今日のしんぶん赤旗ニュース(2023年1/4分)(副題:マイナー出版社「共和国」の紹介、ほか)

校閲の目/ジェンダーガイドライン ポイント(1)/男女のいずれかを排除したり、偏ったりしない

 たとえばサラリーマン。
 「マン=男」から男性をイメージしやすくそのため「会社員」「労働者」などの言い換え*1を提案しています。

 一応メモしておきます。
【参考:ジェンダー平等と『マン』】

表現ガイドライン|考えてみましょう ことばの表現 | 函館市から一部引用
「キャリアウーマン、サラリーマン」→「会社員、職員、スタッフ」
「カメラマン、キーマン、行政マン、オンブズマン」→「フォトグラファー・写真家、キーパーソン、公務員・自治体職員、オンブズパーソン」

性別に結びつく用語、マンホールもだめ? 米国で議論:朝日新聞デジタル2019.7.19
 マンホールの呼び名は今後は「メンテナンスホール*2」。
 米カリフォルニア州バークリー市議会が、男や女の特定の性別に結びつく市の用語を言い換える条例の採択に動いている。
 「マン」は男女を問わず「人」という意味でも使われるが、男性を指すこともあり、問題視された。市が示した用語例ではほかに、「マンパワー」を「ヒューマンエフォート(人の努力)」や「ワークフォース(労働力)」と言い換える。「ブラザー(兄弟)」や「シスター(姉妹)」は「シブリング(男女の別のない『きょうだい』)」だ。
 一方、SNS上では「行き過ぎ」と言った声も多く上がっている。

「“マンホール”は性差別的」として30用語の表現見直しへ、スポーツマンは「ハンターズ」に | 国際 | ABEMA TIMES2019.7.23
 セールスマンは「セールスパーソン」、ポリスマン・ポリスウーマンは「ポリスオフィサー」、スポーツマンは「ハンターズ(追求する人)*3」に言い換えられる。
 テレビ朝日アメリカ総局長の名村晃一氏は「男女を分けない『スポークスパーソン』という書き方も一般的で、性を分けない表現は比較的浸透している」と説明した。


きょうの潮流 2023年1月4日(水)

 『文芸春秋』1月号の「続100年後まで読み継ぎたい100冊」に、意外な本が紹介されていました。イジー・ヴォルケル著『製本屋と詩人*4』(共和国)。

 確かにヴォルケルはイジー・ヴォルケル - Wikipediaによれば「チェコスロバキア共産党の創立メンバーでプロレタリア詩人(一方言うまでもなく文春はウヨ出版社)」、版元の共和国はマイナー出版社ですから意外な本を紹介したもんです。
 ちなみに続100年後まで読み継ぎたい100冊 | 文藝春秋 電子版によれば紹介者は作家の佐久間文子氏*5です。
 なお、共和国の本をこの機会にいくつか紹介しておきます。

◆須藤健太郎*6『評伝ジャン・ユスターシュ』(2019年)
【版元ドットコムの著書紹介】
 1981年11月5日。
 ひとりの映画監督が、パリの自室で拳銃自殺を遂げる。
 ジャン・ユスターシュ、42歳。
 1963年、ポスト・ヌーヴェルヴァーグの旗手として、中篇『わるい仲間』でデビュー。ゴダール*7トリュフォー*8らに絶賛され、将来を嘱望される。1973年、初の長篇映画『ママと娼婦』で第26回カンヌ国際映画祭審査員特別賞を受賞するが、時代や流行に追従しない表現によって毀誉褒貶の評価を浴びる。続く『ぼくの小さな恋人たち』(1974)などによって、フィリップ・ガレル*9ら後続のシネアストに多大な影響を与える

菅野賢治*10『「命のヴィザ」言説の虚構:リトアニアユダヤ難民に何があったのか?』(2021年)
【版元ドットコムの著書紹介】
 「杉原ヴィザ」が、ユダヤ難民たちがナチスホロコーストを見越して第三国への出立を考えたために発給されたのではなく、ソ連共産主義から逃れるためのものだったことを明らかにしています。

今週の本棚・著者:菅野賢治さん 『「命のヴィザ」言説の虚構』 | 毎日新聞2021.8.28
 第二次大戦中に外交官の杉原千畝リトアニアで出した日本通過ビザ、いわゆる「命のビザ」は多くのユダヤ難民をホロコーストから救ったと言われてきたが、「当時の難民が恐れたのはナチス・ドイツの脅威ではなく、ソ連による共産化だった」ことを一次資料を基に検証した。

