「珍右翼が巣くう会」に突っ込む(2022年6/23日分:荒木和博の巻)

なぜ北朝鮮は拉致をしたのか(R4.6.23): 荒木和博BLOG

 授業で学生からタイトルのような質問*1がありました。

 7分30秒の動画です。タイトルだけで見る気が失せます(一応見ましたが)。実に馬鹿馬鹿しい。
 何が馬鹿馬鹿しいか。
 まず第一に「そんなことが分かって何の役に立つのか?」
 拉致問題で大事なことは「拉致被害者が帰ること」です。
 例えば

北方領土返還運動で「何故スターリン北方領土に侵攻したのか?」

を議論して「島の返還」という意味で、何の意味があるのか、というのと同じです。
 北方領土問題ではそんなことより

◆どうすれば、プーチンが島を返すのか?。プーチンでは島が帰る見込みはないので、ポストプーチンに期待するしかないのか?

が大事なわけです。
 これは何も「拉致被害者救出」「北方領土返還」に限りません。勿論「何故起こったのか」がわかることが解決につながることはある。
 しかし「つながらないこともある」し後述しますが「そもそもわからないこともある」。
 そして一方で「何故か?」が分からなくても場合によっては「解決できること」はある。あるいは解決のためには「何故か」よりも「大事なこと」が時によってはある。
 「拉致被害者5人」の帰国は「彼らの拉致された理由が分かったから」実現したのか?。明らかにそうではないわけです。
 北朝鮮は「末端の過激分子がやったので中央政府は最近まで拉致の事実を認識してなかった(過去の拉致否定は故意の嘘ではない)。当然、犯行動機はよく分からない」とし、日本政府はそれを「受け流した(積極的には支持しない物の、あえて批判や追及もしなかった)」。
 つまりはむしろ「犯行動機を曖昧に処理したこと」で5人は帰国したわけです*2
 そして拉致で言えば拉致被害者の帰国実現という意味では「何故起こったのか」より

拉致被害者はどこにいるのか?
拉致被害者救出のためには経済支援とのバーター取引をすべきか?
日朝平壌宣言をどう評価すべきか?。どう拉致解決に生かすか?

の方が議論として大事です。
 北方領土問題で言えば、島の返還という意味では「何故スターリンは侵攻したのか?」より

◆島返還のためには経済支援とのバーター取引(以下略)
◆島返還に際して、現在の北方領土住民の「返還反対論」を封じるため「返還時には現在の住民をロシア系日本人として日本に受け入れ、それなりの処遇をする」と約束すべきではないか?

の方が大事です。
 なお、拉致において現実問題として「拉致実行犯の処罰」は事実上無理(そもそも北朝鮮が身柄を引き渡さない)でしょうがこれも「拉致実行犯の処罰」という意味では「犯行動機」を知る必要は必ずしもない。
 これは拉致に限らず他の犯罪でもそうですが、犯罪動機がわからなくても「犯人だという動かぬ証拠」をつかんだ上で犯人の身柄を押さえれば処罰する限りでは何の問題もない。
 例えばコナン・ドイル「緋色の研究」では犯人逮捕時は犯行動機はホームズにも全く分かっていません(二部構成になっており、第一部がホームズの推理で犯人が逮捕されるまでを描き、第二部では犯人によって犯行動機が語られる)。ミステリ小説ではそうした「犯行動機が分からない犯人逮捕」は珍しくない。
 あるいはミステリ小説の中には「犯人が逮捕できたのに犯行動機が分からず苦労する→犯行動機の解明が話のメイン」なんて作品も中にはある。
 第二に「そんなことが分かるのか?」
 勿論

【俺が思う、「一般的な憶測」】
密入国した際に、拉致被害者に遭遇して慌てて、口封じに連れ帰った
横田めぐみ氏がそうではないかと言われてる
工作員にしようとした
工作員日本語教育係にしようとした
金賢姫李恩恵証言による
◆本人になりすまして、韓国や日本に密入国しようとした
よど号グループの結婚相手にしようとした
→日本政府は拉致認定してないが八尾恵の証言を元に荒木ら救う会
福留貴美子 - Wikipedia氏(グループメンバー岡本武の妻だったとされる)を拉致被害者だと主張
【荒木が日頃放言してる憶測】
◆偽ドル札を作ろうとした
→「特定失踪者の中に印刷工がいること」「北朝鮮が(今はともかく、少なくとも一時は)偽ドル札を作っていたと思われること*3」を理由に荒木が放言してるが「特定失踪者が印刷工」以外には何の根拠もないし、そもそも特定失踪者は「日本国内で40人以上発見されており、そのほとんどが自発的失踪」であることからわかるように、北朝鮮拉致扱いするまともな根拠がない 

