今日の中国ニュース(2022年8月17日分)

リベラル21 チベット現代文学を読む阿部治平*1

 最近、チベット語テキストによる短編小説集を読む機会があった。
 ラシャムジャ著・星泉*2訳『路上の陽光』(書肆侃侃房、2022・03)と、星泉・三浦順子*3・海老原志穂*43氏の翻訳編集による『チベット幻想奇譚』(春陽堂、2022・04)である。

 角川書店河出書房新社講談社集英社小学館、新潮社、文藝春秋などといった「それなりの大手、中堅」でないのは勿論、書肆侃侃房、春陽堂どちらも有名出版社とはとても言えないでしょう。脚注で星泉らの訳書をいくつか紹介しましたが

講談社
◆『チベットの生と死の書』(1995年、三浦順子訳)
中央公論社
◆『チベットの娘:リンチェン・ドルマ・タリンの自伝』(1991年、三浦順子訳、中公文庫)
◆『チベット偽装の十年』(1994年、三浦順子訳)

など一部を除いて、どこも版元はマイナー出版社です。つまり「どんなに阿部や早稲田大学のI濱教授らダライのファン」が強弁しようとも「日本におけるチベットの扱い」などそんなもんだということです。そう言うと連中は怒り出すのでしょうが。

◆『路上の陽光』の原著者ラシャムジャ*5は1977年中国青海省生れ
◆この短編集には8篇がおさめられており、うち書名になった「路上の陽光」と、つぎの「眠れる川」の2篇は続きもので、現在のラサの風景と、その中で暮らすチベット人青年の姿が描かれている。
 この2編に登場する主人公ブンナムはラサ近郊の村から(ボーガス注:チベット自治区の首府ラサに?)出てきた若者で、ほかの出稼ぎ農民と一緒に橋の上で日雇い仕事を求めてたむろしている。ここで知り合った女の子との淡い恋が描かれる。切ない失恋ののち、ガソリンスタンドで出会った娘ベルヤンに惹かれるが、その彼女を四輪駆動車を乗りまわすナイトクラブの経営者にさらわれてしまう。

 ラサが舞台であるにもかかわらず、小説の内容が「ガソリンスタンド」「ナイトクラブ」と「極めて現代的」であることが興味深い。チベットも変貌を遂げてるわけです。それは阿部やI濱にとっては「伝統軽視」で嘆かわしいかもしれませんが。

◆2冊目の『チベット幻想奇譚』は合計13の短編
チベット人の生活が活写されたのがツェワン・ナムジャの「ごみ」である。ラサではゴミの山に登ると街が一望できるというくらいの高さである。最下層のチベット人は、このごみの山から資源物を探して、それを漢人の仲買人に売るのである。

 これまた「極めて現代的」であることが興味深い。まるで有名な「フィリピンのスモーキーマウンテン」です。


ウクライナ問題と台湾問題|コラム|21世紀の日本と国際社会 浅井基文のページ
 「ウクライナ問題と台湾問題は違うのに同一視しようとする米国はおかしい」という浅井先生の指摘には全く同感です。
 まず第一に「国際法上、台湾は国ではなく中国の一部(いわゆる一つの中国)」ですが、「ウクライナは国連加盟国でロシアの一部ではない」。
 第二に「台湾が独立宣言しない限り侵攻しない」と中国は公約し、今のところそれを遵守しています。
 これに対し、プーチンロシアは「無茶苦茶な屁理屈」でウクライナ侵攻です。比較すること自体が中国に対して失礼、無礼の極みです。

*1:著書『もうひとつのチベット現代史:プンツォク=ワンギェルの夢と革命の生涯』(2006年、明石書店)、『チベット高原の片隅で』(2012年、連合出版

*2:東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所教授(チベット研究)。訳書(チベット文学)に『ティメー・クンデンを探して』(2013年、勉誠出版)、『ハバ犬を育てる話』(海老原志穂らとの共訳、2015年、東京外国語大学出版会)、『雪を待つ』(2015年、勉誠出版)、『黒狐の谷』(三浦順子、海老原志穂らとの共訳、2017年、勉誠出版)、『白い鶴よ、翼を貸しておくれ』(2020年、書肆侃侃房)

*3:訳書に『中国とたたかったチベット人』(1987年、日中出版)、『雪の国からの亡命:チベットダライ・ラマ半世紀の証言』(1991年、地湧社)、『チベットの娘:リンチェン・ドルマ・タリンの自伝』(1991年、中公文庫)、『智慧の女たち:チベット女性覚者の評伝』(1992年、春秋社)、『チベット偽装の十年』(1994年、中央公論社)、『チベットの生と死の書』(1995年、講談社)、『チベット愛の書』(1998年、春秋社)、『チベット医学』(2001年、地湧社)、『高僧の生まれ変わり・チベットの少年』(2001年、世界文化社)、『ダライ・ラマ 愛と非暴力』(2008年、春秋社)、『ダライ・ラマ宗教を語る』(2011年、春秋社)、『ダライ・ラマ宗教を超えて』(2012年、サンガ)、『アジャ・リンポチェ回想録:モンゴル人チベット仏教指導者による中国支配下四十八年の記録』(2017年、集広舎)

*4:東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所研究員(チベット研究)。著書『アムド・チベット語文法』(2019年、ひつじ書房

*5:著書『雪を待つ』(星泉訳、2015年、勉誠出版