新刊紹介:「経済」2022年3月号

「経済」3月号を俺の説明できる範囲で簡単に紹介します。
◆随想『ひとに寄り添い、支える社会にトライ』(山根香織*1
(内容紹介)
 岸田政権の「新しい資本主義(新自由主義からの脱却)」「こども家庭庁(仮称)」を「たとえ舌先三寸でも『岸田が政権批判派の批判(新自由主義批判など)をかわすためにこう言わざるを得なくなった』と言う意味で変化の兆しを見たい」とする山根氏です。俺もそう思いたいところですが果たしてどうなるか。いずれにせよ「新しい資本主義というならこうすべきだ」といった「批判」が共産党ほか野党各党に求められてることは確かです。


世界と日本
◆プラスチックごみとケニア(佐々木優*2
(内容紹介)
 ネット上の記事紹介で代替。

米国のケニア「プラごみ押し付け」強引な手口 | The New York Times | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース2020/09/09
 世界最大級の化学メーカーと化石燃料会社の利益を代表する業界団体が、アメリカとケニアの貿易交渉に圧力を加え、ビニール袋の禁止などプラスチックに対する厳しい規制を覆そうとしていることがニューヨーク・タイムズの取材で明らかになった。
 アメリカとケニアは現在、貿易交渉を進めているところだが、ケニアのウフル・ケニヤッタ大統領は協定締結への意欲を明確にしている。そうした中、プラスチックの使用と廃棄の削減に取り組むケニア内外の環境団体の間で、石油会社が水面下で繰り広げるロビー活動に対する懸念が強まっている。
 ケニアでも他国同様、プラスチックの使用拡大を抑える取り組みが進んでいる。ケニアでビニール袋を厳しく規制する法律が成立したのは2017年*3ケニアは昨年、廃プラ輸入をやめるという国際協定に多くの国とともに署名したが、この協定に化学業界は猛反発した。
 アメリカ化学工業協会の提案は「必然的に環境中のプラスチックと化学物質が増えることを意味する。衝撃的だ」と、ナイロビを拠点にケニアの廃プラ問題に取り組む非営利団体、環境正義と開発センター(CEJAD)のグリフィンズ・オチエン事務局長は語る。
 貿易統計によると、アメリカは2019年、ケニアを含む96カ国に10億ポンド(約45万トン)を超える廃プラを輸出している。表向きはリサイクル用ということになっているが、廃プラにはリサイクルの極めて難しいものが大量に含まれ、最後にはプラごみとして川や海を漂うことになる。
 中国がプラごみの輸入を原則禁止にしたのは2018年。輸出業者は新たな投棄場を探し求め、結果としてアフリカへの輸出量は2019年に前年の4倍を上回る規模となった。
 アメリカ化学工業協会の広報担当ライアン・ボールドウィン氏は、同協会の提案は世界的な廃プラ問題に対応するものだと説明した。
 アメリカ国内のプラスチック規制も、業界の提案によって困難となるおそれがある。貿易協定は双方の国に適用されるためだ。
 ニューヨーク・タイムズアメリカ通商代表部に取材を要請し、書面でも詳細な質問事項を送ったが返答はなかった。ケニア政府からも回答は得られなかった。
 ケニアは昨年、諸外国と同様、廃プラの輸入を停止するという国際協定に署名したが、化学業界はこの協定に強く反対した。ニューヨーク・タイムズが確認した電子メールのやりとりからは、業界の利益代表者(その多くが貿易担当の元高官)が昨年、アメリカの交渉担当者と協力して、こうした規制を阻止しようとしていたことが明らかになっている。

 この記事からは「企業の金儲けの論理でプラゴミをケニアに押しつけようとする米国企業(そしてそれに加担する米国政府)」と「それを環境保護の観点から批判するニューヨークタイムズ」という「米国の二つの側面」が見えます。
 「ニューヨークタイムズの報道」を元に単純に米国を「正義」と描き出すのも間違いなら、「金儲けに走る米国企業(そしてそれに加担する米国政府)」を元に単純に米国を「邪悪」と描き出すのも間違いでしょう(まあ、日本では黒井文太郎など、親米ウヨ連中は米国を「邪悪な中露と戦う正義」と単純化したがりますが)。
 また

 中国がプラごみの輸入を原則禁止にしたのは2018年。

というのも興味深い。昔の「貧乏国家・中国」は「プラゴミを金のために受け入れてきた」ところ、「経済大国」となりもはやそんなことをする必要は無くなったわけです。また「中国国民の環境意識の高まり」もあったのでしょう。
 そしておそらく「国土の広い中国」は「大量のプラゴミ」を受け入れていたわけで「困った米国企業が頼った一つ=ケニア」のわけです。


◆韓国:労働者概念の拡大へ(洪相鉉)
(内容紹介)
 ネット上の記事紹介で代替。

「元請業者が下請労働者と団体協約」、産業界の混乱が懸念される : 東亜日報2021.6.4
 元請け業者は、下請業者の労働組合の団体交渉要求に直接応じなければならないという中央労働委員会(中労委)の判断が出た。中労委は2日、全国宅配労働組合がCJ大韓(テハン)通運を相手取って起こした「団体交渉拒否不当労働行為の救済申請」について、労組の肩を持った。

