新刊紹介:「前衛」5月号(消費税増税論批判)

「前衛」5月号の全体の内容については以下のサイトを参照ください。
http://www.jcp.or.jp/web_book/cat167/
 以下は「消費税増税批判」だけでかなり長くなったのでそこだけ紹介します。

■「消費税増税はしてはいけないし、しなくてもやっていける」(山家悠紀夫*1
 俺が理解した限りでの山家氏の主張をQ&A方式で書いてみる。


Q1)なぜ消費税増税に反対なのですか?
A1)
(1)消費税は逆進性があり、生活弱者の生活を直撃するから
(2)(1)とも関係するが、豊かな者をより豊かにし、貧乏なものがより貧乏になる「格差の拡大」を助長するから
(3)消費意欲をそぎ経済不況を助長するから(不況になれば当然税収も減ります)、です。
 なお、以上の理由を挙げて、消費税増税に反対していたのが実は野党時代の民主党なのです。何とも恥さらしな政党です。
 消費税増税は「セットで行われる所得税法人税減税によって納める所得税法人税が減る金持ち以外」にとっていいことは何もないのです。


Q2)消費税増税の理由について政府はなんといっているのですか?。それをどう理解すべきですか?
A2)
 内閣府サイトにある、元TBSアナウンサーで、ラジオパーソナリティ小島慶子氏が協力した消費税増税プロパガンダ広告を見てみましょう。なお、この広告は昨年12月に全国紙や地方紙に掲載されています
・話はずれますが昨年12月時点では消費税増税方針は閣議決定されておらず、閣議決定していないものを税金で広報していいのかははなはだ疑問です。
TBSラジオでは政府広報番組「政策情報・官邸発」(http://www.tbs.co.jp/radio/kantei/)が放送されていることと小島氏の件を考えると、TBSは現在、「政府与党と近い立場」なんでしょうか?
 ちなみに「官邸発」の司会を務める下村健一内閣府内閣広報室審議官はTBS出身ですから、「下村氏の顔」で企画がTBSに持ち込まれたんでしょう。「マスコミ人としてそれでいいのか」感が俺にはありますな。

http://www.gov-online.go.jp/topics/sz/sz_02.html
対談 社会保障と税の一体改革について:政府広報オンライン
なぜ「今」、なぜ「消費税」?

野田:
 特定の誰かではなく世代を越えてオール・ジャパンで、公平感がある税金で《お互いに支え合う》んです。
(中略)
 それに、日本の基幹税3つ(法人税所得税、消費税)の中で、一番景気の動向に左右されないのが、消費税だと思います。社会保障が、景気に左右されて支えられないという状況になってはいけませんから。

ここからは
1)「消費税は貧乏人も金持ちもみんながおさめるから公平な税金」
2)「景気の動向に左右されない消費税がもっとも社会保障に適している」
3)「法人税所得税をあげる気はない」
野田総理が考えてるらしいことが読み取れます。3)はひとまずおくとして、1)と2)に突っ込んでみましょう。
1)についていえば「税の公平についての考えが完全にくるってる」としか言いようがありません。
「金持ちは金持ちとしての応分の負担を」といういわゆる「応能負担原則」(例:所得税累進課税)こそが「真の公平」ではないでしょうか?
「貧乏人も金持ちも同じ額の税金おさめるのが平等だ」などという物言いにはあきれざるを得ません。
 なお、「世代を超えて」云々というなら「所得税だって」世代に関係なく「所得のある人みんなが納める税金」です。
 「所得のない人=仕事をリタイアした高齢者が多い」からといってそれを「世代間」云々というのは間違った主張です。
2)について。消費税収入が安定しているのは事実ですが、それと「社会保障支出の安定」は全く関係ない話です。「税収の多い年は余剰金を蓄えて、税収の少ない年に備える」など「税収の多い少ないに関係なく、常に一定の社会保障支出規模を確保できる仕組みを作れば」いいだけの話です。
 なお、話はずれますが、野田氏の名誉のために「日経と日本経済学会(経済学会の一つ)」が行った調査では回答した経済学者、エコノミストの多くが消費税増税を支持していること(参考:官庁エコノミストのブログ『本日の日経新聞経済教室の「経済学者アンケート」と海外情報2件』http://economist.cocolog-nifty.com/blog/2010/11/2-909f.html。お断りしておきますが日経アンケートをソースつきで紹介したかっただけでこの官庁エコノミスト氏の主張を俺が支持しているわけではありません)を指摘しておきます。したがって、読む・考える・書く『疑問氷解 なぜ財務省は消費税を上げたがるのか』(http://d.hatena.ne.jp/Vergil2010/20120105/1325743456)は悪意は勿論ないでしょうが財務省権力を過大評価した陰謀論としか言いようがないでしょう。財務省が消費税増税したがるのは「単に増税しやすいから」でしょう。
 「マスコミも財界も保守政界も財界よりの経済学者も」みんなが応援してくれるのですから。
 もちろん「100%回答率ではない」ですし、また「調査対象学者は学会メンバー限定(勿論全ての経済学者がこの学会に加盟しているわけではありません)」ですが、山家氏は消費税増税賛成と回答したエコノミストに対し「全く何を考えてるのか」と呆れています。
 また日経と学会が設定した「消費税増税の必要性」の回答選択肢が「財政再建」「社会保障費の確保」であることについて、「それは増税の理由にはなり得ても、『消費税以外の税金』増税ではダメだという理由にはなり得ない」と批判しています。


