高世仁に突っ込む(2019年10/16分)

香港の若者は「暴徒」なのか4 - 高世仁の「諸悪莫作」日記
 高世仁に突っ込む(2019年10/14分) - bogus-simotukareのブログで取り上げた香港の若者は「暴徒」なのか3 - 高世仁の「諸悪莫作」日記の続きです。しつこく繰り返しますが平和的デモならともかく暴力デモは暴徒だと俺は思います。
 これについては海峡両岸論 第107号 2019.10.12発行 - 中国は香港に武力行使しない 依然必要な『国際金融センター』- | ちきゅう座岡田充*1

・香港デモを現地取材しているルポライター安田峰俊*2は「閉塞感が爆発した運動ゆえに、最近は『攬炒(やけくそ、死なばもろとも)』という言葉も流行りはじめた」と書く。そして「原動力は、すでに条例案の撤回ではなく、過剰な暴力を行使した香港政府・警察への復讐心と、若者層の生活の不満をぶつけるものに変わっている」とみる。
 香港問題が専門の倉田徹*3 ・立教大教授も、デモ側は「国際金融センター」としての香港の地位を破壊することで、香港の親中派既得層や北京政府へ打撃を与えることを狙い、それは「死なばもろとも」の捨て身の戦術になっているとみる。
 「自傷行為」とすらいえる戦術。香港の景気が後退しようが、不動産価格が暴落しようが構わない。むしろ米国をはじめ国際的な支持を巻き込み、米中貿易戦によって景気減速が目立つ中国経済に打撃を与えても構わない。
 一見無謀のように見えるが、反体制運動には固有の論理でもある。民衆が飢えれば、革命に立ち上がるという「窮乏革命論」にも通底する。体制側が、鎮圧のために暴力的対応に出れば出るほど、民衆が覚醒するという論理であり、私も片足を突っ込んだ1960年代後半の「新左翼運動」にもあった。

と書いてデモの暴徒性を指摘しています。
 「日本の新左翼過激派と香港デモは違う」とする高世とは異なり岡田氏は「日本の新左翼過激派と同様または類似の論理で暴力を肯定している」と見ています(岡田氏が紹介する安田や倉田教授も同じく同意見でしょう)。岡田氏の方が適切な見方でしょう。
 なお、岡田氏は
1)本土の経済成長で、返還時と比べ香港の経済的地位は低下したとは言え、全く無意味なわけではない(本土の都市で香港の経済的役割が完全にカバーできると思えない)
2)暴力デモは厄介だが、日本の極左過激派同様、中国本土どころか香港限定ですら体制転覆をもたらすとは思えない(つまり中国側にある程度の余裕がある)
3)軍で武力弾圧した場合、天安門事件当時のような欧米の経済制裁が必至
4)反中国ポピュリズムの扇動で再選を狙う蔡英文台湾総統を利する危険性がある
ということで「軍を投入してでも暴力デモを早急に鎮圧しないと香港経済が修復不可能なダメージを受ける」「デモ隊が香港独立論を叫びそれが無視できない政治力を持つ」「行政長官の暗殺(未遂含む)や襲撃」など「中国にとって容認できない&中国が軍を投入しても国際社会の反発は小さい」と考える「よほどのことがない限り」軍の投入はないだろう、そして「よほどのことはまずあり得ない」とみています。おそらくこれは暴力デモ側もそうした見方で暴力デモを続行しているのでしょうが。

 変化を感じたのは、「覆面禁止法」の10月5日からの施行を発表した4日だった。各地でデモ隊と警官隊が激しく衝突し、元朗という地区で、一人の私服警官がデモ隊に囲まれ袋叩きにあった。その警官は拳銃を発射し、14歳の少年が太腿に重傷を負った。実弾による2人目の負傷者が出たのである。デモ隊はこの警官に向けて火炎瓶を投げ、警官の服が燃え上がった。火は消されて大事に至らなかったが、この映像がネットで流れ、市民に衝撃を与えた。
 今後、銃器や爆弾など殺傷力のある武器がデモ隊側から使用されるという事態が出てきたらどうなるのか。
 暴力の応酬がエスカレートしていって極端へと走るのはこれまで他の国でも見られたことだ。
 知り合いの香港人が真剣な表情でこう言った。
 「警官隊とデモ隊、どちらに最初の死者が出るか、固唾を飲んで見ています。それによって局面が一気に変わるでしょう。どちらにしても、今以上の混乱になるのは間違いありません。とても怖いです」。
 香港情勢はいま大きな転機を迎えつつある。

 もはや暴力デモ隊は「暴徒」でしかないでしょう。こうした暴徒性は「警察の方が酷い」で正当化できるもんではないでしょう。
 こうなると実弾の発射も一概には批判できないように思います。「やむを得ない正当防衛」、あるいはそこまで言えないにせよ「過剰防衛(つまりやり過ぎであって、全くの無法な行為ではない、減刑の余地がある)」の可能性が否定できないんじゃないか。
 しかも高世ですら「銃器や爆弾」云々と「危惧の念」を言いだしています。そうなったらそれこそ「三菱重工ビル爆破」など武装闘争をエスカレートさせた日本の新左翼諸派と違いはなくなるでしょう。

*1:共同通信香港、モスクワ、台北各支局長、編集委員論説委員を経て現在、客員論説委員。著書『中国と台湾』(2003年、講談社現代新書)、『「領土問題」の論じ方』(共著、2013年、岩波ブックレット)など

*2:著書『和僑:農民、やくざ、風俗嬢。中国の夕闇に住む日本人』(2016年、角川文庫)、『さいはての中国』(2018年、小学館新書)、『移民 棄民 遺民:国と国の境界線に立つ人々』(2019年、角川文庫)、『もっとさいはての中国』(2019年、小学館新書)、『性と欲望の中国』(2019年、文春新書)など

*3:著書『中国返還後の香港』(2009年、名古屋大学出版会)、『香港:中国と向き合う自由都市』(共著、2015年、岩波新書)など