「珍右翼が巣くう会」に突っ込む(2024年9/4日分:荒木和博の巻)

戦前と戦後の政治家で何が違うのか(R6.9.4)|荒木和博ARAKI, Kazuhiro

 福井義高さん*1と渡辺惣樹さんの著書を読んでいて本題とは違うのですがふと考えたことがありました。

 戦前と言っても「明治の政治家(例:大久保利通内務卿、伊藤博文元首相)」と「大正、戦前昭和の政治家(例:515事件で暗殺された犬養首相)」では色々と違う*2でしょうし、戦後政治家も

◆左派の土井たか子氏(1928~2014年、社会党委員長、社民党党首を歴任)と右派の中曽根元首相(1918~2019年)

◆戦前から政治活動し、戦後もそのまま政治活動を続けた鳩山一郎(1883~1959年。戦前は田中内閣書記官長、犬養、斎藤内閣文相、戦後は自由党総裁、日本民主党総裁、首相、自民党総裁)、岸信介(1896~1987年。戦前は東条内閣商工相、戦後は日本民主党幹事長、自民党幹事長(鳩山総裁時代)、石橋内閣外相等を経て首相)、片山哲(1887~1978年。戦前は社会民衆党書記長、戦後は社会党書記長、委員長、首相、民社党常任顧問)、浅沼稲次郎(1898~1960年。戦前は農民労働党書記長、戦後は日本社会党書記長、委員長)ら
◆政界(自民党の国会議員)入りしたのは戦後だが、戦前から高級官僚だった佐藤栄作元首相(1901~1975年)
◆戦前は子どもだったが、戦争経験世代である不破哲三氏(1930年生まれ、日本共産党委員長、議長を歴任)ら
◆戦争体験のない戦後世代である志位和夫氏(1954年生まれ、日本共産党議長)、田村智子氏(1965年生まれ、日本共産党委員長)、山添拓氏(1984年生まれ、日本共産党政策委員長)ら

等では「戦後政治家」と言ってもカラーが違うでしょう。「戦前政治家と戦後政治家を比べる」という考え自体に違和感を感じますね。
 まあ、戦前と戦後では政治面で「天皇制の扱い(戦前は国家元首、戦後は象徴)」「神道の扱い(戦前は国家神道、戦後は政教分離)」「軍隊の扱い(戦前は太平洋戦争など対外戦争が可能だったが、戦後は専守防衛)」「米国の扱い(戦前は重要な貿易相手国だが同盟関係まではないのに対し、戦後は日米安保)」等の「重要な違い」はありますが。
 なお、荒木は「戦前の政治家(不平士族に暗殺された大久保内務卿、東京駅で刺殺された原首相、右翼に狙撃された浜口首相、515事件で暗殺された犬養首相など)は戦後と違い命をかけてた、信念もあった」みたいなことを言っていますが、戦後だって「浅沼稲次郎社会党委員長暗殺」「本島長崎市長(当時)狙撃」などあるわけでそういう物言いはいかがなものか。とはいえ「自民党の裏金議員」には信念があるようには確かに見えませんが。
 それにしても予想の範囲内ですが、荒木の場合、本多勝一氏のようなルーズベルト陰謀論*3ではなく、いわゆるABCD包囲網ハルノート挑発論*4ですが、「戦前政治家(開戦当時の東条首相など)が必死に対米開戦を避けたがっていたのに、当時のルーズベルト米国大統領がハルノートなどで挑発したから戦争になった、悪いのはルーズベルトで日本じゃない*5(俺の要約)」と動画内で言うのには「絶句」ですね。
 「ハルノートなんか飲めるか」と戦争に打って出た昭和天皇ら「当時の支配層」ならともかく、「右翼活動家」とはいえ戦後世代(荒木や渡辺)がどこまで非常識なのか。
 大体「戦前の米国は日本を舐めてた」という男(荒木に限らずそういう右翼は多いですが)が何で戦後の「米兵不起訴密約(例えば米兵を起訴するのは、法相が指揮をすることらしい(それじゃ、検察だって、起訴なんかしたいわけがない) - ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)参照)」「思いやり予算」などの「米国の振る舞い」を批判しないのか?
 なお、福井義高さんと渡辺惣樹さんの著書とは、福井と渡辺の共著『「腹黒い」近現代史 』(2024年、ビジネス社)のことです。アマゾン紹介に寄ればこの著書は「第9章 日米開戦を求めていたアメリカ」で完全に「ハルノート挑発論」の立場です。なお、渡辺には他にも「日米開戦を米国に責任転嫁する」著書として

◆渡辺『第二次世界大戦アメリカの敗北:米国を操ったソビエトスパイ』(2018年、文春新書)
→渡辺本での『スパイ』とはハルノートの原案作成者(但し原案が書き直されてハルノートになったのであり、あくまで原案でしかない)であるハリー・ホワイト財務次官補*6のこと。ホワイトは確かに「ソ連に機密情報を流していたスパイ」だった疑いがある(少なくともソ連シンパではあったらしい)が、
1)彼の案文を採用したのはハル国務長官である(採用する義務はハルにはない)し、
2)ハルノートは、書き直されて、原案であるホワイト案より日本に対する要求内容が厳しくなっていること
3)ホワイトがソ連の命令で「日本挑発による日米戦争」を画策していたと見なす根拠がないこと
4)ハルノートは「厳しい内容(蒋介石政権打倒の放棄など)」とはいえ日本が十分飲める案であり、米国側も飲むことを期待していたこと(だからこそ油断しており、真珠湾攻撃で打撃を受けた)
から、須藤眞志*7ハル・ノートを書いた男 *8:日米開戦外交と「雪」作戦』(1999年、文春新書)等によって渡辺のような主張(ハルノートソ連謀略説)は否定、批判されている。
◆渡辺 『真珠湾と原爆:日米戦争を望んだのは誰か:ルーズベルトとスチムソン』(2020年、ワック)
 日米開戦当時、ルーズベルトは米国大統領、スチムソンは米国陸軍長官

