世間に知られ始めた「田中絹代が映画監督だった」と言う事実(2022年3/2版)

【前振り】
 今日もしつこく「映画監督・田中絹代」ネタです。
 「しつこいって? まあ私がしつこいのは昔からなので。
 「しつこいって? しつこいの私大好き。
 「冗談はともかく」今後も「何か『映画監督・田中絹代』記事を見つけたら」紹介予定です。
 なお、「拉致問題ネタ」もそうですが、「田中絹代監督ネタ」についてもid:Bill_McCrearyさんの「好意的コメント」に励まされて「こういうコメントが頂けるならまた拉致問題ネタ(あるいは田中絹代監督ネタ)を書いてみるか」という面が大きいので小生に書いてほしいネタがある方は是非好意的コメントをお願いします(半分は冗談ですが半分は本気です)。
【前振り終わり】

田中絹代監督特集『恋文』『月は上りぬ』『乳房よ、永遠なれ』@早稲田松竹 鑑賞記録 - ひととび〜人と美の表現活動研究室
 田中絹代が生涯で監督した6本のうち5本が上映されて、全部観ることができた。
 「日本における女性の映画監督のパイオニア
 私は、田中絹代が映画を撮っていたなんて知らなかった。
 というか、たぶん多くの人は知らなかったと思う。
 2020年(?)フランス、リヨンのリュミエールフェスティバルで6本上映されて満席になり、パリ他、フランス各地で再評価されたおかげでデジタル・リマスター版の制作が叶ったそう。2021年にカンヌのクラシック部門で上映された『月は上りぬ』も人気を博したと。
 そのあたりの話は、こちらの東京国際映画祭でのトークイベントでも出ている。このトークとても良いので、ぜひ全部観ていただきたい。
恋文
 田中初の監督作品。木下恵介の脚本。とにかく初めてだからということで、大物のバックアップを感じる。
月は上りぬ
 監督作第二弾。前作の木下恵介脚本に続き、こちらは小津安二郎の脚本。父親役に(ボーガス注:小津作品の常連)笠智衆。まんま小津ワールド。
乳房よ、永遠なれ
 新聞記者・若月彰が書いた『乳房よ永遠なれ:薄幸の歌人 中城ふみ子』を田中澄江が脚本、田中絹代が監督して映画化した。
 若月の原作は、31歳で夭逝した歌人中城ふみ子との最後の交流を記したもので、映画には大月章*1の名前で登場している。中城ふみ子も劇中では、下城ふみ子*2と微妙に名前を変えている。中身はどんな本なんだろうか。古書でしか存在しない模様。

田中絹代監督特集『女ばかりの夜』@早稲田松竹 鑑賞記録 - ひととび〜人と美の表現活動研究室
※内容に深く触れていますので、未見の方はご注意ください。
・「白菊婦人寮」と呼ばれる更生施設。寮生の中には梅毒のせいで脳に影響が出て、他の寮生と違うふるまいを見せる女性が描かれる。これって『はいからさんが通る』に出てきたおひきずりさんに近い人のことでは……。
淡島千景演じる寮長の先生が説明。「ミシンの下請け、袋張り、一つのことに打ち込む根気を養うため」まるで刑務所の刑務作業。その後懲罰として独房に入れられる女性もいるので本当に刑務所。
・店主の妻*3(一応夫*4が店主?)は邦子の経歴を知っていて、こき使う。その上、「自分の洗濯物は分けているんでしょうね」との言葉まで吐かれる。「お堅い店で働いていれば信用を勝ち取れるから」「ああいうのを救ってやるのも社会事業」などとうそぶかれ、安月給で働かされる。大いなる欺瞞。
・寮長の「どうしてもっと自分を大切にしないの」という言葉が空々しく聞こえる。頑張ろうとしても経歴を知られると差別されて、対等には扱われない社会。邦子は「奥さんも旦那さんも感じ悪いな」としっかり認識しているところがいい。人として見ていないことに異議を唱える。NOの行動をとる。誇りがある。
・自由を渇望する邦子。街で客引きをするが、相手は警察だった。また寮に戻り、次の職場へ行かされる。今度は工場。たくさんの女工がいる。ここではお互いざっくばらんに開示しているようなので、早めに自分の経歴をカミングアウトしたが、邦子の想像通りにはならなかった。同年代の女性たちから激しい差別といじめに遭う。
・ぼろぼろの身体の邦子が助けを求めるのは、白菊婦人寮しかない。よほど身寄りがないということがわかる。寮長との会話。
邦子「どう悪いの?男の人が体の自由と頭を売って月給を貰ってるのとどう違う」
寮長「先生にもよくわからないけど、でも邦ちゃん、ちゃんと働くことよ。すぐに男と寝ることを考えない」
邦子「あの女工たちは自分がそれをしないで済んだから、私を蔑むのよ」
 邦子の誇り。自分はその状況、立場に置かれなかったから差別することで安心するという人間の心の仕組みを知っている。またそれを観客に向けても提示する。
・邦子の3軒目の職場、志摩バラ園。経営者夫婦*5と先輩技術者に支えられて、能力を発揮していく邦子。特に先輩の早川*6からはふつうの男の人の優しさにふれていることは大きい。
・早川に惹かれていく邦子が、過去と向き合うことを迫られる。
 早川に告げるかどうか、葛藤する邦子。結局、早川には田舎に親が決めた結婚相手がおり、「元赤線の女など、先祖の名を汚したくありません」と手紙で言われる。
・ラスト、海女になった邦子は、女たちとの仕事の中で助け合いながら生きている。実際にも海女の中には訳ありの人もいた(いる?)のかもしれない。自由になれる場所が見つかってよかったと思いつつ、仕事も過酷ではあるし、そこまでいかなければ、邦子が自分らしく生きられる道はなかったのかとも、複雑な思いになる。
 たまたま同じ日に、NHKの番組「ねほりんぱほりん」で「女子刑務所にいた人」の再放送を見た。かなり『女ばかりの夜』に近くて、衝撃だった。こちらは現代の話だし。
 邦子役の原知佐子*7は、今の時代も人気が出そうな俳優。夫は実相寺昭雄
 2021年公開の『のさりの島』、主役の山西艶子役が遺作となっている。これ観てみたい。