 ただしこの判決に肯定的な洪相鉉氏と違い、保守新聞・東亜日報は否定的ですが。


◆米と牛乳の過剰(真嶋良孝*4
(内容紹介)
 赤旗などの記事紹介で代替。

生乳危機 揺れる酪農王国十勝 #十勝農業放送局 | NHK北海道2022年2月9日
 危機を繰り返さないためにはどうすればいいのか。
 酪農経営に詳しい北海道大学大学院の小林国之*5准教授は、(中略)今回の危機を乗り越えるためには、全国の酪農家がともに解決策を探っていくことや、国が乳業メーカーを支援し、バターなどの原材料を輸入から国産に置き換えるなど業界を挙げた取り組みが重要だと指摘します。

畜産酪農 支援改善を/衆参農水委 田村・紙氏求める2021.12.24
 紙氏は、コロナ禍で牛乳の消費量が落ち込む年末年始にかけて5000トンもの生乳廃棄の懸念が高まっていると指摘。生産者、乳業者が拠出金を出しあって乳製品の在庫対策をしても追い付かない実態をあげ、輸入している3万トンの飼料用脱脂粉乳と置き換えて、消費拡大を支援するなど国が需給調整に乗り出すよう求めました。金子農水相は「関係者と連携したい」と述べるにとどまりました。

米価暴落対策 早急に/参院農水委 紙氏、市場隔離求める2021.12.26
 日本共産党の紙智子*6議員は22日の参院農林水産委員会で、米価暴落問題についてただしました。
 新型コロナの流行に伴う外食需要低迷で米価が大きく下落しています。政府は、15万トンの「特別枠」を設けて主食用米の長期保管を打ち出しましたが、米価暴落に歯止めはかかっていません。
 紙氏は(中略)「即効性のある米価下落防止策は、はっきり市場隔離して、子ども食堂や生活困窮者へ食料支援をすることだ」と主張しました。


特集1「模索しつつ進むASEAN
ASEAN経済共同体(AEC)の現状:成立後の経済統合の実態と評価(西口清勝*7
(内容紹介)
 ASEAN経済共同体について、ASEANの多くの国々が「工業化、サービス産業化」の点で立ち遅れており、「一次産品」に頼る面が未だに強いことが「今後の課題」として指摘されている。


ミャンマー:民政10年の歩みと軍事クーデター(西沢信善*8
(内容紹介)
 ある意味「当たり前」ではありますがミャンマー軍事クーデターが批判されています。
 民主主義の観点は勿論、経済面でも「長期にわたる経済制裁」で経済が低迷したことを批判。軍部がいったんは「民政移管(アウンサンスーチー復権)」を認めたのも制裁に音を上げて「外資導入による経済発展を目指したから(その点では北朝鮮が、日本の経済支援目当てに小泉訪朝を受け入れたのと似ている)」であり、実際、スーチー復権で「外資導入による経済成長があった(この点は小泉政権救う会に屈して北朝鮮を裏切ったのとは違う)」としています。
 しかし軍部はかえって「スーチー政権下での経済成長→軍部の没落」を恐れクーデターに打って出ました。
 そこには「タイ軍事クーデターやカンボジアのフン・セン首相独裁(最大野党を強権発動で解散)に欧米や日本は甘い」「ASEAN内部では少なくとも独裁的なタイやカンボジアミャンマー軍につく」「中露もミャンマー軍を経済的利益や『米国への対抗心』から支持するだろう(タイ、カンボジア、中露は実際に今のところ、そう動いているようですが)」という読みもあった。
 しかしその結果は「危惧通りの外資逃亡」。欧米や日本も「ミャンマー軍が思ったほど」には甘くないようですが、一方で「積極的に民主派側を支持する」わけでもなく膠着状態に陥っています。


◆フィリピン:ドゥテルテ政権下の6年、米中対立のはざまで(太田和宏*9
(内容紹介)
 副題の「米中対立のはざま」にポイントが置かれています。
 1)「人権問題」で米国に批判されたこと、2)「沖縄基地問題」同様の「基地被害」による「米国への反感」もあり、ドゥテルテ政権が、従来の政権に比べ「中国寄り」のスタンスをとっていることが指摘されます(勿論、経済大国・中国との付き合いによる利益も中国寄りの背景にはあります)。
 しかしそれは単純な「反米・親中国」ではないことも指摘されます。
 米国とは同盟国であり続ける。例の「中国の習主席」「ロシアのプーチン大統領」「トルコのエルドアン大統領」などを招待しなかった『民主主義サミット』でもバイデンはドゥテルテを招待し、彼も出席しました(これについてはドゥテルテ批判派からバイデンへの批判もあった)。
 中国にも米国にも過剰に接近することを避け、「日本」「ロシア」「EU諸国」「ASEAN諸国」など多様な国と関係を深める「大河ドラマ真田丸」での「真田家(上杉氏、北条氏、徳川氏をうまく手玉にとる)」のような態度の訳です。
 当然ながら、少なくとも領土問題(南沙諸島問題)ではベトナム同様に中国批判を行う。
 ポストドゥテルテが誰になるかも今後の重要点でしょう。マスコミ報道に寄れば

フィリピン大統領選 4人の候補による3か月の選挙戦スタート | 海外の選挙 | NHKニュース
◆20年余りにわたり独裁体制を敷いた故マルコス元大統領の長男、フェルディナンド・マルコス上院議員
人権派の弁護士で、現職の副大統領でありながらドゥテルテ政権の強権的な政策を批判してきたレニー・ロブレド
◆俳優出身で、現職のマニラ市長のフランシスコ・ドマゴーソ
◆国民的な人気を誇る元プロボクサーで、上院議員マニー・パッキャオ

