「珍右翼が巣くう会」に突っ込む(2022年4/17日分:荒木和博の巻)(副題:大森勝久氏の珍論に突っ込む)

大森勝久氏の新しい論文です: 荒木和博BLOG
西側は思想的・軍事的・戦略的にロシアと中国を凌駕して、攻勢的に封じ込めていくのだ | 新・大森勝久評論集
 タイトルに「中国」とありますが本文にはほとんどロシアのことしか書いてない珍妙な文章です。

 ゼレンスキー・ウクライナ大統領は、アメリカやNATO諸国にウクライナ上空に「飛行禁止区域」を設定することを求めてきたが、拒まれてきた。3月24日に開かれたNATOの緊急首脳会議でも、「そうすること*1NATO軍とロシア軍が直接交戦する事態になりかねない」との理由で、検討の対象外にされた。

 これに対して軍事タカ派の大森氏は「飛行禁止区域」設定どころか「ウクライナだけに戦わせるな」とNATO軍とロシア軍の直接戦闘を主張します。

 私がこれまでに読んだ識者の新聞やネット上の文で、アメリカなどNATO諸国の「直接軍事介入はしない」方針を批判した文は見ていない。

 批判しても「NATO側が受け入れそうにない」ですからね。「受け入れる可能性があれば」話は別でしょうが。
 例えば過去の「ソ連のアフガン侵攻」でも現地ゲリラを支援しても、米軍が直接戦闘はしてないので是非はともかく、NATOの態度は理解できる話です。

 プーチンは(中略)旧ソ連構成国であったウクライナジョージアモルドバ、バルト3国*2旧ソ連の植民地*3であったポーランドルーマニアなど旧東欧諸国を再侵略して征服しようと考えているのである。

 そもそもそんなことをプーチンも最初から考えてない(あくまでも目的はウクライナ限定)でしょうが、考えたところで実行できないでしょう。「ウクライナが米国の軍事支援を受けてる」とはいえ、ウクライナ軍相手にすら苦戦しているわけですから。

 ゴルバチョフは東欧諸国の共産党に命じて(民衆のデモを弾圧してはならない!と)、1989年11月~12月に東欧6か国を解放したが、それは、「ソ連は平和を愛するニューソ連に変わったのだ」と、アメリカなど西側を欺くためであった。そして何十年か後に再侵略して征服するためであった。
 1991年8月の「エリツィン・ロシア共和国大統領が勝利した」と言われている「保守派8人組*4のクーデター」も、ゴルバチョフがシナリオを書き演出した謀略であった。1991年12月のソ連崩壊、民主主義と資本主義をめざす新生ロシア誕生も「国家の偽装倒壊」である。ゴルバチョフがシナリオを作った。エリツィンプーチンゴルバチョフの命令で動いていった。

 まさかゴルバチョフもこんな因縁をつけられるとは思ってないでしょう。
 「悔しいが私は例のクーデター事件で無能のレッテルを貼られ政治的に失脚した。プーチンを副首相や首相に登用し、大統領就任の道を作ったのは私に代わって、ロシア大統領として実権を握ったエリツィンだ(そのエリツィンも在任中にこうした対外武力行使は行っていないが)。何故エリツィンのしたことで私が非難されるのか」と言いたいところでしょう。
 なお、日本でも大日本帝国崩壊後も

【あいうえお順】
大達茂雄
 戦前、小磯内閣内務相。戦後、吉田内閣文相
賀屋興宣
 戦前、第一次近衛、東条*5内閣で蔵相。戦後終身刑判決を受けるがいわゆる逆コースで仮釈放。公職追放も解除され政界復帰。自民党政調会長(池田総裁時代)、池田内閣法相など歴任
岸信介
 戦前、満州国総務庁次長、商工次官、東条内閣商工相など歴任。戦後、日本民主党幹事長、自民党幹事長(鳩山総裁時代)、石橋内閣外相を経て首相。首相退任後も実弟佐藤栄作*6、子分・福田赳夫*7、女婿・安倍晋太郎*8を通じて一定の政治力を行使したとされる。
重光葵
 戦前、東條、小磯*9内閣外相。戦後、禁固7年の判決を受け、公職追放処分を受けるがいわゆる逆コースで公職追放が解除され政界復帰。改進党総裁、日本民主党副総裁(総裁は鳩山一郎)、鳩山内閣外相など歴任
◆津島寿一
 戦前、小磯内閣蔵相。戦後、岸内閣防衛庁長官

と戦前右翼勢力が戦後政界に残存したのだからKGB出身のプーチンソ連崩壊後、独裁者として登場するのは別に不思議なことでもないでしょう。

 国内における独裁支配と対外的な侵略主義は、帝政ロシア時代から一貫している。中国も全く同じである。

 おいおいですね。「プーチンのような対外侵略」は何もしていない中国のどこが「対外的な侵略主義」なのか。「中国は台湾や尖閣への侵攻を企んでる」と放言するのか?

