浅井基文ブログ『オンライン・シンポジウム「東アジアの平和に対するロシア・ウクライナ紛争の啓示」』

東アジアの平和に対するロシア・ウクライナ紛争の啓示|コラム|21世紀の日本と国際社会 浅井基文のページ

 昨日(3月20日)、「東アジアの平和に対するロシア・ウクライナ紛争の啓示」と題する中国のシンクタンク主催のオンライン・シンポジウムに出席して発言するとともに、中国側出席者の発言からいろいろ学ぶことがありました。
 中国側発言から確認したのは、次の諸点でした。
 第一、国連憲章の精神と原則の遵守の立場からは、今回のロシアのウクライナに対する武力侵攻は容認できないこと。これは当然のことですが、中国側からは、ロシアの行動はまったく予想外だったという感想が異口同音に示されるとともに、その行動は認められないという発言が続きました。
 第二、「地域の安全は軍事集団*1の強化、拡張によって保障しようとしてはならない。冷戦思考は徹底的に放棄するべきである。NATOの連続5回に及ぶ東方拡大のもと、ロシアの安全に関する正当な訴えを重視し、適切に解決するべきである。」という(ボーガス注:王毅外交部長)発言は、NATOの際限のない東方拡大がロシアの安全を脅かすに至っていることが今回の問題の根本原因であるという判断に基づくものであること。
 第三、中国は住民投票の結果を理由にクリミアをロシア領に編入した2014年のロシアの行動にも反対であること。中国側発言者はこれも国連憲章にかかわる問題と説明しましたが、同時に、台湾問題への波及を考えた上でのことであることも隠しませんでした。中国がロシアのクリミア併合を認めた場合、台湾が住民投票で独立を決定する可能性に「道を開けてしまう」可能性があるからです。
 ウクライナ問題の展開が今後の国際関係に及ぼす影響について、中国が深刻に憂慮していることもはっきり伝わってきました。一つは、アメリカ・西側がプーチン・ロシアに「退路を与えない」形で情け容赦なく攻め立てているが、戦争が長引けば長引くほど、プーチンが切羽詰まった決断に直面する可能性があることです。中国側発言者の一人は、ロシアが核兵器保有国であることをアメリカは真剣に考えて行動しなければならない、と述べたのが印象的でした。
 以下は、私がシンポジウムで行った発言です。

 正直に言いまして、ロシアが今回の行動を起こした直後はいささかショックを覚えました*2。ロシアは中国とともに、国連・国連憲章を中心とする民主的な国際関係・秩序の確立を一貫して主張してきたわけで、ロシアの今回の行動は、自らの立場を根底から覆すものだったからです。
 しかし、私は、ロシアがウクライナに対する軍事侵攻を起こす前に、アメリカとNATOに対して行っていた外交努力(特に2021年12月の「不可分の安全保障原則」を具体化する安全保障に関する協定の提案)をフォローしていました。
 つまり、アメリカとNATOが「安全保障不可分原則」を遵守せず、「東方拡大」を無制限に推し進めてきたことが、ロシアのウクライナ軍事侵攻を不可避ならしめた根本原因だということです。アメリカとNATOがロシアの今回の提案を受け入れ、「緩衝地帯としてのウクライナは残しておく」と確約さえしていれば、今回の軍事侵攻は回避できたはずでした。重要なことは、今からでも、アメリカとNATOがロシアの提案*3を受け入れさえすれば、ロシアは軍事侵攻を終了する用意がある*4ということです。
 なお、ロシアの軍事侵攻を非難する国連総会決議は、141カ国の賛成で可決されたことが大きく報道されました。しかし、私は、BRICSメンバーである中国、インド、ブラジル、南アフリカを含めて35カ国が棄権票を投じたことの重みを無視するべきではないと思います。

 やや浅井先生が「ロシアに甘い」気はします。
 ロシアの軍事圧力による「NATO加盟阻止」ならともかく「軍事侵攻」という一線を越えた時点でプーチンは「弁解の余地のない誤り」を犯したと言うべきでしょう。「軍事侵攻しなければウクライナNATO加盟を阻止できない」とか「NATO加盟阻止のためなら軍事侵攻していい」とはとても言えないからです。
 とはいえ【1】NATOの東方拡大をプーチンの反発を無視して進めたのは政治的に失策ではなかったか【2】「プーチンの侵攻の口実」をなくすためにも今からでもウクライナは「NATO非加盟」を確約すべきではないかとも一方では思うのでその点では浅井先生に共感します。

*1:NATOのこと

*2:小生も親ロシア派地域への出兵ならともかく、「ゼレンスキー政権打倒」を目指してるとしか思えない大規模侵攻にはショックを受けました。クリミア編入時ならともかく、現在はウクライナも相当にロシアを警戒しており、クリミア編入時以上に軍事対応は困難だからです。実際、ロシアが苦戦してることは言うまでもないでしょう。

*3:ここで浅井先生の言う「提案」はNATO非加盟でしょう。さすがに「ドンバス共和国独立承認」は意味してないでしょう。

*4:勿論、この点は議論が分かれるかと思います。