「 『小泉総裁』では日本は衰退する 」 | 櫻井よしこ オフィシャルサイト
高名な政治評論家*1らが、高市氏*2が総裁、総理になれば靖国神社に参拝するので、日中関係に軋轢が生じ、外交問題になると論難する。
確かに高市氏は毎年の春秋の例大祭や8月15日の参拝などを欠かさない。しかし終戦の日については小泉氏*3も同様だ。
「小泉だって靖国参拝してる」という櫻井ですが、「なら小泉が首相だって櫻井にとって問題ないじゃん、なんで櫻井は小泉総裁に反対するの?」となってしまいまさに「ブーメラン」でしょう。
勿論、現在、小泉が靖国参拝してることは問題ですが、とはいえ「首相になっても参拝するという高市」と「その点は曖昧にごまかしてる小泉」とどっちがマシかと言えば「参拝批判派」にとってはまだ小泉の方がましですし、櫻井のような「参拝支持のウヨ」にとっては高市の方がマシの訳です。
以前も書きましたが、まず第一に靖国問題とは「政教分離問題*6(靖国は神社という宗教施設)」もあり、外交問題(A級戦犯合祀問題)だけの話ではないし、靖国参拝を批判する外国も中国だけではない。米国、韓国も批判している。また、戦没者追悼施設なら「政教分離問題」「戦犯合祀問題」が生じない「非宗教でA級戦犯が合祀されてない千鳥ヶ淵戦没者墓苑(千鳥ヶ淵)」がある(なお、なぜ千鳥ヶ淵に『東条*7元首相など刑死したA級戦犯』『小磯*8元首相(無期禁固)など服役中病死したA級戦犯』『松岡*9元外相など裁判判決が出る前に病死したA級戦犯』*10など『靖国が合祀するA級戦犯』が合祀されてないかと言えばA級戦犯は戦没者ではないからです。そもそも靖国のA級戦犯合祀も、A級戦犯の死後(合祀された戦犯の内、一番遅く死去した小磯元首相(無期禁固で服役中に病死)の死去は1950年)にすぐに合祀されたわけではなく、1978年に当時の松平永芳*11靖国神社宮司が反対意見を押し切って合祀したものです)。
第二に「英霊(戦死者)」云々と言う主張は明らかにデマです。
戦死者であっても、民間人(「東京大空襲などの本土空襲の被害者」など)は靖国には合祀されない(軍人軍属のみ合祀)し、「戦死した軍人」でも「戊辰戦争の彰義隊や白虎隊」「箱館戦争の土方歳三」「西南戦争の西郷隆盛」といった「賊軍の兵士」は合祀されません。
一方で「戦死した軍人軍属」以外(例えば刑死者である東条元首相など)でも合祀されることがあり
1)「同じ暗殺被害者」でも大老・井伊直弼(水戸浪士による桜田門外の変)、大久保利通*12(紀尾井坂の変(不平士族による暗殺))、伊藤博文*13(安重根による暗殺)は合祀されず、坂本龍馬(京都見廻組による暗殺)、兵部大輔(陸軍次官)の大村益次郎(不平士族による暗殺)は合祀される
2)同じ結核による病死者でも「奇兵隊の高杉晋作」は合祀され「新選組の沖田総司」は合祀されない
という「合祀基準が実は恣意的で明確ではない」のが靖国です。
明らかに靖国は「非業の死を遂げた国家の英雄(例:明治維新の功労者である高杉晋作など)」と靖国が評価した人間(但しなぜか「明治維新の功労者」大久保や伊藤は合祀されず)を合祀して顕彰、美化してるのであり「戦没者追悼施設」ではない。
「政治的評価から特定の人物を英雄扱いし、死後も顕彰してる」という意味では靖国は
◆錦繍山太陽宮殿
北朝鮮の金日成国家主席、金正日国防委員長を安置
◆ケマル・アタチュルク廟
トルコ共和国初代大統領「ケマル・アタチュルク」を安置
◆東郷神社
日露戦争当時、連合艦隊司令長官を務め、その後も海軍軍令部長、東宮御学問所総裁の要職を歴任した東郷平八郎を祀った。
◆日光東照宮
江戸幕府初代将軍「徳川家康」を東照大権現という神として祀った。こうした江戸時代の『死者の顕彰』が靖国のルーツの一つとされる。
◆乃木神社
第3軍司令官(日露戦争)等を務めた乃木希典を祀った。
◆ホー・チ・ミン廟
