新刊紹介:「歴史評論」12月号

★特集『戦後歴史学と「歴史評論」』
・詳しくは歴史科学協議会のホームページ(http://www.maroon.dti.ne.jp/rekikakyo/)をご覧ください。今回は歴史論文と言うよりは、「歴史評論についての思いを述べるエッセイ」といった感じで要約が困難だったので特にコメントはしません。


■歴史の眼『2015年「慰安婦」問題:日韓合意について』(荒井信一*1
(内容紹介)
 日韓合意について、荒井氏は「慰安婦銅像撤去を要求し慰安婦ユネスコ資料登録にも否定的な安倍政権には反省の意思がまるで見られない」が「とはいえ、高齢化が進む慰安婦を経済支援しなくていいのか」という悩みがあるようで、明快な文章ではありません。
 もちろんそうした荒井氏ですので、日韓両国において、「慰安婦や韓国民の納得が得られる戦争責任解決はどうあるべきか」という観点からの安倍批判の存在には当然触れています。
 また日韓合意はあくまでも「韓国との間のものに過ぎず」、一方日本と慰安婦問題を抱える国は、東南アジア(フィリピン、インドネシアなど)、中国、台湾、北朝鮮など他にもあることに注意が必要です。

参考

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2015-12-29/2015122901_02_1.html
赤旗『日本軍「慰安婦」問題 日韓外相会談について』(日本共産党志位和夫委員長の談話)
一、
 日韓外相会談で、日本政府は、日本軍「慰安婦」問題について、「当時の軍の関与」を認め、「責任を痛感している」と表明した。また、安倍首相は、「心からおわびと反省の気持ちを表明する」とした。そのうえで、日本政府が予算を出し、韓国政府と協力して「全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復、心の傷の癒しのための事業」を行うことを発表した。これらは、問題解決に向けての前進と評価できる。
一、
 今回の日韓両国政府の合意とそれにもとづく措置が、元「慰安婦」の方々の人間としての名誉と尊厳を回復し、問題の全面的解決につながることを願う。

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2016-01-03/2016010306_02_1.html
赤旗『「慰安婦」問題 日本政府との合意、韓国世論を二分、強制徴用・原爆被害者らから批判』
 日本と韓国の両政府が昨年12月28日に「慰安婦」問題解決策として合意した内容について、複数の世論調査が発表されました。世論は二分していますが、若い世代で合意が「誤り」という否定的な回答が過半数だったことが特徴。また、強制徴用被害者やサハリン残留被害者遺族、原爆被害者など、「慰安婦」被害以外の戦後補償を求める団体からも批判の声が上がっています。
(中略)
 ハンギョレ新聞によると、原爆被害者たちは今回の外相会談で原爆問題も議論してほしいと韓国外務省に要請しましたが、拒否されたと報じました。

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2016-01-15/2016011501_03_1.html
赤旗桜田元文科副大臣慰安婦はビジネスだ」、日韓合意否定の暴言』
 14日の自民党の外交関係合同会議で、同党の桜田義孝元文部科学副大臣が、旧日本軍「慰安婦」問題に関し、「(慰安婦は)職業としての娼婦、ビジネスだ。犠牲者のような宣伝工作に(日本は)惑わされ過ぎている」と暴言をはきました。旧日本軍によって本人の意思に反して強制使役の下におかれ、性奴隷状態におかれた歴史的事実を否定するもので、「当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた」とする政府の見解すら覆す認識を示しました。
 桜田氏はさらに、「(慰安婦を)職業としての売春婦と言うことを、遠慮することない」と求めました。桜田氏はその後「誤解を招くところがあったので撤回する」とのコメントを発表しました。
 桜田氏の発言について菅義偉官房長官は同日の記者会見で、「いちいち議員の発言に答えることはすべきでない」と述べ、無責任な態度に終始しました。

