元大使が語るアフガニスタンの「反近代」2 - 高世仁のジャーナルな日々
先週土曜の11日、中央線西国分寺駅前のいずみホールで、映画『医師中村哲の仕事・働くということ』の上映会があった。
この映画は、「ワーカーズコープ」(日本労働者協同組合)が協同労働法成立記念として日本電波ニュース社に依頼し、一昨年製作されたもので、中村さんが「働く」ということをどう捉えていたかに焦点を当てている。
行ってみると入場受付には長い列ができていて、私はキャンセル待ち11番。なんとか会場に入れたが、定員370席が満席だった。
11日朝10時からの映画上映会でいずみホールは満席になった
あまりメジャーではない映画にもかかわらず、これだけの人が観に来るとは。中村哲医師に学ぶ、そこから生きるヒントを得る、いわば中村哲“再発見”のうねりが続いているように思われる。これは一種の社会現象と言っていいだろう。
高世も本当は気づいた上でこんな寝言を書いてるのでしょうが協同労働法成立記念という上映会の政治的性格を考えれば、「ワーカーズコープ(日本労働者協同組合)」が「協同労働法成立記念を大々的に祝いたい」と組織動員をかけた可能性は当然あります。
高橋氏は一つのエピソードを記している。
「女子供を学校に行かせる」ことをターリバーンが拒む理由 髙橋博史さん(元駐アフガン大使、拓殖大学客員教授)|じんぶん堂
ムジャヒディンが対ソ戦を戦っていたとき、日本政府は戦傷者治療プロジェクトを支援していた。近隣諸国では治療が困難な戦傷者を、日本で治療する国連のプロジェクトで、中には空爆による女性の戦傷者もいた。日本政府は彼女たちの治療のために、6カ月間の査証を発給することにした。ところが、希望者は一人もいなかった。
女性だけを外国に送って治療させることは、アフガニスタンの男性にとって「ノムース」を汚されることになるからだ。
そこで、国連機関は、家族の男性成員が付添い人として同行する方法を考え出した。
それによって、その女性の家族以外の男性との接触をコントロールし、「ノムース」が汚されないようにするのだ。その結果、希望者が出てきて、プロジェクトの実施が可能になったのである。これはもう、良いとか悪いとかではなく、慣習法、掟として存在する事実を認めるしかない。
いやいや我々の価値観からいったら「不合理で非常識で悪い」「女性を男性の付属品扱いしている女性差別」ですね。
とはいえ
1)「不合理で非常識で悪い」といって即刻改めさせることと
2)遠い将来的には「改めさせる」にしても短期のスパンでは「それは難しい」と評価して「それを前提にして良い結果を目指すこと」とどっちがより「適切で妥当か」と言う話です。
場合によっては高世が紹介する国連機関のように「2)を選ぶこと」もあり得る。しかしそれは高世が言うように「悪いことではない」と言う話とは違う。
はっきり言ってこんなんは「不合理で非常識で悪いこと」でしょう。
元大使が語るアフガニスタンの「反近代」 - 高世仁のジャーナルな日々
タリバンの女性に関する政策のベースにある考え方を理解することが必要だなと思っていたところ、高橋博史*1『破綻の戦略~私のアフガニスタン現代史』(白水社)を読む機会があった。
「私はアフガニスタンに生活して、時折、中世の世界にいるのではないかと錯覚を起こす経験をしました。
(略)
非命に斃(たお)れた友人の息子の消息を尋ねた際、数十年過ぎた今でも、友人の息子は父の仇を討つため、その相手を探すことを諦めず、仇討ちの機会が訪れるのを待っていると聞きました。血讐という「近代の価値を真っ向から否定する世界」がアフガニスタンであると言えます。」(P231-232)
この「復讐」云々の話、高世は以前も
中村哲医師の「共に生きる」哲学 - 高世仁のジャーナルな日々
バダル(復讐法)については、中村さんはこう書いている。『天、共に在り』より引用。
バダルとは、「目には目を、歯には歯を」で知られる報復である。危害を加える敵に対して、同様の報いを与えるもので、中世・近世日本の「仇討ち」に近い。
(略)
誰の目にも理不尽な仕打ちの場合、「仇討ち」を賞賛する。例えば、悪徳有力者が弱い者を殺(あや)め、やられた側に成人男子がいない場合、母親がわが子を復讐要員として育てる。宴席に招いて毒殺という例もあった。数年後「めでたく」本懐を遂げると、人々は「あっぱれ」と賞賛する。現地の新聞は「少年による殺人事件」という記事に事欠かない。ほとんどが「仇討ち」で、人々は美談として受け取る向きが多い。
として取り上げていました。
中村哲医師の「共に生きる」哲学 - 高世仁のジャーナルな日々については珍右翼・高世仁に悪口する(2022年12/6日分)(注:ベルヌ『八十日間世界一周』のネタバレがあります) - bogus-simotukareのブログでコメントしたので改めて紹介しておきます。
*1:ウズベキスタン大使館一等書記官、アフガニスタン大使など歴任(高橋博史 - Wikipedia参照)