黒井文太郎に突っ込む(2019年4月30日分)

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黒井文太郎*1
 当時のイランは欧州で反体制派イラン人の暗殺を山ほど行っていたので、手練れの工作班があった。イランの仕業というのはまず常識的なところ。
迷宮入りの「悪魔の詩」訳者殺人、問題にされた2つのポイント【平成の怪事件簿】(デイリー新潮) - Yahoo!ニュース

 何のことかと言えば「1991年に発生し、2006年に時効が成立*2した悪魔の詩訳者(五十嵐一*3筑波大学助教授)殺人事件(当時は殺人の時効が15年。後に20年に延長され、最終的に今は廃止された)」のことですが、「もしかして『イスラムを冒涜する小説・悪魔の唄に関わった者は著者サルマン・ラシュディだけでなく翻訳者や出版社も死刑に値する』云々としたホメイニの死刑宣告に影響された政治テロ?」なんてことは事件発生当初から噂されていました。しかし「結局迷宮入り(未解決のまま時効成立)で終わった」以上、事件発生直後ならまだしも、「事件発生(1991年)から28年もたった今」、まともな根拠があるのならともかく「もしかした政治テロじゃね?」なんて言っても無責任でしかありません。黒井といい週刊新潮といい本当に馬鹿ですね。
 当然ながら「悪魔の詩翻訳とは関係ない殺人の可能性」も否定できないわけですから。

参考

悪魔の詩訳者殺人事件(ウィキペディア参照)
 1991年7月12日、筑波大学助教授の五十嵐一が同大学筑波キャンパス人文・社会学系A棟7階のエレベーターホールで刺殺されているのが発見され、司法解剖の結果、前日に殺害されたものと断定された。また、現場からO型の血痕(五十嵐の血液型とは一致しないため、犯人のものとされた)や犯人が残したとみられる靴の足跡(サイズ27.5cm)が見つかった。
 五十嵐は1990年にサルマン・ラシュディの小説『悪魔の詩』を邦訳している。1989年2月にイランの最高指導者ホメイニは同書が反イスラーム的であるとして、ラシュディや発行に関わった者などに対する死刑を宣告するファトワーを発令していたため、事件直後からイラン政府との関係が取り沙汰されていた。
 15年後の2006年7月11日、真相が明らかにならないまま殺人罪の公訴時効が成立し未解決事件となった。

*1:著書『イスラムのテロリスト』(2001年、講談社プラスアルファ新書)、『北朝鮮に備える軍事学』(2006年、講談社プラスアルファ新書)、『日本の情報機関』(2007年、講談社プラスアルファ新書)、『ビンラディン抹殺指令』(2011年、洋泉社新書y)、『イスラム国の正体』(2014年、ベスト新書)、『イスラム国「世界同時テロ」』(2016年、ベスト新書)など

*2:まあ、イラン工作員犯行説に立ち、イランに帰国したと考えれば「海外にいると時効が不成立(例:北朝鮮に逃亡したよど号グループ)」ですが、イラン工作員犯行説によほどの根拠がない限り、事件解決の可能性が低い代物をそうやって無理な解釈で時効不成立にしても仕方ないでしょう。

*3:著書『知の連鎖:イスラームギリシアの饗宴』(1983年、勁草書房)、『イスラームルネサンス』(1986年、勁草書房)、『東方の医と知:イブン・スィーナー研究』(1989年、講談社)、『イスラーム・ラディカリズム:私はなぜ「悪魔の詩」を訳したか』(1990年、法蔵館)など