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2016-02-18/2016021801_07_1.html
赤旗『日本政府「慰安婦」強制連行を否定、国連委で強い批判、女性差別の撤廃を審議』
 国連女性差別撤廃委員会による日本報告に対する審議が16日、ジュネーブの国連欧州本部でおこなわれ、日本軍「慰安婦」問題に対する日本政府の対応が厳しく批判されました。
 政府代表団の杉山晋輔外務審議官は「慰安婦」問題について、「日本政府が発見した資料の中には軍や官憲による、いわゆる強制連行を確認できるものはなかった」と説明しました。さらに、「性奴隷という表現は事実に反する」とのべるとともに、昨年12月の日韓合意で「最終的かつ不可逆的に解決した」などと主張しました。
 これに対し委員は、「非常に不満で許容できない。だれも歴史を変えることはできないし、逆行することもできない。問題を否定する一方で、日韓合意をすすめる政府の態度は矛盾している。問題がないのであればなぜ、合意する必要があったのか」と強烈な不満を突きつけました。
 女性差別撤廃委員会は日本政府に対し1994年以来繰り返し、日本軍「慰安婦」問題の解決を勧告しています。
 ところが政府は、第7、8回報告で「本条約を締結(1985年)する以前に生じた問題に対して遡(さかのぼ)って適用されないため、慰安婦問題を本条約の実施状況の報告において取り上げることは適切でない」として、開き直ってきました。
■「国際社会で 通用しない」
 審議を傍聴した日本婦人団体連合会の柴田真佐子会長の話
 委員会は、日本軍「慰安婦」問題について被害者への補償、加害者処罰、教育を含む永続的な解決を繰り返し勧告してきました。重大な人権侵害であり、今も続いている紛争下での性暴力を根絶する上で、この問題の解決が欠かせないという立場なのです。日本政府の対応は、人権問題だという認識がまったく欠如していることを示すものであり、国際社会では通用するものではありません。

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik16/2016-08-05/2016080506_01_1.html
赤旗『韓国「慰安婦」日韓合意 批判の声多く、財団設立も厳しい船出、少女像撤去 野党が強く反発』
 旧日本軍「慰安婦」問題に関する日韓合意(昨年12月28日)に基づいて韓国の「和解・癒やし財団」が7月28日、発足しました。現地からの報道によると、同財団の金兌玄キム・テヒョン)理事長は同日の第1回理事会後の会見で、生存中の被害者40人と個別に面談したことを明かしました。合意への支持が広がっていると強調しましたが、当事者や支援者から、いまだ批判の声が上がっており、財団にとって厳しい船出となりました。
 日本政府は合意に基づき同財団へ10億円を拠出します。日韓合意の際に、韓国政府が「適切に解決されるよう努力」するとした在韓日本大使館前の少女像の撤去について、金理事長は「10億円とはまったく別の話だ」と語り、拠出の前提条件ではないとの考えを示しました。
 韓国の最大野党「共に民主党」は発足直後の声明で「発足直後から日本政府は10億円に関し、『賠償金ではない』という立場を示すなど、本音をあらわにし始めた」と指摘。第2野党「国民の党」も8月3日声明で、少女像は正しい歴史を語る象徴であり「どんな理由であれ撤去することはできない」と強調しました。
 合意に反発している支援団体、韓国挺身(ていしん)隊問題対策協議会と、被害者が共同で暮らす「ナヌムの家」の関係者は7月27日に記者会見を開き、財団設立に反対の意思を表明しました。
 ナヌムの家の安信権(アン・シングォン)所長は「日本の公式謝罪と法的賠償が含まれていない合意は無効であり、その合意のもとにつくられる財団は違法だ」と主張。支援者らは、被害者支援や資料の収集などを行う「正義記憶財団」を独自に設立しており、韓国政府に10億円を拒否するよう求めています。
 韓国のシンクタンク東アジア研究院が財団設立前に行った世論調査によると、日韓合意について「評価しない」が37・6%で、「評価する」が28・1%でした。評価していない理由として「当事者の意見が反映されていない」が66%と最も多く、「法的責任が明確でなく謝罪が不十分だ」とした人は51%でした。
 財団の金理事長は、「財団を受け入れない方もいることは知っているが、意思疎通の努力を続ければいつかともに歩むことができる」と語り、被害者や支援者、世論に改めて理解を求めました。