Q3)消費税の福祉目的税化についてはどう考えるべきですか?
A3)
2011年度予算を見ると福祉予算は約29兆円。消費税収は約10兆円ですから、約19兆円の差が生じこれは消費税以外で賄わざるを得ませんでした。
つまり消費税を目的税化しても、福祉の充実には役立たないのです。
そもそも野田政権が目的税化で何を考えているかもよくわかりません。
 現状の税率では消費税で福祉予算がまかなえない以上、目的税化した場合、次の3つのうちのどれかしかとる策はないでしょう。

1)消費税を目的税化しても福祉予算全額をカバーできないのだから他(所得税等の消費税以外の税、国有資産の売却益、国債発行など)からも支出する
2)消費税だけで福祉予算をカバーするために大幅に消費税増税する
3)消費税だけで福祉予算をカバーするために大幅に福祉予算をカットする


おそらく野田内閣が提案する策は現実的には1)になるでしょう。3)では「何のために目的税化したのか」という批判を受けるでしょうし、2)をするにはかなりの税率アップが必要でそれを国民が支持するとも思えません。もちろん2)の場合、大幅税率アップによるダメージ(景気後退)はすさまじいものになるでしょう。
しかし1)の場合、消費税以外の他から持ってこないといけないのだから、繰り返しになりますが目的税化してもあまり意味はありません。
消費税以外の他から持ってくる分が減れば、当然社会保障支出は減るからです。社会保障の充実は消費税とはあまり関係ないわけです。
こうしたことを野田政権がきちんと説明せずごまかしてるのも、「社会保障が拡充される」というムードをつくりあげて、消費税増税を国民に飲ませるためでしょう。
野田政権の行いは詐欺師同然です。


Q4)逆進性緩和措置についてはどう考えるべきですか?
A4)
野田政権は「逆進性」についての批判に対し、逆進性緩和措置の検討を口にしていますが、そもそも消費税増税などしなければ逆進性緩和など考える必要はないのです。また緩和措置が現時点では全く具体化されていないため、評価のしようがありません。なお、逆進性緩和措置導入に当たって野田政権が「マイナンバー」制導入を検討していることには注意が必要でしょう。山家氏は「自分は素人なのでマイナンバー制導入については評価しようがない」としながらも「個人情報保護の観点」から批判意見もあるような制度は軽々に導入すべきではないだろうとしています。


Q5)1998年橋本内閣時の景気後退は消費税が原因なのですか?
A5)
消費税増税が原因だとみるのが常識だと思いますが、「そうではないんだ、消費税増税が原因ではないんだ」と否定したがってるのが実は野田首相です(なお小生はこの考えは間違いで「消費減による景気後退」は「消費税増税が原因」とみなすべきと思います。山家氏によれば「消費税増税がなかったら消費減がなかったかどうか、あったとしても小さかったかどうか」はなかなか判断が難しいようですが)。
赤旗を見てみましょう。

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik11/2012-02-12/2012021205_01_0.html
志位
 総理にうかがいます。この大増税が大失政だったということは総理も野党時代に厳しく批判しておられる問題です。ここに議事録をもってまいりましたけれども、2005年2月28日、財務金融委員会でのあなたの質疑ですが、相手は(注:小泉内閣の)谷垣財務大臣です。何とおっしゃっているかといいますと、「一挙に増税路線に、政府がシフトした後の惨憺たる日本の経済の状況を、私も肌をもって感じた」。「イギリスの『タイムズ』に出た論文をちょっと読み上げたい」といって、「橋本政権によって行われたこの増税政策は、……もっとも愚かで、もっとも無意味で、破壊的な経済政策と言われることになろう」。こういって、あなた自身の言葉として、「まさに国民経済に与えた影響を含めると、それぐらい厳しい総括が必要だったろうと私は思います」。これは、正しいことをいわれていると思うんです。この認識ですね、つまり橋本内閣による大増税が景気を壊す大失政だったという認識は今も変わりないですね。
首相
 ちょうどですね、消費税を引き上げる時期、引き上げた後に、いわゆるアジア通貨危機、金融破たんなどいろいろありました。そういうことも含めてタイミングとしては極めて悪いタイミングに一緒にやってしまったということだと思います。その意味では、事前に想像できないものもありますけど、今回、この引き上げのなかでお願いしていることは、経済条件の好転、それまでに激変があるときは、それを停止することも含めてですが、事後のことはなかなか分かりませんけれども、橋本さんがやったときには、消費税を上げる前には駆け込み需要がありました。その後に、しばらく需要が回復しつつありました、その後に、いわゆるアジア通貨危機とか、国内における金融破たん等々が重なって結果的にはそういう厳しい状況になったというふうに思います。
志位
 重なってということをおっしゃいましたけれど、消費税の増税が大不況の引き金を引いたということはお認めになったんだと思うんですね。それで、あのときの論戦を思い出しますが、この大増税で大不況になった98年の4月に、私はこの場で橋本さんと論戦をやりまして、橋本さんも、やはり消費税の増税が一つの原因だったということは否定しませんと誤りを認めましたから、これは歴史的に決着のついている問題です。