が有力候補です。
 現時点での最有力は『ドゥテルテの長女サラ(副大統領選に立候補:フィリピンは大統領と副大統領は別々に選挙で選ばれる)』がマルコス支持表明したこともあり、マルコスとのこと。「マルコス大統領、サラ副大統領」となれば「ドゥテルテ路線が大幅に継承される」でしょうが果たしてどうなるか。いずれにせよ「ドゥテルテ親子への未だ高い人気」からは「基地問題での米国への反感(とはいえそれは米国との軍事同盟破棄に至るほどではありませんが)」「中国との付き合いによる経済的利益」「ドゥテルテのやることなら何でも支持するという盲目的支持(『大阪府民の橋下支持』『ウヨの安倍支持』のような物)」など様々な要素があるでしょうが「消極的であれ」ドゥテルテの「対中国外交(中国べったりではなく、また、米国と同盟国であり続けるが、産経ら日本ウヨほど反中国ではない)」が「それなりに国民に支持されてること」は間違いないでしょう。産経ら日本ウヨの反中国がいかに非常識かと言うことです。

参考

大統領候補の正体は「強いリーダー」か「歴史の歪曲者」か フィリピン独裁者の長男、支持トップに:東京新聞 TOKYO Web
 フィリピンで20年以上の独裁政権を築いた故マルコス元大統領の長男フェルディナンド・マルコス氏(64)が、5月の大統領選で最有力視されている。父の時代の負のイメージが残る一方、当時を知らない若い世代から「強いリーダー像」への支持が集まっている。
 当初本命とみられたドゥテルテ大統領の長女サラ氏が副大統領選に回りマルコス氏と連携したことから、支持率53%でトップに浮上。副大統領のロブレド氏(20%)、マニラ市長のモレノ氏(8%)、ボクシング元世界チャンプのパッキャオ氏(8%)らを引き離し、「前進し続けよう」と勢いづいた。
 マルコス氏は、1986年のピープルパワー(民衆の力)革命で失脚した父や、母イメルダ氏らとともに米ハワイ州に亡命。父の死後、91年に帰国し、地元の北イロコス州知事や上下両院議員を務めて徐々に復権。前回2016年の副大統領選でロブレド氏に惜敗したが、接戦を演じた。
 追い風の背景にあるのが、ソーシャルメディアを駆使したイメージ戦略だ。父マルコス時代を知らない若い世代向けの発信で、インフラ整備など独裁政権時代の功績を挙げ「アジアで最も豊かな国だった」などと誇張。反対派への弾圧を矮小化して伝え、マルコス家は加害者ではなく「被害者」として描かれた動画もある。反対陣営からは「フェイクニュースの典型で、歴史の歪曲だ」といった批判が上がっている。
 選挙戦ではドゥテルテ大統領の影響も注視されるが、両家の関係は良好とされる。
 国内ではピープルパワー革命後も、利益誘導や腐敗はなくならず、政治不信が続いているとの見方がある。穏健な指導者よりも、ドゥテルテ氏のような権威主義的なリーダーを支持する傾向が強まっているとの見方もある。

依然深刻なチェチェンの人権状況 - 高世仁の「諸悪莫作」日記
 去年のノーベル平和賞受賞者二人に関連するニュースが、9日の朝日新聞朝刊に並んで載っていた。
(中略)
 8日にフィリピン大統領選の選挙戦が始まったというニュース。
 かつての独裁者マルコスの息子とドゥテルテ大統領の娘が手を組んで、正副大統領に当選しそうな情勢だという。
 現状を批判しつつ、「偉大な時代の再来」を訴えるマルコスに支持が集まっているという。
 フィリピンは多島国家で、ルソン島北部を基盤にするマルコスと南部ミンダナオ島のドゥテルテの組み合わせは、通常の選挙戦術からみても有利だ。
 このタッグが当選すれば、現在の強権政治は続いていくことだろう。
 ロシア、フィリピン両国とも、メディアを取り巻く状況は厳しいままだ。
 暗澹たる気持ちにもなるが、いつかは明かりが見えてくるはずだ。

 「朴正熙の娘(朴正熙)」が大統領に当選したときも「民主化運動の風化か?」とげんなりしました*10が、「フィリピンよ、お前もか」ですね。まあ我が国も「安倍が首相」なのであまり偉そうなこともいえませんが。
 「権威主義的」と言えば「ドゥテルテ」だけでなく「(既に失脚しましたが)韓国の朴槿恵」「米国のトランプ」「我が国の大阪維新」「トルコのエルドアンイスラム至上主義)」「インドのモディ(ヒンズー至上主義、反イスラム)」などもそうでしょう。これら全て(日本、米国、韓国、フィリピン、トルコ、インド)が「民主国家」であり「これらの強権的、独裁的政治家」が「選挙民の一定の支持を得ていること」でわかるように「民主主義(選挙)」は残念ながら必ずしも「反強権」を保障しません。 


◆マレーシア:政権交代と階級社会化(岩佐和幸*11
(内容紹介)

マハティール・ビン・モハマド - Wikipedia
 2018年5月9日に行われたマレーシアの連邦下院選挙はマハティール率いる野党連合がナジブ・ラザク率いる与党・統一マレー国民組織(UMNO)に勝利。マレーシア独立以来「万年与党だったUMNO」が下野し、初の政権交代が実現。マハティールは15年ぶりに首相へ就任した。2020年2月に連立与党内はマハティール派と反マハティール派の対立が激化し、混乱の責任を取る形で2月24日、国王アブドゥラに辞表を提出した。

