「珍右翼が巣くう会」に突っ込む(2019年8/13分:荒木和博の巻)

「ウソでやってるんですよ」【調査会NEWS3048】(R01.8.13): 荒木和博BLOG
 荒木が「特定失踪者なんかウソでやってるんですよ」と自白しているわけではありません。
 金日成金正日金正恩への悪口雑言が書き飛ばされるという実にくだらない記事です。
 「そんなことと拉致の解決と何の関係があるのか?」と言う話でしょう。

『闇からの谺』下巻(申相玉崔銀姫著 文春文庫)から
 「夕刻からほとんど休む間もなく演奏していた男性バンドがいつの間にか出て行き、白いブラウスに空色のロングスカートをきた二〇歳前後の女性バンド員一〇数名が入ってきて、いっせいに「親愛なる指導者同志万歳!」と叫びながら飛び上がっていた。
 金正日はバンド員たちに手を挙げて答礼をし、もうそれくらいにしてという手振りをしたが、歓声はやまなかった。このとき、金正日はわたし(申相玉)の左手を取って前後に振りながらまたく予想外なことを口にした。
 『申先生、あれはみんなウソですよ、ウソでやってるんですよ』 

 ソ連によって伝説の「金日成将軍」になった父親金ソンジュの「神話」を盛りに盛って、その父や祖父にまで広げた虚構の家系に自分の正統性を求めた悲喜劇が金正日のこの言葉に現れています。おそらく金正日はこのコンプレックスに苛まれ続けたのでしょう。北朝鮮で最高の医療を受けながら70前で死んだ理由にもある程度はその精神的重圧が影響しているのかもしれません。

 意味不明ですね。金正日は69歳で死去しましたが、他にも

大平正芳*1:享年70歳
橋本龍太郎*2:享年68歳
小渕恵三*3:享年62歳

など、金正日とほぼ同年齢、あるいはもっと早死にした政治家はいます。基本的に「政治家」というだけで「病の原因になりかねない」相当の精神的圧力があるわけで「コンプレクス」なんてもんを持ち出す必要はどこにもありません。
 なお、金正日の言葉が「申相玉の虚言ではなく」事実だとしても、単に「独裁者の自嘲」と理解すればすむ話です。
 というかそんなことと拉致の解決と何の関係があるのか。
 なお、個人的にはこの『ウソでやってるんですよ』話には、菊池寛忠直卿行状記』や映画『大誘拐』(天藤真原作、岡本喜八監督、北林谷栄主演)を連想しました。『忠直卿行状記』がどんな話かは菊池寛 忠直卿行状記をご覧下さい(著作権が切れてるらしく、青空文庫で全文読めます)。
 また、映画『大誘拐』では、確か、北林谷栄演じる大富豪の老女が『金持ちの自分に、周囲の誰もがおべっかを言いへいこらする』『あんたら誘拐犯の方がよほど信用できる』『『忠直卿行状記』の忠直卿の気持ちが最近分かる気がする』と誘拐犯相手にぼやくシーンがあったように記憶しています。
 勿論小説の「松平忠直」と現実の「松平忠直」は違いますが。

【参考:申相玉

1988年3月26日/参議院予算委員会での橋本敦議員の質問(抜粋)
◆橋本敦君
 外務省、こういう事実を知っていますか。つまり、昭和五十三年六月のことですが、韓国の映画監督の申相玉氏とその夫人の崔銀姫、この二人、これの拉致事件が起こっていた。この二人はその後脱出をして今アメリカに在住しているようですが、御存じですか。
◆政府委員(藤田公郎君*4
 私ども承知いたしておりますのは、女優の崔銀姫さんが五十三年の一月、映画監督の申相玉さんが同じ年の七月にそれぞれ香港で北朝鮮に拉致をされ、特に監督の方は後を追って行かれたわけですが、投獄をされたりしてしばらく北鮮におられた後映画作製に従事をされ、すきを見て昭和六十一年三月、オーストリアにおきまして米国大使館に逃げ込まれた、日本のジャーナリストの協力を得て逃げ込まれたそうですが、ということが三月に報道が行われまして、五月にお二人が米国において記者会見をされて詳細な事実関係の発表をしておられます。
 ちなみに、明らかになります前に、五十九年には韓国の国家安全企画部が既にこのお二人が北朝鮮に拉致されたという発表を行いまして、これがうそだという応酬などが双方であったわけですが、結果的にお二人が出てこられた。それで、真相と申しますか、韓国側の発表どおりのことをお二人が詳細に説明をされたということでございます。

