今日の産経ニュース(2020年12月19日分)

【産経抄】12月19日 - 産経ニュース

「天下を治むるは、必ず人情に因(よ)る」。
 中国・戦国時代の法家思想の大成者、韓非子は述べ、民心の大切さを訴えた。やはり法家に連なる管子(かんし)も「政(まつりごと)の興る所は、民の心に従うに在り」と説く。民主主義とは無縁の時代から、政治には民心の把握が重要だと考えられてきたことが分かる。
▼一方で、移ろいやすい世論にばかり気を取られると、支持層の離反を招くこともある。選択的夫婦別姓への賛否をめぐる自民党内のドタバタも、従来の支持者の熱を冷まさせた。

 やれやれですね。「民心を得ることが政治では大事だ」という書き出しなので「そうか、コロナ対策での菅政権批判か」と思いきや「夫婦別姓問題で菅政権は俺たち反対派を裏切ったんだ!。党内で野田聖子など別姓賛成論者が好き勝手なこと放言しても放置している。安倍さんなら『夫婦別姓など導入しない!』と一喝して野田等を黙らせたはずだ!」「最近、別姓容認論が増えてるからと言って従来の支持層(産経曰く『反対派=従来の自民支持層』)を裏切るとは何事か!」「そういうのは民心を得ようと努力しているというのではない、ただの大衆迎合だ、ポピュリズムだ!。失望した!、菅政権に失望した!」と予想外の話の展開です。
 世論調査で「容認論が多数」の今、自民党支持層ですら産経のような「別姓絶対反対派」は少ないでしょう。
 何せ別姓制度は「選択制」ですからね。「別姓が嫌なら、あなたは同姓で良い」と言う制度で「皆が同姓でなきゃ嫌だ!」と言う人は少ない。
 ただし「別姓容認派」の多くは「別姓導入大賛成派」ではないので「反対派の反対論を押さえ込み、別姓制度を早急に導入する気までは無い」だけの話です。正直、自民党政権が別姓制度を導入しようとも「産経のような極右層」を除けば自民支持を辞める人間は自民党支持層にまずいないでしょう。
 それは「野党(立憲民主、共産、社民など)の多くが別姓支持である」から「別姓反対派の自民支持層」でも「自民支持を辞めづらい」という面もありますが、繰り返しますが「そもそも自民支持層の多くは夫婦別姓に反対ではないから」です。だからこそ自民党内にも「野田聖子*1」のような別姓賛成を公言する議員がいる。そして「党内反対派の反発」で大幅に後退したとは言え、1)「男女共同参画基本計画」当初案では夫婦別姓にかなり好意的記述だった(但し導入論ではない)、2)大幅に後退したとは言え、修正計画案において別姓賛成論が否定されたわけではない(だから賛成派も妥協した)と言う意味でも「自民党支持層が別姓反対派ばかり」であるかのような産経の物言いは明らかに嘘です。

 これに無関心か、むしろ一部閣僚が熱心に推進に動いた菅義偉*2内閣も同様である。

 一部閣僚とは「男女共同参画・女性活躍等担当相」の橋本聖子のことです。そもそも「夫婦別姓に好意的な記述がある男女共同参画基本計画案」をつくったのは橋本なのだから当たり前の話です。なお、俺の理解では他の大臣(例:別姓制度に関わりがある上川*3法相、「少子化対策(夫婦同姓を嫌う一人っ子の結婚を促進する)」にもなるのではないかという意味で坂本*4少子化等担当相、大臣になる前は別姓制度への共感を表明し異端児ぶっていた河野*5行革相)は特にそうした賛成論の立場ではなかったかと思います(但し反対論でもない)。

年内にまとめるはずだった敵基地攻撃能力を含む「ミサイル阻止」に向けた方策を、先送りにしたことも失望を呼ぶ。

 これまた失望してるのは自民党支持層においても「産経のような極右層だけ」でしょう。

 内閣支持率低下の理由は主にコロナ対策への不満からだとしても、それにとどまらない不安が残る。国会では、与野党双方から「安倍晋三前首相の時とは違う」との声が聞かれる。安倍*6内閣には、言いがかりを含めスキャンダル*7を執拗(しつよう)に追及されても動じない岩盤支持層が約3割あったが、菅内閣にはそれがないとの指摘である*8

 いやいや「岩盤支持層」とやらは別に「安倍だから支持していた」わけではないし、当然支持理由も「安倍の極右性」ではないでしょう。
 おそらく「岩盤支持層」とやらは菅も支持しているでしょう。コロナで支持率が下がったとはいえ、菅政権も未だ3割の支持はキープしており、その意味では「モリカケ、桜などで3割まで下がったが、それ以降下がらなかった安倍」と今のところ違いはありません(もちろん今後2割台に突入する可能性もゼロではありませんが)。
 「岩盤支持層」は「自民党支持層」あるいは「おらが村の先生(その『おらが村の先生』が自民党)支持層」であって、安倍だろうと菅だろうと、石破*9だろうと岸田*10だろうと「誰が総裁だろうと自民支持するような層」でしょう。
 そんなことは産経も分かっていながら
1)敵基地攻撃論について「議論しない」とはいっていないが、議論先送り
2)夫婦別姓に好意的な記述がある「男女共同参画基本計画案」について賛成もしない物の、反対もせず、党内反対派、賛成派の議論を放置し、なすがままに任せた
という「安倍ほどの極右性」を示さない菅に不満を感じ「安倍側近、安倍後継ではなかったのか!」「岩盤支持層(産経いわく「産経のような右翼層*11」)が離れても良いのか!」と強弁するわけですが、まあ、菅は無視するでしょうね。
 「支持率向上の特効薬」は『一にコロナ対策』、『二にコロナ対策』であって産経の言うような「右翼施策ではないから」です。