http://j.people.com.cn/n3/2016/0531/c94475-9065856.html
■人民日報『日本の歴史学団体が声明「慰安婦問題は終わっていない」』
 日本の歴史学団体15団体が30日、「慰安婦」問題に関する声明を発表、日韓両国政府は昨年、「慰安婦問題」の解決に向け合意に達したが、これは決して慰安婦問題が終結したことを意味する訳ではないと強調した。関係各方面がこの問題に真摯に向き合い、根本的な解決に向けて善処していくよう、声明は求めている。
(中略)
 また声明では、「日韓政府の合意において、『慰安婦制度』の責任主体が曖昧にされており、この史実に対する教育問題についても取り上げられていない」と指摘されている。より重要なことは、「慰安婦」の名誉や尊厳の回復に関わる重要問題において、両国政府は、当事者の意見を聴くこともなく、勝手に問題の終結を宣言している点で、歴史学者としてはこれを見過ごす訳にはいかないとしている。

http://j.people.com.cn/n3/2016/0608/c94474-9069833-2.html
■人民日報『「慰安婦」の声を忘れてはならない』
 日本軍「慰安婦」関連文献の世界記憶遺産登録申請は、忘却を拒絶するためだ。「慰安婦」の歴史文献を永久に保存することは、人類の「慰安婦」制度への反省、思考と批判の推進の助けとなる。日本軍「慰安婦」被害者の名誉と尊厳を守り、こうした貴重な資料を完全に保存し、人類の歴史の重要な文献とする助けとなる。歴史の歪曲を防ぎ、日本による侵略の歴史を公正に記録し、評価することは悲劇の再演を防ぐ助けとなる。
 歴史の問題を解決するには、歴史に立ち戻らなければならない。昨年、日本政府と韓国は「慰安婦」問題の「不可逆的」解決で合意した。この合意には少なからず問題があるが、「日本政府は責任を痛感し」との表現、安倍晋三首相が朴槿恵大統領との電話で述べた「心からのおわび」と「深い反省」、そして日本政府が「予算」の形で10億円を拠出することは、「慰安婦」問題への日本政府の一定の認識を示している。
 まさにこれゆえに、「慰安婦」資料の世界記憶遺産登録申請事業は、日本政府の態度の試金石となる。もし日本政府がこの問題の「不可逆的」解決を真に望んでいるのならなら、前回のようにあからさまに反対し、自らのイメージを損なうのではなく、その成功を望み、日本としてあるべき懺悔を世界の人々に表明するべきだ。

http://j.people.com.cn/n3/2016/1021/c94474-9130981-2.html
■人民日報『日本のユネスコ分担金納付拒否は歴史を直視したくない態度の表れ』
 今年5月、中国、韓国、インドネシアなど8カ国・地域の民間組織が日本軍による第2次大戦時の「慰安婦」強制連行の歴史的事実の世界記憶遺産への登録を共に申請した。ユネスコは来年審査を開始することを決めた。登録が成功すれば、日本の侵略の罪をさらに強化し、固定化することになる。したがって日本政府は政治的干渉に全力を尽くし、この過程の破壊に努めている。今回は分担金納付拒否という方法によって、次回の審査時に日本に有利な決定をするよう露骨に迫っている。
 これと同時に、日本政府はユネスコに対して規則を改正し、「透明性」を高めるようたびたび求めるとともに、世界記憶遺産を審査する委員会に日本の専門家を派遣することを望んでいる。こうした日本のやり方は、世界記憶遺産登録規則の改革を政治化するとともに、改革の名の下に自国のみの利益を図り、さらには侵略の歴史を否認、美化する目的を達成しようとするものであることが難なく見てとれる。
 ユネスコの世界記憶遺産事業の意義は真実の生き生きとした個人の記憶を留め、伝承するだけでなく、人類共通の記憶が永遠に色褪せないようにすることにある。南京大虐殺と「慰安婦」強制連行の痛ましい歴史を人類共通の記憶遺産に高めるのは、血の教訓を記憶に深く刻み、戦争の悲劇を再び繰り返さないためだ。日本当局は根本的是非である歴史問題においてしばしば世論を惑わし、誤った言動をしている。これは必ず阻止され、強く非難され、失敗する運命にある。