があります。また、福井は

【アマゾンの著書紹介】
 戦争を欲したのは、(ボーガス注:ソ連共産党書記長)スターリン、(ボーガス注:英国首相)チャーチル、(ボーガス注:米国大統領)ルーズベルト!。英国とドイツは協力し、マルクス主義勢力に挑んでいた。勝者が押しつけた「第二次大戦史観」を覆し、「英独」分断の策謀を描く。

という著書『教科書に書けないグローバリストに抗したヒトラーの真実』(2023年、ビジネス社)において戦前日本どころか「ルーズベルトチャーチルヒトラーに敵対的だから第二次世界大戦になった」として「ポーランド侵攻」のヒトラーすら擁護してるようです(唖然、絶句)。「戦前日本の対米開戦」を「日本は悪くない、挑発した米国が悪い」として正当化する日本右翼は珍しくないですが「ナチドイツは戦前日本の同盟国だった」とはいえヒトラー擁護は珍しい気がします。


よど号事件と1970年代後半の拉致(R6.9.3)|荒木和博ARAKI, Kazuhiro
 タイトルだけで呆れますね。
 「誰がどう拉致したのか(よど号ハイジャックグループ(以下、よど号グループ)に限らず)」なんてことは今問題にすべきことではない。
 そんなことを云々しても拉致被害者帰国にはつながらないからです。
 だからこそ、高沢『朝鮮民主主義人民共和国:「よど号」グループの現地レポート』(1994年、三一新書)、『女たちのピョンヤンよど号グループの妻たち』(1995年、三一新書)、『祖国と民族を語る」:田宮高麿*9ロングインタビュー』(1996年、批評社)を書き、よど号グループについて当初、好意的だったのに、『宿命:「よど号」亡命者たちの秘密工作』(1998年、新潮社→2000年、新潮文庫)で一転して「よど号グループ」を拉致問題で批判して一時注目された高沢皓司も(『宿命』以外にまともな本*10が書けなかったこともあって)晩年は「ほとんど世間から忘れ去られる」という悲惨なものだった(例えばけっきょく高沢皓司も、高世仁や小林峻一らと同様、ネタに遭遇したから本を書けた一発屋だったのだろう - ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)(2022.7.13)、
高沢皓司がジャーナリスト活動を続けられなくなったのは、このようなデタラメな取材も一因ではないか - ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)(2023.10.25)参照)。
 「高沢の愛人ではないか?」と噂され、拉致への加担を告発したことで一時注目された八尾恵(著書『謝罪します』(2002年、文藝春秋))も今やその動向は全く不明です。「有本嘉代子(有本恵子氏の母、恵子氏拉致に加担したことを八尾が以前有本夫妻に謝罪している)」「高沢」の死亡時にも八尾からコメントが出てもおかしくないのに出ることはなかったと思います。


◆荒木ツイート

荒木和博がリツイート
◆予備役ブルーリボンの会
 『拉致被害者救出に自衛隊の活用を』この提言に対して当初は「荒唐無稽」との意見もありましたが、最近は元自衛官・言論人*11からも話が出るようになりました。

 呆れて二の句が継げません。今だって「荒唐無稽」が多くの評価であり、こんな寝言を支持するのは荒木と同類のウヨだけです。

*1:青山学院大学教授。右翼著書はあるが、本業は会計学で、本業では『会計測定の再評価』(2008年、中央経済社)等の著書がある。

*2:まあ、荒木が想定してるのは主として昭和戦前なのでしょうが

*3:例えばこの人たち(本多勝一氏と進藤栄一氏)大丈夫かと本気で思った(デマ本を真に受けて、ルーズヴェルト陰謀論を本気で信じている馬鹿な人たち) - ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)陰謀論もこじらせるとあまりに荒唐無稽な話になり始末に負えない(ルーズヴェルトはそんなすごい戦略家でもないし、米国だってそこまでひどい国ではないだろう) - ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)参照

*4:ハルノートは十分受け入れ可能な内容であり挑発とは言えないでしょう。

*5:もしかしたら荒木は渡辺のような「ハルノートソ連謀略説」かもしれない。

*6:1892~1948年。1948年の夏に下院非米活動委員会において、彼の名前がソ連スパイ容疑のある人物として出たため、委員会に召還された。委員会において彼は自分がスパイであることを否定したが、出席の三日後、ニューハンプシャー州の自分の農場にて心臓発作により死去。これはジギタリスの大量服用による心臓麻痺で、召還を苦にした自殺と見られている(ハリー・ホワイト - Wikipedia参照)

*7:京都産業大学名誉教授。著書『日米開戦外交の研究』(1986年、慶應通信)、『真珠湾「奇襲」論争』(2004年、講談社選書メチエ)等

*8:ホワイトのこと。但し正確にはハルノートそのものではなくその原案(ホワイト案そのままではなくホワイト案が書き直されてハルノートになった)

*9:1943~1995年。よど号グループのリーダー(田宮高麿 - Wikipedia参照)

*10:高沢皓司 - Wikipediaによれば『宿命』以外では『新左翼二十年史』(編著、1981年、新泉社)、『歴史としての新左翼』(1996年、新泉社)等の著書がありますが、多くは『宿命』以前の著書であり、また『宿命』ほど話題になりませんでした。

*11:具体的な人名を書かない点が滑稽です