ということで「万年与党だった自民が下野した」ように2018年5月に下野に追い込まれたUMNOですが、その後、野党側の内紛(この点は我が国での社民党政権離脱、小沢元民主幹事長の民主党離党で民主党政権が支持率を落としたことを思い起こさせますが)もあって

マレーシア、次期首相にイスマイルサブリ氏 UMNOがポスト奪還 | 毎日新聞2021.8.20
 マレーシアのアブドラ国王は20日、新首相として「統一マレー国民組織」(UMNO)のイスマイルサブリ・ヤーコブ前副首相(61)を任命した。長年、首相の座を独占してきたUMNOは3年ぶりに首相ポストを奪還する。

ということで「自民が政権復帰した」ようにUMNOも政権復帰を果たします。
 とはいえ、

イスマイルサブリ氏が新首相に 政権基盤に不安を抱えての船出 - NNA ASIA・マレーシア・政治
 イスマイルサブリ新首相は下院でわずかに半数を上回る支持を確保しているにすぎないほか、連立与党内の主導権争いもあり、困難な政権運営を迫られそうだ。

ということでUMNOは「昔ほどの力はもはや無い」というのが岩佐氏の見方です。


特集2「大学・科学研究はどうなるのか」
◆「大学ファンド」構想とそれがはらむ問題点(増田正人
(内容紹介)
 赤旗などの記事紹介で代替。
主張/大学ファンド/「稼ぐ大学」強要の愚策やめよ2022.1.21
大学ファンドに不安広がる/旧帝大も置き去りを懸念・・・今日の赤旗記事 - (新版)お魚と山と琵琶湖オオナマズの日々


◆私立大学のガバナンス問題を考える(山賀徹*12
(内容紹介)
 赤旗の記事紹介で代替。勿論こうした話が出てるのは「日大の巨額背任事件」がきっかけであり、「ガバナンス改革自体は不可避」ですが、「政府、文科省の改革案」は「改革の名に値しない」という批判です。

主張/「私学ガバナンス」/自治も教育・研究も壊す愚挙2021.12.19
 政府は「改革」の理由に、私立大学などの不祥事をあげます。しかし、一連の問題は、大学執行部に対する教職員や学生らによるチェック機能が弱体化させられ、専横が強まった結果です。そのときに、学内者を排除した評議員会に権限を集中させれば、専横に拍車をかけ、腐敗一掃に完全に逆行することになります。

私立学校法人改革 文科省会議の提言/教育・学問の視点なく/経営的観点で支配 日大の二の舞い?2021.12.31
「日大の事件の根は、経営的観点を強調する理事長と常務理事が理事会のなかにさらに小さな会議体をつくり、そこがブラックボックスとなってさまざまな意思決定を行ってきたことだ。経営的観点で選ばれた外部の評議員に権限を集中すれば日大が陥った問題と同じことが起きる」。
 日大の理事の一人でもある紅野謙介文理学部長は、自戒を込め、改革会議の報告書をそう批判します。


◆国民が求める地方私立大学の存続(市川治
(内容紹介)
 筆者は北海道の教育関係者であり、「北海道の私立大学の経営危機」について論じられていますが詳細な紹介は小生の無能のため省略します。
 なお、「政府の私学助成の少なさ」は批判されて当然ですが「定員割れで経営危機」のようなケースはまた話が別だと思います。
【参考:旭川大学

旭川大 23年度に市立大移行へ、授業料下げも視野: 日本経済新聞2021.3.25
 北海道旭川市の2021年度予算が成立し、2023年度に旭川大学を市立大として開学するための準備費230万円が盛り込まれた。現在の年間授業料は経済学部が約80万円、保健福祉学部保健看護学科が約120万円だが、いずれも約53万円になると試算している。
 旭川大は定員割れが続いており、旭川市は市立化で国の交付金を受けて授業料を低く抑え、志願者増につなげる。市は20年10月に「定員充足率110%なら公立化30年目の黒字達成が可能」との試算を提示している。

 最近一部ではやってるのがこういう「経営危機に陥った私立大」を公立大学化することで

公設民営大学 - Wikipedia参照
【2016年公立化】
千歳科学技術大学→公立千歳科学技術大学(北海道千歳市
成美大学福知山公立大学京都府福知山市
山口東京理科大学山陽小野田市立山口東京理科大学山口県山陽小野田市
【2018年公立化】
諏訪東京理科大学→公立諏訪東京理科大学(長野県諏訪市
【2022年4月公立化】
徳山大学→周南公立大学山口県周南市

