高世仁に突っ込む(2020年9/5日分)

毒を盛ったロシアを追及するメルケルの「毅然」 - 高世仁の「諸悪莫作」日記

 メルケル*1首相をはじめ、欧州の指導者は立派だ。
実に毅然として対応している。
 (ボーガス注:韓国や北朝鮮相手に?)「毅然として対処する」というフレーズをひんぱんに口にしながら、暗殺者*2プーチン*3に尾っぽを振ってウラジーミルなどと親しげに呼びかけ、30回も首脳会談をやったのは誰ですか。
 その結果といえば、ロシアは憲法を改正して領土割譲をできなくし*4、完全にコケにされたのだった。

 「ロシアのプーチンに毅然としたドイツのメルケル、へつらう日本の安倍*5」と描き出す高世ですが「ロシア、ドイツ」でググれば話はそんなに単純で無いことは簡単にわかります。

欧州覆う、ロシアのガス網 独ルート「ノルド2」完成へ:朝日新聞デジタル(2019年11月11日)
 ロシアが進める欧州向けの天然ガスのパイプライン「ノルドストリーム2」が、来年早々完成する見通しとなった。
 ロシアとドイツをバルト海の海底で結ぶ「ノルドストリーム2」は全長1200キロ。ロシア政府系「ガスプロム」の子会社が手がける。
 両国間には、ほぼ同じコースの「ノルドストリーム」が2011年から稼働中だ。「2」が完成すれば輸送能力は年間1100億立方メートルと倍増する。ガスは地元のパイプラインを通じて欧州各国に運ばれる。
 ドイツなどは、安価な天然ガスを安定需給できるとして計画に協力的だ。

米、独ロのガス計画に制裁警告 「早期に対象特定」 (写真=ロイター) :日本経済新聞(2019/12/28)
 米国務省は27日の声明で、ロシアとドイツを結ぶ天然ガスのパイプライン建設計画について「国務長官は早期に制裁対象を特定する報告書をまとめる」と発表した。
 米国が制裁を科せばロシアやドイツとの関係が悪化する公算が大きい。

 ということで「今回のナワリヌイ暗殺疑惑がこうしたロシアの天然ガス購入に影響する可能性はありますが」、「リトビネンコ暗殺問題発覚後」も、クリミア併合後もドイツはロシアの天然ガスを購入し続けています。
 そんなドイツですら今回「ナワリヌイ暗殺疑惑など放置できなかった」と言うだけの話にすぎません。正直、「リトビネンコ暗殺問題」が事実上うやむやになったように「今回の問題がならない保証はありません」。
 安倍の対ロシア外交の是非はともかく「ロシアに媚びる安倍に対して毅然としたメルケル」と描き出すのはデマでしかありません。話はそんなに単純では無い。
 むしろ「反ロシア」高世の立場なら「メルケルはロシアから天然ガスを買うな!」と言うべきでしょうが
1)高世はそもそもこうした事実を知らないか
2)「メルケルを美化するため」に高世はこうした事実の存在を故意に無視しているか、どちらかなのでしょう。いずれにせよ繰り返しますが、高世の行為はデマの垂れ流しでしかありません。
 また安倍の対ロシア外交をどう評価するにせよ「島の返還」を目指すのなら、ロシアと日本の間に「ある種の友好関係」が必要であり「暗殺者プーチン」などと高世のように悪口雑言することは適切ではありません。
 高世が「島の返還など目指さない」というなら話は別ですが。
 なお、「以前も記事に書きましたが」俺個人は「無人島・竹島の返還」ならまだしも「有人島北方領土の返還は現実的では無い」「少なくとも有人島北方領土返還で、確実に浮上する問題ことについて日本政府、与野党各党などはまともに議論しておらず失望した」と思っています。
 北方領土有人島である以上、日本に返還した場合、現在の北方領土のロシア人住民について日本は
1)ロシア本土に帰ってもらうか
2)ロシア系日本人として受け入れるか、どちらかの必要があります。
 1)の場合、まさか「ロシアが本土への移住費用を全部出せ」というわけにもいかないでしょう。全額負担か、半額負担かはともかく、日本による移住費用の負担は避けられません。
 2)の場合も、まさか「外国人扱い」するわけにいかないでしょうから、「日本国籍を与えロシア系日本人として処遇する」「中国内モンゴル自治区のような、ロシア族自治区の設定も考える」必要があるでしょう。
 「北方領土住民の意見が一枚岩で無い場合、つまり1)支持と2)支持に分裂した場合は」、1)と2)のブレンドと言うこともあり得る。いずれにせよ「北方領土のロシア人住民をどうするか」について結論が出なければ、現地住民は自分らの立場に不安を覚えて、「返還反対」を叫ぶでしょうし、それを無視してまで返還に動く動機もプーチンらロシア政府首脳には無いでしょう。
 一方で「ロシアの侵略なのになぜそんな負担(1)の場合、移住費用の負担、2)の場合、日本国民としての受け入れ)をしないといけないのか」という日本国民の批判を恐れて、日本の政治家でもその点に触れる人間はほとんどいない。結果いつまで経っても北方領土問題が「日本への返還」と言う形で進展しないわけです。

