高世仁に突っ込む(2022年10/23日分)

日本人難民を北朝鮮から救った男 - 高世仁のジャーナルな日々

 月刊『文藝春秋』9月号の城内康信*1「日本人難民を北朝鮮から救った『神様』」
 正式な引き揚げが始まったのは1946年の12月だったが、その時点で半島北部に残っていた日本人は8千人に過ぎなかった。あまりの少なさにソ連軍責任者が唖然としたという。つまりおよそ30万人をソ連軍にも把握されない形で南に送ってしまったのだ。

 「北朝鮮から救った」は城内において「北朝鮮朝鮮半島北部」を意味するつもりだとしても「北朝鮮朝鮮民主主義人民共和国」と誤読される危険性は当然あります。勿論、北朝鮮の建国は「1948年9月」ですし、「1946年12月頃」の「朝鮮半島北部」は高世が書くようにソ連軍支配なので、はっきり言って不適切な表記でしょう。むしろ当時の「朝鮮半島北部」がソ連支配であることを考えれば「ソ連から救った」の方が適切ではないか?
 なお、確かにこの御仁は「偉大ではある」のでしょうが本来こうしたことは「一民間人の善意」ではなく日本政府がやるべき事であり、それができなかった当時の日本政府は「国としてダメ国家」と言う点は指摘しておきたい。

 この問題にくわしい森功さん(ノンフィクション作家)によれば、事件の構図はこうだ。
 贈収賄構造の中心には「(ボーガス注:中曽根内閣文相という)文教族」でスポーツ団体に力をもつ森喜朗*2元首相がいる。AOKI、KADOKAWAとも、高橋治之容疑者の仲介で森元首相と面会したが、この面会で五輪スポンサーになれると確信したので高橋容疑者に金を払っている。森元首相は、企業に金を出させる“決め手”の役割を担っていた。

 高世の紹介する森氏ですが

◆『泥のカネ:裏金王・水谷功と権力者の饗宴』(2013年、文藝春秋社)
 佐藤福島県知事、小沢一郎民主党幹事長(いずれも役職は当時)に対する水谷氏の裏金については、赤旗水谷建設役員を逮捕/不透明な金の流れ 「政治力」が背景に(2006.7.9)、水谷建設事件から波及/福島県工事で受注工作/知事支援者、口利きか(2006.8.30)、主張/水谷建設ヤミ献金/小沢元代表の説明求められる(2011.4.30)、裏献金「私が手配」/陸山会事件公判 水谷建設元会長が証言(2011.5.25)を紹介しておきます。
◆『悪だくみ:「加計学園」の悲願を叶えた総理の欺瞞』(2019年、文春文庫)

と過去にも汚職ネタで著書を書いています。今回も「東京五輪汚職」での著書を準備してるのでしょう。
 この森功氏の見立てが正しければ「安倍の死去で検察捜査が本格化した」疑いがありますね。
 あの安倍が「親分である森元首相へ波及しかねない捜査」を容認して黙ってるとは思いません。
 この俺の邪推が正しければ、いかに安倍が日本政治をゆがめていたかと言うことです。
 そして皮肉にも「山上による安倍暗殺」は「実行犯・山上の思惑」を大きく超えて「統一協会と自民の癒着」「東京五輪汚職」という二つの「日本政治の巨大な闇、汚点」をさらしました。山上はある意味「歴史に名を残した」といっていいでしょう。暗殺がここまで政治にインパクトを与えた例もそう多くはないのではないか。
 それにしても森氏に捜査の手が及ぶのかどうか。
 過去において「昭電疑獄の芦田*3首相」「金脈疑惑の田中*4首相」「リクルート疑惑の竹下*5首相」「佐川ヤミ献金疑惑の細川*6首相」「故人献金疑惑の鳩山*7首相」という「疑惑で辞任に追い込まれた首相」、「ダグラスグラマン事件の岸*8元首相」という「疑惑で政界(国会議員)引退に追い込まれた元首相」はいても、このうち、訴追された元首相は芦田と田中(但し田中の訴追理由は金脈疑惑ではなくロッキード事件)しかいません(しかも芦田には無罪判決が出ており、有罪判決が出たのは田中だけ)。


人権弁護士の資格を剥奪する「法治」中国 - 高世仁のジャーナルな日々
 ちなみに

布施辰治 - Wikipedia
 三・一五事件(1928年)の弾圧で、日本共産党が解党された後も、共産党員被告人の弁護人として法廷に立ったが、1929年には弁護活動の「逸脱」を理由に東京控訴院(現在の東京高裁)の懲戒裁判所に起訴され、1932年に大審院(現在の最高裁判所)の判決によって弁護士資格が剥奪された。さらに1933年には所属していた日本労農弁護士団(布施ら日本労農弁護士団メンバーが戦後創設した自由法曹団の前身)が一斉検挙され、布施は治安維持法違反で実刑判決を受け、千葉刑務所に1年余り下獄した。
【評伝】
◆布施柑治*9『ある弁護士の生涯:布施辰治』(1963年、岩波新書
◆布施柑治『布施辰治外伝:幸徳事件より松川事件まで』(1974年、未来社
◆大石進*10『改訂版・弁護士布施辰治』 (2011年、西田書店)
◆森正*11『評伝・布施辰治』(2014年、日本評論社
◆森正『ある愚直な人道主義者の生涯:弁護士布施辰治の闘い』(2022年、旬報社