などがあります。市川氏も勿論「あり得る解決策の一つ」とはしています。ただこれは失敗すると「自治体住民がもろに被害を受ける」ので安易にやれない話です。

【参考:私立大学の公立大学化】

地方の私大を公立化する「ウルトラC」の成否 | AERA dot. | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース※AERA2016年12月19日号
 過去10年近く定員割れが続いていたのに、今春いきなり倍率が約8倍という「狭き門」になった大学がある。その名は、公立大学法人山陽小野田市立山口東京理科大学
 同大は1987年、旧小野田セメント*13など地元経済界の要望を受けた山口県、小野田市*14(当時)、宇部市が、東京理科大学に働きかけて誘致した私立の「東京理科大学山口短期大学」が前身。95年に4年制の「山口東京理科大学」となり、今年4月、大学の設置者が、これまた合併で生まれた山陽小野田市に変更された。
 定員200人、工学部のみの単科大学だが、学生が思うように集まらず、短大時代から黒字の年はなし。学校法人内で埋め合わせしていた累積赤字は90億円近くに上っていた。
 そんな大学を突如、人気校に変えたマジックが「公立化」だ。
 高倍率の入試を見事突破した1年生の男子学生は笑顔でこう話す。
「親には小さい頃から近くの国公立に行ってほしいと言われていました。地元では理工系だと山口大学だけでしたが、ここが公立化すると知って、第1志望にしました。親も喜んでいます」
 官尊民卑の傾向が強い地方都市で「公立」ブランドは魅力的だ。何より授業料が約半額の53万5800円に下がった。劇的に下げられたのは、経費が地方交付税交付金、つまり国のおカネで手当てされるからだ。同大のように理系だとその額は学生1人当たり約170万円にも上る。地元自治体は、国から受け取った交付金を大学に渡すだけで、自らの負担はない。
 今、経営難の地方私大がこの公立化で復活する事例が相次いでいる。12月6日には、千歳科学技術大学が北海道千歳市に公立化の検討を要請したばかりだ。
 公立化を「学生、大学、自治体それぞれにメリットがあるウィンウィンの仕組み」(関係者)とみる向きもあるが、そこには国のカネという視点はない。
 「国民の税金で赤字大学が救われるのはおかしい、という批判があるのは承知しています。でも本校には地元にとって存続させる意義があるんです」
 山口東京理科大の森田廣学長はそう強調する。東芝で長年、ビジネスの現場にいた森田学長や教員らが経費削減や外部資金の獲得に努め、高校にも足しげく通ったという。
 「できる努力はすべてやりました」(森田学長)
 山陽小野田市の成長戦略室によると、公立化の話が持ち上がったのは2014年。当初、単科大学のままでの公立化には反対する声もあったが、それをかき消す「秘策」が繰り出された。
 地元の医療・製薬業界が、かねて強く要請していた薬学部新設だ。薬学部に1学年120人を受け入れれば、6学年で720人が新たに通うことになる。今ある工学部の800人と合わせれば、1500人規模だ。
 「人口6万人余りの市にとっては大きい。さらに薬学部で女子学生が増えれば、町も活性化する。大学を核とした地方創生のモデルにしようということで一気に話が進みました」と成長戦略室の大田宏室長は打ち明ける。
 公設民営型の私立松本大学。定員割れすることもほとんどなく、看板を守ってきた。
 同大は、地域の課題解決を目指した人材育成プログラムなどが文部科学省から評価され、補助金の対象にも選ばれている。地方の小さな私大としてのフットワークの良さを生かしながら、黒字経営を続けてきた。
少子化助成金が減っていく中で、経営が苦しいのはどこの私大も同じ。その中で我々のように必死に経営努力をして、私学で踏んばっている大学がある一方で、努力をあきらめて公立化すれば、学生は集まり、交付金で経営は安泰というのでは、努力した者がバカを見ることにもなりかねません」
 住吉廣行学長は、公立化が進む状況に疑問を投げかける。

地方の定員割れ私大で“公立化”がブーム。偏差値20爆上げの大学も | 日刊SPA!2018年04月05日
 最近の大学業界でひとつの大きな流れとなっているのが地方私大の公立化。’09年の高知工科大をはじめ、これまで10大学が公立大へと生まれ変わっている。
 公立化した私大を学費面から第一に志望する人も増え、福知山公立大のように、前年と比べて倍率が21.9倍と激増した例も。ただし、気になるのは自治体の負担。
「実は、公立大には国から十分な交付金が下りているので自治体の負担はそこまで大きくありません。そもそも地方にとって若者が集まる大学は、地域活性化の面でも大きな存在。自治体側の思惑があるにせよ、公立大が地方に増えることは、学生や親にとっては歓迎すべきことだと思います」(大学ジャーナリストの石渡嶺司氏)
<2009年以降公立化した私立大学>
高知工科大学高知県
静岡文化芸術大学静岡県
名桜大学沖縄県
公立鳥取環境大学鳥取県
長岡造形大学新潟県
福知山公立大学京都府
山陽小野田市立山口東京理科大学山口県
長野大学(長野県)
・公立諏訪東京理科大学(長野県)
公立小松大学(石川県)