 去年、香港で民主化運動が盛り上がるなか、習近平*6国賓に呼ぼうなんて言ってたのはどこの国の指導者でしたか。
 ぜひ、もっと「毅然と」してください。

 おいおいですね。これまた高世が言うほどヨーロッパ諸国は中国に対して「毅然」としているわけではありません。
 たとえば「国賓訪問」ではないものの、つい先日、中国の王毅*7外相がヨーロッパ諸国(フランス、ドイツ、イタリアなど)を訪問していることを高世はどう理解しているのか。
 大体高世は日本政府にどうして欲しいのか。今更「習主席訪日を白紙に戻せ」とでもいうのか。
 あの「ダライシンパでアンチ中国」の阿部治平ですら

リベラル21 対中国外交はまるごとアメリカ追従で良いか(阿部治平)
 もし政府が自民党国会議員の意向にそって、日本側から習近平訪日を断ったとき、それがどのくらい相手側を侮辱し体面を傷つけたことになるか、そしてそれがどのくらい深刻な影響を日中関係に与えるかわかっているだろうか。
 早い話が経済だ。中国との安定した関係なしに日本経済を考えることはできない。日本にとって中国は最大の貿易相手国で、対中貿易は総額の20%を占める
(中略)
しかも中国に拠点を置く日系企業は他のどの国よりも多い。だから相手がどんなに専制国家であろうが、また覇権国家であろうが、おいそれとはこの密接な関係を解消することはできない。

と言っているのに高世はどれほど非常識なのか。
【参考:最近の習主席】

習近平国家主席夫妻とオランダ国王夫妻 パンダ誕生で祝辞交換--人民網日本語版--人民日報(2020年06月26日)
 今年5月、オランダに貸し出されているパンダの「武雯」が赤ちゃんを生んだ。このことをめぐり、習近平国家主席と彭麗媛夫人、オランダのウィレム・アレクサンダー国王とマキシマ王妃は祝辞を送り合った。
 習主席と彭夫人は祝辞の中で、「パンダの赤ちゃんは中国とオランダの友好のすばらしい結晶であり、双方が生物の多様性保護の協力に力を尽くした末の重要な成果であり、祝福に値することだ。中国は中国・オランダ関係の発展を非常に重視し、オランダとともに努力して、挑戦をチャンスに変え、新型コロナウイルス感染症の予防・抑制と二国間の交流・協力を推進し、両国関係が新たなステージに進むよう推進したい」と述べた。
 ウィレム・アレクサンダー国王とマキシマ王妃は祝辞の中で、「パンダの赤ちゃんが誕生して私たちは喜びに沸いた。オランダは両国の感染症対策の協力を非常に重視している。世界各国が団結し協力しなければ、この世界的危機に打ち勝つことはできない。オランダ・中国関係の基礎はしっかりしており、オランダは引き続き中国と手を取り合って感染症の影響に対応し、一日も早く二国間の正常な往来が回復することを願っている」と述べた。

【参考:王毅外相のヨーロッパ訪問】

中国 王毅外相が欧州5か国歴訪へ 対中警戒高まる中 立場説明 | NHKニュース(2020年8月24日)
・中国の王毅外相は25日からイタリア、フランス、ドイツなどヨーロッパ5か国を歴訪することになりました。
・中国外務省の趙立堅報道官は24日の記者会見で、王毅外相が25日から来月1日までの8日間、イタリア、オランダ、ノルウェー、フランス、ドイツのヨーロッパ5か国を歴訪すると発表しました。

王毅部長「中国とオランダは自由貿易と公正競争の模範たるべき」--人民網日本語版--人民日報(2020年8月27日)
・オランダ訪問中の王毅国務委員兼外交部長(外相)は現地時間26日に同国のブロック外相とハーグで会談した際「中国とオランダは共に多国間主義を堅持して、自由貿易の維持、相互開放の堅持、公正な競争の提唱における模範であるべきだ」と表明した。

王毅部長「習近平国家主席の重要談話は対外開放の明確なメッセージを伝えた」--人民網日本語版--人民日報(2020年8月28日)
 王毅国務委員兼外交部長(外相)は27日にオスロノルウェーのソーライデ外相との共同記者会見に臨んだ。

