新刊紹介:「経済」1月号

「経済」1月号の全体の内容については以下のサイトを参照ください。

http://www.shinnihon-net.co.jp/magazine/keizai/

 以下は私が読んで面白いと思った部分のみ紹介します。(詳しくは1月号を読んでください)

■世界と日本
アメリ中間選挙(岡田則男)】
(内容要約)
オバマ政権は上院では過半数をキープしたが、下院では、共和党に敗北した。共和党では茶会が力を強めており、オバマ政権運営が注目される。
オバマの敗北原因は景気の不振である。

【ブラジル大統領選挙(田中靖宏)】
(内容要約)
・ブラジル大統領選で前職ルラ氏の後継候補・ルセフ氏(前官房長官)が勝利した。基本的にはルセフ氏は経済では社民政策、外交では一定の対米自立というルラ政権を踏襲したものになると見られる。

【中国の第12次5カ年計画(平井潤一)】
(内容要約)
・第12次5カ年計画は内需拡大格差是正を訴えておりそれが実現できるかどうかが注目される。

レアアース問題の背景(高橋文夫)】
(内容要約)
まずは「どこへ行く、日本。(政治に無関心な国民は愚かな政治家に支配される)」の「<清流濁流>レアアース騒動の真相【しんぶん赤旗】」(http://ameblo.jp/warm-heart/entry-10676873099.html)を見よう。高橋氏もこのエントリと同様の指摘をしている。

尖閣諸島での中国漁船衝突事件をきっかけに、「中国脅威論」が勢いを増しています。とくに、日本が輸入するレアアース(希土類)の97%を占める中国産品が、事件を機に突然禁輸措置がとられたかのような報道が展開されました。大手紙の論説責任者まで「対日報復外交に経済をからめた」と論難する始末です。
 事実はかなり違います。対日輸出など需要増大に伴い、中国国内では乱開発がまん延。環境破壊、環境汚染が広がり、“にわか開発業者”を締め出す必要に迫られたのが、事の発端です。
 9月の「衝突事件」のはるか以前、日本の会計年度の「4月出荷分から、40%ていど削減したい」というのが、中国側の意向でした。「それは困る」という日本側との交渉が長引いているうちに、9月に至ったというのが、事実経過であり、「闇討ち」のような話ではありません。この件は、9月の日中経済協会・経団連訪中ミッションでも議題として取り上げられました。

 つまり、レアアース禁輸問題には尖閣問題の報復的要素があったとしてもそれオンリーではない(そう言ったことをちゃんと報じない日本のマスコミはゴミだな)。いずれにせよ今の中国でのレアアースの採集のやり方は焼き畑農業的な無茶苦茶なやり方で、このまま続けられるものではないようだ。
 高橋氏も「中国以外にもレアアースを確保することが必要」としている。

■特集「激動する世界・新自由主義に抗して」
【インタビュー「世界の新しい流れをどうつかむか」(緒方靖夫)】
(内容要約)
・「世界の新しい流れ」=「アメリカからの自立をめざす流れ(中南米中道左派系政権など)」「それに関連して多極化をめざす流れ」「新自由主義の問題点を克服しようとする流れ」。この流れに日本も少しでも貢献すべき。

【座談会「新自由主義の破綻と世界経済の構造変化」(吉川久治、堀中浩、萩原伸次郎、山崎圭一)】
(内容要約)
・問題認識は大筋では緒方インタビューに近い。

【改革を迫られるIMF世界銀行(毛利良一)】
(内容要約)
IMF世界銀行には「アメリカ寄り」「ネオリベ寄り」との批判があり、それを克服すべきとの指摘。世界銀行総裁が全員、アメリカ人という指摘には少々びっくり。ウィキペ「世界銀行」によれば「世界銀行の総裁には米国出身者、国際通貨基金の専務理事には欧州出身者が選出されるのが暗黙の了解になっている」そうだ。
 なかにはウォルフォウィッツ(第10代総裁、ブッシュ政権で国防副長官)のような経済の専門家とは言い難い上に、途上国の反発を買いかねないネオコンが世銀総裁に就任したこともあり、現状の総裁人事が適切と言えるかはかなり疑問(ウォルフォウィッツは恋人である世銀女性職員を情実で優遇人事していた疑惑が発覚し辞任に追い込まれた)。