私立大学の公立化に関する記事 - yuri_donovicの日記
クローズアップ:地方私大、公立化の功罪 | 毎日新聞(2019年9月6日 東京朝刊)【宮坂一則】
◆学費半額、学生戻った
 「高校の進路担当教諭の反応が変わった。中京圏からの入学者が増えている」。
 2018年度に公立化した公立諏訪東京理科大学(長野県茅野市)の牛山哲事務部長は、公立化によるメリットをそう話す。私大時代は定員割れと赤字経営に苦しんでいたが、公立化初年度の18年度入試は募集人員300人に対し全国から受験生が殺到。2370人が出願し志願倍率は7・9倍に急伸し、19年度も5・0倍と高倍率が続いている。
 同大は東京理科大が技術者養成を目指し1990年に開設した短大が前身。地元自治体や産業界の要望を受け02年に4年制大学に移行した。だが、高校生の都会志向に加え通学に不便な立地がネックになり移行後間もなく定員割れし04年度に単体で赤字に転落。学部改編などテコ入れを図ったものの、14年度には定員300人に対し入学者が202人にまで落ち込んだ。他大学などへの進路変更を理由にした中途退学者の増加にも歯止めがかからず、大学側が14年4月、地元に公立化を要請。茅野市など周辺6市町村は約2年間の検討を経て「より地域に貢献する大学として充実させる」ことを条件に受け入れた。
◆再建の「秘策」
 公立化に伴い一変したのは学費だ。私大当時、工学部の初年度学費は入学金を含め約141万円だった。公立化を機に、授業料を他の公立大と同じように国立大並みの53万5800円とこれまでの約半額に引き下げ、入学金を含めた学費を計81万7800円にした。同大2年の中島龍希さん(20)は「私立も合格したが学費のことを考えてここに決めた」と話す。
学費引き下げと「公立」ブランドが学生を引きつけており、茅野市企画部長で大学を運営する公立大学法人設立団体の事務組合の加賀美積事務局長は、「社会的信頼がより高まり、広い地域から学力の高い学生が集まるようになった。効果は大きい」と言い切る。
 地方私大の公立化は、09年度に高知工科大が口火を切った。その後、静岡文化芸術大、鳥取環境大、山口東京理科大、長野大などが続き、今年4月の千歳科学技術大で11校となった。それまで定員割れなどに苦しんでいた大学が多かったが、授業料軽減をテコに学生人気が高まり経営が好転。公立化は、立て直しの「秘策」(私大関係者)となっている。
 私大の公立化が相次ぐ背景には、生き残りを図りたい地方私大と地元の大学を失いたくない自治体の思惑が一致していることがある。
 日本私立学校振興・共済事業団の調査によると、18年度に定員割れした私大は全体の36・1%に上り、約4割が授業料などの収入で運営経費を賄えない赤字経営に陥っているとされる。特に人口減や少子化が進む地方私大の経営状況は厳しい。自治体側も、大学が無くなれば人材育成が難しくなり地元産業の衰退が加速するとの危機感が強い。これまで公立化に踏み切ったのは大学誘致に熱心だった自治体が多い。
 自治体にとって財政的なハードルが低いことも後押ししている。公立大の運営経費は、総務省都道府県や市町村に配分する地方交付税で手当てされる。自治体が公立大を運営する場合は学生数に応じて交付税が増額されるため、事実上、新たに財源を用意しなくても公立化に踏み切ることができる。自治体は交付税から大学に補助金を支給する。大学は私大時代に比べ補助金が大幅に増えて財政的に安定。それを武器に授業料を引き下げ学生を集めることができ、自治体、大学、学生の3者にメリットがある形となっている。
 これまで公立化した大学が立て直しに成功したこともあり、起死回生を図ろうと地元自治体に公立化を求める経営難の私大は増えている。だが、公立化しても定員割れなどで赤字が続けば国からの交付税だけでは運営費用が不足し自治体が財政支援を迫られる恐れがあるため、拒む自治体も出始めている。
 新潟県柏崎市桜井雅浩市長は昨年2月、地元の新潟産業大の公立化について「受け入れられない」と表明した。

姫路独協大「公立化は困難」 自主再建求める方針|姫路|神戸新聞NEXT2022.1.26
 兵庫県姫路市公立大学法人化を要望した姫路独協大(同市上大野7)について、今後の在り方を検討している有識者らの審議会は25日、4回目の会合を開き「公立化は困難」とする方向性で一致した。

徳山大学が「周南公立大学」に 公立大学化で志願倍率上昇|NHK 山口県のニュース2022.2.4
 ことし4月から「周南公立大学」として新たにオープンする徳山大学の一般選抜の志願倍率が、3日の時点で9倍余りと、定員割れとなっていた去年に比べ大幅に上がったことがわかりました。
 徳山大学は、ことし4月から周南市の市立大学、「周南公立大学」として新たにオープンすることになりました。
大学によりますと、6日から始まる一般選抜の志願者数は110人の定員に対して3日の時点で1033人、倍率にして9.4倍と、定員割れだった去年を大幅に上回っているということです。
 志願者が増加した理由について大学は、公立大学のブランドを得たことや、入学年度の学費がこれまでに比べて20万円以上安くなること、コロナ禍で地元志向の学生が増えていることなどを挙げています。

【参考:稚内北星学園大学育英館大学に改名予定)】

日本最北端の大学が廃止の危機 入学39人、補助金も…:朝日新聞デジタル2019年7月26日
 北海道稚内市の私立稚内北星学園大学を運営する学校法人「稚内北星学園」(理事長、斉藤吉広学長)は、大学の存廃について近く市と協議に入る。少子化で学生の確保が難しく、厳しい経営が続く中、国の補助金削減が追い打ちを掛けた。
 同大は1987年、短大として開学し、00年に情報メディア学部1学科の4年制に移行した。大学経営の柱は授業料収入だが、入学者の確保は当初から苦戦。定員割れを防ぐため、募集定員を180人から段階的に減らしていった。
 04年に東京サテライト校を設置したが、入学者は右肩下がりで13年3月に閉鎖。14年度から定員を50人にしても充足率は30~70%台で、今年度の入学者も39人にとどまった。外国人留学生を積極的に受け入れ、現在121人の在籍者中、ネパール人留学生が約3割を占める。ただ授業料は年間25万円で、留学生3人で一般学生のほぼ1人分にしかなっていない。
 そこに国の特別補助金減額が重なった。痛手となったのは文部科学省の経営強化集中支援事業。15、16年度は年約4千万円を受けたが、17年度は約1千万円に減額。定員の充足率や顕著な経営改善がみられないとして、18年度は補助金の申請自体が出来なくなった。
 同大は、市が「日本最北端の大学」として誘致し、校舎の建設費用なども負担して開学した。経営の悪化を受け、市は16年度から運営補助金として年5千万円(20年度まで5年間)を支出している。