http://chosonsinbo.com/jp/2016/01/sk19/
■朝鮮新報『被害者ハルモニ置き去りの「日韓合意」』永田浩三*2
 今回の合意について、日本の大手メディアのほとんどや野党は歓迎の意向を表明している。驚くべき事態だ。たしかにこれまで「慰安婦」問題にまったく向き合ってこなかった安倍政権が、まがりなりにも日本政府の責任を認め、総理大臣としてのお詫びを表明すると決めたことは前進だと言える。しかし、「最終的かつ不可逆的に解決される」などといった文言は、今後一切責任はとらないと言ったに等しく、50年前の日韓基本条約の制定過程を想起させる、暴力的なものだった。
(中略)
 日本政府は、日本大使館前の「少女像」の撤去を韓国政府に求めてもいる。
(中略)
 彼女たちの意見を聞かず、少女像の撤去まで札びらをはたいて実現させる。これを暴力といわずしてなんとしよう。そもそも「慰安婦」問題は、韓国との間だけで存在するわけではない。朝鮮半島全体、中国大陸、太平洋全域・・・、解決には一刻の猶予も許されない。被害者から出発し被害者に終わる。この原則をどうか忘れないでもらいたいと切に願う。

http://chosonsinbo.com/jp/2016/03/03suk/
■朝鮮新報【講演】「日韓『合意』の何が問題なのか」/吉見義明*3
 日韓「合意」の問題は第一に、事実の認定、責任の所在の認定があいまいなことだ。
 日本軍「慰安婦」問題アジア連帯会議の日本政府への提言「日本軍『慰安婦』問題解決のために」(以下、提言)は、①日本政府および軍が軍の施設として「慰安所」を立案・設置し、管理・統制したこと②女性たちが本人の意思に反して、「慰安婦・性奴隷」にされ、「慰安所」等において強制的な状況の下におかれたこと③日本軍の性暴力に遭った植民地、占領地、日本の女性たちの被害にはそれぞれに異なる態様があり、かつ被害が甚大であったこと、そして現在も被害が続いているということ④当時の様々な国内法・国際法に違反する重大な人権侵害であったこと―の認定を求めた(2014年6月2日)。
 しかし日韓「合意」はこれらについていずれも言及していない、「ゼロ回答」である。
 第二に、「合意」は、河野談話から後退したと言わざるをえない。
 河野談話は、「慰安婦」の徴募の全体状況について「甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したこともあった」と認めている。朝鮮半島出身の女性たちについてはさらに踏み込んで、「その募集、移送、管理等も甘言、強圧による等、総じて本人たちの意思に反して行われた」と認定している。今回の「合意」ではこの点が確認されていない。
 また、河野談話を一部否定している点も問題である。安倍政権はこれまで河野談話発表までに、「政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかった」という見解を「合意」後も維持すると述べている。また、2月に開かれた国連女性差別撤廃委員会における日本政府の答弁書は、「…日本政府が確認したどの文書でも、軍と官憲による慰安婦の『強制連行』は確認できなかった」として、これまでは「河野談話発表までに」と期間を限定していたのが、「現在まで見つかっていない」というふうに拡大解釈して、国際社会で主張した。
 また、安倍首相は河野談話の解釈の変更を意味する過去の発言を撤回していない。
 第三の問題は、「慰安婦」制度が性奴隷制度であることを「合意」後も繰り返し否定している点だ。
 安倍首相は1月18日の衆議院予算委員会で「性奴隷といった事実はない」と述べた。また同委員会で岸田外相は「韓国側からは、今回、韓国政府はこの問題に関する公式名称は日本軍慰安婦被害者問題だけであることを改めて確認する、こうした発言も表明されています」と述べており、韓国政府も「慰安婦」は性奴隷ではないと認めたかのような発言をしている。また、性奴隷状態にしたことの否定のみならず、岸田外相は「慰安婦」問題が戦争犯罪であることも改めて否定している。
 「慰安婦」制度が性奴隷制度でもなく、戦争犯罪でもなく、強制もないとすれば、今回の「合意」の「多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた」「慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたる癒しがたい傷を負われた」という認定は一体何を認めたのか、と指摘せざるをえない。
 第四に、日韓「合意」は、被害当事者を抜きにした「合意」であり、かつ賠償をしない「合意」であることだ。
 提言では、「翻すことのできない明確で公式な方法で謝罪すること」「謝罪の証として被害者に賠償すること」を求めているが、これもまた「ゼロ回答」であった。
 共同会見直後の単独の記者会見で岸田外相は、日本政府が拠出するという10億円について、「賠償ではない」とはっきり述べた。加えて、請求権問題は1965年の日韓請求権協定で解決済みだという従来の見解も繰り返している。しかし日韓請求権協定で解決したものは財産と経済的請求権であり、「慰安婦」問題のような重大な人権侵害に関する賠償問題は含まれない。しかし「合意」ではこの問題がきちんと協議されなかった。
 問題は第五に、「合意」では、日本政府による真相究明措置と再発防止措置は何も実施されないということだ。
 河野談話は真相究明、歴史研究・教育による再発防止について公約したが、日韓「合意」によって真相究明と再発防止に関しては、日本政府は10億円さえ出せば何もしなくても済む構図がつくられてしまった。他方で韓国政府は少女像撤去に対する努力義務を負った。また国際社会でこの問題を再び繰り返さないと約束させられた。さらに岸田外相は「韓国政府が慰安婦関連証言と記録をユネスコ世界記録遺産として登録しないだろう」としている。
 「合意」の問題は第六に、加害者側が絶対に言ってはならないことを日本政府が言っている点が重大な問題である。
 一つは、被害国において再発防止のために作られた少女像に対する撤去要求と、ユネスコ世界記録遺産の登録問題への非難である。
 もう一つは、「合意」によって「最終的かつ不可逆的に解決される」ということを加害者側が言っている点だ。それをいうことができるのは被害者だけである。
 問題解決のためには、人間の尊厳を守るために、再発防止のために、日本社会の何かが変わるものでなくてはならない。また、そのことが国際社会に伝わるものでなくてはならない。国際水準に達する被害回復措置とは「ファン・ボーベン国連最終報告書」(93年)が示すように、原状回復、賠償、更生、満足と再発防止保障などが含まれなければならないが、今回の「合意」はそのいずれも満たしていない。

