リケジョの少なさと日本人の物理学嫌い(2023年6/25日分)(追記あり)

リケジョ育成、「数学が苦手」固定観念打破が課題 - 産経ニュース
 今日の産経ニュース(2023年6/24日分)(副題:改めて「巣くう会の操り人形」横田滋・早紀江夫婦に悪口する、ほか) - bogus-simotukareのブログで「G7日光サミット(男女共同参画担当相サミット)」について「性暴力防止のための性教育の観点」から触れた記事G7男女相会合、24日開幕 後絶たぬ性暴力被害 教育が歯止めに - 産経ニュースを紹介しましたが、今回は「リケジョ(理系女子)」だそうです。

 昨年度は奈良女子大が女子大で初めて工学部を設置。来年度はお茶の水女子大に共創工学部(仮称)が新設される。

 時代の変化で工学部新設だそうですが、それは裏返せば長い間「女子大に工学部を作っても進学者などいない」と見なされていたということです。「教育におけるジェンダーギャップ」の一例ではあるでしょう。
 なお、ググったら他にも以下の通り、「女子大の工学系学部設立」記事が見つかりました。

リケジョに新たな選択肢?日本女子大「建築デザイン学部」新設へ 隈研吾氏らが特別招聘教員 - 社会 : 日刊スポーツ2023.6.22
 全国の女子大では、少子化の流れなどから昨今、閉校に追い込まれた学校*1も少なくない。一方、ほかの女子大でも建築系学部を設置するケースが出てきている。女子大の建築系学部や学科は、リケジョらの進路の選択肢の1つになっているようだ。

 さて話を産経記事に戻します。

 国公立大工学部の女子比率を詳しく見ると、生物工学・生命工学39%、建築学30%、応用化学28%などは比較的高い。対して、機械・航空は8%、電気・電子は7%しかなく、「工学部全体の女子比率を引き下げる構図」(河合塾教育研究開発本部の近藤治主席研究員)。
 これらは入試科目に数学や物理が必須とされる分野だ。
 「高校で物理を選択しない女子生徒が圧倒的に多いため、工学部の機械や電気といった分野は進路決定の当初から枠外に追いやられてしまっている」。
 東京大の横山広美*2教授(科学技術社会論)はこう語った上で、「中学校で女子の物理離れが起きる傾向がうかがえる。工学部の女子比率を高めるには、中学校での指導を見直さなければならない」と指摘する。

 先日、発表されたジェンダーギャップ指数では日本は「政治分野(女性政治家の数が少ない)」「経済分野(女性財界人の数が少ない:例えば日本の女性役員比率、G7で大差の最下位 30%達成ハードル高く - 産経ニュース参照)」に比べ「教育分野」のギャップは比較的低く、例えば泉も

