高世仁に悪口する(2022年8/30日分)

いま学ぶべき日朝秘密交渉の舞台裏 - 高世仁のジャーナルな日々

 ロシアのウクライナ侵攻は、新聞の歌壇でも戦争を否定する歌によく詠まれている。
 若い世代はどうなのかと、歌人の今野寿美(こんの・すみ)氏*1が文芸授創作の授業で題「ウクライナ」としてみた。以下、女子大生の2首。
 勝ち負けをジャンケンで決める僕たちはキエフがキーウとなったと知らず (堀川珠璃依*2
 明日があることに苦しむ僕たちと明日を生きたいと祈る彼ら (吉井万由子)
 今野寿美氏は、「この二首の社会意識、表現の喚起力の感心してしまった」という。前者が能天気な若者に、後者が厭世観に浸りがちな若者に成り代わって詠みつつ、それでいいのかと問いかけ、また戦争の理不尽さを浮かばせていると評価する。(朝日新聞8月7日付「朝日歌壇」より)

 前者はともかく*3後者については俺は「はあ?」ですね。
 戦争の惨禍を受けてる人間(例えばウクライナ戦争の場合、今のウクライナに残っている人間であれ、海外亡命した人間であれ)は「明日があることに苦しむ」ことはないのか。「明日を生きたい」とのみ思ってるのか。そんなことはないでしょう。
 「戦争被害というこんなつらい思いが続くならいっそ死んだ方がましだ」と思う人間がいないと何故思えるのか。
 そもそも「明日も生きたい」と思うことと「明日があることに苦しむ」ことは二項対立ではない。「明日があることに苦しむこと」は「死にたい」ということでは必ずしもない。「明日も生きたい」と思いながら「その明日が自分の思い通りに行かないことに苦しむ」、「明日があることに苦しみ」ながらそれでも「生きたい」と思うことは何ら珍しくないでしょう。
 むしろ俺が選者だったら前者はともかく後者は選びませんね。「人間理解としてあまりにも浅すぎる」と思うからです。

 (ボーガス注:吉井氏は女性でありながら「僕たち」と表現しているが)いま若い女性は一人称に「僕」を使うのが当たり前だそうだ。若い女性のシンガーソングライターが、「ぼくは~」と歌うのはそのまま女性の自分を歌っているのか

 小生も「若い女性のこと」など知らないので勉強になります。
 ボク少女(例:手塚『三つ目がとおる*4』の和登千代子)と言うのも昔は「フィクションの設定」でしかなかったわけですが。
 なお

ボク少女 - Wikipedia
 類義語にボクっ子ボクっ娘(ボクっこ)、僕女、オレっ子、オレっ娘(オレっこ)、俺女がある。
 教育学者の本田由紀*5東大教授が2009~2010年に神奈川県の公立中学校の生徒を対象に行ったアンケート調査によると、一人称に「僕」「俺」を使用しているのはそれぞれ女子全体の1.2%、3.8%であり、「自分」も含めて男性一人称を使用している者は5.0%を占める。また、芸能人の例として、矢口真里*6が「おいら」と称している例、春名風花でんぱ組.inc*7最上もが*8が常時「ぼく」という一人称を使っている事例がある。

だそうです。

 来月は日朝平壌宣言拉致被害者5人の帰国から20年になる。

 日朝平壌宣言が2002年9月17日、5人の帰国が10月15日です。拉致が風化する中、果たして「その当日にマスコミがどれほど報道すること」やら。ちなみに2002年には朝鮮半島関係では以下の出来事もありました。

2002年 - Wikipedia2002年の日本 - Wikipedia
◆5月8日
 瀋陽*9総領事館北朝鮮亡命者駆け込み事件
◆5月31日〜6月30日
  2002 FIFAワールドカップ(日本・韓国の共同開催)
◆10月4日
 北朝鮮が 「六ヵ国枠組み合意」を自ら一方的に破り、核兵器開発の再開を示唆
◆12月19日
 韓国大統領選挙で盧武鉉が当選

 小泉純一郎総理の訪朝を実現させたのは、田中均*10アジア大洋州局長(当時)による1年におよぶ秘密交渉だった。その舞台裏をNHKに語った。

 これについては

https://twitter.com/TanakaDiplomat/status/1562425320900177924
田中均
8月24日、今夜22:00~22:40「国際報道2022 」(NHK BS1
日朝首脳会談から20年・知られざる交渉の舞台裏」