http://chosonsinbo.com/jp/2016/12/05suk-3/
■朝鮮新報『挺対協26年の運動史、その実像に迫る/南の李娜榮教授が来日し講演』
 2015年12月28日の南・日「合意」は、日本軍性奴隷問題解決を求める運動が草創期から絶えず提起してきた、事実認定、真相究明、公式謝罪、法的賠償、再発防止のための歴史教育と追悼事業について、どれ一つ明らかにしなかった、極めて不当な内容だった。
 「合意」に対し被害者と支援者らは、国内外で「合意」無効を訴え、「合意」調査を求める嘆願書を国連に提出(2016年1月28日)、「合意」が憲法上の基本権を侵害するとして憲法裁判所に憲法訴願請求書を提出するなど、抗議行動を展開してきた。

http://japan.hani.co.kr/arti/politics/23003.html
ハンギョレ[インタビュー]従軍慰安婦研究の吉見義明教授「日韓は合意を白紙化すべき」
 日本国内の日本軍「慰安婦」研究の第1人者に挙げられる吉見義明・中央大教授(69)が、慰安婦問題を「最終的かつ不可逆的に解決」されたと宣言した韓日両国政府間の「12・28合意」を白紙化して、原点に立ち返るしかないという見解を明らかにした。 吉見教授はその理由として「この合意は被害者がとうてい受け入れられる内容ではないため」と指摘し、「今回の合意が実行過程に入ったとしても被害者は受け入れない。これは今回の合意では問題が解決されないということを意味する」と話した。
 吉見教授は、慰安婦問題に対する日本政府の認識に進展があったという韓国政府の主張に対しては「慰安婦制度を作った責任の主体が誰なのか、依然として曖昧なうえに、1993年の河野談話とは異なり“再発防止”措置については何も約束しなかった。 以前より後退したもの」と反論した。
 吉見教授は1992年1月、日本防衛研究所図書館で日本軍が慰安婦制度を作る上で深く介入していたことを明らかにした日本の公文書を最初に発掘した慰安婦研究の先駆者。 この文書発掘は慰安婦募集などの強制性と軍の関与を認めた1993年の河野談話につながる。 現在、吉見教授は、2013年5月に桜内文城衆議院議員(当時、現日本維新の会所属)が彼の著書を“ねつ造”と攻撃したことに対する名誉毀損訴訟の1審判決(20日)を控えている。 この訴訟は慰安婦制度の性格に対する日本の司法の判断を要請したものという意味もあり、日本社会で大きな注目を浴びている。
インタビュアー
「先ず12・28合意に対する評価を聞きたい。」
吉見氏
「結論から言えば、今回の合意では慰安婦問題は解決されないと考える。今回の合意は日本政府が韓国政府を追い詰めて(慰安婦問題の正しい解決に向けた)被害者の願いを封じ込める狙いがあると見られる。 色々な問題があるが、最も大きいのはやはり、(慰安婦制度を作り)女性に対する重大な人権侵害をした主体は誰か、という点だ。 責任の主体が相変らず曖昧だ。 (岸田文雄外相が先月28日に発表した内容によれば)『慰安婦問題は軍の関与の下に多数の女性の名誉と尊厳を傷つけた問題』という表現が出てくる。 『軍の関与』ではなく『軍が』として主語を明確にしなければならない」
「業者が介入した場合にも軍が主体で業者は従属的な役割をした。 軍に責任があるならば政府は被害者に“賠償”しなければならない。 しかし岸田外相は10億円の出資金は『賠償でない』と言った。
 『日本政府は責任を痛感する』という表現で(以前と異なり)道義的という表現を抜いたとして喜ぶ人々もいる。 しかし結局、賠償ではなく法的責任を認めたものでもない。 結局、日本が痛感する責任とは何かという疑問が起きる。 業者が悪いことをして、日本政府がこれをまともに取り締まれなくて謝るということに過ぎない」
