ワグネルの「反乱」(mutiny)-事件の本質-(浅井基文)
浅井氏が「反米のあまり」か、「プーチン政権に不当に甘いこと」には正直げんなりしますが、但し今回の記事は「日本マスコミがあまり指摘しない重要な指摘」があります。
それは「民間軍事会社は欧米にもある」という話です。つまりこの浅井論文での「事件の本質」とは(何故プリゴジンが反逆したか*1と言うことではなく)「(ロシアに限らない)民間軍事会社の危険性」です(勿論どこに注目するかで「事件の本質」は変わってきます。浅井氏の見方も「一つの重要な視点」だと俺は思います)。
さすがに「プリゴジンの乱」程無茶苦茶なことは起こりえませんが、「欧米の民間軍事会社には問題はないのか?(ロシアのワグネルほど酷くないとしても、おそらくある)」という浅井氏の問題意識は重要かつ必要でしょう。「反ロシア」のあまり「米国をやたら美化する」米国盲従分子id:kojitakenなどにはそうした問題意識は全くないようですが。
他にも浅井氏の指摘から俺的に興味深いところを指摘すれば以下の通りです(以下は俺の要約であり、浅井氏の文章そのままではない)。
プリゴジンが非難していたショイグ*2国防相、ゲラシモフ*3参謀総長*4が今後どうなるかに注目したい。「彼らの無能さがプリゴジンの暴走を招いた」「プリゴジンに非難されるような問題点は確かにあった」としてプーチンに「トカゲの尻尾」「ガス抜き」として切って捨てられる可能性もある反面、今はプリゴジンを全否定したがってるであろうプーチンによって「プリゴジンの主張は全て言いがかり」「軍幹部(ショイグ国防相、ゲラシモフ参謀総長)にはプリゴジンが言うような問題は何もない」として地位がそのまま維持される可能性もある。勿論、彼らが更迭された場合、プーチン体制に何の影響もないわけはないが、それが「プーチン体制の崩壊(終わりの始まり)」を意味するとは思われない。
パキスタン外相 経済混乱の中 “ロシアとの関係強化 必要” | NHK | パキスタン
こうしたことを過大評価はしませんが「ロシア批判」で一枚岩なのは「NATO諸国」中心であることには注意が必要でしょう。それ以外はパキスタンのように「もっと複雑な関係」のことが多いのでしょう。
【風を読む】北方領土から露が逃げ出す日 論説委員長・榊原智 - 産経ニュース
普通に考えてそんな日は来ないでしょう。妄想も甚だしい。クリミア半島、ドネツク州などプーチンが強制編入した土地が仮にウクライナに帰るとしても(帰る保証は勿論ありませんが)、クリミア半島等と北方領土は背景が違うのだから単純比較できません。北方領土が返るとは言えない。
例えば強制編入からあまり時間が経ってないクリミア半島(2014年編入)、ドネツク州(2022年編入)等に対して、北方領土はロシア領(当初はソ連領)になってから既に75年以上経過しています。その間に世代も変わってる。北方領土で生まれ、育ってもはや自国領と思ってるロシア人が多数いるわけです。
米高官「中国指導部は動揺」 ワグネル反乱で - 産経ニュース
「米国は動揺しなかったんですか?」と聞きたくなります。
「プリゴジンの乱」が米国やNATO、ウクライナにとって有利に働く保障はなく、何も「プーチン政権と友好的な中国が動揺」と言う話ではないでしょう。変な事態をもたらすくらいなら「プーチンの勝利(現状維持)」の方がましという認識はウクライナや米国側だって同じではないのか。
ロシア軍副司令官「逮捕」と現地報道 ワグネル反乱に関与した可能性 [ウクライナ情勢]:朝日新聞デジタル
現時点ではロシア政府は逮捕の事実を認めておらず真偽不明ですが紹介しておきます。
プリゴジン氏、ベラルーシ到着 ロシア当局、反乱の捜査終結―ワグネル拠点、移転の可能性:時事ドットコム
一時、所在不明だったことで「亡命約束を反故にしてプーチンと再度激突」「プーチンが秘密裏に謀殺」「謀殺を恐れて雲隠れ」等、憶測を呼んでいましたが結局当初予定(?)通りベラルーシに亡命したようです。もはや「(再度の反乱を防ぐため)ワグネルから影響力は完全排除」「反プーチン活動を企まない限り命は保障(但し、一生をベラルーシ政府の監視付きでベラルーシで過ごす。再度の反乱防止のため、ロシアに戻れないのは勿論、ベラルーシから出国することも不可)」「反プーチン活動を企めば裏切り行為として容赦なく投獄や殺害」という形で処置されたと言うことなのでしょう。
プーチン氏、ワグネル存続認めず 「首謀者は犯罪行為、分裂企てた」 [ウクライナ情勢]:朝日新聞デジタル
ということで「プリゴジン派は粛清するがワグネルは残す」ではなく「ワグネルの解体→所属兵士はロシア軍や他の民間軍事会社に移籍」の可能性が出てきました。
<独自>ウクライナに新幹線導入構想 脱ロシアと復興に副首相意欲 - 産経ニュース
そんなのは終戦してからの話でしょう。今の戦争状態で作れるわけもないし、作ってもロシア軍に破壊されるだけでしょう。
「何だかなあ」ですね。まあ、本気と言うよりは日本への社交辞令でしょうが。勿論本当に「新幹線を作る」として日本企業を採用するかはわかりません。現在「経済支援」等で、ウクライナが恩義があるのは日本だけではない(欧米もそうである)し、欧米も技術面等で「新幹線導入時の有力な選択肢」でしょう。
プリゴジン氏反乱の捜査終結、ロシア連邦保安局が発表…「武装反乱扇動」容疑 : 読売新聞
プリゴジンの逃亡は容認するが、行為自体は犯罪認定し、プリゴジンの子分については処罰するということなのか、気になるところです。
*1:但し、浅井氏は反乱を「プーチンに対し、プリゴジンと対立するショイグ国防相、ゲラシモフ参謀総長を『君側の奸物』として更迭を要求するにすぎなかった(プーチン体制打倒が目的ではなかった)」と言う見方を示しています。つまりプリゴジンは「俺が迫ればプーチンはショイグ国防相、ゲラシモフ参謀総長を切って捨てる」と思い上がっていたのではないかという話です。つまりプーチン体制打倒が目的でなかったからこそ「プリゴジンに取っては予想外のプーチンの激怒」になすすべなく、プリゴジンは降伏したというのが浅井氏の見方です。
*3:レニングラード軍管区司令官、モスクワ軍管区司令官、中央軍管区司令官等を経て参謀総長
*4:浅井氏も含めて多くの人間は、プリゴジンが「プーチン非難は避けてる」点に注目しています。つまり反乱は「プーチンに対し、プリゴジンと対立するショイグ国防相、ゲラシモフ参謀総長を『君側の奸物』として更迭を要求するにすぎなかった(プーチン体制打倒が目的ではなかった)」が「側近を排除すること」を交渉ならともかく、武力恫喝で要求したプリゴジンにプーチンが「思い上がるな!」と激怒。「更迭を受け入れるのでは?」と甘く考えていたプリゴジンの誤算で彼が失脚したという見方です。その点は「昭和天皇打倒」が目的ではなく「皇道派に否定的な重臣(暗殺された斎藤内大臣、高橋蔵相、襲撃された岡田首相など)」を『君側の奸物』として排除するにすぎなかった226事件(しかし昭和天皇は側近暗殺に激怒)に似ているかと思います。