 「読まないと何とも言えない」ですが、誰しも思うのは「杉原の所属した日本国家」も「杉原を顕彰したイスラエル」も決して「親ソ連国家」ではないのに、そのような事実誤認(または故意の歪曲?)が生まれるものだろうかという疑問ですね。
 一般論として「通説崩し」は勿論「衝撃の新説」の場合もありますが「曲解、誤読による珍説(邪馬台国はホニャララにあった、ルーズベルト陰謀論*11等)」も勿論珍しくない。

吉田美和*12『ダダ・カンスケという詩人がいた:評伝・陀田勘助』(2022年)

 ぐぐって見つけた<書評>『ダダ・カンスケという詩人がいた 評伝 陀田(だだ)勘助』吉田美和子 著:東京新聞 TOKYO Web(2022.8.7)

『ダダ・カンスケという詩人がいた 評伝陀田勘助』吉田美和子著(共和国) 4070円 : 読売新聞オンライン2022.10.4
 この本を手に取るまで私もその存在を知らなかった。彼の活動と生きた時代を初めて本格的に明らかにした評伝である。
 著者がダダ・カンスケに注目し調査することになったのは、望月晴朗の油彩画「同志山忠の思い出」(東京国立近代美術館所蔵)の「山忠」がカンスケの本名山本忠平であることに気づいたからである。
 検挙後、獄中で再び詩を 綴ったが十分な裁判も行われないまま刑務所で死亡、29歳であった。小林多喜二が拷問死したのはその2年後である。

を紹介しておきます。「山忠(検挙当時、日本共産党員)」の死去が多喜二のような虐殺か、はたまた「野呂栄太郎結核)、三木清(腎臓病)のような獄中での病死か」はよく分かっていないようです。いずれにせよ無念の死ではあったでしょう。
 「同志山忠の思い出」の思い出については以下の記事を紹介しておきます。

望月晴朗の東京駅、木村荘八の新宿駅 ー2021年4月のMOMATコレクション展(東京国立近代美術館) - 東京でカラヴァッジョ 日記2021.5.18
 この作品の作者、望月晴朗は本名望月晴一郎、函館に生まれ、プロレタリアの画家として活動しましたが、1941(昭和16)年に亡くなっています。
 画家・望月晴朗をネット検索するが、ほとんどヒットしない。
 それでも分かったこと。
1)国立美術館が所蔵する画家の作品は本作1点であるらしいこと。
(中略)
3)本作の寄贈者・山本喜三郎氏は、山本忠平の実弟であるらしいこと。
4)本作は、小学館の『日本美術全集18・ 戦争と美術』(2015年刊)に大判カラー図版で収録されていること。
→獄死した山本への追悼の意を込めた作品で、1931年12月の第4回プロレタリア美術大展覧会*13に出品。
 画面左のあご髭の西洋人が、1928年11月に日本の労働状態視察のため来日した国際労働機関事務局長アルバート*14・トーマ。
 画面右に、大きな身振りで演説するのが山本。画面中央に、赤いビラをまき今にも検挙されそうになっているのが、山本の同士紺野*15
 プロレタリア美術展覧会の出品作は、国家による弾圧や地方および海外での展覧会への出品による行方不明などの理由から大半が現存しないという。本作は画家の遺族によって大事に保管されたことで今に残る貴重な作例となっているという。

【学芸員に聞く】「鉄道と美術の150年」がもっと楽しくなる 鉄道美術の話(2022.11.11)から「同志山忠の思い出」関連部分のみ紹介
 望月晴朗の《同志山忠の思い出》も東京駅が舞台になっています。アナーキズム詩人の山本忠平が、国際労働機関から来た使節に向かって排撃の演説を行ったシーンを描いたもので、駅を舞台にしたハプニングというかパフォーマンスですね。この作品が舞台になった場所というのは、ちょうど東京ステーションギャラリーのある丸の内北口のドームなんです。
 展覧会で作品を見たあとに実際の場所に立っていただくと、絵画の中の空間と現実の空間がリンクしてちょっと感慨深いと思いますね。

長谷川春子『踊る女と八重桃の花』(2022年)
【著書紹介】
 日本画鏑木清方、洋画を梅原龍三郎に師事。戦時下には単身従軍画家としてアジア各地へ赴き、戦後は本音で語るエッセイストとして活躍。そんな女性洋画家の先駈けとして知られる、長谷川春子の初期のみずみずしい随筆や画業を精選して収録する、没後初の選集。2022年8月27日にNHKで放送された「ETV特集・女たちの戦争画」では、本書に収録した図版も多数紹介されました。