▼菅氏は自前の派閥を持たず、党内基盤は強くない。連立を組む公明党への気配りも必要だろう。ただ、フィレンツェの政治思想家、マキャベリは、貴族の支援を背景に地位に就いた君主は、民衆の支持を得て君主になった者よりはるかに困難が大きいという。▼理由は、前者には君主と対等だと思い込む者が取り巻く*12からである。

 言っていることがまるで意味不明ですね。そもそも自民党支持層ですら「皆が産経のような極右ではない」し、公明党議員も選挙で選ばれてるのだから「国民の一定の支持を得ている」と言う意味では自民党議員と変わりません。「選挙で選ばれてない日本経団連日本医師会など自民党支持の業界団体ならまだしも」公明党を貴族呼ばわりとは正気では無いですね。
 いずれにせよ「野田聖子が賛成を表明している夫婦別姓」がわかりやすいですが「繰り返しますが」そもそも自民党支持層ですら「皆が産経のような極右ではない」。「公明党への気配り」が無いとは言いませんがそう言う話ではない。
 産経のように「夫婦別姓と敵基地攻撃論で菅が裏切った」と言おうとも菅的には「野党支持者を含む国民どころか、自民支持層ですら意見は多様ですから」で終わりでしょう。

 菅首相は政権の正当性と立場の強化のため、来年は早期の衆院解散・総選挙で信を問うてはどうか。

 今現在、コロナが終息しても居ないのに、いつ終息するか分からないのに、よくも馬鹿が言えたもんです。そもそも何を解散理由にするのか。いずれにせよ「衆院解散・総選挙」で仮に菅が勝利した*13としても、産経の期待するような右翼路線を菅はとらないでしょう。


【主張】敵基地攻撃能力 首相の先送り判断を疑う - 産経ニュース
 むしろ新型コロナが深刻な今、そんなことにうつつを抜かす産経の方に正気を疑います。
 敵とはどこのことなのか。中国か北朝鮮かロシアか、はたまた他の国か。
 いずれにせよ日本に攻撃を加える国があると考えること自体が現実的ではない。「敵基地攻撃能力(先制攻撃能力)」がなかろうと現在、自衛隊は「世界有数の軍事力」であり在日米軍もある。自衛隊在日米軍相手に全面戦争したがる国があるわけも無い。
 そもそも軍事的に勝利すること自体が困難です。そして「フセイン政権を打倒し軍事的に勝利しても内戦勃発で政権への批判を招いた米国ブッシュ子政権」でわかるように現代の戦争は「勝てば良い」という単純な物ではない。
 なお、「敵基地攻撃能力」という産経ですがこれは本当は「先制攻撃能力」のことです。
 「先制攻撃」というと「違憲」「かえって戦争を誘発する」などの批判を受けるが故に「言い換えている」だけであり実に姑息です。

*1:小渕内閣郵政相、福田、麻生内閣消費者問題等担当相、自民党総務会長(第二次安倍総裁時代)、第四次安倍内閣総務相などを経て自民党幹事長代行

*2:第一次安倍内閣官房長官、第二~四次安倍内閣官房長官などを経て首相

*3:第1次安倍、福田内閣少子化等担当相、第三次、第四次安倍内閣法相などを経て菅内閣法相

*4:福田、麻生内閣総務大臣政務官、第二次安倍内閣総務副大臣などをへてすが内閣少子化等担当相

*5:第三次安倍内閣国家公安委員長、第四次安倍内閣外相、防衛相などを経て菅内閣行革相

*6:自民党幹事長(小泉総裁時代)、小泉内閣官房長官などを経て首相

*7:もちろん「全て言いがかりではなく重大な疑惑」ですが「言いがかりを含む」、つまり「秘書の行為で安倍氏は関係ない」と強弁してはいるものの、もはや「検察の政治的忖度で安倍は不起訴になるとしても秘書の起訴は確実とみられる」桜前夜祭疑惑について「野党やマスコミの批判には事実もあった」とさすがに認める気のようです。

*8:野党の場合「安倍とは違う」とはもっぱら「安倍ほど極右ではない(特に改憲問題で)」と言う話でしょう。

*9:小泉内閣防衛庁長官福田内閣防衛相、麻生内閣農水相自民党政調会長(谷垣総裁時代)、幹事長(第二次安倍総裁時代)、第三次安倍内閣地方創生担当相など歴任

*10:第一次安倍、福田内閣沖縄・北方等担当相、第二次、第三次安倍内閣外相、自民党政調会長(第二次安倍総裁時代)など歴任

*11:但しこれは産経の強弁に過ぎず、いわゆる「岩盤支持層」は必ずしも極右ではないでしょう。

*12:そもそも公明党云々以前に「派閥ボスでない」菅を担いだ「麻生派ボス」麻生副総理・財務相や「二階派ボス」二階幹事長は菅政権発足当初から「自分たちは菅と対等だ」「俺たちが支援しなければ菅は石破や岸田には勝てなかった」と思ってるでしょうにね。ついでにいえば安倍時代ですら二階幹事長や麻生副総理・財務相は「安倍は俺たちと対等の存在」「俺たちが支えるから安倍も政権を維持できる(見すてたらすぐに崩壊する)」と思っていたんじゃないか。

*13:もちろん俺は菅の勝利など望みませんが