 「映画のできの善し悪し」はともかく「こうした映画を撮ろうと考えた田中の人道主義(?)」は高く評価したい。

田中絹代監督特集『お吟さま』@早稲田松竹 鑑賞記録 - ひととび〜人と美の表現活動研究室
 1962年公開、田中絹代最後の作品。今東光(こん・とうこう)の同名の小説を原作とし、脚色して映画化。

【パリ発コラム】「ドライブ・マイ・カー」効果? 日本映画への注目更に高まる 田中絹代監督特集、「男はつらいよ」全作上映 : 映画ニュース - 映画.com(佐藤久理子)
 今回ご紹介したいのは、大女優にして日本史上ふたり目の女性監督でもあった「田中絹代監督」の特集上映だ。田中は監督デビュー作の「恋文」(1953)を含め、6本監督作を生み出したが、その全作「月は上りぬ」(55)、「乳房よ永遠なれ」(55)、「流転の王妃」(60)、「女ばかりの夜」(61)、「お吟さま」(62)の4K修復版が、フランスで一挙に劇場リリースされた。
 溝口、小津、成瀬が巨匠として広く受け入れられているフランスでは、女優としての田中はよく知られているものの、監督作が公開されるのは初めてであり、画期的な出来事と言える。
 今回の公開を記念して、劇場を訪れた観客に無料配布する田中絹代の小冊子を記し、現在田中のドキュメンタリーを準備中の、批評家で監督のパスカル=アレックス・バンサンは、その作品についてこう評価する。
「彼女は女優としてはつねに被害者の側の役柄を演じてきましたが、ひとたびカメラの反対側に立ったとき、とても独立した、強く自由で、欲望も持った女性たちを描きました。そこが同時代の男性監督たちの視点とはとても異なるところだと思います。また6作品を見ると、彼女の監督としての進歩も見てとれる。初監督作の『恋文』では成瀬監督のアドバイスを受けたそうですが、まだ演出は不安定なものの、『女ばかりの夜』はとてもダイナミックで、この時代に出てきた大島渚吉田喜重*8らが持つヌーベルバーグの要素もある。最後の『お吟さま』では、溝口組のスタッフや脚本家*9も加わりながら、壮麗な時代劇をアーティスティックな側面も含めて見事にまとめています。フランスの観客にとっても、この時代にすでに素晴らしい日本の女性監督がいたのだということを発見する良い機会だと思います」

*1:乳房よ永遠なれ (映画) - Wikipediaによれば葉山良二

*2:月丘夢路

*3:女ばかりの夜 - Wikipediaによれば中北千枝子

*4:桂小金治

*5:平田昭彦香川京子

*6:夏木陽介

*7:1936~2020年。1970年代に山口百恵が主演した『赤いシリーズ』第2作『赤い疑惑』(1975~1976年)では主人公の恋人(三浦友和)の母親として、第4作『赤い衝撃』(1976~1977年)では主人公の義理の姉として、主人公(山口)のイビリ役として存在感を示した。(赤いシリーズ - Wikipedia原知佐子 - Wikipedia参照)

*8:大島渚篠田正浩とともに松竹ヌーヴェルヴァーグの旗手と呼ばれた。著書『小津安二郎の反映画』(2011年、岩波現代文庫)など(吉田喜重 - Wikipedia参照)

*9:お吟さま』の脚本家・成沢昌茂は溝口の遺作『赤線地帯』(1956年)の脚本も担当(成沢昌茂 - Wikipedia参照)