泉健太立憲民主党代表
 ジェンダーギャップ指数、日本は教育・医療分野では、ほぼ平等達成。なのに経済、そして政治分野でより男女差が大きく女性参画が出来ていない。

等とツイート*3していましたが、それはジェンダーギャップ指数が「男女の大学進学率(しかも「大学」の中に「短大」を入れている*4)」だけでジェンダーギャップを見ているからです(勿論昔は「男女の大学進学率」にも格差があったので「男女の大学進学率」限定でも格差が消えてきたことはいいことですが)。
 このように「大学進学率」ではなく「大学学部の男女の進学分野」で見ると明らかに教育分野にも「女性は教育(教師)、看護(看護師)、保育分野(保育士)など女性の就職先が歴史的に多い分野への進学が多く、一方、例えば理系分野は少ない(女性技術者の就職先が少ないから)」というジェンダーギャップは存在します(多分、泉はそういう認識はないのでしょう)。
 ちなみに小生も高校生の時(今から30年程前の昔ですが)は「物理は捨ててたこと」をこの産経記事を読んで思い出しました。結局は「理科科目が受験科目にない私学(中央大)の文系(法学部)」に進学しましたが国立大受験(一次のセンター試験)では、「理科科目」は物理に比べ、覚える数式が比較的少ない「地学か生物」を選択した記憶があります。まあ、「物理が嫌い→勉強しない→明らかに成績が悪い」と言う面もありましたが(ちなみに社会科科目(一次のセンター試験)は、公民、地理に比べ、受験科目に採用してる大学が多い世界史や日本史を選択。まあ、歴史評論 カテゴリーの記事一覧 - bogus-simotukareのブログと言う記事を書く小生は比較的、歴史は好きな方でもありますが)。「数学嫌い」というか「数式嫌い(俺もその一人ですが)」が「物理を嫌う→勉強しない→成績が悪くなる→さらに物理が嫌いになり、文系だし、理系科目がないことが多い私大受験は勿論、国立大の場合も、大学入試一次試験(俺の時代はセンター試験)で使わない(他の理系科目を使う)から物理は捨て科目でいいやとまで思い始める(悪循環の無限ループ)」のは「男女は関係ない一般的傾向」の気がします。
 素人なので妙案は全く思いつきませんが、女子に限らず男子も含めて「こどもの物理離れ」を防ぐ策が必要ではないか。
 最後に「物理離れ」「物理嫌い」でググってヒットした記事をいくつか紹介しておきます。

理科離れ - Wikipedia
 国際教育到達度評価学会が実施した「国際数学・理科教育調査」により、日本の生徒は成績が良いにもかかわらず、理科が楽しいと思う生徒が極めて少ないことが挙げられる。科学技術・学術政策研究所の比較調査においても、日本国民の科学技術に対する関心は他の2カ国(アメリカ、イギリス)と比較して低い。
 文部科学省が発表している学校基本調査によると大学・大学院生の比率は、理学部が3.5%(平成9年度)→3.4%(平成19年度)→3.1%(平成29年度)、工学部が19.5%(平成9年度)→16.7%(平成19年度)→14.9%(平成29年度)まで低下している。

大人のための高校物理復習帳 桑子研著 - 日本経済新聞2013.6.21
 いまや、高校で物理学を履修する生徒が3割を切ったとも言われる。科学技術大国日本は、物理嫌い大国になりつつあるのだ。

国民は物理学をどう見ているか(柴田鉄治*5
 日本物理学会の50周年*6,おめでとうございます.記念特集号に外野から見た感想を書くようにとの依頼を受けました.大変,難しい注文であり,それに,私自身,かつては物理学にあこがれ,大学まで物理系の研究者になることを夢見ていた人間ですので,純粋の外野ともいえません.ただ,大学から社会に出る時,アカデミズムからジャーナリズムへと転身した人間として,常に,物理学と社会との中間に位置して来たとはいえるようにも思いますので,期待に添えるかどうか分かりませんが,「国民は物理学をどうみているのか」というテーマで一文を書いてみようと思います.
(中略)
 いま,青少年の「理科離れ」,なかでも「物理離れ」が目立っています.物理学を学ぼうとする人が減りつつあるのです.日本物理教育学会でも,危機感をもって,どう対応すべきか対策を模索しているようです.
 ひとつは,小中学校での理科教育に問題がありましょう.知識としての詰め込み教育に偏って,観察や実験など理科のたのしさを教えることが足りないという指摘は,かねてから言われていることです.また,高校では,大学入試に物理が有利かどうか,といったことが焦点となってしまって,物理学の本当の面白さを味わうところまで,とてもいかないようです.
 さらに,理科離れを決定的にしたのは,「バブル経済」でした.理科系の学生まで銀行や証券会社に殺到したわけですが,それは,給与などの待遇がメーカーや研究機関などより格段によかったからです.「これでは文系より勉強も大変な理系へ行っても得なことはない」といった風潮が広がり,理科離れに拍車がかかったようです.
 バブル経済の崩壊で,こうした現象はすっかり影をひそめましたが,理科離れ物理離れだけは,後遺症として残ってしまいました.大学の理系に優秀な学生が集まらなくなったという現象は,いまも続いているようです.

