「珍右翼が巣くう会」に突っ込む(2019年9/23分:荒木和博の巻)

マインドコントロール【調査会NEWS3080】(R01.9.23): 荒木和博BLOG

 先日韓国映画「愛の贈り物」(金ギュミン監督)のDVDをもらったので観てみました。監督は脱北者で日本でも上映された「クロッシング」の助監督も務めています。映画は1990年代後半、飢餓の深刻だった、いわゆる「苦難の行軍」時代の話で、負傷して足が不自由になった父親と、生活苦のために身を売る母、そして小学生の一人娘の家族を描いたものです。
 真面目一徹の父親が「将軍様金正日)が夜も寝ずに人民のことを考え苦労しておられる」と言ったようなセリフを何度も語るのは分かりました。
 配給も途絶え*1、最後には両親がそれぞれ自殺してしまうという悲劇的な話ですが、元になっているのは実話だそうです。母親が毒薬を飲む前に、「今度生まれ変わってまたあなたを娘にできたら、そのときは本当に大事にしてあげるからね」と心の中でつぶやくところは印象的でした。
 父親は最後まで「将軍様」を信じながら、結局現実とのギャップの中で絶望して死んでいきます。おそらくそういう人は多かったのだろうと思います。一種のカルトのようなものですから、マインドコントロールから抜け出すことは自分のこれまでを全て否定することになってしまうため、そう簡単にできることではありません*2
 逆に言えば北朝鮮という国はこの個人崇拝の構造を崩してしまえば、意外に簡単に体制転換はできるのではないかとも思います。

 おいおいですね。荒木ら巣くう会の建前は「拉致被害者救出」であって「体制転換(体制転覆)」ではないはずなのですがね(苦笑)。
 そしてもちろん「拉致被害者救出」と「体制転換(体制転覆)」は

・体制転換(体制転覆)しないと拉致被害者が救出できない
・体制転換(体制転覆)した方が拉致被害者救出に資する

なんて関係にはありません。まあ、「東ドイツ崩壊」のような平和的体制転換(体制転覆)なら資するでしょうが、今のアフガン、イエメン、イラク、シリアのような内戦状態(非平和的な体制転換(体制転覆))になったら目も当てられないでしょう。
 もちろん救う会の本音が

救う会がやりたいことは体制転換(体制転覆)だ
拉致被害者を救出する気なんかまったくない。だから特定失踪者なんて言いがかりをつけてる
・体制転換(体制転覆)の結果、拉致被害者の生命が危険にさらされてもかまわない

ということは以前からモロバレでしたが。
 まあそれはともかく、荒木記事について俺の意見を言えば第一にこれは「劇映画」であり、制作者は「北朝鮮に敵意を感じてる脱北者」です。
 本当にそうした「マインドコントロール」があるかどうかは何とも言えないでしょう。北朝鮮に対するただのネガキャンかもしれない。いや戦前日本が「天皇マインドコントロール天皇は常に正しいという洗脳)」の結果、

1)あの敗戦について「悪いのは板垣征四郎*3東条英機*4武藤章*5ら陸軍だ」となって、東京裁判にはもっぱら陸軍軍人ばかりが訴追され、昭和天皇が処罰どころか退位すらしなかったこと
2)「朕はたらふく食ってるぞ、汝臣民飢えて死ね」というプラカード(いわゆるプラカード事件)に対し「そうだ、配給が不十分で餓死者が出てるのになぜ天皇一家はうまい飯を食ってるんだ!*6」という抗議の声は必ずしも広がらなかったこと
3)終戦後、行幸した昭和天皇に対し、石が飛んでくるどころか、感謝の念が示されたこと

などを考えれば、北朝鮮においてそうしたマインドコントロールがあってもおかしくないですが。
 第二に、「そうした個人崇拝の構造を壊したい」と荒木が思うのならそれこそ「韓国の太陽政策」を応援し、日朝国交正常化を支持すべきじゃないんですかね?(荒木らウヨはもちろん太陽政策や日朝国交正常化に反対しますが)
 一応お断りしておけば「太陽政策」「日朝国交正常化」とは「北朝鮮との間にある種の友好関係を築かなければ平和が維持できない(あるいは拉致被害者は帰ってこない)」「ある種の友好関係を築くために経済交流(モノの交流)しよう、経済交流して豊かになることは北朝鮮万々歳だろう」という考えに基づく政策や主張であり、別に「個人崇拝やマインドコントロールを壊そう」つう話ではありません。
 とはいえ「モノの交流」を進めれば、必然的に「人の交流」「情報の交流」も進んでいくでしょう。そうなれば当然ながら「個人崇拝やマインドコントロールの効力も悪くなる」わけです。
 もちろん北朝鮮側も「無制限の人の交流や情報の交流を認める」とは思えない。
 ただ「経済交流(モノの交流)なし」と「経済交流(モノの交流)を進める(太陽政策や日朝国交正常化)」のとどっちが、「情報や人の交流が進む」か「個人崇拝の効果が悪くなる」かといったら「交流を進める」方でしょう。
 今の中国で文革的な個人崇拝(習近平個人崇拝)がありうるか。まず無理でしょう。
 今の日本で戦前的天皇崇拝がありうるか。これもまず無理でしょう。無理な理由はいろいろあるでしょうが、その一つは「外部(外国)との情報や人の交流」でしょうね。
 第三に仮に「マインドコントロール」とやらがあるとしても*7「マインドコントロール」がなくなれば、体制崩壊するのかといえば話はそんなに単純ではないでしょう(もちろん「マインドコントロールがあって構わない」とか「なくなっても無意味だ」とかいう話ではありません)。
 「体制が崩壊すること」が現実的であり、かつ「自らの利益にもなる」と判断されなければ、マインドコントロールがなくなろうと体制は崩壊しないでしょう。

*1:ちなみに終戦直後の日本も「配給が途絶え」餓死者が続出したことは有名な話です。プラカード事件とか「闇米を拒否した山口良忠判事の餓死」とかはそういう背景があるわけです。

*2:なお「巣くう会や安倍によるマインドコントロール」というより「単に自らのメンツを守りたいだけ(巣くう会や安倍に騙されたという事実を認めたくないだけ)」でしょうが「北朝鮮制裁路線から抜け出すことは自分のこれまでを全て否定することになってしまうため、そう簡単にできることではありません(あげく蓮池透氏を家族会から除名)」というのが家族会でしょう。

*3:関東軍高級参謀として満州事変を実行。その後も関東軍参謀長、第一次近衛、平沼内閣陸軍大臣朝鮮軍司令官、第7方面軍(シンガポール)司令官など歴任。戦後、死刑判決。のちに靖国に合祀。

*4:関東憲兵隊司令官、関東軍参謀長、陸軍次官、第二次、第三次近衛内閣陸軍大臣、首相など歴任。戦後、死刑判決。のちに靖国に合祀。

*5:参謀本部作戦課長、中支那方面軍参謀副長、北支那方面軍参謀副長、陸軍省軍務局長、近衛師団長、第14方面軍(フィリピン)参謀長など歴任。戦後、死刑判決。のちに靖国に合祀。

*6:天皇の食事」については朕はたらふく食っていた ― 食糧メーデー当時の宮中の献立 - 読む・考える・書くを紹介しておきます。

*7:あるか知りませんが。