高世仁に突っ込む(2022年7/3日分)

プーチンのサハリンⅡ「接収」命令 - 高世仁のジャーナルな日々

 岸田文雄総理、NATO首脳会議に日本の総理として初めて参加してロシア制裁に足並みを揃える姿勢を明らかにし、さらに日本の防衛力を5年以内に抜本的に強化することを表明した。
 これへの報復としてロシアが放ったのが「サハリンⅡ」の「接収」命令だ。

 「軍拡」を「抜本的強化」と表現する辺り、「敵基地攻撃能力→反撃能力*1」の岸田らしい詐欺師ぶりです(後述しますがそうした岸田に対する明確な批判が見られない高世にも呆れます)。岸田以前から自民党は「武器輸出→防衛装備移転」「天下り→公務員再就職」「ホワエグ→高度プロ制度」などの「言い換え」をしてきましたが。
 また、【1】NATOが「軍事同盟」であること、【2】日本はNATO加盟国でないこと、【3】ロシア非難ならNATO会議に出席しなくてもできること、【4】そもそも日本の首相の出席は今回が初めてであること、を考えれば「岸田の出席が当然」とは言えません。
 中国「NATOはウクライナ危機を口実に新冷戦を仕掛けてはならない」--人民網日本語版--人民日報2022.6.29
 中国、NATO首脳会議に反発「中国を攻撃、中傷」 - 産経ニュース2022.6.30
と言う報道があるように、NATOが中国を脅威扱いする声明を出したことで中国側が「NATOとクアッド(日米豪印)の連携による中国封じ込め(岸田の出席もその一環?)」を懸念し、反発してるのだからなおさらです。日中関係が悪くなりかねない。
 そうした岸田批判をしないどころか「そうした批判の存在にも触れない」自称「護憲派」の高世には心底呆れます。
 なお、岸田発言については、赤旗NATO首脳会議での首相の姿勢/東アジアの緊張と分断を激化させる/志位委員長が批判(2022.7.2)を紹介しておきます。
 しかしプーチンの行為は「報復」なんですかね?

 大統領令は、日本の三井物産三菱商事が出資する現在の運営会社「サハリンエナジー」の資産を、露側が設立する新会社に引き継がせるとしている。外国企業は新法人の株主として参画できるが、露側が示す条件に同意する必要がある。

ですからね。
 「露側が示す条件」がどんなものになるか(今のところ不明)と言う問題はありますが「日本の自主撤退(?)」を引き出すことが狙いとしか思えない「絶対に飲めない無理難題」ならともかく「現状と比べてロシアに明らかに有利*2だが飲もうとすれば飲める」のならば「報復」というより【1】日本に今後もサハリン2に参加しろ、欧米の批判に屈するなと踏絵を踏ませるとともに【2】これを機会にロシアに有利な設定を再構築するという狙いではないか(そうした狙いに日本の政府や企業が応じるか*3はともかく)。 
 また、今回の接収が「岸田のNATO会議出席」の後とはいえ、「出席後にわざとぶつけた」のか「単なる偶然」なのかはわからないでしょう。高世は勝手に「わざとぶつけた」と見ていますが、そう見なすまともな根拠はあるのか?

 2000年に大統領に就任してからはエネルギー産業の国有化に舵を切った。

 「国有化のやり方の是非」と言う問題は無論あります。
 しかし、それをひとまず置けば「国有化それ自体」は必ずしも「悪ではない」でしょう。
 何せロシアはソ連崩壊後「工業力ががた落ち」し、主要産業が「石油、天然ガス」しかない(この点、工業大国に発展した中国は「ロシアと逆の道」を歩んだわけです)。
 この状況で「石油、ガス産業を国有化」し、国が石油、ガスの収益を確保した上で「何らかの工業振興策(例えばプラスチック製造など、石油化学産業。あるいは半導体製造など石油とは関係ない工業)」を行い「工業大国としてのロシアの復活、復権を目指す」というのは合理的な選択肢の一つでしょう。
 問題は【1】そのような工業振興策を行わなかった(国有化による収益は軍拡など工業振興と関係ない分野に投入された)のか、【2】工業振興策を行ったが失敗したのかはともかく、「国有化による産業振興」の成果がプーチン政権において「ない」ことですが。

【参考:ロシアの国営エネルギー企業】

ロスネフチ - Wikipedia
 ロシア最大の石油会社(国営)。ソ連時代の石油工業省を母体に1993年に設立された。
 現在の会長はイーゴリ・セーチン*4

ガスプロム - Wikipedia
 天然ガス企業。ロシア政府が5割の株を取得。現在の会長はヴィクトル・ズプコフ*5

 脚注にも書きましたが、会長のセーチン、ズプコフともにプーチン最側近の一人であり、プーチンにとっての両企業の重要性が分かります。

*1:「反撃」では「敵基地を攻撃しない反撃(例:ウクライナの抗戦は現時点ではロシア軍基地を攻撃していない)もあり得る」「専守防衛にとどまる反撃もありうるし、そうした反撃ならほとんどの敵基地攻撃能力反対派(例:共産党社民党)は反対しない」と言う意味で「敵基地攻撃能力→反撃能力」の言い換えは詐欺も甚だしい。

*2:多分そうなるのでしょう

*3:なお「飲めない条件で撤退させる」と思い込んでるのか、高世は「新条件を飲んで残留」の可能性については全く論じていません

*4:プーチンサンクトペテルブルク市第一副市長(1994~1996年)だった頃からの側近で「プーチン第一副市長」の下で第一副市長官房長を務めた。1996年、プーチンを登用したサプチャーク市長(2000年に死去、62歳という早死にのため、一部からはプーチン(2000年当時、大統領)による暗殺疑惑が取り沙汰されている)の落選に伴いプーチン(第一副市長を辞任)とともにサンクトペテルブルグを去る。1999年、第一副首相秘書局長(第一副首相はプーチン)を経て、首相秘書局長(首相はプーチン)に就任。2000年1月、プーチンが大統領代行に就任すると、大統領府副長官に任命された。2008年5月~2012年5月までプーチン内閣副首相(当時の大統領はメドベージェフ(現在、安全保障会議副議長(議長はプーチン)、統一ロシア党首))。2012年5月からロスネフチ会長(イーゴリ・セーチン - Wikipedia参照)

*5:プーチンサンクトペテルブルク市対外関係委員会議長(1992~1993年)だった頃からの側近で「プーチン議長」の下で第一副議長を務めた。プーチン政権で首相(2007年9月~2008年5月)、プーチン内閣第一副首相(2008年5月~2012年5月:当時の大統領はメドベージェフ)などを歴任。2008年6月からガスプロム会長(ヴィクトル・ズプコフ - Wikipedia参照)