世間に知られ始めた「田中絹代が映画監督だった」と言う事実(2021年12/28版)(追記あり)

【前振り】
 今日もしつこく「映画監督・田中絹代」ネタです。
 「しつこいって? まあ私がしつこいのは昔からなので。
 「しつこいって? しつこいの私大好き。
 「冗談はともかく」今後も「何か『映画監督・田中絹代』記事を見つけたら」紹介予定です。
 なお、「拉致問題ネタ」もそうですが、「田中絹代監督ネタ」についてもid:Bill_McCrearyさんの「好意的コメント」に励まされて「こういうコメントが頂けるならまた拉致問題ネタ(あるいは田中絹代監督ネタ)を書いてみるか」という面が大きいので小生に書いてほしいネタがある方は是非好意的コメントをお願いします(半分は冗談ですが半分は本気です)。
【前振り終わり】
現代に「発見」された監督・田中絹代、内外で上映 女性映画人に脚光:朝日新聞デジタル(佐藤美鈴、編集委員・石飛徳樹*1)2021.12.26
 世間に知られ始めた「田中絹代が映画監督だった」と言う事実(2021年12/20版) - bogus-simotukareのブログで紹介した女性監督の先駆、田中絹代再評価 意志強いヒロイン: 日本経済新聞編集委員 古賀重樹*2、2021年10月30日)や仏リュミエール映画祭 監督・田中絹代に脚光 他の邦画にない女性の視点:北海道新聞 どうしん電子版の後追い記事で、「田中評価」についてはそれほど「大きな違いはない(id:Bill_McCrearyさんの評価に比べればかなりの高評価)」のですが「何せ全国紙(朝日、読売、毎日、日経、産経)の一角である朝日新聞」ですので紹介しておきます。「日経新聞(全国紙だが経済新聞)」「北海道新聞(地方紙)」に比べたらやはり「朝日の影響力は大きい」でしょうし。また、『田中以外の女優監督の紹介(左幸子望月優子)』『日本映画における女性パイオニアの紹介』という「日経や道新にはない内容(ただし田中評価とは直接関係はない)」もあります。
 しかし、「石飛徳樹氏(朝日)」「古賀重樹氏(日経)」ともに「文化部編集委員(映画担当)」のようなので「田中絹代監督の顕彰(高評価)」はid:Bill_McCrearyさん等の批判に関係なく「日本映画業界の公式見解」になるかもしれない。まあ、確かに「大女優」は批判しづらいし、「当時の関係者」の多くが故人となった今「美化しまくっても文句言う人間も少ない」でしょうが。あえて「きついこと」を言えば「歴史修正主義」ですよね。
 まあ、「ホロコースト否定論」「南京事件否定論」などの「極右の戦争犯罪否定」と違い「実害はほとんど無い」ですが。
 いや俺も「失敗者であっても」どんな形であっても「先駆者、開拓者はその志を評価したい人間」なので「映画監督・田中絹代」の再評価それ自体には「大賛成」ですし、「映画がそれなりに優れたもの」であるならば「その再評価」にも反対しません。とはいえ「映画としての出来がそれなりにいい」のはおそらく「id:Bill_McCrearyさんのご指摘の通り、助監督(例えば、第一作の助監督は石井輝男 - Wikipedia川頭義郎 - Wikipedia*3、第二作の助監督は今村昌平 - Wikipedia齋藤武市 - Wikipedia*4でいずれも後に監督として独立)などスタッフの力によるものが多く、監督としての力量は、田中には失礼ながら昨今話題の女性監督(河瀨直美 - Wikipedia西川美和 - Wikipediaなど)とは比較できない」つうことは率直に認めるべきだと思います。そうでなければ、それは「昨今の女性監督」だけでなく田中に対しても「ひいきの引き倒し」で「むしろ大女優に失礼」だと思います。
 つうか、そんなに映画監督としての田中を評価するのであれば「田中絹代*5」も現在のような女優限定ではなく「女優部門」「女性監督部門」でやったらどうなのかと「皮肉&冗談半分」、「本気半分」で思います。

現代に「発見」された監督・田中絹代、内外で上映 女性映画人に脚光:朝日新聞デジタル
 スター俳優として映画史に名を残す田中絹代が今、監督として内外で評価を受けている。今年、カンヌ国際映画祭を始め、リヨンのリュミエール映画祭、東京国際映画祭と相次いで監督作の修復版が上映された。現代の人々をひきつけるその魅力とは。
 「女性がなかなか監督できなかった時代に6本も、しかもテーマも現代的で衝撃を受けた」「なぜ今まで話題になっていなかったのか。監督・田中絹代の偉大さを発見した」。
 11月、東京国際で開かれたイベントに登壇したカンヌ映画祭のクリスチャン・ジュンヌ代表補佐はそう語った。
 10月のリュミエール映画祭でも田中作品の上映は「毎回長蛇の列で満員御礼だった」と、参加した映画ジャーナリストの林瑞絵さん。「堂に入った演出ぶり、根底に流れる人間味、ジャンルの多様さに、専門家からは、ジャン・ルノワールジョン・フォードら巨匠監督と重ね合わせる声もあがっていました」