アジア通貨危機、金融破たん(山一證券北海道拓殖銀行の経営破たん)などいろいろありました」という野田答弁からは「そうではないんだ、消費税増税が原因ではないんだ」と否定したがってるのがよくわかります。志位共産党委員長が指摘するように、野党時代に野田総理は「消費税増税で景気が悪化した」と橋本政権を批判していたのにです。どれほど恥知らずな男なのでしょうか。その野田総理ですら「消費税増税は無関係」とは言っていませんが。


A6)消費税増税しない場合の財源はどうするのですか。
Q6)無駄の削減と適切な増税と言うことになります。
まず無駄な支出としてはたとえば安保条約上負担する義務のない、いわゆる「思いやり予算」や各種公共事業を上げることができるでしょう。そもそも民主党政権八ッ場ダムの中止など無駄な公共事業の中止を公約し「コンクリートから人へ」と言っていたはずです。民主党が「無駄な公共事業中止」の公約を守るだけでも無駄な支出はかなりカットされるでしょう。
一方削るべきでないものとしては公務員人件費や議員歳費、議員定数が上げられるでしょう。
公務員人件費や議員歳費、議員定数は諸外国と比べ決して多くはありませんし、これらを削っても大して予算の足しにはなりません(そもそもこれらは赤字財政の主原因でもありません)。
 議員定数を削ることは「少数意見が国政に反映されづらいという状況」を助長しますし、議員歳費の削減もうかつにやると議員活動に支障が生じます。もし削るのならばまず政党助成金を削るなり廃止するなりすべきでしょう。政党助成金導入前の各政党は助成金無しで活動していたし、今も共産党助成金無しで活動しているのですから。
 公務員人件費を人員削減や給与削減で削ることは
1)行政サービスの低下を招く恐れがある
2)優秀な人材が来なくなる恐れがある
3)民間にもそうした傾向(人員削減や給与削減)が波及し過労死の助長などをもたらす恐れがある
と言った問題があり、安易にやるべき事ではありません。
 また社会保障費も削るべきではありません。日本の社会保障費はヨーロッパのいわゆる「福祉国家」と比べたら全く貧弱で拡充の必要があるからです。
 税金について言えば、公平性の観点から「応能負担原則」を重視し、法人税所得税相続税などの累進課税をせめてヨーロッパ並みに高めることを考えるべきでしょう。消費税増税をやる必要が仮にあるとしても、それは累進課税をある程度高めたその後の話です。


A7)法人税増税反対論についてどう考えるべきですか?
Q7)
法人税増税反対論としては
1)日本の法人税は国際的に見て高い
2)法人税減税により生まれた剰余金を企業は設備投資、研究開発費等に回し、雇用の増大が期待できる
3)法人税増税すると産業空洞化を招く
といったものがあります。
1)について。日本の法人税率が国際的に高いというのは端的に言って事実に反します。
2)について。帝国データバンクが2011年に行ったアンケート調査によれば多くの企業は法人税減税分を「内部留保」や「借入金の返済」にあてると回答しており、「設備投資、研究開発費」に回すとは回答していません。なお、統計データより内部留保は証券投資、つまりいわゆる財テクにもっぱら使われていると考えられます。
 つまり企業が減税分を「設備投資、研究開発費等に回す」と言う主張には、何の根拠もないのです。
3)について。内閣府が行った「企業行動に関するアンケート調査」(2012年)によれば企業が海外に生産拠点を置く主たる理由は「現地の需要」「労働コストが安い」となっています。どちらも法人税の税率には全く関係ない理由です。法人税率を下げたところでいわゆる産業空洞化の是正には全く役立たないのです。

*1:著書『消費税増税の大ウソ:「財政破綻」論の真実』(共著、2012年、大月書店)