今日の中国ニュース(2020年7月31日分)(副題:李登輝死去)

【李登輝氏死去】価値観共有に功績の李氏 中国を注視しつつ日台実務関係を強化 - 産経ニュース

 政府は過度に中国を刺激するのは得策でないと判断しているとみられる。菅氏は「(李氏の)ご葬儀への政府関係者の派遣は予定していない」と述べた。政府は森喜朗*1元首相など首相経験者らが参列する方向で調整している。

 安倍は台湾には「森氏は今も東京五輪組織委員会会長を務める日本政界の重鎮」といい、中国相手には「森氏は国会議員を引退した私人」と言い訳する算段なのでしょう。


【李登輝氏死去】台湾、見据える弔問外交 中国を牽制、コロナが懸念材料 - 産経ニュース

 中国の圧力で、これまでに台湾を訪問した外国の首脳は少ない。台湾メディアによれば、李氏の前任の総統で1988年に死去した蒋経国の葬儀には、当時のシンガポール首相のリー・クアンユー氏、日本の灘尾弘吉・元衆議院議長ら14カ国の要人のみが参列した。

 灘尾*2てのは

灘尾弘吉 - Wikipedia
 灘尾は、1972年の日中国交正常化とそれに伴う台湾(中華民国)との断交に際し、翌1973年に台湾との交流を支援する議員連盟として日華議員懇談会の発足にあたり会長となった。灘尾には中華人民共和国からの招請も度々あったが、台湾側に義理を立てて一度も訪中していない。

という台湾ロビーですからね。そしてそんなんは日中国交正常化後は明らかに自民党の主流じゃ無いわけです。

 一方、コロナの流行が世界で続く中で、各国から多くの要人を招くことに対して慎重な意見もある。5月20日に行われた蔡氏の2期目の就任式では海外の客を招待せず、各国要人からのビデオメッセージを放映する形をとった。李氏の葬儀も同じく各国首脳にビデオ出演してもらう可能性もないとは言い切れない。与党、民主進歩党の関係者は「どんな形でも中国は必ず抗議する。ビデオの方が参加しやすいかもしれない」と話している。

 と言うのはいいわけですね。実際にはコロナを口実にしているにすぎないわけです。


【主張】李登輝氏死去 自由と民主の遺志次代へ - 産経ニュース

 国民党政権が戦後、台湾で行ってきた反日教育をやめさせたのは、2000年まで12年間、総統を務めた李氏だ。日本統治時代の台湾で進んだ教育制度や衛生観念の普及、インフラ整備といった史実を再評価し、新たな歴史教科書を編纂(へんさん)して教育改革を行った。
 李氏の改革がなければ、中国や韓国にも似た反日世論が、台湾になおも残っていた恐れがある。

 おいおいですね。台湾にも産経の言う「反日世論」があることは例えば

馬総統「尖閣は台湾領」 投書で李登輝氏を強く批判 :日本経済新聞
 台湾の馬英九総統は、3日付の台湾紙、中国時報に掲載された投書で、沖縄県尖閣諸島(台湾名・釣魚台)の領有権をあらためて主張した。李登輝元総統が先月、訪日中に都内で行った記者会見で尖閣を日本領だと述べた*3として、台湾の憲法に違反していると強く批判した。
 馬総統は、尖閣は歴史的にも台湾固有の領土だと強調し、李氏の発言は史実に反しており台湾の人々の感情を大きく傷つけたと指摘。李氏に対して発言の撤回と謝罪を要求した。

慰安婦問題「日本は謝罪を」 馬英九前総統 少女像 台湾で初設置 | 注目の発言集 | NHK政治マガジン
 台湾南部で、地元の人権団体が台湾で初めてとなる慰安婦問題を象徴する少女像を設置し、除幕式に出席した野党・国民党の馬英九前総統は日本政府は謝罪すべきだと訴えました。
 除幕式には、過去にも慰安婦問題で日本政府に謝罪を求めていた国民党の馬英九前総統が出席し「日本政府は賠償し、謝罪すべきだ。台湾の人々は、日本による植民地の歴史に加え、日本が女性たちに長年の苦しみをもたらしたことを忘れてはならない」と訴えました。
 一方、台北にある日本の窓口機関「日本台湾交流協会」の前でも、長年、元慰安婦を支援している別の人権団体が抗議活動を行い「日本政府は謝罪しろ」などと一斉に声を上げていました。

