常岡浩介に突っ込む(2021年2月14日分)

常岡浩介がリツイート
◆駒木明義*1
 春名幹男さん*2の『ロッキード疑獄*3』に、日ソ交渉の興味深い記述。1973年の田中角栄*4訪ソの前に、キッシンジャー*5ソ連側に領土問題で(ボーガス注:日本に)譲歩しないよう働きかけていたというのだ。

 確かにそれが事実なら興味深い話です。
 しかし
1)何故キッシンジャーがそんな働きかけをしたのか
2)なぜ「ロッキード疑獄」と言う本で「ロッキード疑獄の田中元首相には関係がある」とはいえ、「ロッキードに何一つ関係がない」そんな話が出てくるのか
3)肝心の「ロッキード疑獄」については何が書いてあるのか、気になるところです。
 いずれにせよ、それが事実ならとても「北方領土が日本に返還されるとは思えない話」ですが。
 しかし常岡も「他人の仕事」の紹介ばかりしないで「お前の仕事の紹介をしろよ!」ですね。まあ、無能なので「事実上のジャーナリスト廃業状態」という無様で滑稽な状況なのでしょうが。

【参考:春名『ロッキード疑獄』】

ロッキード疑獄 角栄ヲ葬リ巨悪ヲ逃ス 春名幹男著:東京新聞 TOKYO Web
 ロッキード(以下ロ)事件が発覚してまもなく四十五年になる。
 圧巻は、米政府が<田中(角栄元総理)が結果的に訴追されてもかまわない>と判断した理由や、ロ社の日本関係秘密文書六千ページのうち、「Tanaka」と記した証拠文書があるのを承知で二千八百六十ページ分を特捜部に渡した動機の分析だ。
 一つは、米政府が恐れたのは<反米政権が登場すれば、日米安保体制は危うくなり、在日米軍基地の維持も難しくなる>ことで、一人も逮捕されない場合、「日米結託」の事件隠しだと反発を招き、自民党政権が不安定化する。
 二つは、ニクソン*6キッシンジャーが、田中の対中国、ソ連、親アラブ外交を嫌悪し、田中自身をも嫌っていた。

 なるほどどうやら「田中ファンの著者(春名氏)」による「ダグラスグラマン疑惑の岸*7、小説『金環蝕』のモデルになった九頭竜ダム疑惑の池田、リクルート疑惑の中曽根*8や竹下*9、佐川疑惑の細川*10(疑惑自体は首相就任前の熊本県知事時代ですが)、日歯連疑惑の橋本*11故人献金疑惑の鳩山*12モリカケ疑惑の安倍*13などと言った他の元首相は訴追されなかったのに、田中元首相だけが何故訴追された!」という恨み節の本のようです。
 まあ、訴追された元首相と言えば田中以外では昭和電工疑惑の芦田*14元首相がいますがほとんどいないことは事実です。なお「刑事訴追はされなかった」とはいえ、岸は国会議員引退、中曽根も一時離党(ほとぼりが冷めた頃に復党しますが)、竹下、細川、鳩山は首相辞任に追い込まれてますし、安倍の最大の退任理由は「コロナ」とはいえモリカケも「辞意に影響した」でしょうから、彼らの多くは「全く無傷」というわけでもありません。
 いずれにせよ春名著書には「田中以外の訴追された政治家(元幹事長の橋本登美三郎*15など)」「政商・小佐野賢治国際興業社主)」「右翼・児玉誉士夫」などといった「田中以外のロッキード事件登場人物への言及」は恐らく少ないのでしょう。
 それはともかく「田中関係文書」を日本政府に渡した当時の米国政府は

一人も逮捕されない場合、「日米結託」の事件隠しだと反発を招き、自民党政権が不安定化する

ということでつまりは「責任を自民党政権(当時は三木政権)に押しつけて逃げた」わけです。
 「田中関係の文書を渡して三木*16首相が、あるいは福田*17(三木政権で副総理・経済企画庁長官)や大平*18(三木政権で蔵相)ら自民幹部政治家がどう動くか高見の見物をしよう。俺たち米国政府が文書提供を拒否して、日本国内の田中批判派(典型的には野党支持者)に恨まれてはかなわん。自民党に『渡さない米国が悪い、俺たちは関係ない』と責任転嫁されてはかなわん。三木が検察の田中捜査を容認しようが逆に『指揮権発動で佐藤*19幹事長、池田*20政調会長をかばった吉田*21首相』のように潰そうが、『米国は関係ない、日本政府が決めたことだ』で逃げられる」と言う話ですね。
 そしてそれは米国が「アンチ田中ではない」ものの「日本国民に恨まれてもいい、田中をかばおう」というほどの思い入れは田中には無かったと言うことでもある。
 「別に親米派なら首相が三木でも福田でも大平でも誰でも良いよ、田中をかばわなきゃいけない理由はない」つう話です。
 それはともかく、なるほど

