設置されることで明確になる」と語った。


◆異常さ増す安倍政権の株価対策(下):一部上場企業の4割で「公的マネー」が筆頭株主に(垣内亮*17
(内容紹介)
 新刊紹介:「経済」10月号 - bogus-simotukareのブログで紹介した『異常さ増す安倍政権の株価対策(上):一部上場企業の4割で「公的マネー」が筆頭株主に』の続きです。
 今回は副題である『一部上場企業の4割で「公的マネー」が筆頭株主に』が主として論じられます。「NTT(電電公社が民営化)」「高速道路会社(道路公団が民営化)」「JR(国鉄が民営化)」「日本たばこ産業(専売公社が民営化)」「日本郵政日本郵便(郵便)、ゆうちょ銀行(郵便貯金)、かんぽ生命(簡易生命保険)の持ち株会社郵政公社が民営化)」など、その経緯から政府出資の割合が高い『いわゆる政府系企業』ならともかくGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)、日銀と言った公的マネーが「一部上場企業の4割で筆頭株主」というのはどう見ても異常な話です。

参考
公的マネーが筆頭株主/一部上場3社に1社/安倍政権の株価つり上げ政策で
公的マネー/トップ企業の85%、筆頭株主/安倍流市場介入は異常


◆「食料・農業・農村基本計画」の批判的検討:『食料・農業・農村白書』を素材として(安藤光義*18
(内容紹介)
 赤旗の記事紹介で代替。

主張/農業の基本計画案/「安倍農政」の転換が不可欠
農業基本計画基軸に/紙氏「中小・家族経営応援を」
攻めの農政に変質/紙氏、新たな基本計画を批判

*1:ユダヤ人救済委員会」の暗号名。1942年から1945年までにナチス・ドイツ占領下のポーランドユダヤ人救済のために活動した地下組織をさす(ジェゴタ - Wikipedia参照)。

*2:ナチの強制収容所があった事で知られる(トレブリンカ強制収容所 - Wikipedia参照)

*3:世界銀行副総裁、総裁などを経てIMF専務理事

*4:名古屋経済大学名誉教授。著書『財閥と帝国主義三井物産と中国』(2003年、ミネルヴァ日本史ライブラリー)、『空洞化と属国化:日本経済グローバル化の顚末』(2017年、新日本出版社

*5:横浜国立大学名誉教授。著書『アメリカ経済政策史:戦後「ケインズ連合」の興亡』(1996年、有斐閣)、『通商産業政策』(2003年、日本経済評論社)、『世界経済と企業行動:現代アメリカ経済分析序説』(2005年、大月書店)、『米国はいかにして世界経済を支配したか』(2008年、青灯社)、『日本の構造「改革」とTPP』(2011年、新日本出版社)、『TPP:アメリカ発、第3の構造改革』(2013年、かもがわ出版)、『オバマの経済政策とアベノミクス』(2015年、学習の友社)、『新自由主義と金融覇権:現代アメリカ経済政策史』(2016年、大月書店)、『トランプ政権とアメリカ経済:危機に瀕する「中間層重視の経済政策」』(2017年、学習の友社)、『世界経済危機と「資本論」』(2018年、新日本出版社)、『金融グローバリズムの経済学』(2019年、かもがわ出版)など

*6:衆議院議員日本共産党名誉役員。著書『変貌する財界:日本経団連の分析』(2007年、新日本出版社)、『財界支配:日本経団連の実相』(2016年、新日本出版社)、『日本の支配者』(2019年、新日本出版社

*7:岸内閣科学技術庁長官、佐藤内閣運輸相、防衛庁長官、田中内閣通産相自民党幹事長(三木総裁時代)、総務会長(福田総裁時代)、鈴木内閣行政管理庁長官などを経て首相

*8:大平内閣厚生相、中曽根内閣運輸相、自民党幹事長(宇野総裁時代)、海部内閣蔵相、自民党政調会長(河野総裁時代)、村山内閣通産相などを経て首相

*9:大店法の廃止自体は国内大企業も求めていたが、「トイザらス」「ウォールマート」などの米国企業の要望でもあった。

*10:宮沢内閣郵政相、橋本内閣厚生相などを経て首相

*11:郵便貯金、簡易保険の民営化自体は国内メガバンクも求めていたが、米国メガバンクも求めていた。

*12:自民党幹事長(小泉総裁時代)、小泉内閣官房長官を経て首相

*13:静岡大学名誉教授。著書『戦間期日本資本主義と経済政策』(1989年、柏書房)、『清沢洌の政治経済思想』(1996年、御茶の水書房)、『近代日本資本主義史研究』(2003年、ミネルヴァ書房)、『清沢洌』(2006年、学術出版会)

*14:大蔵次官から政界入り。吉田内閣蔵相、通産相、石橋内閣蔵相、岸内閣蔵相、通産相などを経て首相

*15:運輸次官から政界入り。吉田内閣郵政相、建設相、岸内閣蔵相、自民党総務会長(岸総裁時代)、池田内閣通産相科学技術庁長官などを経て首相

*16:九州大学教授。著書『アメリカのアグリフードビジネス』(2001年、日本経済評論社)、『アグロフュエル・ブーム下の米国エタノール産業と穀作農業の構造変化』(2016年、筑波書房)

*17:日本共産党経済・社会保障政策委員会責任者。著書『消費税が日本をダメにする』(2012年、新日本出版社)、『「安倍増税」は日本を壊す:消費税に頼らない道はここに』(2019年、新日本出版社

*18:東京大学教授。著書『構造政策の理念と現実』(2003年、農林統計協会)、『北関東農業の構造』(2005年、筑波書房)、『日本農業の構造変動:2010年農業センサス分析』(編著、2013年、農林統計協会)など