今日の中国ニュース(2021年6月6分)

リベラル21 チベット動乱を語った小説を読む(阿部治平)

 ツェワン・イシェ・ペンバ原作、星泉訳の『白い鶴よ、翼を貸しておくれ――チベットの愛と戦いの物語』(書肆侃侃房2020)を読んだ。

 「書肆侃侃房(しょしかんかんぼう)」と出版社がマイナーである辺りチベット小説など売り上げが見込めないのでしょう。

◆史実と誤解される恐れも
 私は小説など面白ければそれでよいと思っている輩だが、本書の記述があまりにリアルなので、却ってそのまま史実として誤解される恐れがあると心配になった。小説では1950年中共軍のニャロン進駐とともに抵抗運動が始まるとして話が進むが、実際にチベット人社会が大規模な叛乱に立ち上がったのは1956年からである。
 この史実との違いは、チベット屋である私には大いに気になるところであるが、しかしこのために小説『白い鶴よ、…』の価値が下がるわけではない。

 「ダライ盲従」の阿部らしいですが、いやいや「価値は全否定はされない」にせよ「価値は下がる」でしょうよ。もちろん、池波正太郎鬼平犯科帳』など完全な娯楽小説では「リアルである必要」はないですが(例は鬼平でなくても何でも良いですが)。
 誰も『鬼平犯科帳』に書かれてることが「実在の人物・長谷川平蔵宣以(のぶため)のリアルな姿」とは思ってない。
 しかしこのチベット小説はそういう代物じゃないでしょう。本来ならば「大規模な叛乱に立ち上がったのは1956年からである」ならば、そのような描写をした上で、何故「1950年中共軍のニャロン進駐」時点ではそのような反乱は起きなかったのか、その理由について「筆者の考えを示す」べきです。
 事実に反する小説を書いて「現実直視に繋がる」のか。繋がらないでしょうよ。こういう小説は「現実直視」が目的であって「ただの娯楽小説」ではないでしょうに。
 そして、ならば「娯楽小説的な意味で面白ければ」中国のチベット統治を徹底的に美化し、ダライ・ラマを一方的に「ダライ一味が全て悪い」と非難する小説でも阿部は評価するのかと言ったらそうではないでしょうし。「事実に反する」「政治的に歪んでる」等と批判するであろう事は見え透いています。

 小説の中に、中共工作員となったカムパ(カムの人)タシ・ツェリンが寺院高僧に向かって、「坊主はなぜ働かないのか」と迫る場面がある。
 釈迦は弟子に労働を禁じて布施で生きるよう説いていたから、僧侶が労働するのは破戒である。高僧は当惑して、巡礼者からの施しや、各家庭に出向いて仏事をしたときの報酬で生活していると弁解する。タシ・ツェリンは、寺院に多額の収入があるのは農牧民に対する搾取によるものだといった教育を受けているからこういう。
 「健康な男性が読経で時間を無駄にしているなど間違っている」
 「畑に出て労働したほうがよっぽどましだ。僧院が精神修養のための機関であることを標榜して莫大な寄附や布施を受け取るのは不適切だと思う。……生活費は自力で稼ぐのだ」
 そして布施や寄附を受け取るのはやめろと要求する。

 まあ「中国共産党の改革のやり方」は「乱暴すぎた」のかもしれませんが、ここでのタシ・ツェリンの指摘は全く正論でしょう。
過度の仏教信仰やダライ・ラマ崇拝はけっきょくチベットに不幸をもたらしたと思う - ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)つう話ですね。「ダライ盲従」阿部はどうもそのようには思ってないらしいですが。


<独自>尖閣占拠想定し図上演習 自衛隊、海保、警察 役割分担を確認 - 産経ニュース
 「正気か?」ですね。「石油が出るかもしれない」程度で「日中関係を確実に悪化させる」尖閣侵攻なんか中国がやるわけもないでしょう。そもそもこんな「図上演習」は「仮にやるとしても*1」秘密裏にやるべき物で、「産経新聞で宣伝」など「中国に対する挑発行為」以外の何物でも無い。日中関係を悪化させたいのか?


中国の「孔子学院」実態調査 政府検討、世論工作を警戒: 日本経済新聞
 勘弁して欲しいですね。自民ウヨ議員や産経などが孔子学院を敵視していることはもちろん知っていましたが「本気か?」ですね。
 たとえ「ウヨをなだめるための有名無実の調査(『調査に掛かる手間暇』『ウヨがこれをネタにネガキャンを働くであろう事』を除けば*2、不利益は事実上ない。調査結果を基に日本政府が孔子学院を閉鎖しろなどと大学に要求しない)」だとしても、中国に対して失礼だし、大学に対しても迷惑です。
 とはいえ例の「W大学のI濱*3教授」だと「これで早稲田から孔子学院がなくなればメシウマ」とか思っちゃうんでしょうか。あの女史は本当に非常識ですからね。id:Mukke(N澤君?)のように女史を敬愛できる人間の気が知れません。
 しかし「完全に言いがかり」なんで中国もためらいなく「報復措置」をかましてくるかもしれないですね。それにしても日経の記事に「日中関係悪化」への危惧の念がまるで見られないことには心底呆れます。
 『中国という蟻地獄に落ちた韓国』(鈴置著、2013年、日経BP社)として、中国を『蟻地獄呼ばわり』する反中国・鈴置高史氏(元日経記者)といい日経の非常識さには絶句ですね。


【正論7月号】武漢研究所起源説はもう陰謀論ではない 筑波大学システム情報系准教授 掛谷英紀 - 産経ニュース
 「武漢研究所起源説が有力」という主張自体が全くデマ(実際は研究所起源否定説が有力。ただし武漢が起源とは考えられています。現時点でも有力なのは当初から唱えられたコウモリ食説ではないか?)ですがそれ以前に掛谷は、電気工学者であって感染症研究者ではない。
 素人が専門外のことを書いてるわけで全く論外ですね。まあ、感染症研究者で掛谷のようなバカを言う人間がいないからこそ、そうなるわけですが。
 なお、電気工学が一応専門の掛谷ですが、

掛谷英紀 - Wikipedia参照
◆『日本の「リベラル」:自由を謳い自由を脅かす勢力』(2002年、新風舎
◆『人類の敵:共産主義勢力から自由を守る方法』(2021年、集広舎)

というのだから完全にトンデモウヨです。

*1:そもそもやる必要など無いと思いますが

*2:とはいえ、その不利益だけでも大学にとっては大いに迷惑です。

*3:著書『清朝チベット仏教』(2011年、早稲田大学出版部)、『ダライ・ラマと転生』(2016年、扶桑社新書)など