【「アフリカの年」*1から50年・独立後の波乱と現代(福田邦夫)】

(内容要約)
・章ごとに説明
1 「『東西冷戦』と内戦の惨状」
 次の事例紹介。
 「コンゴでのモブツ独裁」
 「ナイジェリアでのビアフラ内戦と、欧米の介入(ソ連、英国はナイジェリア中央政府を支援し、フランスはビアフラを支援した)」
 「環境活動家ケン・サロウィワが石油開発による環境破壊を告発したことを理由に、ナイジェリア政府に死刑にされたこと(これは以前、NHKの海外ドキュメンタリーを紹介する番組で放送されたと思う)。もちろん表向きはそうではないわけだが。彼の処刑には、ナイジェリア石油利権を握るイギリス石油資本とイギリス政府が噛んでいたとも言われる。」

参考

ウィキペ「モブツ」から一部引用
 1960年6月にベルギーからコンゴ共和国が独立すると、モブツは国軍参謀総長に就任した。その後、、1960年9月コンゴ動乱初期のクーデターで実権を掌握。ジョセフ・カサブブ大統領と手を結び、パトリス・ルムンバ首相を逮捕(注:後に「処刑」)。1961年政権を文民に移譲する。
 1965年に再度クーデターを実行し、政権を掌握し大統領に就任。対外的には、東西冷戦を利用して、アフリカにおける反共の砦を以て任じ、その見返りに西側先進国からの支援金を一手に引き受けて、そのほとんどを着服した。
 モブツの不正蓄財は総額およそ50億ドルといわれ、西欧諸国、西アフリカ、モロッコ、ブラジルなどに、豪華別荘や古城・豪邸を保有し、隠し銀行口座を設けた。モブツに私物化された政権を揶揄する言葉として、「モブツの個人資産は、ザイール共和国の対外債務に等しい」といわれた。国内では、中央アフリカとの北部国境付近のバドリテ高原に自家用飛行場つきの巨大な宮殿を建設した。この宮殿は「ジャングルのヴェルサイユ宮殿」と呼ばれ、後年モブツが失脚間際に逃げ込むことになる。またカウェレにも豪華な中国風の住宅を所有していた。
 全体主義民族主義との性格を併せ持つモブツの思想はモブツ主義と呼ばれ、ブラックパンサー党の指導者であるヒューイ・P・ニュートンや歴史家のE・H・カーらはモブツをファシストと定義している。
 1996年8月に前立腺癌を患ってスイスの病院に入院したあたりから事態は変化していく。ザイール国内の不安定要因であった東部国境付近のフツ人とツチ人の民族紛争は、遂にザイール領内のツチ系最大勢力「バニャムレンゲ」の大蜂起に発展した。10月にはそれに乗じて人民革命党のローラン・カビラが反政府勢力を結集してコンゴ・ザイール解放民主勢力連合 (AFDL) を結成、ツチ人の軍事力を背景にキンシャサに向かって進撃を開始した。
 武装蜂起当時、モブツは南フランスで静養中で1997年5月まで帰国せず、AFDL軍は、ザイール全土の約4分の3を制圧した。AFDLがキンシャサに迫ったので自国民の保護を念頭にアメリカ、フランス、イギリスや、国連などが調停工作に乗り出す。
 1997年5月16日、キンシャサに戻ったモブツは突然北部のバドリテにある宮殿に逃れ、国会議長モンセングォ司教率いる内閣に権力が移譲され、モブツは一切国政に関与しない旨の発表をする。5月17日AFDL軍はキンシャサに入城した。カビラ議長はルブンバシから「コンゴ民主共和国」の樹立と、国家元首就任を宣言した。
 5月18日にモブツはモロッコのラバトへ向けて出国し、1997年9月7日に亡命先のモロッコで死去した。66歳。

