<正論>歴史に隠れた樋口中将の功績 ノンフィクション作家・早坂隆 - 産経ニュース
以前も別記事で書きましたが「資料が存在し、史実であることは確実な占守島の戦い(第五方面軍司令官時代)」はともかく「ハルピン特務機関長時代のユダヤ人救出*1」は「樋口の回想」以外にはまともな資料は無く「史実として認められるか」は非常に怪しい。仮に「救出があった」としても、「樋口が言うほどには、多くのユダヤ人は救出されてない(回想にはかなり誇張がある)」と見るのが通説です(引用は省略しますが、その点については樋口季一郎 - Wikipediaにも簡単な指摘がある)。
また
樋口の存在は歴史の影の中に埋没した。軍人と言えば十把一絡げに批判の対象としてまとめられ、冷静かつ客観的な議論が難しい時代が続いた。
と強弁する産経ですが
「東郷平八郎(連合艦隊司令長官として日本海海戦に勝利、その後も海軍軍令部長等の要職を歴任)」
「山本五十六(連合艦隊司令長官として真珠湾攻撃で戦果、長官在職中に戦死)」
「山下奉文(第25軍司令官としてマレー侵攻で戦果を上げ「マレーの虎*2」の異名で呼ばれる。戦後、第14方面軍司令官(フィリピン)としてマニラ虐殺事件の責任を問われ死刑判決)」は「彼らの業績とセット」で今でもそれなりに有名なのだから「樋口の無名」の理由は少なくとも「戦後平和主義」のせいではなく、そんな主張は詭弁でしかない。そもそも産経ら「右翼の世界」でも樋口は無名だったのでは無いか。
戦後も東郷らが有名だった理由の一つは
東郷平八郎 - Wikipedia
映画『日本海大海戦』(1969年、東宝)、『日本海大海戦・海ゆかば』(1983年、東映)(どちらも三船敏郎が演じた)
山本五十六 - Wikipedia
映画『連合艦隊司令長官・山本五十六』(1968年、東宝、山本役は三船敏郎)
映画『連合艦隊』(1981年、東映、山本役は小林桂樹)
ドラマ『海にかける虹〜山本五十六と日本海軍』(1983年、テレビ東京、山本役は古谷一行)
映画『連合艦隊司令長官・山本五十六』(2011年、東映、山本役は役所広司)
などメディアが東郷らを宣伝し続けたからです。そうした樋口宣伝は「ウヨの世界」ですら最近でしょう。
自衛隊めぐる「不適切事案」 誰が誰の信頼を裏切っているのか サンデー正論 - 産経ニュース田北真樹子
防衛省・自衛隊をめぐる「不適切な事案」(木原稔防衛相)が相次いで表面化した。一連の案件はまとめて「不適切事案」と称され、防衛省は関係者を処分するとともに再発防止策を発表した。だが、個別具体的にみていくと本当に「不適切」なのかと首をかしげたくなる案件もある。
今回の「不適切事案」で最も多くの処分が出たのは「特定秘密漏洩等事案」で、対象者は121人に上った。問題となったのは特定秘密保護法上の漏洩で43件が確認された。うち35件は「適性評価未実施の隊員を特定秘密を知り得る状態に置いた事案」だった。
自衛隊の外国軍との共同演習・訓練は増えているにもかかわらず人手は常時不足しているため、適性評価にも時間がかかり、現場も適性評価未実施の隊員を配置せざるをえない状況だ。こうした現場の実態を無視した運用の見直しは必然だ。
ということで、
ハナから無理な法律だったってこと | inti-solのブログ - 楽天ブログ
有資格者が充分な人数いるのか、という問題に行きつきます。資格の取得には家族構成や飲酒習慣、借金の有無、犯罪歴などの情報をもとに半年から1年も審査されるのだそうです。要するにプライベートを丸裸にして、痛くもない腹を探られた挙句にしか、「特定秘密」を扱う資格を取ることができないわけです。いくら自衛官でも、犯罪歴はまだしも職務外である家族構成や飲酒、借金まで丸裸にされることには抵抗のある人も多いのではないでしょうか。また所要時間を考えても、急に有資格者を増やすことなど不可能です。
「法律自体に問題があるのではないか」と言う点では産経記事とinti-sol氏記事はかなり主張がかぶっています。
違いがあるとすれば産経は
1)自民応援団「産経」は「法律を制定した自民」を明確に批判してないこと
2)「野党の政権交代ムード」や「岸田辞任→自民党総裁選によって、産経が好む高市ならともかく、産経が嫌う石破の総裁就任」を嫌ってか「人手不足は慢性的な物で木原氏個人の責任ではない」等として木原防衛相辞任を求めないこと
→但し、その詭弁なら「増原恵吉*3(佐藤内閣:全日空機雫石事故)」「久保田円次(大平内閣:宮永スパイ事件)」「瓦力*4(竹下内閣:なだしお事故)」といった歴代防衛庁長官(防衛大臣 - Wikipedia参照)も「彼ら個人の責任で事故や事件が起こったわけではない」ので引責辞任する必要は無かったでしょう。
3)(引用は省略しますが)人手不足の理由を「護憲派に責任転嫁してること(実際には単に『労働時間』『賃金』等の待遇が悪いから応募が少ない*5だけでしょうし、それは護憲派のせいではないですが。防衛費自体は増えてる*6ので「賃金面」については「防衛費が足りない」とはとても言えません)」でしょう。
それにしても安倍が存命だとしてこの記事は果たして書かれたのか。安倍批判しない形で書かれたのか?
<主張>ハマス幹部殺害 対立激化へ最大限警戒を 社説 - 産経ニュース
イラン外務省はイスラエルの後ろ盾である米国にも責任があると指弾したが、無益な八つ当たりはやめ、事態のエスカレートを避けるべきである。
「八つ当たり」どころか「正当な批判」でしょう。
さすがに「米国が事前に承認した」とは思いませんが、「暗殺しても米国は厳しい態度は取らない」と思ってるから、イスラエルはこうした暴挙をしたわけで「イスラエルに甘い米国」の責任も重大です。
そして「この程度の米国批判」すらしなかったら「イラン国内の強硬派」をなだめることは到底できないでしょう。
*1:そもそも確実な資料がある「杉原千畝のユダヤ人救出」も日本において評価されるようになったのは最近のことです。
*2:日テレの番組 ¥マネーの虎 - Wikipediaの番組名の元ネタですね
*4:橋本内閣建設相、自民党国対委員長(宮沢総裁時代)、小渕、森内閣防衛庁長官等を歴任
*5:この点は「教員(例えば給与上乗せ、休息期間確保、教科担任推進…中教審提言が国会へ 「これでは残業減らない」現場から失望の声:東京新聞 TOKYO Web(2024.5.14:中教審提言には「給特法廃止を提言すべき」等、批判が多いですが、提言が「教員不足は待遇の悪さが一因」と認め「教職調整額の引き上げ」「勤務間インターバル導入」等を提言したことは重要でしょう)」「医療、介護現場」「建設や運送」の人手不足等も理由は同じでしょう。