ということで国が弁護士資格を剥奪できるというのは戦前日本も同じでその反省から生まれたのが弁護士自治(弁護士資格の剥奪は弁護士会が行い、国はノータッチ)です。
 勿論、そうした戦前日本においても「自由法曹団設立メンバー」「日本人として唯一の大韓民国建国勲章受章者(二重橋爆弾事件*12、朴烈事件、朝鮮共産党事件などの弁護活動への評価)」布施辰治などの人権派弁護士はいましたが。

  一定の所得水準になれば、自動的*13に民主主義が根付くなどという「理論」が流行ったこともあるが、中国では国が富裕になればなるほど自由が抑圧される事態が続いている。

 今の習近平政治を人権や民主主義の観点から、どう評価するにせよ、少なくとも「国が富裕になればなるほど自由が抑圧」ではないと思いますが。わかりやすい例だと「文革時」の方が「民主主義や人権の観点で劣っていたし貧乏でもあった」わけです。
 つうか「わかりやすい例」をあげれば「豊かになって」からも「韓国で朴槿恵の国政私物化」だし、「日本で安倍のモリカケ桜」のわけで、中国ばかりに悪口するのは違うでしょう。
 また「昔に比べれば豊か」「都市部は欧米と比べても遜色ない」とはいえ中国の場合「内陸部は未だに貧乏なところが多いらしい」点に注意が必要でしょう。だからこその習主席による「共同富裕(格差是正)」の提唱の訳です。

【参考:布施辰治】
韓国から建国勲章うけた弁護士の布施辰治とは?2009.1.14
【その時の今日】独立運動を支持した日本人人権弁護士・布施辰治 | Joongang Ilbo | 中央日報2010.3.31
石巻出身・弁護士布施辰治の偉業顕彰 碑前祭で功績しのぶ | 河北新報オンライン2021.9.14
(書評)『ある愚直な人道主義者の生涯 弁護士布施辰治の闘い』 森正〈著〉:朝日新聞デジタル2022.7.16
 ちなみに小生が最初に布施の名前を知ったのは、

甲賀三郎 (作家) - Wikipedia
 1927年(昭和2年)、島倉儀平(被告人)、正力松太郎(島倉事件当時、牛込神楽坂警察署長。後に読売新聞社主)、布施辰治の関わる実話(島倉事件)をモデルにした長編小説『支倉事件』を『読売新聞』に連載(1月15日~6月26日)、代表作となる。

という甲賀三郎『支倉事件*14』(『日本探偵小説全集1:黒岩涙香小酒井不木甲賀三郎集』(1984年、創元推理文庫)収録)を読んでだったと思います。
 なお、甲賀については論創社から『甲賀三郎探偵小説選』(2003年)、『甲賀三郎探偵小説選Ⅱ』、『甲賀三郎探偵小説選Ⅲ』(以上、2017年)、『甲賀三郎探偵小説選Ⅳ』(2020年)が出ています。

*1:東京新聞編集委員。著書『猛牛(ファンソ)と呼ばれた男:「東声会」町井久之の戦後史』(2009年、新潮社)、『「北朝鮮帰還」を阻止せよ:日本に潜入した韓国秘密工作隊』(2013年、新潮社)、『金正恩の機密ファイル』(2020年、小学館新書)など

*2:中曽根内閣文相、自民党政調会長(宮沢総裁時代)、宮沢内閣通産相、村山内閣建設相、自民党総務会長(橋本総裁時代)、幹事長(小渕総裁時代)などを経て首相

*3:幣原内閣厚生相、日本自由党政調会長(吉田総裁時代)、民主党総裁、片山内閣副総理・外相などを経て首相

*4:岸内閣郵政相、池田内閣蔵相、佐藤内閣通産相自民党政調会長(池田総裁時代)、幹事長(佐藤総裁時代)などを経て首相

*5:佐藤、田中内閣官房長官、三木内閣建設相、大平、中曽根内閣蔵相、自民党幹事長(中曽根総裁時代)などを経て首相

*6:熊本県知事、日本新党代表などを経て首相

*7:新党さきがけ代表幹事、細川内閣官房副長官などを経て首相

*8:戦前、満州国総務庁次長、商工次官、東条内閣商工相を歴任。戦後、日本民主党幹事長、自民党幹事長(鳩山総裁時代)、石橋内閣外相を経て首相

*9:辰治の子。日経新聞元記者

*10:辰治の孫。日本評論社元社長

*11:名古屋市立大学名誉教授。著書『治安維持法裁判と弁護士』(1985年、日本評論社)、『司法書士憲法』(2003年、民事法研究会)など

*12:犯人の金祉燮は無期刑(後に昭和天皇の即位記念による恩赦で懲役20年に減刑)。1928年に獄死。1962年に朴正熙政権が大韓民国建国勲章大統領章を追叙(二重橋爆弾事件 (1924年) - Wikipedia参照)

*13:俺の知る限り「富裕化→教育の普及やメディアの発展が起こり民主主義の方向に行く可能性が高まる」という指摘はしても、「自動的に民主化」とまで言ってる人間は少ないと思います。

*14:著作権が切れてるので現在は青空文庫図書カード:支倉事件で読める。