インタビュアー
「韓国政府は1993年に出された河野談話と比較して進展だと主張している。」
吉見氏 
「日本は河野談話の時とは違い、“再発防止”については何も約束しなかった。 河野談話では『歴史研究、歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ』という内容が含まれている。 しかし今回の合意は10億円さえ出せば何もしなくても済む構図が作られた。 河野談話より後退している。 一方で韓国政府は少女像の撤去のために努力するという義務を負うことになったし、国際社会でこの問題を再び取り上げないという約束までした。 岸田外相は、韓国政府が慰安婦関連証言と記録をユネスコ世界記録遺産として登録しないと話している。 こうして見ると、韓国政府が外交的に失敗したのではないかと考える。 被害者の立場からはとうてい受け入れられる内容ではない」
インタビュアー
慰安婦制度と関連した今までの研究成果によれば、日本に法的責任があるということが当然に見える。 これを認めることがなぜこれほど難しいのだろうか?」
吉見氏
「戦後70年が過ぎたが、日本は依然として植民地支配や戦争責任問題にまともに向き合えずにいる。(韓国人には)申し訳ないが、これを克服するには時間がもっと必要なようだ。 米国もフィリピン支配やベトナム戦争に対してきちんと謝罪しないように、日本もなかなかそれが容易ではない。 しかし、このような状態が続くならば日本は東アジアや国際社会でまともに生きていけないだろうと考える。 多くの日本人がこのことを悟るまで「慰安婦問題は解決されていない」と主張し続けるしかない」
インタビュアー
慰安婦問題を巡って日本の革新勢力が何度も分裂を体験した。」
吉見氏
「結局(1995年の)アジア女性基金も、被害者の意志をきちんと聞かなかったために失敗してしまった。 今回も同じことをした。 当時、基金を推進した人々は日本政府や官僚が『この程度までしか受け入れないから、この程度にしよう』という考えがとても強い。 しかし、これを(このような考え方を)変えなければ問題は解決されない」
インタビュアー
「合意以後に駐韓日本大使館前の少女像撤去問題が争点になった。」
吉見氏
「加害国が被害国に記念物のようなものを撤去しろと要求するのは、普通はありえない話だ。ユネスコの世界記録遺産の登録問題もそうだ。 日本政府は河野談話で『永く記憶にとどめ』と国際社会に公約した。 従って日本政府は中国などと協力して(慰安婦関連証言と記録を)ユネスコ記録遺産に指定されるよう努力しなければならない。 特に実際の慰安婦関連資料はほとんど日本が持っている」
インタビュアー
「現実外交的に国家間の約束を一気に覆すことは容易でないという指摘もある。」
吉見氏
「今回の合意が実行過程に入ったとして見よう。 被害者が受け入れなければどうなるだろうか?。それでは合意の履行が不可能になる。 だから最終解決はされえないということだ。 日本ではすでにこの問題が解決されたと受け止めている。 日本は10億円の拠出を最後にすべての事業を韓国政府に押し付け、自身は何もしなくても済む。 これで全てが終わりということだ。 きわめてひどい話だ」
インタビュアー
「今後、慰安婦運動は何を目標にすべきなのか?」
吉見氏
「結局、韓日両国政府が手を組んで被害者に『もうこれ以上は言うな』と押さえ込む構図を作った。今回の合意は常識的に考えればありえない内容が含まれており、白紙に戻してもう一度考えなければならない。 時間がかかっても、困難に陥った時は根本に戻るしかない。 被害者たちが韓国社会で孤立した状態ならば困るが、(現在の韓国社会の雰囲気から見て)そうでないことは幸いだ。 この合意では日韓の相互信頼関係は作られない」