 田中は「マダムと女房」「愛染かつら」「西鶴一代女」などに出演した、戦前から活躍するトップスター。戦後、日本で2人目の女性監督としてメガホンをとり、1953~62年に計6作を世に送り出した。
 だが監督としては従来、決して評価は高くなかった。
 近年、映画界では監督の数、俳優やスタッフの賃金や雇用の機会など、様々な分野で男女平等を目指す動きが進む。「男女50/50」を目標とする憲章には、カンヌや東京など150を超える映画祭が署名した。女性監督の歴史的功績を見直す動きの中で、田中監督も注目され、全6作が今年、4Kデジタル修復された。
 田中絹代に詳しい明治学院大の斉藤綾子教授*6は東京国際のイベントで「女性のセクシュアリティーを繊細に、どの作品でも描いている。自分が演じてきた役柄の中では表現できなかったことを表現したいと思っていた可能性もある」と指摘した。
 監督デビュー作「恋文」は木下恵介ら映画界の巨匠たちが支援した。今年のカンヌで上映された「月は上りぬ」は小津安二郎が脚本を手がけた。中でも評価が高いのは、月丘夢路を主演に迎え、乳がんで亡くなった実在の歌人を描いた「乳房よ永遠なれ」だ。
 国立映画アーカイブの冨田美香主任研究員*7によると、「恋文」の時には「女流監督と言われるのは嫌」「監督に女性も男性もない」「女性として描ける男性のキャラクターを描きたい」と語っていた田中監督が、「乳房よ~」では「女性として感じることを女性として表現したい」と公言していたという。「抑圧された感情、鬱屈(うっくつ)しているものがどんどん高まってあの物語になっていくのがよく分かった」
 最後の監督作品「お吟さま」(62年)についても「60年代前半にこれだけ大がかりな時代劇を撮ること自体がすごい。田中絹代がアグレッシブにテーマを追求し、妥協しなかった証左だと思う」と評価した。*8
 来年1月1~7日、東京・高田馬場名画座早稲田松竹」で5本の特集上映が企画されている*9ほか、米国ニューヨーク近代美術館MoMA) では1月末に「乳房よ~」が特別上映される。フランスでは2月半ばから、全6作品の劇場公開が予定されている。
 日本の映画史で見過ごされてきた女性の作り手の仕事を発掘し紹介しようと、映画研究者らが今秋、ウェブサイト「日本映画における女性パイオニア*10」を立ち上げた。田中絹代を始め、日本初の女性監督である坂根田鶴子*11や、俳優でもあった*12左幸子*13望月優子*14といった監督に光を当てている。
 代表を務める木下千花*15・京都大大学院教授(日本映画史)によると、戦後の大手映画会社では、撮影所のシステムで将来監督になり得る助監督試験の応募資格が「大卒男子」となり、女性が長編劇映画の監督になる道が事実上閉ざされた。
 そんな中、スクリプター(記録担当)だった坂根、俳優だった田中や左、望月らが、現場で培った経験と信頼に基づいて監督業に進出したという。
 木下教授は「女性映画、女性の監督ということで周縁化され、優れた作品が忘れられている。見直す価値があると思った」と話す。
 女性の作り手の視点を示す一例として、左幸子監督作「遠い一本の道」で、夫にちゃぶ台返しをされた妻が着物についたシミを拭くシーンを挙げる。
 「生活のディテールが加わることで、描写の幅が広がる。リアルというだけでなく色々な視点が入ることで、映画が豊かに、面白くなる」

 サイトでは今後、脚本家や衣装デザイナーなど様々な形で日本映画を支えた女性たちを取り上げていく予定だという。

 かなりの高評価と思われる部分(ただし田中だけでなく左幸子も含む)を赤字で、低評価に当たる部分を青字で、「日経や道新にも出てくる田中再評価の背景事情(映画業界の男女平等云々)」について黄緑で強調してみました。「引用は省略します」が同様の「田中への高評価」は女性監督の先駆、田中絹代再評価 意志強いヒロイン: 日本経済新聞編集委員 古賀重樹、2021年10月30日)や仏リュミエール映画祭 監督・田中絹代に脚光 他の邦画にない女性の視点:北海道新聞 どうしん電子版にも出てきます。
 というか仏リュミエール映画祭 監督・田中絹代に脚光 他の邦画にない女性の視点:北海道新聞 どうしん電子版の筆者は、朝日記事に登場している「映画ジャーナリストの林瑞絵さん*16」ですが(苦笑)。
 しかし仏リュミエール映画祭 監督・田中絹代に脚光 他の邦画にない女性の視点:北海道新聞 どうしん電子版では

