今日のロシアニュース(2023年2月24日分)(副題:ハーシュの『ノルドストリーム爆破』CIA謀略説)(追記あり)

ノルドストリーム爆破事件:セイモア・ハーシュ独自取材報道|コラム|21世紀の日本と国際社会 浅井基文のページ
 「CIA謀略説」というハーシュ*1報道が信頼できるかどうかには現時点では疑問符がつきますが、一方で「ノルドストリーム爆破」について未だにロシア、ウクライナ、米国など「誰の犯行か」確定的な報道がないのも事実でしょう。現時点では犯行動機、犯人とも確実に信用できる情報は無く謎が多いと言わざるを得ないでしょう。


米英主要メディアの醜態-ハーシュ発言の取り上げ方-|コラム|21世紀の日本と国際社会 浅井基文のページ

 ノルドストリーム・パイプライン破壊に関する2月8日のセイモア・ハーシュのブログ発言*2に対する西側主要メディアの対応は総じて異様です。私は日本のマスコミにはとうの昔から愛想を尽かしていますが、ハーシュのスクープに対する米英主要メディアの対応を知って、「ブルータスよ、おまえもか」という絶望感を今更ながら味わいました。
 ハーシュ自身が2月11日、Radio War Nerdとのインタビューの中で、主要メディアがモスクワとキエフの紛争に関して多くのことを報道していないと指摘し、(中略)ニューヨーク・タイムズワシントン・ポスト、CNNなどはバイデン政権の宣伝塔になってしまっており、「その画一報道ぶりは驚くばかりだ」と指摘しています(2月13日付けロシア・トゥデイ)。イギリスのフィナンシャル・タイムズ、ガーディアン紙なども無視です。
 比較的まともな報道が絶無というわけではありません。例えば、ロイター通信(ただし、後述参照)とAFPはハーシュ発言内容を速やかに紹介するとともに、ハーシュがかつてヴェトナム戦争時のミライ虐殺*3報道でピューリッツア-賞を受賞した経歴の持ち主であることも紹介しました(2月9日付け環球時報ニューメディア)。また、カナダのニューズ・メディアであるウェスタン・スタンダード(2月10日)は、ハーシュの報道はここ10年で最大のニュースの一つであり、「仮にアメリカがノルドストリームを破壊したとするならば、ドイツ、ロシア及びNATOに対する戦争行為であるとともに、経済及び環境テロリズムである」と本質を摘発する指摘を行っています(2月13日付け環球時報)。
 しかし、ニューヨーク・タイムズ、ウォールストリート・ジャーナル、CNNなどのアメリカの主要メディアは「集団失語症」(2月16日中国外交部定例記者会見における汪文斌*4報道官形容)にかかったかのごとく、バイデン政権の否定反応も含めて取り上げない姿勢を貫いています。ハーシュの経歴等に疑問符をつけるなどすることにより、ハーシュ発言の信憑性について疑問を抱かせるように読者を誘導する報道もあります。2月9日付け環球時報傘下の公式アカウント「補壹刀」によれば、ワシントン・ポストは、ハーシュ発言を紹介していますが、同じ程度の分量でハーシュの経歴を紹介しているそうです。ところが、ピューリッツァー賞受賞などの経歴には言及せず、ビン・ラディンを殺害したオバマ政権に疑問を呈したことについてホワイトハウスやCIAから猛反発を受けたことを紹介しているというのです。また、イギリスのデイリー・テレグラフは、ハーシュが「匿名のソースに依拠しすぎている」ことで批判を受けたとか、彼について「陰謀論を振りまく」という批判が少なくないとかを取り上げているそうです。また、2月13日付けの環球時報は、ロイター通信やドイツのドイッチェス・ハンデルスブラット紙が、ハーシュのかつての功績を承認しつつ、近年の報道に対しては疑問符をつけていることを指摘しています。すなわち、ロイター通信は、ハーシュの報道内容を独自に確認するすべがないとし、「この記者に対してはいろいろ議論がある」と付け加えました。ドイッチェス・ハンデルスブラット紙に至っては、「85才*5と高齢になったハーシュは伝説的人物から、もはや信用のおけない独り言をつぶやく作家に変わってしまった」とけなす始末です。
 ハーシュは2月15日のブログの中で、アメリカ主要メディアが彼の発言を無視していることを批判して、次のように指摘しました。ハーシュによれば、彼は1970年代(1972年-79年)にはニューヨーク・タイムズで報道記者をしていたし、ワシントン・ポストでも彼の文章や記事が掲載されることは普通でした。ところが今回は、「両紙はパイプラインに関するハーシュの発言について一言もなく、ホワイトハウスがハーシュ発言を否定したことについても取り上げなかった」のです。もっともこうしたことは過去にもあったそうで、1969年のヴェトナム・ミライ虐殺に関する彼の報道も同じ目に遭ったとハーシュは指摘します。この記事は1969年に5週間にわたって5回シリーズで地下メディア・グループのDispatch Newsで報道されたそうです。ハーシュは最初、ライフ誌、ルック誌などの主要誌にアプローチしたのですが門前払いを食ったそうです。
 週刊誌ニューズウィークの場合、ハーシュの記事を大きく取り上げました(2月8日及び9日)。しかし、アメリカとロシアの対決という枠組みの下でハーシュ発言を紹介し、ハーシュの発言がロシアの立場を強める性格のものであることを強調し、問題の本質(バイデン政権の犯罪・テロ行為)を覆い隠しているのです。