だそうです(ということで高世記事の発表は放送直後ではありません)。
 まあこれだって舞台裏を全て語ってるわけではないでしょうが。それにしても大恩人の田中氏に対して「たった5人の帰国か」と悪口し、「建国義勇軍事件(刀剣友の会事件)」の被害に遭っても「因果応報」呼ばわりし、あげく退官に追い込むのだから拉致被害者家族会のバカさには改めてうんざりします。あれだけの功績であることを考えれば田中氏は退官しなければ事務次官になっていてもおかしくなかったでしょう。
 田中氏の経験したアジア大洋州局長(前身のアジア局長含む)からは

アジア大洋州局 - Wikipedia
【田中局長以前】
◆須之部量三
 駐米公使、外務省アジア局長、オランダ大使、インドネシア大使、韓国大使を経て、外務事務次官
◆高島益郎
 ジュネーブ総領事、シドニー総領事、外務省条約局長、アジア局長、外務事務次官ソ連大使、最高裁判事を歴任
◆川島裕
 韓国公使、アジア局長、総合外交政策局長、イスラエル大使を経て外務事務次官。外務省退官後も宮内庁式部官長、侍従長を歴任
【田中局長以降】
◆薮中三十二
 シカゴ総領事、アジア大洋州局長、外務審議官を経て外務事務次官。著書『対米経済交渉』(1991年、サイマル出版会)、『国家の命運』(2010年、新潮新書)、『日本の針路』(2015年、岩波書店)、『世界に負けない日本』(2016年、PHP新書)、『トランプ時代の日米新ルール』(2017年、PHP新書)、『世界基準の交渉術』(2019年、宝島社)、『外交交渉四〇年:薮中三十二回顧録』(2021年、ミネルヴァ書房
佐々江賢一郎
 外務省経済局長、アジア大洋州局長、外務審議官、外務事務次官、駐米大使を歴任
◆齋木昭隆
 駐米公使、アジア大洋州局長、インド大使、外務審議官を経て外務事務次官
◆杉山晋輔
 アジア大洋州局長、外務審議官、外務事務次官、駐米大使を歴任

といった事務次官がでていますしね(但しアジア大洋州局長(前身のアジア局長含む)経験者全てが事務次官になったわけではないし、アジア大洋州局長を経験しなかった事務次官もいます)
 いずれにせよ、家族会が「大恩人の田中氏」に不当な攻撃をするようなバカだから、いつまで経っても拉致が解決しない。拉致の現状はそれこそ「家族会の自業自得、因果応報」でしょう。拉致の現状について俺は家族会に全く同情しません。むしろ家族会には「軽蔑」「憎悪」「憤怒」といった負の感情しかない。
 それはともかく横田早紀江とズブズブだった頃は、このように田中氏を好意的に取り上げることなどしなかった高世も、有田『北朝鮮 拉致問題 極秘文書から見える真実』(2022年6月、集英社新書)刊行後は「救う会、家族会批判」を開始し、ついには田中氏をこのように好意的に紹介するのだから人間変われば変わるもんです。
 とはいえそういうことであるなら、小泉元首相、田中均氏、蓮池透氏らに陳謝する用意くらいはあるんだろうな - ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)とは思いますが。未だに高世は田中氏に謝罪してないでしょうし、今後も多分しないでしょう。高世は「無駄にプライドが高そう」ですからね。この高世記事でも「田中氏への謝罪の言葉」は一つも出てきません。

 政府内で当初、交渉の存在を知らされていた人は片手で数えられるほどだった。
 この中に当時官房副長官だった安倍氏は入っていない。安倍氏は小泉訪朝で大きな存在感をアピールし、人気を得ていくのだが、実は北朝鮮との交渉を進めるにあたって、小泉総理から信頼される間柄ではなかったのである。