・日本外務省談話「ナイジェリアにおける人権活動家等の処刑について」
http://www.mofa.go.jp/Mofaj/press/danwa/07/dfg1113a.html

 このように世界には独裁的国家があふれており、その問題解決は容易ではないわけだが、世の中には、北朝鮮だけが独裁国家であるかのようにいい、北朝鮮の難民をひきうければ、北朝鮮即時崩壊みたいな寝言いうid:noharraみたいな輩もいるわけである。

2 「構造調整策は何をもたらしたか」
世銀、IMFはアフリカの債務問題について、アジアや南米にしたのと同様のネオリベ政策「構造調整策」をとり、アジアや南米同様かえって状況を悪化させた。

3 行き詰まる開発戦略
 「構造調整策」の失敗を反省する動きはまだ明確なものはなっていない(もちろん反省しない動きも未だ根強い)。

4 民営化がもたらす現実
・韓国の大宇財閥がマダガスカルの農地の半分(130万ヘクタール)を購入する契約を結んだというニュースを紹介。冗談抜きでこういうのこそ「対馬が危ない」ならぬ「マダガスカルが危ない」だな。産経さんは特集記事やらないの?(毒)
・この契約に反発する野党政治家ラジョエリナが軍と手を組みクーデターを実行、ラヴァルマナナ大統領から権力を奪い自らが大統領に就任した(但し欧米諸国はこのクーデターを認めていない)。しかし、ラジョエリナは大宇との契約は破棄したものの、別途、インド企業と「46万5千ヘクタールの農地の99年リース」を契約したり、中国企業マダガスカル最大の鉱山を売却したりしてるそうなので民営化方針はラヴァルマナナと大して変わらないじゃんと思うが。
・こうした事例から「行きすぎた民営化」を批判。

【南米における地域統合の動向(所康弘)】
(内容要約)
・南米での地域統合は米国からの自立と、新自由主義の克服をめざしたものである。
・南米での地域統合の例としてメルコスール(南米共同市場)、ALBA(米州ボリバル代替統合構想)を紹介。

【米国・金融規制改革法と大手金融機関(小倉将志郎)】
(内容要約)
オバマ政権で成立した金融規制改革法の紹介。筆者は成立を望ましいと考えているが、成立の過程で妥協がなされたため、不十分な点がありいずれ改正議論がなされるのではないかと見ている。

■「最近の日銀の金融政策を憂う:民主主義社会の中央銀行のあり方」(建部正義)
(内容要約)
 「金融政策の王道は金利政策」であり近年の日銀政策「量的緩和」が適切とは思われない。デフレの原因は需要の不足であり、これは財政政策によって実現されるべきである。
 市場に資金をどんなに供給したところで、需要がなければ資金は国債運用など、安全な投資先に投資されるだけで、「企業へ貸し出され、景気が回復すること」などないであろう。

■「岐路に立つ情報メディア産業:GoogleAmazonAppleインパクト」(津本恵二)
(内容要約)
GoogleAmazonAppleのネット事業は日本のメディア産業に大きな影響を与えるだろう。
GoogleAmazonAppleについては寡占の問題(特定の情報サービスを一企業が支配する事への危惧)や著作権の問題など様々な問題があり、十分な議論が必要である。

■「現在の円高問題を考える:金融・経済危機の中で翻弄される円相場」(紺井博則)
(内容要約)
円高の原因は米国製造業の不振が原因であり、これは日本にとって手の打ちようがない上に、米国製造業が復活するかも疑問である。であるならば、短期的な対策はともかく、中長期的には「ドル高円安にするための対策」だけでなく、ドルに変わる国債基軸通貨を考えることが必要ではないだろうか。

*1:1960年にはアフリカの多くの国が独立したため「アフリカの年」と呼ばれる