 失礼ながら「格安授業料で外国人留学生をかき集めるが、それでも定員割れ」とか、「読んでて頭痛がしてきます」ね。
 で結局どうなったかと言えば、幸いなことに

北海道の稚内北星学園大存続へ 京都の学校法人が支援: 日本経済新聞2019.12.25
 経営危機にある稚内北星学園大学(北海道稚内市)は、専門学校を運営する学校法人育英館京都市)の支援を受け存続することになった。稚内市の工藤広市長が25日、市議会の全員協議会で表明した。
 育英館京都府高知県看護専門学校日本語学校などを運営。同じく松尾氏が理事長を務める別法人の京都育英館苫小牧駒沢大学苫小牧市)、北海道栄高校(白老町)を運営している。

だそうです。ひとまず「当面は稚内北星学園大学が存続すること」になった。
 この学校法人育英館ですが

学校法人育英館 - Wikipedia
【学校法人京都育英館(学校法人育英館の関連法人)】
◆2013年には廃止された京都市立看護短期大学を引き継ぎ、京都看護大学を新設
◆2017年には、学校法人駒澤大学より苫小牧駒澤大学の譲渡をうけ、文部科学省に設置者変更を申請、2021年に名称を北洋大学に変更した。

ということで「関連法人・学校法人京都育英館」も含めて今回が「3度目の経営危機大学引き継ぎ」のわけです。多分「地元自治体の支援」もあるのでしょうが、よほどそういう「経営破綻した大学の再建に自信がある」らしい。
 「苫小牧駒澤大学の譲渡」については産経が

【北海道が危ない 第5部(上)】苫小牧駒沢大が中国化する 譲渡先法人理事「中国共産党員」系列高は田中将大投手ら卒業の名門(1/6ページ) - 産経ニュース2017.6.19
【ニュースの深層】苫小牧駒澤大の中国化に「待った」 学生と保護者に広がる不安…曹洞宗が儒教系に!?(1/5ページ) - 産経ニュース2017.7.29

という無茶苦茶な「学校法人育英館&中国」誹謗記事を書いたので以前、拙記事今日の産経ニュース(6/19分)(追記・訂正あり) - bogus-simotukareのブログ(2017.6.19)、今日の産経ニュース(7/31分)(追記・訂正あり) - bogus-simotukareのブログ(2017.7.31)で批判したことがありました。
 で「2021年に名称を北洋大学に変更した」つうことは今も大学が続いてるわけです。そして今現在、産経は目立った批判などこの大学について何もしてない。
 つまりは「デマ記事であること(まあ最初からそんな話はわかりきってはいましたが)」が明白ですが、「『中国の脅威ガー』が嘘であることはモロバレなので、もはや騒がない代わりに、過去の嘘『中国の脅威ガー』を学校法人育英館に正式にわびもしない」のだからいつもながら産経には呆れます。


◆「経済安全保障」と科学技術政策(野村康秀)
(内容紹介)
 こういうタイトルですが主として論じられてるのは「秘密特許制度」です。赤旗記事紹介で代替しておきます。
秘密特許制度やめよ/岩渕氏「憲法9条と矛盾」/参院経産委2021.5.21


◆賃上げ、消費税減税で"やさしく強い経済"を─経済効果試算:岸田政権の「成長と分配」策の貧窮さが鮮明に(有働正治*15
(内容紹介)
 赤旗の記事紹介で代替。

志位委員長の代表質問 衆院本会議2022.1.21から「賃上げ、消費税減税」部分のみ引用
 日本共産党は、新自由主義を転換し、“やさしく強い経済”への大改革を行うために、つぎの五つの提案を行います。
 第一は、政治の責任で「賃金が上がる国」にすることです。人間らしい雇用のルールをつくり、非正規雇用の正規化、サービス残業の根絶、中小企業支援と一体に最低賃金の1500円への引き上げ。この三つを行うだけで、平均賃金を97年のピークに戻すことができるという民間シンクタンクの試算もあります。これらの政策を実行する意思はありますか。
(中略)
 第三は、富裕層と大企業に応分の負担を求め、消費税を5%に減税することです。世界62カ国で実施・計画されている消費税減税こそ、コロナから暮らしを守り、経済を立て直す決定打です。
(後略)

小池書記局長の代表質問 参院本会議2022.1.22から「消費税減税」部分のみ引用
 消費税の相次ぐ増税の一方、大企業や大富豪への減税で格差と貧困を広げたことも、「新自由主義的な考え方による弊害」そのものです。
 消費税の創設とその後の相次ぐ増税で実質賃金が低下し、家計消費が冷え込んだ結果、景気が悪化するという悪循環が続きました。消費税は、税制における新自由主義の大きな弊害ではありませんか。消費税減税でこの悪循環を断ち切るべきではありませんか。


◆QUAD、AUKUSと米中対立(上):米アジア戦略の新展開と日本(坂口明*16
(内容紹介)
 これに関しては「AUKUS(オーカス)による豪州への原潜提供」について「NPT違反ではないのか」「これで、よくもまあ米国も『北朝鮮の核開発』を非難できるものだ。親米国家豪州なら、中国封じ込めのためならNPT違反もOKか(呆)」「何故日本人は『唯一の被爆国』と自称しながら豪州や米国への批判が弱いのか」と批判する浅井先生の記事を紹介しておきます。
 なお、坂口記事も「浅井記事」と同様の指摘をして「AUKUS(オーカス)による豪州への原潜提供」を批判しています。

