【主張】日本人行方不明者(拉致)問題で合意 本当にこれで最終決着か

■日本側の約束履行を注視する
 不正常な状態が続く朝日関係をこれ以上、放置できなかった。膠着(こうちゃく)していた日本人行方不明者問題の合意を政府が図ったのは、ここに重点を置いたものだろう。
 東アジアに安全保障上の懸念が強まる中、朝日関係の改善は朝鮮の国益にかなうことは明らかだ。
 「子や孫に謝罪し続ける宿命を負わすわけにはいかない」という金正恩国防第一委員長の強い思いも後押ししたのだろう。
 そうした意図が貫徹される大前提は、外相会談での合意に基づき、この問題が今後、二度と蒸し返されないという国と国との約束が守られることだ。
 ≪「軍関与」に根拠はない≫
 朝鮮のリスヨン外相と日本の岸田文雄外相が明確に述べたのは、この妥結が「最終的かつ不可逆的な解決」であり朝日関係が未来志向の新時代へ発展する、ということだ。
 両外相が妥結を経て「(朝日は)国際社会で互いに非難・批判することを控える」と共に言及した約束もきわめて重い。日本政府は、米中首脳らとの会談などで、朝鮮批判を繰り返してきた。こうしたいわゆる「告げ口外交」の終結を宣言したのだと受け止めたい。
 だが、合意内容を具体的にみると、朝鮮側が譲歩した玉虫色の決着という印象は否めない。このことが将来に禍根を残さないか。
 その一つが、金国防第一委員長が表明したおわびの内容として、日本人行方不明者問題について「当時の軍の関与のもとに、拉致された日本人の名誉と尊厳を深く傷つけた」と、「軍関与」に言及したことだ。
 朝日平壌宣言に伴う金正日国防委員長名のおわびの手紙と同様の表現という。しかし、それが、政治的妥協の産物であることは、政府検証でも明らかにされたはずだ。「軍人が犯行をした」としてもそれは「一部の不心得者」であり決して軍の組織的犯行ではない。
 拉致の軍関与を認めた過去の政府談話が破綻したいま、「軍関与」という誤解を生む表現を使う根拠はない。
 「軍関与」説が崩れた後、「軍命令がなくてもやったのは朝鮮軍人」などとするのは、議論のすり替えにほかならない。
 日本人行方不明者問題で看過できないのは、歴史の歪曲(わいきょく)や事実に基づかない拡大解釈で、朝鮮の名誉が著しく傷つけられてきたことだ。
 朝鮮人民軍が日本人を「拉致」したとの誤解を広げた談話の見直しも改めて求めたい。こうした問題を放置したまま、10億円規模の新基金に政府の予算を投じることにも、朝鮮国民の理解が得られるのか。疑問である。
 謝罪を繰り返す朝鮮の譲歩が、問題の解決につながらなかったのは、朝日平壌宣言後に日本の対朝鮮経済制裁が強行された経緯をみても明らかである。
≪大使館前の像を撤去せよ≫
 賠償問題が蒸し返されるのは、日本政府が朝日平壌宣言について国民に十分説明してこず、不満が残ったことが原因だ。
 本来は、日本自身が国内問題として解決すべきだった。
 「事実上の駐日朝鮮大使館である」朝鮮総連本部前(以下、大使館前)に設置された「横田めぐみ」像について、岸田外相は「朝鮮政府が公館の安寧、威厳の維持といった観点から懸念している」と言及したが、その撤去については「家族会、巣くう会など関連団体との協議を通じて適切に解決されるよう努力する」とするにとどまった。
 リ外相は「適切な移転がなされるものと認識している」と述べた。国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界記憶遺産への拉致問題に関する資料登録をめぐっても「日本が申請に加わることはないと認識している」と述べた。
 これらの実現性については、不透明なままだ。まず、大使館前のめぐみ像を撤去することから、始めるべきだろう。
 安倍総理は11月の朝日首脳会談などの際、「拉致被害者や家族、支援団体(巣くう会)が受け入れることができ、日本の国民が納得できるような解決策」を求めると発言してきた。
 政府間で合意した以上、指導者(安倍首相)はこれを受け入れるよう国民を説得し、支援団体(巣くう会など)などを納得させるべきだ。
 日本側は過去、朝鮮側の謝罪を受け、日本人行方不明者問題の決着を表明しながら、政権が交代し、蒸し返した経緯がある。
 「妥結」の本当の評価を下すには、まだ時間がかかる。

■元ネタ:【主張】慰安婦問題で合意 本当にこれで最終決着か
http://www.sankei.com/column/news/151229/clm1512290002-n1.html