田中の堂に入った演出ぶりを、フランスの巨匠マルセル・カルネジャン・ルノワールと重ねる声もあった。

だったのが今回は

「堂に入った演出ぶり、根底に流れる人間味、ジャンルの多様さに、専門家からは、ジャン・ルノワールジョン・フォードら巨匠監督と重ね合わせる声もあがっていました」

ということで「ジャン・ルノワール」はそのままですが「マルセル・カルネ」が「ジョン・フォード*17」に変わっています(苦笑:なお、「過大評価過ぎて信じられない」のですが、ここでは「田中美化のための林さんのデマ」という「林さんに失礼な可能性」は無視し「外国人の社交辞令」と理解することにします)。
 まあ、俺もそれが事実なら「無理」という批判を覆して、「二刀流(監督と女優)」を成し遂げた「映画界の大谷翔平*18田中絹代の偉大さに「日本人として鼻高々」なのですが過大評価ですよねえ(再度、苦笑)。まあ、助監督がそのレベルだったというなら間違いではないのかも「しれません」が。

【2022年1/4追記】

田中絹代監督の魅力と邦画の再評価をめぐって~P=A・ヴァンサン氏に聞く - 林瑞絵|論座 - 朝日新聞社の言論サイト(林瑞絵)
 恋愛ドラマ*19歌人の評伝の映画化*20、社会派ドラマ*21、時代劇*22に至るまでジャンルは多岐にわたる。田中は(ボーガス注:小津安二郎溝口健二など)名匠の隣で黄金時代の映画作りを肌で吸収してきたからか、その映像表現は細部までプロ意識が漲り、演出は繊細かつ堂々としたものだ。
 リュミエール映画祭の映画関係者によるシンポジウムでは、田中作品をジャン・ルノワールマルセル・カルネジョン・フォードといったスケールの大きな巨匠と重ねる声も上がった。
 今回は映画監督で日本映画専門家でもあるフランスのパスカル=アレックス・ヴァンサン氏に田中絹代監督作品の魅力に加え、再評価が遅れがちな日本の古典映画の配給や受容の裏側について意見を伺った(インタビューはリヨンのリュミエール映画祭で2021年10月10日に実施)。

パスカル=アレックス・ヴァンサン
 映画監督。日本映画専門家として母校のパリ第三大学(ソルボンヌ・ヌーベル)で教壇に立つ。90年代初頭からは日本映画専門の配給会社Aliveの社員として古典映画の紹介に務めた。監督作に『美輪明宏ドキュメンタリー  黒蜥蜴を探して』(2010)、2021年にカンヌ国際映画祭のクラシック部門で紹介された『今敏*23ー夢見る人』(2021)など多数。現在は田中絹代ドキュメンタリー映画を準備中。

◆林
 田中作品の中で特に好きな映画はありますか。
◆ヴァンサン
 一番のお気に入りは『女ばかりの夜』です。信じられぬほどのダイナミズムとエネルギーに満ちています。主役を演じた若い原知佐子の存在感は驚くばかり。彼女は映画の中で香川京子浪花千栄子といった先輩に囲まれ、女優としても進化を遂げます。田中は女優たちの偉大な指揮者なのです。林光の音楽も忘れ難い。結末は驚きに溢れモダンな仕上がり。田中がいかに進歩的な人物で、女性の側に寄り添っていた監督だったかがわかります。
◆林
 再見したくなりました。
◆ヴァンサン
 二番目のお気に入りは有馬稲子仲代達矢が出演する『お吟さま』です。照明やセット、衣装などが圧倒的に素晴らしい。作品の隅々にまで行き渡る芸術性に目を見張りますが、監督として最後のこの作品には成熟さが如実に感じられ、彼女が偉大な映画監督であることの証明にもなっています。
◆林
 あなたにとって田中監督作品の魅力はなんでしょうか。
◆ヴァンサン
 やはり映画に流れる女性からの視線の強さでしょうか。当時の男性監督が手がけた他の日本映画では見られない意志的な女性たちのドラマは先駆的なものです。女性性の中で息づく鮮やかなメロドラマは、日本映画を愛する人にとって大きな発見であり、今後は邦画の黄金時代における不可欠な秀作とされることでしょう。
(以下、有料記事でほとんど読めないので略)