 「長谷川春子」について、どこかで見た名前だな、と思ったら以前

新刊紹介:「歴史評論」2022年7月号 - bogus-simotukareのブログ2022.6.12
特集『ジェンダー史・クィア史の現在地』
◆視覚文化研究における私のジェンダー史的アプローチ(吉良智子*16
(内容紹介)
 長谷川春子 - Wikipedia(1895~1967年)など日本美術史において軽視されてきた女性画家について論じていますが、小生の無能のため詳細な紹介は省略します。
参考

女流美術家奉公隊
 太平洋戦時下に組織された女性美術家たちの団体。1943年2月、陸軍報道部の指導のもと、洋画家・長谷川春子を委員長に、藤川栄子、三岸節子桂ゆき日本画家の谷口富美枝ら50名によって結成された。

<書評>『踊る女と八重桃の花』長谷川春子 著:東京新聞 TOKYO Web
 その強烈な行動力により「女流美術家奉公隊」(一九四三年結成)を率いた画家・長谷川春子の、しかしこれは一九三〇年代を中心とした画文集である。春子は、鏑木清方梅原龍三郎という日本画・洋画の巨匠のもとに学び、フランスへ遊学、さらには建国間もない「満洲国」を訪問するなど、当時の女性画家としてはほとんど例外的な恵まれた環境に身を置いていた。姉の長谷川時雨*17が主宰した『女人芸術』をはじめ、雑誌や新聞にも登場し、文筆も積極的にこなしている。
 春子については近年、美術史研究の立場から奉公隊理事長としての活動に徐々に光が当てられるようになった。本書の編者であり、版元「共和国」の代表の下平尾直(しもひら・おなおし)は「やがて戦争に行き着くこの表現者の精神を、そのはじまりから、彼女の表現自身によって語らせてみたかった」という。

つうことで以前、長谷川を紹介してました。

*1:「サラリー=給与」なので「給与労働者」「給与生活者」と言うのが俺は思いつきました。

*2:他の言い換えはともかくこれは「メンテナンスホール(メンテナンス用のホール)」の方がわかりやすい気がします。

*3:「キーパーソン」「スポークスパーソン」「セールスパーソン」「チェアパーソン」のように「マン→パーソン」で「スポーツパーソンじゃないのか?」というのが率直な感想です。

*4:2022年刊行

*5:著書『「文藝」戦後文学史』(2016年、河出書房新社)、『ツボちゃんの話:夫・坪内祐三』(2021年、新潮社)

*6:1980年生まれ。東京都立大学助教

*7:1930~2022年。1960年、『勝手にしやがれ』でベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)を、1961年、『女は女である』でベルリン国際映画祭銀熊賞(審査員特別賞)を、1965年、『アルファヴィル』でベルリン国際映画祭金熊賞を受賞。ヌーヴェルヴァーグの旗手の一人と評価された

*8:1932~1984年。1959年、『大人は判ってくれない』でカンヌ国際映画祭監督賞を、1973年、『アメリカの夜』でアカデミー外国語映画賞を受賞。

*9:1948年生まれ。1982年に『秘密の子供』でジャン・ヴィゴ賞を、1991年に『ギターはもう聞こえない』で、2005年に『恋人たちの失われた革命』でヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞を受賞

*10:東京理科大学教授。著書『ドレフュス事件のなかの科学』(2002年、青土社)、『フランス・ユダヤの歴史』(2016年、慶應義塾大学出版会)

*11:例えば陰謀論もこじらせるとあまりに荒唐無稽な話になり始末に負えない(ルーズヴェルトはそんなすごい戦略家でもないし、米国だってそこまでひどい国ではないだろう) - ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)参照

*12:著書『宮沢賢治:天上のジョバンニ、地上のゴーシュ』(1997年、小沢書店)、『吉田一穂の世界』(1998年、小沢書店)、『単独者のあくび:尾形亀之助』(2010年、 木犀社)

*13:こうしたプロレタリア絵画に関わった著名人としては「洋画家・岡本唐貴(漫画家・白土三平の父)」、「黒沢明(後に映画監督)」がいる。

*14:ググったところフランス語なので「アルベール」と読むのが正しいようです。

*15:紺野与次郎 - Wikipedia(1910~1977年、衆院議員1期(1972~1976年))のことか?

*16:千葉大学特別研究員。著書『戦争と女性画家』(2013年、ブリュッケ)、『女性画家たちの戦争』(2015年、平凡社新書

*17:1879~1941年。作家(長谷川時雨 - Wikipedia参照)