中国、欧州つなぎ留め懸命 外交2トップ異例の連続訪問 (写真=ロイター) :日本経済新聞(2020年9月1日)
 王氏は8月25日からイタリア、オランダ、ノルウェー、フランス、ドイツの順に訪れた。共産党政治局員で王氏より格上の楊氏は1日にミャンマーに立ち寄り、4日までスペインとギリシャを訪れる。
 中国の念頭にあるのは米国だ。「中国と欧州は協力パートナーであり、競争相手ではない」。王氏は8月28日、マクロン仏大統領との会談で訴えた。中国を「戦略的競合国」と位置づける米国を意識した発言とみられる。
 もっとも、欧州を中国側に引き寄せられたかどうかは微妙だ。
 フランス大統領府はマクロン*8が会談で「香港と新疆を巡る人権問題で深い懸念を表明する」と発言した、と明かした。香港紙によると、オランダのブロック外相も香港国家安全維持法施行や9月に予定していた立法会(議会)選挙の延期に懸念を示した。

 米国べったりの日経らしい「反中国記事」ですが当然ながら「欧州諸国側」が事情はどうアレ王外相らの訪問を受け入れている(つまり受け入れることに何らかのメリットを見いだしている)以上、「必死な中国」という日経の描き出し方は一面的で不適切な代物です。
 また「懸念を示した」ということはもちろん「中国の主張に賛同しなかった」ということですが一方で「制裁措置が発動されたわけでは無い」という点にも注意が必要でしょう。

中国、欧州に外交攻勢 関係強化で米に対抗 王外相が5カ国歴訪(時事通信) - Yahoo!ニュース(2020年9月1日)
・中国の王毅外相は25日~9月1日の日程でフランスなど欧州5カ国を公式訪問している。
・王氏はイタリア、オランダ、ノルウェー、フランス、ドイツの順に各国を訪問。中国外務省によると、王氏は28日にマクロン仏大統領とパリで会談し「中国と欧州は協力パートナーであり、競争相手ではない」と訴えた。
・ポンペオ*9国務長官も7、8月に欧州各国を歴訪。対中批判を展開し、次世代通信規格「5G」網整備から中国通信機器最大手・華為技術(ファーウェイ)を排除するよう呼び掛けた。共産党機関紙・人民日報系の環球時報は社説で、今回の5カ国訪問について「ポンペオが欧州でまいた毒を王毅が消毒する」意味があると解説した。
・28日の香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(電子版)は、習近平国家主席と欧州首脳の9月のオンライン会談の準備に向け、王外相より高位の中国外交統括役、楊潔チ*10共産党政治局員が近くギリシャやスペインを訪問する見通しだと伝えた。両国は中国主導の巨大経済圏構想「一帯一路」の海上輸送ルートに位置する。中国の外交高官が立て続けに欧州を訪問すれば異例で、中国の欧州シフトが一層鮮明になりそうだ。 

王毅外交部長、中独三つの共同任務を強調_中国国際放送局(2020年9月2日)
 ドイツを公式訪問中の王毅国務委員(ボーガス注:外交担当)兼外交部長は現地時間1日、ベルリンでドイツのマース*11外相との共同記者会見に出席しました。
 王外交部長は、「マース外相と率直で踏み込んだ、友好的な会談を行った。相互信頼が深まり、成果に富むものだった」と述べました。

 共同記者会見を行う以上「意見の違いはあるにせよ」高世のようなアンチ中国の立場にはドイツ政府が無いことは明白です。

*1:第4次コール内閣女性・青少年問題担当相、第5次コール内閣環境・原発安全担当相、キリスト教民主同盟 (CDU)幹事長、党首などを経て首相(アンゲラ・メルケル - Wikipedia参照)

*2:英国公安が「プーチンを黒幕認定した」リトビネンコ暗殺も含め現時点では「疑惑の段階」で断言まではできませんが。

*3:エリツィン政権大統領府第一副長官、連邦保安庁長官、第一副首相、首相を経て大統領

*4:国内法を変えれば返還義務がなくなるという単純な話でもないので、改憲は法的な意味では「返還の制約にはならない」でしょう。ただし「政治的な制約」にはなりえます。

*5:自民党幹事長(小泉総裁時代)、小泉内閣官房長官を経て首相

*6:福州市党委員会書記、福建省長、浙江省党委員会書記、上海市党委員会書記、国家副主席、党中央軍事委員会副主席、国家中央軍事委員会副主席などを経て党総書記、国家主席党中央軍事委員会主席、国家中央軍事委員会主席

*7:外務省アジア局長、外務次官補、外務次官(アジア担当)、駐日大使、中国共産党中央台湾工作弁公室主任(国務院台湾事務弁公室主任兼務)などを経て国務委員(外交担当)兼外相

*8:オランド政権財務相を経て首相

*9:下院議員(カンザス州選出)、CIA長官などを経て国務長官

*10:外務次官補、外務次官、駐米大使、外相、国務委員(外交担当)などを経て中央政治局委員(外交担当)、中央外事活動委員会弁公室主任

*11:第3次メルケル内閣司法相を経て第4次メルケル内閣外相(ハイコ・マース - Wikipedia参照)