日本物理学会創立50周年によせて(岡本和夫・日本数学会理事長)
 近年若者の理工系離れが話題になっております.理工系離れは物理離れに象徴され,物理離れは学問離れに通じるとも警告されています.いずれにせよ,物理離れと数学離れが表裏一体であることだけは間違いないようです.暗い話で恐縮ですが,幸いなことにこれは,運命では決してなく切り開くべき障害であります.それでも,物理学会と数学会とが別々に対応していては勝てそうもありません.日本物理学会には,物理学者として物理教育を考える組織がありますが,日本数学会にも同様なグループが構成されております.この両者はお互いに連絡をとりつつ検討と活動を開始しています.このような連携はこれまであまり例がなかったと思いますが,私共も皆様と協力してこの難問に立ち向かう覚悟でおります.
 最後に重ねて,日本数学会を代表し,日本物理学会創立50周年のお祝いを心より申し上げます.

【追記】
 ふと「ノーベル物理学賞の女性受賞者てどんな人がいるんやろ?」と思いメモしておきます。

マリ・キュリー - Wikipedia
 1867~1934年。放射線の研究で、1903年ノーベル物理学賞(夫ピエール・キュリーとの共同受賞)、1911年のノーベル化学賞を受賞。1935年にノーベル化学賞を受賞したイレーヌ・ジョリオ=キュリーは娘
マリア・ゲッパート=メイヤー - Wikipedia
 1906~1972年。魔法数に関する研究で、1963年、ノーベル物理学賞を受賞。死後、女性の物理学者に贈られるマリア・ゲッパート=メイヤー賞がアメリ物理学会によって創設された。
ドナ・ストリックランド - Wikipedia
 1959年生まれ。チャープパルス増幅法研究の業績で、2018年、ノーベル物理学賞を受賞。
アンドレア・ゲズ - Wikipedia
 1965年生まれ。銀河系中心部に超大質量コンパクト天体(現在ではブラックホールであると認識されている)を発見した功績で2020年、ノーベル物理学賞を受賞。

 ウィキペディアに寄れば「この4人だけ」のようでやはり女性受賞者は少ないし、これもジェンダーギャップの一例なのでしょう。

*1:これについては例えば恵泉女学園大が閉学へ、2024年度から募集停止…中学・高校は運営継続 : 読売新聞(2023.3.22)、神戸海星女子学院大が募集停止、相次ぐ女子大の閉校や共学化:朝日新聞デジタル(2023.4.18、閉校前提の学生募集停止)参照

*2:名前だけだと「ひろよし」で男性の可能性もありますが「ひろみ」で「女性であること」が横山広美 東京大学 教授 | 自己紹介・経歴・研究室でわかります。著書『図解入門・よくわかる素粒子の基本と仕組み』(2006年、秀和システム)、『なぜ理系に女性が少ないのか』(2022年、幻冬舎新書)等

*3:この泉ツイートは「立憲は女性の政治参画、女性の立候補をどの党よりも応援します」などとほざいてたので「道産子ナオ氏」ツイートほかにコメント(2023年6月21日分) - bogus-simotukareのブログで赤字部分について「共産よりも女性議員比率が低いくせに泉はふざけんな」と批判しておきました。

*4:確か「4年制大学の進学率」で比べれば男女格差が今もあったと思います。

*5:1935年生まれ。朝日新聞福島支局長,論説委員(教育,科学担当),科学部長,社会部長,出版局長、朝日カルチャーセンター社長など歴任。著書『科学事件』(2000年、岩波新書)、『新聞記者という仕事』(2003年、集英社新書)、『世界中を「南極」にしよう』(2007年、集英社新書)、『原子力報道』(2013年、東京電機大学出版局)等

*6:なお、1996年(今から27年前)のこと。日本物理学会 - Wikipediaによれば1877年に東京数学会社(日本数学会の前身)として「数学者も含む組織」の形で創設された。1946年には日本数学会から独立、日本物理学会として設立