欧米(?)での松本清張

外国人が読みたくなる日本文学|日経BizGate
 (2)『Inspector Imanishi Investigates』は直訳すると「今西刑事が捜査する」で、正解は(10)『砂の器』(松本清張)。主人公の心情を描写した抽象的なタイトルは欧米では伝わらないとか。

 ちなみに欧米で無くて中国の話ですが、清張小説の翻訳については

松本清張作品、中国語名変更でベストセラーに--人民網日本語版--人民日報
 松本清張の代表作「球形の荒野」は、中国発売当初、まったく注目されなかった。出版会社の北京読客図書有限公司が今年、同書の書名を「一個背叛日本的日本人(日本を裏切った日本人)」と改め中国で再出版すると、カルチャー系SNS「豆瓣」の新書欄トップページに掲載され、10点満点で9.2点の高得点を獲得した。
 関係者は、「名作が売れない理由はさまざまだが、最大の原因は、読者がイメージしにくい難解な書名である。『球形の荒野』を再出版する際、当社は書名を『日本を裏切った日本人』と改めた。この書名は物語の内容を正確に要約しており、シンプルで読者も一目で理解することができる。当社は装幀のデザインにもこだわり、表紙では、純白をバックとした真っ赤な日の丸が刀に切り裂かれている。第二次世界大戦の敗戦前夜、ある日本人外交官の生死を賭けた闘いに関する物語の魅力が、読者に十分伝わってくる」と語った。

なんて話もあります。

会報2014年11月号 健さんのミステリアス・イベント探訪記 第44回映画『砂の器』主題歌、組曲『宿命』の演奏会とCD化をめぐって2014年3月30日 東京芸術劇場7月23日 CD化発売|日本推理作家協会
・今年2014年の夏も各国の作家、ミステリ研究家が集まる国際推理作家協会(AIEP)に参加してきた。
・食事の席などでは日本のミステリについて積極的に語りかけてくれる研究者もいる。英国のボブ・コーンウェルさんもそのひとりで、浜尾四郎なんて読んでいて(短編の翻訳が出ている)、それについての質問をeメールで送ってくるほどの物知りだ。そのボブが、日本のミステリの注目作はなんといっても、セイチョー・マツモト(松本清張)の"Inspector Imanishi Inventigates(今西警部は推理する)"だと主張する。それで、原作もいいが、あの映画化も素晴らしかった、とコメントする。
 『今西警部*1は推理する』って何かというと、これが『砂の器』の英訳題名なのである。欧米のミステリ読者は運命のドラマというより、(ボーガス注:映画で)淡々と語られる警部の捜査行の方に興味があるようだ。帰国して、以前、買い求めてあった英訳本を見ると、その裏表紙に各紙絶賛の書評抜粋が載っている。
 いわく「メグレ警視*2ダルグリッシュ*3ものの隣に置くべき本」「戦後の混乱から経済的に立ち直ろうとする日本の社会背景を描く、ディケンズバルザック的な試み」(清張さん、こんな批評を知ったら喜んだことだろう)なかには「スタウトの構造をもつエルモア・レナードのタッチ」なんてよく分からない表現もある。
 いずれにしても、欧米のミステリファンにそれなりの一石を投じた作品だが、日本ではやはり映画『砂の器』の成功だろう。
 ボブいわく、あのラスト40分。謎の解明が、コンサート会場、捜査会議、回想シーンの3つのモンタージュで進む構成は類例がない、と絶賛だ。たしかに忘れがたい趣向だった。

第14回 日本のミステリー小説の仏訳状況(執筆者:松川良宏) | 翻訳ミステリー大賞シンジケート
◆日本のアガサ・クリスティー、日本のジョルジュ・シムノン、日本のフレデリック・ダール
 横溝正史は英訳は『犬神家の一族』のみ。フランス語訳は『犬神家の一族』『八つ墓村』『悪魔の手毬唄』の3作がある。フランスのミステリー作家のポール・アルテによると、横溝正史はフランスでは(クリスティ『ABC殺人事件』にヒントを得たとされる『八つ墓村』、クリスティ『そして誰もいなくなったマザーグース見立て殺人)』にヒントを得たとされる『獄門島芭蕉の俳句・見立て殺人)』『犬神家の一族(斧・琴・菊の見立て殺人)』『悪魔の手鞠唄(手鞠唄見立て殺人)』『病院坂の首縊りの家(生首風鈴)』によって?)「日本のアガサ・クリスティー」と呼ばれることもあるらしい(南雲堂『本格ミステリー・ワールド2009』、p.126)。
 松本清張の長編の英訳は『点と線』『砂の器』『霧の旗』の3作。フランス語訳は『点と線』『砂の器』『聞かなかった場所』の3作。清張はフランスでは「日本のシムノン」として売り出されていて、その愛称がそれなりに定着しているようだ。
 西村京太郎の長編の英訳は『ミステリー列車が消えた』のみ。フランス語訳は『ミステリー列車が消えた』のほか、『名探偵なんか怖くない』がある。ポール・アルテによると、西村京太郎はフランスでは「日本のフレデリック・ダール」と呼ばれることもあるそうだ(南雲堂『本格ミステリー・ワールド2009』、p.126)。

第6回『メグレと深夜の十字路』(執筆者・瀬名秀明) - 翻訳ミステリー大賞シンジケート

 犯罪の動機といえば、家庭の平和、社会に対する反逆、コンプレックス、社会的地位の挫折、スキャンダルなど数限りなくある。こう書くと賢明な読者は既にお気づきと思うが、松本清張氏の提唱と実践によって日本の推理小説界を風靡している、いわゆる社会派推理小説と(ボーガス注:シムノンが)類似していることに気がつかれるだろう。

 私は、松本清張に言及した松村喜雄*4の文章を引いた。松本清張という作家の資質が本当にシムノンと似ているかどうかはわからない。だが、この本の帯に記されていた松本清張氏の一文は素晴らしい。

 シムノンはわたしの若いころに感動を与えてくれた一人である。それまで翻訳探偵小説といえばポウコーナン・ドイルしか知らなかったが、シムノンを読んでこのように極限状況を描いて香気のある作品もあったのかと思った。シムノン作品に漂う虚無的で抒情的な雰囲気は、その繊細な知性の上に夜霧のように立ち昇っている。

 なかなか面白いと思うので一応紹介しておきます。

*1:映画では丹波哲郎が演じた

*2:ジョルジュ・シムノン - Wikipedia作品に登場する警視

*3:P・D・ジェイムズ - Wikipediaの作品に登場する刑事

*4:1918~1992年。東京外国語学校(現在の東京外国語大学)仏語科卒業後は外務省に勤務。公務活動の傍ら、文筆活動を行い、1962年、「花屋治」名義で推理小説『紙の爪痕』(光風社)を発表、第7回江戸川乱歩賞候補となる(ちなみにこの時の受賞作は陳舜臣『枯草の根』(1961年、講談社))。1978年に外務省を退官すると文筆業に専念、これ以降は本名で原稿を発表。1986年に、著書『怪盗対名探偵:フランス・ミステリーの歴史』(1985年、晶文社→2000年、双葉文庫日本推理作家協会賞受賞作全集)で日本推理作家協会賞評論部門を受賞