 私たちは自覚的に核兵器で中国とロシアと北朝鮮を攻勢的に封じ込めていかなくてはならない。

 安倍や維新のように「核共有」と言い出す気でしょうか。むしろ今回のウクライナの件は「核抑止論」の怪しさを示してると思いますが。NATOの核はロシアの侵攻を阻止できませんでした。

 今回、中川八洋教授の著書を出したが、見解を異にするところもあるが、優れた著書であると思う。私は以前は、中川氏のその他の著書も読者に紹介することもよくしてきたが、2014年半ば以降は、批判で取り上げたことはあったが、援用することはなかった。それには理由がある。私は中川氏の文を書く姿勢に強い批判を感じているからだ。人格的に問題があると思っている。以前の氏はそうではなかったと思うが、ある時期から変化が現れてきたように思う。

 吹き出しました。昔から中川の人格には問題があるし、そもそも

【中川の731部隊否定論】
731部隊(12) 中川八洋氏の論稿をめぐって(1)
731部隊(13) 中川八洋氏の論稿をめぐって(2)
 中川の場合「日本軍による細菌兵器の実戦使用はなかった」ではなく「そもそも731部隊は細菌戦人体実験など行ってない」だから話になりません。
【中川の『近衛文麿ソ連スパイ説』】
中川八洋『近衛文麿の戦争責任』
中川八洋『近衛文麿の戦争責任』(2)
【中川の著書】
◆『歴史を偽造する韓国:韓国併合と搾取された日本』(2002年、徳間書店
 「日本のおかげで韓国は近代化できた。恨まれるいわれはない」というウヨのおなじみの主張
◆『日本核武装の選択』(2004年、徳間書店
◆『皇統断絶:女性天皇は、皇室の終焉』(2005年、ビジネス社)
◆『女性天皇は皇室廃絶:男系男子天皇を、奉戴せよ』(2006年、徳間書店
◆『近衛文麿の戦争責任』(2010年、PHP研究所
 中川八洋『近衛文麿の戦争責任』によれば近衛はソ連スパイで、尾崎の私的諮問機関「昭和研究会」メンバーの尾崎秀実と共謀して対米開戦の方向に日本を持って行ったとする陰謀論。「ソ連スパイ尾崎のせいで太平洋戦争がー*10陰謀論はウヨでは珍しくないが、多くの場合「無能な近衛が尾崎に騙された」とするところ「近衛もソ連スパイ」とする点がさらに輪をかけて異常。「近衛家という名門貴族の当主(また、貴族院議長、首相を歴任)を籠絡するなんて、ソ連はどんだけ優秀なのよ?」ですよね。
◆『脱原発のウソと犯罪』(2012年、日新報道
◆『侵入異民族アイヌの本当の歴史』(2022年、ヒカルランド)
 アマゾン紹介やレビューを信じれば明らかに「アイヌ民族否定論」。
 なお版元のヒカルランドは、
 菊川征司*11『[9・11テロ完全解析] 10年目の「超」真実』(2015年)、『9.11 捏造テロ 20年目の真実』(2021年)という911テロ・米国CIA自作自演説
 飛鳥昭雄『コロナワクチン接種者は[脳溶解ゾンビ化]する!』(2021年)というワクチン否定本
 リチャード・コシミズ『超・特効薬イベルメクチン』(2021年)というイベルメクチン・コロナ特効薬説(イベルメクチンはコロナには効果がなく、あると強弁してるのはコシミズのようなワクチン否定の陰謀論者だけ)
などを刊行するトンデモ出版社。まともな学者なら本を絶対に出さないところです。もはや「昔は付き合いのあった」徳間書店からも見捨てられてるのかと哀れを感じます。なお、そもそも中川はアイヌ研究者ではありません。

なんて中川のどこが評価できるのか。

*1:勿論設定した場合「ロシアが上空を飛行したら、NATOの事力で追っ払う必要がある」から「直接交戦の恐れ」が出てくるわけです。単に「設定しただけ」で何もしないのでは設定した意味がありません。

*2:エストニアラトビアリトアニア

*3:いわゆる衛星国のことは普通、植民地と言わないと思います。

*4:ヤナーエフ・ソ連副大統領、クリュチコフKGB議長、パヴロフ首相、プーゴ内相、ヤゾフ国防相、バクラーノフ国防会議第一副議長、スタロドゥプツェフ・ソ連農民同盟議長、チジャコフ国営企業・産業施設連合会会長のこと。クーデター失敗後、プーゴ内相は自殺し、他の面子は処罰された。(ソ連8月クーデター - Wikipedia参照)

*5:関東憲兵隊司令官、関東軍参謀長、陸軍次官、陸軍航空総監、第二次、第三次近衛内閣陸軍大臣を経て首相。戦後、死刑判決。後に靖国に合祀

*6:運輸次官から政界入り。吉田内閣郵政相、建設相、自民党総務会長(岸総裁時代)、岸内閣蔵相、池田内閣通産相科学技術庁長官などを経て首相

*7:大蔵省主計局長から政界入り。岸内閣農林相、自民党政調会長(池田総裁時代)、幹事長(佐藤総裁時代)、佐藤内閣蔵相、外相、田中内閣行政管理庁長官、蔵相、三木内閣副総理・経済企画庁長官などを経て首相

*8:三木内閣農林相、福田内閣官房長官自民党政調会長(大平総裁時代)、鈴木内閣通産相、中曽根内閣外相、自民党幹事長(竹下総裁時代)など歴任

*9:陸軍省軍務局長、陸軍次官、朝鮮軍司令官、平沼、米内内閣拓務大臣、朝鮮総督などを経て首相。戦後、終身刑で服役中に病死。後に靖国に合祀

*10:なお、1)尾崎の行ったことは情報スパイであり政策決定には影響力は与えてない、2)そもそも尾崎は昭和研究会の中心メンバーではないし、昭和研究会もそれほどの政治力はなかった、3)昭和研究会メンバーとは言え、尾崎と近衛には特段、親密な関係はなかったというのが通説。

*11:著書『9・11テロの超不都合な真実』(2008年、徳間書店