 とりあえずコメント無しで紹介しておきます(批判はしていませんが、批判する能力がないから批判しないだけでハーシュや浅井氏に賛同してるわけではありません)。いずれ「犯人や犯行動機」等について真実が分かる日が来るでしょうが、その日が一日も早いことを望みたい。

【追記】

令和5年2月24日 岸田内閣総理大臣記者会見 | 総理の演説・記者会見など | 首相官邸ホームページ
(記者)
 インターネット報道メディア「IWJ」代表の岩上安身です。よろしくお願いします。
 ピューリッツァー賞受賞歴のある米国の著名なジャーナリスト、シーモア・ハーシュ氏が、2月8日、ドイツとロシアを結ぶ天然ガス・パイプライン、ノルドストリームの爆破を行ったのは、米国のバイデン政権とノルウェーであるというスクープを発表しました。これが仮に事実であるとすれば、約1兆円の建設費のかかったノルドストリームにはドイツも出資しており、米国の同盟国でありG7メンバーでもあるドイツにとっては重大な背信行為にもなります。ドイツでは、野党から徹底調査をすべきという声が上がっております。
 日本政府は、このノルドストリーム爆破疑惑について、独自に検証や調査を行っているのでしょうか。
(岸田総理)
 まず、御指摘の報道記事につきましては、米政府は完全なるフィクションであるという評価をしておりますし、ノルウェー外務省もナンセンスであるとしています。多くの国々が、関与を明確に否定しているものであると思います。もちろん、おっしゃるように、調査しているという国もあるのかもしれません。その調査等については、行方は見守りたいと思いますが、多くの国において、こうした記事に関しては否定的な評価がされていると承知しております。

 こういうやりとりがあったというメモ書きとしての紹介です。俺が岩上の「ハーシュ支持」なり、岸田の「ハーシュ批判(?)」なりを支持してるわけではないことは指摘しておきます。
 まあ岸田の場合「日米核密約を否定し続けた歴代政権」と同じで「何があろうと米国非難などできない」でしょうが。
 なお、常岡も「やろうとすれば岩上のようにいくらでも首相や大臣の記者会見で質問すること」も「その他いろいろな取材活動」もできるでしょうに、何もしないのは「やる気」か「やる能力」がないからでしょう。全く無様な常岡です。

*1:1969年、ベトナム戦争でのソンミ村虐殺事件をスクープし、1970年度ピューリッツァー賞を受賞。著書『目標は撃墜された:大韓航空機事件の真実』(1986年、文藝春秋)、『アメリカの秘密戦争:9.11からアブグレイブへの道』(2004年、日経BP社)

*2:CIA謀略の疑いを指摘

*3:日本では一般にソンミ村虐殺と呼ばれる(ソンミ村虐殺事件 - Wikipedia参照)。

*4:マナウス総領事、チュニジア大使等を経て外務省報道官

*5:ハーシュは1937年4月生まれ