と言う記事でも明白でしょう。産経は「馬は反日、親中国」と罵倒するだけですが、馬氏をどう評価するにせよ「元総統」という大物政治家・馬氏の発言は当然それなりの「台湾国民の支持がある」わけです。李登輝の時だけ「元総統」として持ち上げるのはデマも甚だしい。
 産経が「李登輝のような親日派」しか台湾にはいないかのようにデマを飛ばし、それに李登輝のような「親日派」が調子を合わせてるだけです。
 かつ今日の中国ニュース(2020年7月29日分)(副題:李登輝死去)(追記あり) - bogus-simotukareのブログでも指摘しましたが、李登輝が「親日派(というよりは親・日本ウヨ、親・産経ですが)」なのは本心と言うより「敵(中国)の敵は味方」というマキャベリズム、党利党略でしかありません。
 チャンドラ・ボースが「英国からのインド独立」のために当初はナチドイツと手をくもうとし、それが失敗したら日本と手を組み、日本の敗戦が確実となったら(ボースの事故死で実現しませんでしたが)、ソ連と手を組もうとしたような話と、「李登輝親日」は何ら変わりません。
 そもそも朴正熙時代は「韓国は親日国家」などといっていたのが産経ですからその「親日反日認定」は実にくだらない代物です。
 もちろん朴の親日も「敵(北朝鮮)の敵は味方」というマキャベリズム、党利党略でしかなかった。だから朴が死去するとそんなもんは徐々に崩壊し、今や産経が「韓国は反日」と罵倒する事態にあるわけです(とはいえその朴ですら、文世光事件 - Wikipediaでは「大阪の交番で盗まれた拳銃で俺の妻が殺され、俺も殺されかけたのに日本はろくな謝罪もしない」と激怒、慌てた自民党が韓国ロビーの椎名悦三郎 - Wikipedia*4自民党副総裁を訪韓させる羽目になりますが)。
 ただし、韓国においては「敵(北朝鮮)が経済的に没落した」ことで「朴時代と違い現在では」日本にへいこらする必要が減り、戦前の植民地支配や侵略についての日本批判がむしろ強まってるのに対し、台湾では逆に「敵(中国)が経済的に大きく成長し台湾を追い抜いた」ことで「日本にへいこらし戦前の植民地支配や侵略についても批判を避ける動き」が一部で強まってるにすぎません。
 もし「北朝鮮が経済的に韓国を追い抜いていたら」、「中国が台湾に比べ経済的に没落していたら」、おそらく「台湾で歴史認識問題による日本批判が強まる一方、韓国では日本にへいこらする動きが一部で強まり」、産経も今とは逆に「台湾が反日なのに比べ韓国は親日だ」等とためらいなく言っていたでしょう。

 李氏の功績を日本政府は認め、いまからでも叙勲を検討すべきだ。

 安倍は日中関係に配慮して恐らくそんなことはしないでしょう。そしてそれでも産経は安倍を批判できないでしょう。

 アジア民主主義の政治リーダーとして強い存在感を示し続けてきただけに、「李登輝なき台湾」の行方が気になる。

 イヤイヤ既に李登輝など台湾政界において「過去の人」でしょう。まあ、「日本李登輝友の会」などという右翼団体が日本にできるほど「敵の敵は味方」というマキャベリズムから日本ウヨにへつらっていた「日本ウヨの飼い犬・李登輝」ほど日本ウヨ万歳の政治家は台湾にいないのでそう言う意味では李の死去は「産経にとって困った事」でしょうが、台湾政界にとってはそんなことはどうでもいいことです。
 それにしても「アジア民主主義の政治リーダーとして強い存在感」ねえ。「どの辺りがそうなのか?」聞きたくなります(特に現役時代ならまだしも政界を引退した現在において)。勿論産経らウヨがそう持ち上げてきただけで事実とはとても言えないでしょう。

*1:中曽根内閣文相、自民党政調会長(宮沢総裁時代)、宮沢内閣通産相、村山内閣建設相、自民党総務会長(橋本総裁時代)、幹事長(小渕総裁時代)などを経て首相

*2:戦前、内務次官。戦後、政界入り。石橋、岸、池田、佐藤内閣文相、池田内閣厚生相、自民党総務会長(三木総裁時代)、衆院議長など歴任

*3:ただしそんな李も総統時代の態度は『尖閣=台湾領』であり、日本領発言は総統退任後のことです。退任後に考えが変化した正当な理由が無ければ李の態度は「日本ウヨへの媚びへつらい」「立場が変わると、言うことが変わる政治的詐欺行為」でしかありません。恐らく正当な理由など無いでしょうが。

*4:戦前は岸信介商工相の下で商工次官。戦後、岸の誘いで政界入り。岸内閣官房長官、池田内閣通産相、外相、佐藤内閣外相、通産相自民党政調会長(池田総裁時代)、総務会長(佐藤総裁時代)、副総裁(田中、三木総裁時代)等歴任。