ニクソンキッシンジャーが、田中の対中国、ソ連、親アラブ外交を嫌悪し、田中自身をも嫌っていた。

という話の流れで「田中訪ソの話」が出てきたわけです。
 しかし「田中と田中以前(例:佐藤)で対ソ連、アラブ外交に違いなんかあるか?(中国外交には勿論違いがありますが)」、あるいは「田中以降(例:三木)で対中国、ソ連、アラブ外交に違いなんかあるか?」すよねえ。著者が田中ファンであるが故の「ひいきの引き倒し」、平たく言えば「風説の流布」「陰謀論」ではないのか。
 特に「田中の対中国外交を嫌悪」つうのはマジで「意味不明」です。
 ニクソンが訪中したからこそ「田中が訪中した」のに、そしてニクソン訪中当時「米国以外の西側諸国(英仏独伊)が、既に中国と国交を樹立していた」「台湾も国連から追放されて中国が国連加盟国になった」のに、「日本はむしろ中国との国交正常化が遅い方だった」のに何を嫌悪するのか?。そもそもあの時点において田中が首相で無く「台湾ロビー岸信介を親分とする福田赳夫が首相であっても」日中国交正常化は不可避だったでしょう。
 そして「田中の対中国外交を嫌悪」てその後も日本は

福田内閣で日中平和友好条約締結
◆田中内閣外相として日中国交正常化に関与した大平正芳が首相に就任
◆海部*22内閣が「天安門事件で中止していた対中国ODA」を再開
◆宮沢*23内閣で天皇訪中

などと基本的には「田中路線(親中国路線)」なのに。
 しかもこれは五十嵐仁氏(法政大学名誉教授、全国革新懇代表世話人)も著書『戦後政治の実像:舞台裏で何が決められたのか』(2003年、小学館)で批判しているところですが、こうした「田中逮捕=米国は田中を嫌悪』説には重大な欠陥があります。
 それは「田中は逮捕されても政治力を失わず、それを米国も容認した」と言う話です。
 田中逮捕、自民離党後も田中は自民党最大派閥・田中派のボスとして君臨し、「キングメーカー」「目白の闇将軍」として、大平正芳中曽根康弘を首相の座に据えます。米国が田中を嫌悪していたのならそんなことはありえないでしょう。
 結局米国は「田中を積極的に潰したいとは思わないが、さりとて日本国民の恨みを受けてまで積極的にかばいたいとも思わない」「田中の扱いについては自民党幹部連に任せる」という話でしか無かったわけです。

 日米安保の<利権構造を構築し>、これを貪(むさぼ)り続け<無傷で人生を終えた>巨悪として元総理岸信介の名を挙げ検証している。

 なるほど「ロッキード疑獄」の副題『角栄ヲ葬リ巨悪ヲ逃ス』の「巨悪」とは「ダグラスグラマン事件で名前が浮上した岸のこと」だったわけですが、そもそもロッキード事件の「田中関連文書」のような形で「ダグラスグラマン疑惑などでの岸逮捕を実現できるような文書」が米国政府にあったのかという話です。
 仮にそうした文書が実はあり、にもかかわらず日本政府に渡さず「田中は見すてて岸はかばった」のだとしてもそれは「田中を嫌悪した」ということではなく「岸の政治的価値を考慮しかばった」と言う話にすぎません。そしてその岸もダグラスグラマン事件発覚によって「自民党重鎮としてその後も子分・福田赳夫、女婿・安倍晋太郎*24を通じて無視できない政治力を有した」とはいえ「国会議員は辞任に追い込まれている」ので「刑事責任追及をうけなかった」と言う意味では確かに無傷ですが、全く政治的ダメージが無かったわけではありません。

*1:元朝日新聞モスクワ支局長。朝日新聞論説委員。著書『プーチンの実像:孤高の「皇帝」の知られざる真実』(共著、2019年、朝日文庫)、『安倍vs.プーチン:日ロ交渉はなぜ行き詰まったのか?』(2020年、筑摩選書)

