スペイン風邪(1918~1920年)での著名人の死去について(追記あり)

志村けんのNHK朝ドラ出演(追記あり) - bogus-simotukareのブログの続き的な意味で書いてます。
 先日、TBSラジオ森本毅郎スタンバイ」を聞いていたら、コメンテーターの山縣裕一郎氏*1東洋経済新報社会長)がコロナが騒がれる今「お薦めの本」として

【順番は発行年順】
1)速水融(はやみ・あきら)*2『日本を襲ったスペイン・インフルエンザ:人類とウイルスの第一次世界戦争』(2006年、藤原書店
2)内務省衛生局編集*3『流行性感冒:「スペイン風邪」大流行の記録』(2008年、平凡社東洋文庫)
3)アルフレッド・W・クロスビー*4『史上最悪のインフルエンザ:忘れられたパンデミック』(2009年、みすず書房

など『スペイン風邪(インフルエンザ)・パンデミック』関係の本を紹介していました。
 山縣氏曰く

「実はこれらの著書は最近まで品切れだったのですが、コロナ騒動で注目が集まって重版が決まったそうです」
「当時と今とでは色々違いがありますが、このスペイン風邪パンデミックについての著書から学べることが沢山あると思う」
「何故か日本人はこのスペイン風邪パンデミックを忘れてしまったように思いますが、今回の新型コロナなどと比較にならない死者数が出ている。全世界で約4000万人、日本だけでも約40万人が死亡したと言われます。今回のコロナでは有名人では例えば志村けんさん(1950~2020年、お笑い芸人)が亡くなっていますが、スペイン風邪パンデミックでは有名人では例えば島村抱月(劇作家、1871~1918年)が亡くなっています。そして抱月の弟子で愛人関係にもあったという女優・松井須磨子(1886~1919年)が抱月の死にショックを受けて後追い自殺しています。松井須磨子は『ゴンドラの唄(黒澤明『生きる』で志村喬(1905~1982年)が歌っていた例の歌)』などで割と有名だと思いますが」

云々と。
 そこで『そういえば、スペイン風邪で死んだ有名人って誰がいるのか?』と思い、ウィキペディア『スペインかぜ』を見てみますが、島村抱月以外では

【順番は誕生年順:ウィキペディア『スペインかぜ』など参照】
【海外】
グスタフ・クリムト(1862~1918年)
 オーストリアの画家。
マックス・ヴェーバー(1864~1920年
 ドイツの社会学者、政治学者。ハイデルベルク大学名誉教授。著書『古代ユダヤ教(上)(中)(下)』、『社会科学と社会政策にかかわる認識の「客観性」』、『社会学の根本概念』、『職業としての学問』、『職業としての政治』、『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』(以上、岩波文庫)、『社会科学の方法』、『歴史学の方法』(以上、講談社学術文庫)など。
エドモン・ロスタン(1868~1918年)
 フランスの劇作家。著書『シラノ・ド・ベルジュラック』(岩波文庫光文社古典新訳文庫)など。
ギヨーム・アポリネール(1880~1918年)
 フランスの詩人、小説家。著書『一万一千本の鞭』、『若きドン・ジュアンの冒険』(以上、角川文庫)など。
エゴン・シーレ(1890~1918年)
 オーストリアの画家。
【日本】
徳大寺実則(1840~1919年)
 明治、大正時代の政治家(公家出身)。侍従長宮内卿内大臣を歴任。「最後の元老」西園寺公望*5の兄。
折田彦市(1842~1920年
 明治、大正時代の文部官僚。文部省学務局長、第三高等学校京都大学の前身)校長など歴任。京都大学には折田の功績を顕彰する「折田彦市像」が設置されている。
辰野金吾(1854~1919年)
 明治、大正時代の建築家。帝国大学工科大学学長(現在の東京大学工学部長に当たる)。日本銀行本店、東京駅の設計で知られる。
◆末松謙澄(1855~1920年
 明治、大正時代の官僚、政治家。第2次伊藤*6、第2次松方*7内閣法制局長官、第3次伊藤内閣逓信大臣、第4次伊藤内閣内務大臣など歴任。
大山捨松(1860~1919年)
 元老・大山巌*8の妻。東京帝国大学総長、九州帝国大学総長、京都帝国大学総長を歴任した山川健次郎(1854~1931年)の妹。津田梅子(1864~1929年、津田塾大学創設者)とともに岩倉具視*9使節団に随行して米国留学。帰国後は津田の友人として、女子英学塾(津田塾大学の前身)を支援している。
◆西郷寅太郎(1866~1919年)
 明治、大正時代の陸軍軍人。参議、陸軍大将、近衛都督を務めた西郷隆盛の息子。第一次世界大戦中の1914年(大正3年)に東京俘虜収容所長、1915年(大正4年)に習志野俘虜収容所長。
竹田宮恒久王(1882~1919年)
 皇族。竹田宮家当主。
後藤慶二(1883~1919年)
 明治、大正時代の建築家。司法省技官として監獄等の設計に従事、豊多摩監獄(後の中野刑務所)が代表作。
村山塊多(1896~1919年)
 明治、大正時代の洋画家、詩人。
◆宇治朝子(1900~1918年)
 宝塚少女歌劇団(現在の宝塚歌劇団)団員(第3期生)。
◆由良道子(1901~1918年)
 宝塚少女歌劇団団員(第1期生)。