 安倍が当初から蚊帳の外だと言うことは田中氏だけでなく、飯島元秘書官、福田元官房長官(後に首相)も語っており、まず間違いない事実でしょう。
 そもそも「後に幹事長、官房長官になる安倍」ですが、福田官房長官が退任した後の後継官房長官は「安倍副長官」ではなく「細田*11副長官」でした(福田氏の進言によるとされる)。安倍が本当に評価されていたなら「福田氏の後任長官は安倍になった」でしょう。
 安倍が幹事長になったと言ってもその上には副総裁の山崎拓*12がいた。安倍が官房長官になったのも「小泉首相退陣が見えてきた小泉内閣最終局面」。それまでは細田官房長官であり、客観的に見て安倍は小泉氏に評価されてなかったとみるべきでしょう。

 田中氏はミスターXにあることを要求した。
北朝鮮にスパイ容疑で拘束されている日本人の元記者を無条件で解放してほしい」。
 ミスターXが、北朝鮮で実力がある人物かを見極めようとしたのだった。要求をして間もない2002年2月、2年以上拘束されていた元記者*13が無条件で解放された。

 恐らくこれが「今回、田中氏が初めて明かした話」なのでしょう(以前から「小泉訪朝と元記者解放との関係」は「公然の秘密」ではあったでしょうが)。そうした「事前の地道な交渉」でお互いに信頼関係ができてからの「小泉訪朝」だったわけです。それなしで「無条件で首脳会談する用意がある(安倍、菅、岸田)」などと放言しても何の意味もない。

*1:著書『短歌のための文語文法入門』(2012年、角川学芸出版)、『こころをよむ:危機の時代の歌ごころ』(2022年、NHK出版)など

*2:ジュリーと読むのでしょう。いかにも若者らしいと言うか。

*3:まあ前者だって「テレビが散々報じてるんだからウクライナ戦争に無関心でも嫌でも知るだろ、現実性がない」と個人的には思いますが。

*4:週刊少年マガジン』(講談社)に1974年から1978年3月まで連載。また、テレビ東京系列で1990年10月18日から1991年9月26日までアニメ放送(三つ目がとおる - Wikipedia参照)

*5:著書『若者と仕事』(2005年、東京大学出版会)、『多元化する「能力」と日本社会』(2005年、NTT出版)、『「家庭教育」の隘路』(2008年、勁草書房)、『軋む社会:教育・仕事・若者の現在』(2008年、双風舎→2011年、河出文庫)、『教育の職業的意義 』(2009年、ちくま新書)、『学校の「空気」』(2011年、岩波書店)、『社会を結びなおす:教育・仕事・家族の連携へ』(2014年、岩波ブックレット)、『もじれる社会:戦後日本型循環モデルを超えて』(2014年、ちくま新書)、『教育は何を評価してきたのか』(2020年、岩波新書)、『「日本」ってどんな国?:国際比較データで社会が見えてくる 』(2021年、ちくまプリマー新書)など

*6:1998年5月、『モーニング娘。』の2期メンバーとしてデビュー。2005年に『モーニング娘。』を卒業し以後はソロで活動(矢口真里 - Wikipedia参照)。

*7:2009年に結成された女性アイドルグループ

*8:2011年、『でんぱ組.inc』メンバーとしてデビュー。2017年に『でんぱ組.inc』を脱退し以後はソロで活動(最上もが - Wikipedia参照)

*9:遼寧省省都

*10:サンフランシスコ総領事、外務省経済局長、アジア大洋州局長、外務審議官などを経て現在、国際戦略研究所理事長。著書『外交の力』(2009年、日本経済新聞出版社)、『プロフェッショナルの交渉力』(2009年、講談社)、『日本外交の挑戦』(2015年、角川新書)、『見えない戦争』(2019年、中公新書ラクレ)など

*11:小泉内閣官房長官自民党幹事長(麻生総裁時代)、総務会長(第二次安倍総裁時代)などを経て現在、衆院議長

*12:宇野内閣防衛庁長官、宮沢内閣建設相、自民党国対委員長(河野総裁時代)、政調会長(橋本総裁時代)、幹事長、副総裁(小泉総裁時代)など歴任

*13:日経記者(1999年3月に定年退職)だった杉嶋岑(たかし)のこと。杉島については例えば日経新聞記者北朝鮮拘束事件 - Wikipedia北朝鮮に2年拘束「毎日9時間尋問、自殺も考えた」:朝日新聞デジタル(2018.8.27)参照。また、杉島には『北朝鮮抑留記:わが闘争二年二ケ月1999年12月~2002年2月』(2011年、草思社)と言う著書がある。