http://japan.hani.co.kr/arti/politics/25797.html
ハンギョレ[インタビュー]「国民だました『韓日合意』は無効…諦めなければ正義は訪れる」
「昨年12月28日、韓日合意のニュースを聞いた瞬間を絶対に忘れられません。その日から2日間、何ものどを通りませんでした。日本軍慰安婦被害者が数十年間積み上げてきたものを、政府が一瞬で台無しにしたのではありませんか。どうしてそんなことができますか?」
 今月24日、ソウル麻浦区(マポグ)の戦争と女性人権博物館で会ったチ・ウンヒ「日本の性奴隷諸問題解決のための正義記憶財団」(正義記憶財団)理事長は、改めて義憤を隠せなかった。市民たちもまた「12・28合意」に憤りを覚えていた。合意の見返りに日本大使館前の少女像撤去を要求したという話を聞いて、大学生たちは24時間少女像を守り、水曜集会には数千人が殺到した。正義記憶財団は怒れる市民たちの募金で作られた。
 博物館に設置された少女像の前に座ってチ理事長は、断固とした声で「韓日合意」の無効を主張した。
(中略)
 チ理事長は韓日合意を「嘘と欺瞞の上に積み重なった合意」と定義した。
「政府は韓日合意の発表直後『政府は最善を尽くした』、『日本政府が謝罪した』などの嘘で国民を騙しました」
 最近、12・28韓日合意を朴槿恵(パク・クネ)大統領が独断で決めたという疑惑が、ハンギョレの報道によって提起された。主務長官であるユン・ビョンセ外交部長官が「3カ月間だけ時間の余裕を与えてもらえたら、改善された合意を導いてみせる」と朴大統領に要請したが、受け入れられなかったということだ。外交部はこのような疑惑を否定したが、チ理事長は依然として疑念を振り払えないと話した。
(中略)
 政府が設立した「和解・癒やし財団」は最近、日本が差し出した拠出金を被害者ハルモニ(おばあさん)23人に現金で支給したという。支給額が6000万ウォン(約580万円)、4000万ウォン(約380万円)などとまちまちであり、差等支給の疑惑も浮上した。「差等ではなく、分割支給するためにそのようにした」と財団側は否定した。
 チ理事長は「ハルモニたちにいかなる基準に基づいてそのようなことをするのか、あきれ果てる限りだ」とし、「ハルモニたちの状況を利用したものとみられる。ハルモニたちにこの癒やし金をどう説明したのかも分からない。一部の被害者たちが癒やし金をもらったとしても、日本に謝罪と賠償を要求をするのに、問題になることはないと考えている」と語った。
 今年8月22日、国家人権委員会から設立許可を受けた正義記憶財団は、韓国戦争当時の連合軍文書などの過去の資料を発掘し、被害者を支援する事業を担当している。被害者29人と遺族8人を代理して韓日合意に対する憲法訴願を提起し、被害者12人と共にソウル中央地裁に韓国政府に対して一人当たり1億ウォン(約960万円)の損害賠償訴訟も起こした。
 正義記憶財団は、韓日合意1周年を迎える来月28日、被害者・遺族らと共に韓国の裁判所に日本政府に対する損害賠償請求訴訟を提起する計画を立てている。チ理事長は「七十を過ぎた私が街頭に立たざるを得ない状況を作った政府を見ると、ため息が出るが、数十年間諦めなかった市民を見ると、胸がいっぱいになる」として、「量的変化が質的変化をもたらし、歴史の進展が起きる。遅々としているように見えても、常に記憶して行動すれば、(いつかは)正義が訪れると信じている」と話した。