などが死去していますね。にもかかわらず、日本においてこの「スペイン風邪パンデミック」は最近まであまり知られてなかったように思います。

【追記】

平凡社 東洋文庫『流行性感冒』を無料公開で重版へ - 文化通信デジタル
 平凡社はこのほど、新型コロナウイルス感染拡大を受けて、10年以上前に初版を刊行し品切れになっていた東洋文庫778『流行性感冒スペイン風邪」大流行の記録』(本体3000円)をウェブで全文無料公開したところ、ツイッターなどでの反響が多く重版を決めた。東洋文庫の重版は四半世紀ぶりだという。
 同書は1918年から20年にかけて世界的に流行したインフルエンザ(スペイン風邪)について2年後の22年に日本の内務省衛生局が刊行した報告書を翻刻し、解説を付けたもの。
 2008年に東洋文庫778として初版2700部で発行。2年ほどで品切れとなり、重版未定のまま10年ほどが経過していた。
 下中美都社長によると、2009年に新型インフルエンザが流行したときにも重版を検討したが、このときはできなかったという。しかし、今回は「出版社として何かできることはないか」と考え、編集部門からの提案で無料公開に踏み切ったところ、すぐに多くの反響があって重版に至ったという。
 下中社長は「出版社には、のど元過ぎたら忘れてしまうようなことも残していく使命がある。今回、感染拡大が終息した後の世界がどうなるのかを見通すこともできない。この本は専門的な内容ではあるが、そういう時代に示唆に富む本だと思う」と話している。

100年前の内務省報告書、新型コロナで注目:朝日新聞デジタル
 100年前に「スペイン風邪」が大流行した当時の内務省の報告書に注目が集まっている。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、カミュ『ペスト』が異例の売れ行きで話題だが、小説だけでなく、かつて刊行された感染症にまつわる本がじわじわ売れている。全容がまだ見えないウイルスと向き合う手がかりを、本に求める読者が増えているようだ。
 2008年に刊行された『流行性感冒 「スペイン風邪」大流行の記録』(東洋文庫)は、1922年刊行の内務省衛生局による報告書に解説を付けた一冊だ。解説を書いている仙台医療センターのウイルス疾患研究室長・西村秀一が、古書として出回っていたこの本を入手したのが刊行のきっかけだ。「現代に復活させようという強い思いが生まれた」と記している。
 品切れ状態だったが、3月末に、ウェブで無料公開(4月30日まで)すると大きな反響があり、刊行以来初の重版になった。カタカナで書かれた文章をひらがなにし、旧字を新字に改めるなど現代でも読みやすくしているが、内容は基本的にそのまま。18年から1年以上にわたって世界中で流行したスペイン風邪では国内だけで38万人以上の死者を出したとされるが、「人の密集を避ける」といった基本は変わっていないことがわかる。西村は「あのころからもう一世紀もたとうとしている今、われわれはいったいどれだけ進歩したのだろうか」と同書で問いかけている。