 また「海外の巨匠」云々です(赤字部分を参照)。林さんはある意味「一個人にすぎないから、まあ、いい」として「朝日(一応、全国紙の一角)はこれでいいのか?」ですよねえ。
 「ネオナチのホロコースト否定論」「産経の河野談話否定論」などといった「人間として許されないレベルの悪質なデマ」とは違うとはいえ「ちょっとなあ(苦笑)」ですね。
 まあ「下手に田中絹代をくさすと朝日と映画業界との関係が悪くなる」のかもしれませんが。正直「映画監督・田中絹代でそれなりに儲けたい」的な考えが映画業界にあるんじゃないのかと疑っています。

*1:著書『名古屋で書いた映画評150本』(2005年、徳間書店)、『もういちどあなたへ:追憶・高倉健』(2018年、朝日新聞出版)

*2:日経新聞大津支局長、文化部次長、京都支局長などを経て、文化部編集委員。著書『1秒24コマの美:黒澤明小津安二郎溝口健二』(2010年、日本経済新聞出版社

*3:第一作の脚本は木下恵介であり木下が自分の助監督だった川頭を送り込んだと言われる

*4:第二作の脚本は小津安二郎であり小津が自分の助監督だった二人を送り込んだと言われる

*5:田中絹代賞については、下関市立近代先人顕彰館・田中絹代ぶんか館『田中絹代賞について』田中絹代の部屋『田中絹代賞とは』参照

*6:著書『映画女優若尾文子』(共著、2003年、みすず書房)など。なお、斎藤氏は女性監督の先駆、田中絹代再評価 意志強いヒロイン: 日本経済新聞にも「田中絹代研究者」としてコメントしています。

*7:立命館大学准教授、教授などを経て国立映画アーカイブ主任研究員。著書『千恵プロ時代:片岡千恵蔵伊丹万作稲垣浩』(1997年、フィルムアート社)、『山田洋次・映画を創る:立命館大学・山田塾の軌跡』(山田洋次との共著、2011年、新日本出版社)。なお、富田氏は 【東京国際映画祭】トークイベント・ライブ配信「女性監督のパイオニア・田中絹代トーク」(11月1日18:00)。 - fpdの映画スクラップ貼が紹介するトークイベントの登壇者の一人です。

*8:「60年代前半にこれだけ大がかりな時代劇を撮ること自体がすごい。」という指摘についてですが、確かにこの時期、本格的時代劇など「よほどの大物監督」でなければ無理だったのではないか。それができた田中がいかに「昭和の大女優だったか」ということです。

*9:これについては情報(来年1月1日から7日まで、都内の早稲田松竹で、田中絹代の監督作品5本が上映される)(ほかにも、女優監督の話) - ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)参照

*10:コピー禁止設定なので引用できませんが、このサイトの田中評価はかなり好意的であり、id:Bill_McCrearyさんには賛同しがたいかと思います。

*11:坂根は新藤兼人監督の映画ある映画監督の生涯 溝口健二の記録 - Wikipedia(1975年)に溝口を知る関係者の一人(一時、溝口のスクリプターや助監督を務めたことがある)として出演している。また、坂根については池川玲子 『「帝国」の映画監督・坂根田鶴子』(2011年、吉川弘文館)という研究書がある(坂根田鶴子 - Wikipedia参照)。

*12:「俳優でもあった」つうか、田中同様に左も望月も本業は俳優ですが(苦笑)。そして田中同様、彼女らの監督としての業績は長く忘れられてきました(なお、日本映画における女性パイオニアも指摘していますが、田中に比べ左(国鉄合理化批判)や望月(帰国事業)の映画は政治色が濃厚です)。

*13:左の監督映画は遠い一本の道 - Wikipedia(1977年)(左幸子 - Wikipedia参照)

*14:望月については例えば新潟へ遠征して、北朝鮮人権映画祭を観てきた(初日のみ)(海を渡る友情) - ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)参照。

*15:著書『溝口健二論:映画の美学と政治学』(2016年、法政大学出版局

*16:著書『フランス映画どこへ行く:ヌーヴェル・ヴァーグから遠く離れて』(2011年、花伝社)

*17:1894~1973年。1935年の『男の敵』、1940年の『怒りの葡萄』、1941年の『わが谷は緑なりき』、1952年の『静かなる男』でアカデミー監督賞を四度受賞(ジョン・フォード - Wikipedia参照)

*18:大谷の場合、「二刀流」とは打者と投手

*19:香川京子森雅之が恋人役を演じる第一作『恋文』のこと

*20:中城ふみ子を取り上げた第三作『乳房よ永遠なれ』のこと

*21:第五作『女ばかりの夜』のこと

*22:最終作品である第六作『お吟さま』のこと

*23:1963~2010年。アニメ映画監督。1997年、劇場用アニメ『PERFECT BLUE』で監督デビュー。2010年、新作『夢みる機械』準備中に膵臓癌で死去(今敏 - Wikipedia参照)