浅井基文ブログ『AUKUS下の対豪原潜提供と核不拡散体制:中国の問題意識
 9月15日に米英豪3国首脳はビデオ記者会見を行い、AUKUS(安全保障パートナーシップ)創設を発表するとともに、オーストラリアは米英の協力を得て8艘の原子力潜水艦の導入を進めることを発表しました(オーストラリア政府はフランスとの間で結んでいた通常型潜水艦導入契約を破棄したため、フランスのみならずドイツ、EUなども強く反発していますが、ここでは取り上げません)。これは、米日豪印によるQUADと同じく、アメリカの対中国対決戦略の一環です。中国が強く反発しているのは当然ですが、東南アジア非核地帯条約さらには核不拡散条約に抵触するものとして、東南アジア諸国からも懸念と警戒の声が上がっています(17日にはインドネシア外務省、18日にはマレーシアのイスマイル・サブリ首相がそれぞれ懸念表明。インドネシアは豪首相の同国訪問をキャンセル。28日にはフィリピンのドゥテルテ大統領報道官が、同大統領の閣議での指示に基づいて反対表明)。
 ところが日本国内ではこの問題がほとんど素通りされている状況です。私がネットで検索した限りでは、NPTの「抜け穴」懸念 焦る米、他国悪用の恐れも:中日新聞Webと題する9月17日付の中日新聞記事がヒットしただけで、日本共産党のしんぶん『赤旗』も正面から取り上げていません(私の読み過ごしでしたら、ごめんなさい)。核問題に日頃敏感な日本世論のこの問題に対する無関心さは異常ですらあります。自民党総裁選挙期間中に、河野太郎*17高市早苗*18は日本も原潜導入を考えるべきだという「勇ましい」発言をしましたが、その事実すらほとんどスルーされ、私は中国のニュースをチェックする毎朝の作業の中でこの事実を知ったぐらいです。思うに、アメリカによる「中国叩き」を肯定的に受け止める反中・嫌中の世論状況はいまや「病膏肓に入る」で、原潜問題とNPT、東南アジア非核地帯とのかかわりという大切な視点まで抜け落ちる、由々しき事態に陥ってしまっているのではないかと思います。
 中ロ両国の問題視発言が「ためにする」ものではないことは、国際原子力機関IAEA)のグロッシ事務局長がこの問題について9月28日、「米英豪の原子力潜水艦配備における協力は、保障と監督の視点からみると、非常に厄介な問題となる。核拡散防止条約(NPT)下の非保有国が初めて原子力潜水艦を導入することでもある。原子力潜水艦の動力炉で使用される高濃縮ウランは、同機関の保障措置の対象外となることを意味する。IAEAは、国際的な核拡散防止体制が損なわれないように、今後も米英豪と複雑な技術交渉を行っていく」と発言したことから確認できます。10月3日付の人民日報が掲載した「「パンドラの蓋」を開ける「豪核問題」」と題する鐘声署名文章は、「歴史的な制約により、この条約は十全なものとはなっておらず、原潜の動力炉の問題について明確な規定はなく、IAEAの査察システムも動力炉中の核物質が核兵器の研究開発に転用される可能性をチェックすることができない」と条約の不備を指摘した上で、「米英豪は正にこの曖昧さを利用して公然と「核取引」を行った」と批判しています。
 以下では、中国外交部の公式発言を紹介します。私は、至極当然な提起だと思います。皆さんにも先入主を脇に置いて読んでいただきたいと思います。

*1:主婦連合会常任幹事

*2:順天堂大学講師

*3:これについては例えば、ニューズウイーク日本版『ケニア、世界で最も厳しいポリ袋禁止令が施行』、プラスチック危機:世界で最も厳しいポリ袋禁止法 ケニア | 毎日新聞プラスチック危機:ポリ袋使用まさかの逮捕 ケニア | 毎日新聞参照

*4:農民運動全国連合会(全国農民連)副会長。著書『いまこそ、日本でも食糧主権の確立を!』(2008年、本の泉社)

*5:著書『農協と加工資本:ジャガイモをめぐる攻防』(2005年、日本経済評論社

*6:日本共産党農林・漁民局長、先住民(アイヌ)の権利委員会責任者、国民運動委員会副責任者(常任幹部会委員兼務)

*7:立命館大学名誉教授。著書『アジアの経済発展と開発経済学』(1993年、法律文化社)、『現代東アジア経済の展開』(2004年、青木書店)など

*8:神戸大学名誉教授。著書『ミャンマー経済入門』(共著、1996年、日本評論社)など

*9:神戸大学教授。著書『貧困の社会構造分析:なぜフィリピンは貧困を克服できないのか』(2018年、法律文化社

*10:とはいえその後、朴は政治私物化が追及され失脚し、朴批判派の文在寅氏が大統領になりました

*11:高知大学教授。著書『マレーシアにおける農業開発とアグリビジネス』(2005年、法律文化社

*12:日本私立大学教職員組合連合書記次長

*13:秩父セメント日本セメントと合併し現在は太平洋セメント

*14:山陽町と合併し現在は山陽小野田市

*15:参議院議員。著書『革新都政史論』(1989年、新日本文庫)、『まちで雇用をふやす:公共事業より巨大な社会保障・医療の経済効果』(2004年、自治体研究社)

*16:著書『国連:その原点と現実』(1995年、新日本出版社

*17:第三次安倍内閣国家公安委員長、第四次安倍内閣外相、防衛相、菅内閣行革相など歴任

*18:第一次安倍内閣沖縄・北方等担当相、自民党政調会長(第二次安倍総裁時代)、第三次安倍内閣総務相などを経て現在、自民党政調会長