感染症扱う小説や歴史書に注目 カミュ「ペスト」15万部増刷|好書好日
 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、カミュ『ペスト』(新潮文庫)が異例の売り上げで話題になった。小説以外にも、過去の感染症の研究や歴史を扱った本もじわじわ売れている。全容がまだ見えないウイルスと向き合う手がかりを、本に求める読者が増えているようだ。
 新潮社によると、『ペスト』は2月以降で15万4千部を増刷し、累計発行部数は104万部になった。ペストにより封鎖された街で、伝染病の恐ろしさや人間性を脅かす不条理と闘う人々を描く。フランスやイタリア、英国でもベストセラーになっているという。
 日本の小説で、新型コロナによる混乱を「予言している」と注目が集まったのは、高嶋哲夫*10『首都感染』(講談社文庫)。中国で強毒性の新型インフルエンザが発生し、東京が封鎖される。2月以降、計6万4千部増刷した。講談社の担当者は「パンデミックが発生した場合に、何が起こるのか、どのように対処したら良いのかを、読んだ人が冷静に判断できる内容」という。ほかに(ボーガス注:感染症をネタにした娯楽小説として)小松左京復活の日』(角川文庫)、吉村昭『破船』(新潮文庫)なども売れている。
 人文書では、1983年刊行の村上陽一郎*11『ペスト大流行』(岩波新書)が、品切れ状態から約1万部増刷した。『流行性感冒:「スペイン風邪」大流行の記録』(東洋文庫)は、100年前の内務省衛生局による報告書に、解説を付けた一冊。解説を書いている仙台医療センターのウイルス疾患研究室長・西村秀一が、古書として出回っていたこの本を入手、「現代に復活させようという強い思いが生まれた」と記す。

 「ペストとコロナと関係ないやろ?」と思いますけどねえ。ましてや娯楽読み物なんか「作り話やないか。役に立たないやろ?」と思いますけどねえ。

*1:週刊東洋経済」編集長、東洋経済新報社常務取締役・編集局長、代表取締役社長などを経て代表取締役会長。著書『東アジア経済圏90年代を読む』(1989年、東洋経済新報社)、『私のアメリカ・ジャーナリズム修行』(1992年、東洋経済新報社)、『図解・経済統計の「超」解読術』 (1996年、東洋経済新報社)(ウィキペディア『山縣裕一郎』参照)。

*2:1929~2019年。慶應義塾大学名誉教授、国際日本文化研究センター名誉教授、麗澤大学名誉教授。日本における歴史人口学研究の草分けとされる。著書『歴史人口学の世界』(1997年、岩波セミナーブックス→2012年、岩波現代文庫)、『歴史人口学で見た日本』(2001年、文春新書)、『江戸農民の暮らしと人生:歴史人口学入門』(2002年、麗沢大学出版会)、『歴史人口学研究:新しい近世日本像』(2009年、藤原書店)、『歴史人口学事始め』(2020年、ちくま新書)など(ウィキペディア『速水融』参照)。

*3:編者で分かるようにこれは『当時、内務省が編纂した調査報告書』の復刻版で旧仮名遣いなので読むのは大変です。

*4:テキサス大学オースティン校名誉教授。著書『飛び道具の人類史』(2006年、紀伊國屋書店)、『ヨーロッパの帝国主義生態学的視点から歴史を見る』(2017年、ちくま学芸文庫)など

*5:1849~1940年。第二次伊藤、第二次松方内閣文相(外相兼務)、第三次伊藤内閣文相、首相、元老を歴任

*6:1841~1909年。工部卿宮内卿、首相、貴族院議長、枢密院議長、韓国統監など歴任。元老の一人。

*7:1835~1924年。第1次伊藤、黒田、第1次山縣内閣蔵相、首相、第2次伊藤内閣蔵相、内大臣など歴任。元老の一人

*8:1842~1916年。第1次伊藤、黒田、第1次山縣、第1次松方、第2次伊藤内閣陸軍大臣内大臣など歴任

*9:1825~1883年。明治新政府で右大臣、外務卿を歴任

*10:1999年、『イントゥルーダー』(現在、文春文庫)で第16回サントリーミステリー大賞・読者賞をダブル受賞し、本格的に作家デビュー(ウィキペディア高嶋哲夫』参照)。

*11:東京大学名誉教授、国際基督教大学名誉教授。著書『近代科学を超えて』(1986年、講談社学術文庫)、『科学者とは何か』(1994年、新潮選書)、『科学史の逆遠近法:ルネサンスの再評価』(1995年、講談社学術文庫)、『ハイゼンベルク:二十世紀の物理学革命』(1998年、講談社学術文庫)、『科学の現在を問う』(2000年、講談社現代新書)、『安全と安心の科学』(2005年、集英社新書)、『あらためて教養とは』(2009年、新潮文庫)、『人間にとって科学とは何か』(2010年、新潮選書)、『奇跡を考える:科学と宗教』(2014年、講談社学術文庫)、『死ねない時代の哲学』(2020年、文春新書)など