など様々な憶測はあります。しかし憶測でしかない。そして繰り返しますが「これらの憶測」が仮に正しいとしても「拉致被害者帰国」には直接は関係しない。


【参考:緋色の研究】
 話が脱線しますが、上で触れた「緋色の研究」についてウィキペディアの記述を紹介しておきます。

緋色の研究 - Wikipedia
 アーサー・コナン・ドイルによる長編小説。シャーロック・ホームズシリーズの最初の作品で、1886年に執筆され、翌1887年に発表された。事件の捜査が行われる第1部と、犯行に至った歴史が描かれる第2部の2部構成を採る。
【あらすじ】
◆第1部
 ジョン・H・ワトスンはシャーロック・ホームズという特異な人物を紹介され、ベーカー街で共同生活を開始する。共同生活を始めて間もなく、ホームズの元にグレグスン刑事から殺人事件が発生したとの手紙が届き、ホームズはワトスンを連れて現場に向かう。グレグスンとレストレード刑事は難事件にお手上げの様子である。殺されていたのは立派な服装の中年男で、イーノック・ドレッバーの名刺を持っており、壁には RACHE (ラッヘ:ドイツ語で復讐の意)と血で書かれた文字があって、女の結婚指輪が落ちていた。
 ホームズは新聞に結婚指輪の拾得記事を出す。犯人の遺留品と思われる指輪を使って犯人をおびき出そうというのだ。予想通り指輪の受取人が来るが、ホームズが推理した男ではなく、老婆(但し、犯人である男の変装)であった。しかもその老婆を尾行したホームズは見事に巻かれてしまう。
 一方グレグスンは、犯人を逮捕したと得意満面であった。彼が捕らえたのは、ドレッバーが秘書のスタンガスンと共に下宿していた家の女主人の息子である海軍将校だった。事件前日、ドレッバーがそこを引き払う際にその家の娘を無理やり連れ出そうとし、兄であった海軍将校に叩き出された事実があったのだ。それが犯行の動機だとグレグスンはホームズに言うが、続いてやって来たレストレイドが、秘書のスタンガスンが宿泊先のホテルで刺殺死体で発見されたと伝える。
 ホームズは、準備万端整えた上で辻馬車を呼ぶ。何事かといぶかしむワトスンらの前で、ホームズは入ってきた馭者にあっという間に手錠をかけ、目を輝かせてこう叫んだ。
「諸君! イーノック・ドレッバーおよびジョゼフ・スタンガスン殺害の犯人、ジェファースン・ホープ氏を紹介しましょう!」と。
◆第2部
 第2部は、一転してこの事件の裏に潜む過去の深い因縁が語られる。
 北アメリカ内陸部の砂漠。ジョン・フェリアと孤児のルーシーは、死に掛けていたところを、モルモン教徒の集団に救われる。彼らはソルトレイクシティ(現在、ユタ州の州都)を建設し、ジョンは郊外で一生懸命働き、やがては地域でも屈指の富豪になった。また彼は、ルーシーを養女にして実の娘のようにかわいがった。成長したルーシーは、並ぶ者の無い美しい少女となったのである。
 ある日、乗馬していたルーシーは、馬が暴れだしたところを旅の青年ジェファースン・ホープに助けられ、彼の実直さと強さに引かれた。ホープも彼女に好意を持った。父親のジョンは2人の結婚を認めた。ところが、一時的にホープが町を去っているあいだに、モルモン教の指導者ブリガム・ヤング(1801~1877年)は、ルーシーに青年ドレッバーかスタンガスンとの結婚を命令した。指導者に背けば命は無い。ジョンは町からの脱出を決意し、ホープを呼び戻す。見張りに囲まれている家へ、夜のとばりにまぎれて匍匐前進で到着したホープ。彼に導かれて、何とか家から脱け出したジョンとルーシー。土地勘のあるホープの指示によって、人跡未踏の荒野を踏破する。ここまで来れば一安心と、つい気を抜いたホープは、食糧とする獣を捕らえるためにキャンプを離れた。その裏をかくようにドレッバーとスタンガスンの追跡隊が襲い、ジョンを殺害し、ルーシーを奪って去った。無人となったキャンプに戻ったホープは、追跡隊によって作られたジョンの粗末な墓を見つけて事の推移を察する。ジョンを殺害したのはスタンガスンであったが、最終的にルーシーはドレッバーと結婚させられた。しかし意に沿わぬ結婚に体調をくずして程なく病死した。葬儀の場に飛び込んだホープは、ルーシーの指から結婚指輪を抜き取って去った。
 それ以後、ドレッバーとスタンガスンは、ホープから執拗に命を狙われる。彼らはソルトレイクシティを離れ、ヨーロッパを転々としてホープの追跡から逃れる。しかしホープも超人的な執念で彼らを追った。そこでついに件の殺人事件に至ったのであった。結婚指輪はその時に落としたのである。取り押さえられたホープはおとなしく縛につき、以上のようないきさつをホームズらに語った。そして、動脈瘤になっていたホープは、起訴を待たずして獄中で病死した。
【翻訳の歴史】
 タイトルは当初『壁上の血書』『疑問の指環』『深紅の一絲』『スタディ・イン・スカアレット』と、様々であった。初めて『緋色の研究』と題されたのは1931年(昭和6年)、改造社の『ドイル全集 第1巻』収録作で、延原謙*4の翻訳である。以降の翻訳では、タイトルが『緋色の研究』で定着した。
 但し、原題『A Study in Scarlet』の「study」は「研究」ではなく「習作」と訳すべきだという主張がある。1997年に翻訳を刊行した河出書房の版(小林司*5東山あかね訳)ではこの説により、『緋色の習作』と題している。1953年に延原謙が翻訳した新潮文庫版は、1996年に嗣子の延原展により訳の修正が行なわれた改版となったが、日本では「研究」の訳で定着していること、どちらが適切か争いがあり解決していないことなどを理由とし、引き続き『緋色の研究』の訳を採用している。
モルモン教への言及について】
 この作品はモルモン教の主流派である末日聖徒イエス・キリスト教会が一夫多妻制を放棄した1890年よりも前に書かれており、現在では一夫多妻を教会としては認めていない。ただし「一夫多妻を続けている」という、脱会した元信者による主張は存在する。
 イーノック・ドレッバーが禁酒が義務づけられたモルモン教徒であるにもかかわらず大酒を飲んでいたり、ブリガム・ヤングがカトリックの教理問答のような台詞を喋っていたりと、本編中でのモルモン教に関する記述は相当な誤解と偏見を含んでいる。
 なお、ジェレミー・ブレット(1933~1995年)主演のテレビシリーズ(第1~6シリーズ)では、この作品は映像化されていない。一方、ベネディクト・カンバーバッチ主演のテレビシリーズ(第1~4シリーズ)ではこの話をベースにした作品「ピンク色の研究」が放送されたが、原作と比べて内容がかなり異なっている。