*2:共同通信ワシントン支局長、論説副委員長、特別編集委員名古屋大学特任教授、早稲田大学客員教授を歴任。著書『ヒバクシャ・イン・USA』(1985年、岩波新書)、『秘密のファイル:CIAの対日工作(上・下)』(2003年、新潮文庫)、『米中冷戦と日本』(2013年、PHP研究所)、『仮面の日米同盟』(2015年、文春新書)など(春名幹男 - Wikipedia参照)

*3:2020年、角川書店

*4:岸内閣郵政相、池田内閣蔵相、佐藤内閣通産相自民党政調会長(池田総裁時代)、幹事長(佐藤総裁時代)などを経て首相

*5:ニクソン、フォード政権で国家安全保障担当大統領補佐官国務長官を歴任。著書『キッシンジャー回想録:中国 (上)(下)』(2021年、岩波現代文庫)など(ヘンリー・キッシンジャー - Wikipedia参照)

*6:アイゼンハワー政権副大統領を経て大統領

*7:戦前、満州国総務庁次長、商工次官、東条内閣商工相を歴任。戦後、日本民主党幹事長、自民党幹事長(鳩山総裁時代)、石橋内閣外相などを経て首相

*8:岸内閣科学技術庁長官、佐藤内閣運輸相、防衛庁長官、田中内閣通産相自民党幹事長(三木総裁時代)、総務会長(福田総裁時代)、鈴木内閣行政管理庁長官などを経て首相

*9:佐藤、田中内閣官房長官、三木内閣建設相、大平、中曽根内閣蔵相、自民党幹事長(中曽根総裁時代)などを経て首相

*10:熊本県知事、日本新党代表などを経て首相

*11:大平内閣厚生相、中曽根内閣運輸相、自民党幹事長(宇野総裁時代)、海部内閣蔵相、自民党政調会長(河野総裁時代)、村山内閣通産相などを経て首相

*12:細川内閣官房副長官新党さきがけ代表幹事、民主党幹事長などを経て首相

*13:自民党幹事長(小泉総裁時代)、小泉内閣官房長官などを経て首相

*14:幣原内閣厚生相、日本自由党政調会長民主党総裁、片山内閣副総理・外相、首相など歴任

*15:池田内閣建設相、佐藤内閣官房長官、建設相、運輸相、自民党総務会長(佐藤総裁時代)、幹事長(田中総裁時代)など歴任

*16:国民協同党書記長、委員長、片山内閣逓信相、改進党幹事長(重光総裁時代)、鳩山内閣運輸相、自民党幹事長(石橋総裁時代)、政調会長(岸総裁時代)、岸内閣科学技術庁長官(経済企画庁長官兼務)、池田内閣経済企画庁長官、自民党政調会長、幹事長(池田総裁時代)、佐藤内閣通産相、外相、田中内閣副総理・環境庁長官などを経て首相

*17:大蔵省主計局長から政界入り。岸内閣農林相、自民党政調会長(池田総裁時代)、幹事長(佐藤総裁時代)、佐藤内閣蔵相、外相、田中内閣行政管理庁長官、蔵相、三木内閣副総理・経済企画庁長官などを経て首相

*18:池田内閣官房長官、外相、佐藤内閣通産相、田中内閣外相、蔵相、三木内閣蔵相、自民党幹事長(福田総裁時代)などを経て首相

*19:運輸次官から政界入り。自由党幹事長、吉田内閣建設相、郵政相、岸内閣蔵相、自民党総務会長(岸総裁時代)、池田内閣通産相科学技術庁長官などを経て首相

*20:大蔵次官から政界入り。自由党政調会長、吉田内閣蔵相、通産相、石橋内閣蔵相、岸内閣蔵相、通産相などを経て首相

*21:戦前、天津総領事、奉天総領事、駐スウェーデン公使、外務次官、駐伊大使、駐英大使など歴任。戦後、東久邇宮、幣原内閣外相を経て首相

*22:自民党国対委員長(三木総裁時代)、福田、中曽根内閣文相などを経て首相。首相退任後に新進党党首

*23:池田内閣経済企画庁長官、佐藤内閣通産相、三木内閣外相、福田内閣経済企画庁長官、鈴木内閣官房長官、中曽根、竹下内閣蔵相、自民党総務会長(中曽根総裁時代)などを経て首相。首相退任後も小渕、森内閣で蔵相

*24:三木内閣農林相、福田内閣官房長官自民党政調会長(大平総裁時代)、鈴木内閣通産相、中曽根内閣外相、自民党総務会長(中曽根総裁時代)、幹事長(竹下総裁時代)など歴任