http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2016/12/02/2016120202115.html
朝鮮日報『韓国地裁 政府に慰安婦合意の「法的意味」説明求める』
 韓国の旧日本軍の慰安婦被害者が昨年末の慰安婦問題をめぐる日本政府との合意で精神的・物理的な被害を受けたとして韓国政府を相手取り、1人当たり1億ウォン(約910万円)の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が2日、ソウル中央地裁で開かれた。
 地裁は政府側に対し、合意が持つ法律的な意味についてより具体的に説明するよう求めた。その上で「合意が国家間の条約なら効力が問題となるが、当時は国会での批准など条約の手続きを経ていない」として、「政府代表者間の約束なのか外交協定なのか、精密かつ緻密に明らかにしてほしい」とした。
 政府の代理人は「条約ではないと思う」と説明し、検討して書面で提出する考えを示した。
 慰安婦被害者らは合意が「韓国政府が日本側との積極的な交渉を行わないのは違憲」とする2011年の憲法裁判所の決定に反し、被害者に精神的・物理的な被害を与えたとして提訴した。憲法裁判所は当時、政府が慰安婦問題解決のため、日本政府に損害賠償の責任を問わないことは慰安婦被害者の憲法上の基本権を侵害すると判断した。
 この日、原告の代理人は「合意は(韓国)政府がこれ以上何もしないとする放棄宣言」と指摘。「被害者の権利回復、賠償請求のために何もやっていない」と主張した。
 地裁は合意の性格を具体的に規定してから当事者尋問などの計画を立てることにした。

*1:著書『ゲルニカ物語:ピカソと現代史』(1991年、岩波新書)、『戦争責任論:現代史からの問い』(2005年、岩波現代文庫)、『空爆の歴史:終わらない大量虐殺』(2008年、岩波新書)、『コロニアリズム文化財:近代日本と朝鮮から考える』(2012年、岩波新書)など

*2:著書『NHKと政治権力:番組改変事件当事者の証言』(2014年、岩波現代文庫)、『奄美の奇跡:「祖国復帰」若者たちの無血革命』(2015年、WAVE出版)、『ヒロシマを伝える:詩画人・四國五郎と原爆の表現者たち』(2016年、WAVE出版)など

*3:著書『従軍慰安婦』(1995年、岩波新書)、『毒ガス戦と日本軍』(2004年、岩波書店)、『日本軍「慰安婦」制度とは何か』(2010年、岩波ブックレット)、『焼跡からのデモクラシー:草の根の占領期体験(上)(下)』(2014年、岩波現代全書)など