ホーチミン北ベトナム国家主席、ベトナム労働党主席を安置
◆ホメイニ廟
イラン革命の指導者の一人で、イランの最高指導者だったホメイニ師を安置
◆毛主席紀念堂
中国共産党の毛沢東主席を安置
◆レーニン廟
ソ連のレーニンを安置
などと同様の施設と言っていいでしょう。
レーニン等を評価しない人間(アンチソ連の反共主義者など)にとってレーニン廟等が評価できないのと同様「日中戦争、太平洋戦争を聖戦扱いし、刑死したA級戦犯を昭和殉難者として美化する靖国」はあの戦争に批判的な人間にとって評価できる代物ではない。
そして日本政府や国際社会の建前は「あの戦争は日本の侵略で間違っていた」というものであるわけです。
「あの戦争を美化する靖国」への「首相の参拝」など政治的に許される話ではない(勿論政教分離の問題もありますが)。
現在中国は反日歴史キャンペーンの真っ只中だ。虚偽に満ちた「南京大虐殺」の映画*14など*15が中国全土で上映されている。
櫻井の言う「虚偽」が「南京事件*16(南京大虐殺)は勿論実在の事件だが映画には事実に反する描写があった」ならともかく櫻井の場合「南京事件否定論(明らかなデマ、歴史修正主義)」なのでお話になりません。
なお、俺はこの映画は見ていませんし恐らく見たところで無知なので「事実に反する描写があるかどうか」は分からないかと思います。
【参考:砂川政教分離訴訟】
砂川政教分離訴訟 - Wikipedia
日本キリスト教協議会(NCC)は「1997年の最高裁大法廷・愛媛玉串料違憲判決に次ぐ(ボーガス注:政教分離問題での)二例目の最高裁大法廷違憲判決を、当然のことではあるが、評価するとともに、これまで闘って来られた二人の原告と弁護団に敬意を表するものである」との声明を発表した。
一方、神社本庁の小間沢肇渉外部長は「歴史的かつ現実の国民生活の実情を無視するもので、無用な混乱を招くことが懸念される」との声明を発表した。
*1:具体的に誰のことなのか?
*2:第一次安倍内閣沖縄・北方等担当相、第三次安倍内閣総務相、岸田内閣経済安保等担当相、自民党政調会長(第二次安倍、岸田総裁時代)等を歴任
*3:第四次安倍、菅内閣環境相、自民党選対委員長(石破総裁時代)等を経て石破内閣農水相
*4:「ハルノートを受諾すれば回避可能だった太平洋戦争」での死者を櫻井がそのように表現することには全く賛同できません。
*5:「追悼の念」や「不戦の誓い」ではない辺りがウヨの桜井らしい。
*6:首相靖国参拝(中曽根、小泉、安倍首相)では未だ最高裁で違憲判決が出たことはありませんが、白石春樹愛媛県知事が玉串料を出したことが争われた「愛媛玉串料訴訟」では最高裁で違憲判決が出ています(愛媛県靖国神社玉串料訴訟 - Wikipedia参照)。また靖国ではないですが、神道関係では「砂川政教分離訴訟」で最高裁で違憲判決が出ています(砂川政教分離訴訟 - Wikipedia参照)。勿論、櫻井らウヨはこうした「神道関係の違憲判決」を非難、否定する立場です。
*7:関東憲兵隊司令官、関東軍参謀長、陸軍次官、陸軍航空総監、第二次、第三次近衛内閣陸軍大臣、首相等を歴任
*8:陸軍省整備局長、軍務局長、陸軍次官、関東軍参謀長、朝鮮軍司令官、平沼、米内内閣拓務大臣、朝鮮総督、首相等を歴任
*10:なお、合祀されたA級戦犯は「刑死」「服役中病死」「裁判判決前に病死」に限られ「無期禁固判決が出たが後に仮釈放され、公職追放も解除され池田内閣法相、自民党政調会長(池田総裁時代)等として復権した賀屋興宣(第一次近衛、東条内閣蔵相)」などは合祀されていません。
*11:1915~2005年。靖国神社第6代宮司(1978~1992年)
*12:大蔵卿、内務卿等を歴任
*13:首相、貴族院議長、枢密院議長、韓国統監など歴任。元老の一人
*14:映画『南京照相館』のこと(照相館は写真館の意味)