*1:相手は「特定失踪者デマ」荒木なので本当にそんな質問があったのかは疑問です。

*2:勘ぐれば【1】北朝鮮によって5人に拉致理由(例えば工作員日本語教育係)が告げられ【2】その告げられた拉致理由通りの行為(例えば工作員日本語教育係)がその後され、【3】そのことについて5人が日本政府に話してる可能性もありますが、俺の知る限り、政府や5人からそうした発表はなかったかと思います。

*3:こちらは多くの人間が「事実だろう」と見ており特定失踪者のようなデマではありません。

*4:1892~1977年。著書『延原謙探偵小説選』(2007年、論創ミステリ叢書)、『延原謙探偵小説選Ⅱ』(2019年、論創ミステリ叢書)。訳書『シャーロック・ホームズ全集(全10巻)』(1953~1955年、新潮文庫)など(延原謙 - Wikipedia参照)

*5:1929~2010年。著書『真説シャーロック・ホームズ』(1980年、講談社文庫)、『シャーロック・ホームズの推理博物館』(2001年、河出文庫)、『シャーロック・ホームズの謎を解く』(2009年、宝島SUGOI文庫)。訳書『シャーロック・ホームズ全集(全9巻)』(河出文庫)(小林司 (精神医学者) - Wikipedia参照)