 橋本敦質問と言えば蓮池夫妻、地村夫妻、「増元るみ子、市川修一氏」の3組のアベックの失踪について質問し

1988年3月26日/参議院予算委員会での橋本敦議員の質問(抜粋)
国務大臣梶山静六*5
 昭和五十三年以来の一連のアベック行方不明事犯、恐らくは北朝鮮による拉致の疑いが十分濃厚でございます。解明が大変困難ではございますけれども、事態の重大性にかんがみ、今後とも真相究明のために全力を尽くしていかなければならないと考えておりますし、本人はもちろんでございますが、御家族の皆さん方に深い御同情を申し上げる次第であります。
国務大臣宇野宗佑*6
 ただいま国家公安委員長が申されたような気持ち、全く同じでございます。もし、この近代国家、我々の主権が侵されておったという問題は先ほど申し上げましたけれども、このような今平和な世界において全くもって許しがたい人道上の問題がかりそめにも行われておるということに対しましては、むしろ強い憤りを覚えております。

と言う宇野外相、梶山国家公安委員長の答弁を引き出したことで有名ですが申相玉についても触れていたわけです。


【参考:忠直卿行状記のあらすじ】

【これ読んだよメモ】菊池寛『忠直卿行状記』・太宰治『水仙』(青空文庫) | mixiユーザー(id:4799115)の日記
 越前福井藩主・松平忠直という殿様の史実エピソードをもとにした小説です。
 マツダイラ姓からわかる通り徳川の親類で、徳川家康の孫にあたる人だ。
 忠直卿は幼い頃からずっと周りからチヤホヤされて持ち上げられて育って君主になった。
 何をしても人より秀でていると思って育ってきた。
 ところがある時、武芸試合を催して自身が出場して華々しい勝利をものにした夜、偶然にも武芸試合で負かした家臣たちが話しているのを耳にした。
 家臣たちは「殿様は最近腕を上げて、負けてあげるのが楽になった」というようなことを言っていたのだ。
 それをきいて忠直卿は、いままでの自分のやってきたこと、自分への賞賛の言葉や手にした勝利や栄光や、そういうものが一切信じられなくなった。
 家臣の言葉が信じられない。
 それがどんどん負のスパイラルを生んで、まわりからは乱行としか見えない行為に及んでいく。
 そんなような、君主という特殊な状況に置かれた人間の悲劇です。

【参考終わり】

 金ソンジュ(いわゆる「金日成」)もやはり自分の虚像に対しコンプレックスを抱えていました。それを払拭しようとして朝鮮戦争を引き起こし、失敗すると今度は自分の政敵を約10年かけて全て粛清してしまいました。
 金正恩はどうでしょう。次から次へと残虐な粛清を行ったり、後見人だったはずの叔父張成沢や異母兄金正男まで殺してしまうというのはやはりコンプレックスの裏返しではないでしょうか。

 意味が分かりませんね。どこの世界にコンプレクスで戦争する人間がいるのか。もちろん「勝てるし、勝つことが利益になる」と思ったから戦争したわけです。
 荒木は古今東西の戦争を全て「コンプレクス」で説明するのか。それとも朝鮮戦争だけそういう説明をするのか。どっちにしろ馬鹿げていますが。
 粛清にしても「ヒトラーのいわゆる長いナイフの夜事件(突撃隊(SA)指導者レーム、シュライヒャー元首相らを暗殺)」「スターリン粛清(トロツキー*7暗殺、カーメネフ*8ジノビエフ*9ブハーリン*10のでっち上げ処刑など)」など独裁者が政権基盤を固めるため、粛清を行うのは古今東西何ら珍しくありません。コンプレクスなど持ち出す必要もない。それとも古今東西の粛清劇を荒木は全て「コンプレクス」で説明するのか。それとも北朝鮮の粛清だけそういう説明をするのか。どっちにしろ馬鹿げていますが。
 まあ荒木の言う「コンプレクスによる粛清」がもろに当てはまるのは、上で紹介した「忠直卿行状記」ですね。荒木がこういう珍論を言うのも荒木の頭に「忠直卿行状記」があるからじゃないか。
 もちろんあくまでもこれは小説であって「現実の松平忠直」とは違いますが。

*1:池田内閣官房長官、外相、佐藤内閣通産相、田中内閣外相、三木内閣蔵相、自民党幹事長(福田総裁時代)などを経て首相

*2:大平内閣厚生相、中曽根内閣運輸相、海部内閣蔵相、自民党政調会長(河野総裁時代)、村山内閣通産相などを経て首相

*3:竹下内閣官房長官自民党副総裁(河野総裁時代)、橋本内閣外相などを経て首相

*4:外務省アジア局長、駐オランダ大使、駐インドネシア大使、JICA(国際協力事業団)総裁など歴任

*5:竹下内閣自治相・国家公安委員長、宇野内閣通産相、海部内閣法相、自民党幹事長(宮沢総裁時代)、橋本内閣官房長官など歴任

*6:田中内閣防衛庁長官自民党国対委員長(三木総裁時代)、福田内閣科学技術庁長官、大平内閣行政管理庁長官、中曽根内閣通産相、竹下内閣外相などを経て首相

*7:防相、外相など歴任

*8:ソ連共産党政治局員、組織局員など歴任

*9:コミンテルン議長、ソ連共産党政治局員など歴任

*10:党機関紙『プラウダ』編集長、コミンテルン議長など歴任