(ボーガス注:南北)戦争の勝利者たちは、人々のコミュニティとしても、また民族*1のコミュニティとしても、南部を復興し再建するための、どんな努力もしませんでした。
三浦曰く「1955年に訪日したフォークナーの言葉」だそうですが、「南北戦争の勝利者たち(リンカーン大統領など北部の指導者?)」が関わった「南部の復興、再建」を「南部出身」フォークナー*2が彼の価値観から「評価しないだけ」にすぎず、さすがにそんな事実はないでしょう。南北戦争に限らず、通常、戦争というものは「戦後の和解、融和」を目指すものです(その和解、融和が敗者の価値観にとっては評価できないものだとしても)。
三浦記事だけではフォークナーがどんな人間か分かりませんが、「南北戦争での南部敗戦」を残念がってるらしい彼は「黒人差別主義者」だったのかもしれません。
なお、「南北戦争での南部敗戦」とは様々な違いがあり、同一視できないものの、「内戦による敗北」と言う点では「明治新政府(薩長)に対する奥羽越列藩同盟(東北諸藩)の敗北」は似ているかもしれない。
東北人は薩長に対しフォークナーのような複雑な感情を抱いていたであろうことは
柴五郎 - Wikipedia参照
故郷の会津が薩摩勢によって甚大な被害をもたらされたため、薩摩の西郷隆盛(西南戦争での戦死)や大久保利通(紀尾井坂の変)の死を「一片の同情もわかず、両雄非業の最期を遂げたるを当然の帰結なり」として喜んだと回顧している。
等で明白でしょう。
私たち南部では故郷を喪失するという災いの後に、優れた作家*3が復活しました。(中略)私は信じています。ここ日本でもよく似通ったことが、数十年間のうちに起こることを。
まあ「日本人に対するリップサービス」でしょうし、少なくともこの言葉は「日本の起こした戦争を正当化してる言葉」でないことは確かです。
余計なことを言うと、私は夏目漱石1冊も読んでない外国人に、あんまり日本のことを批評してほしくないという気持ちはあります。もちろん、日本の政治や経済を理解するうえで漱石なんか読む必要ない*4と言われればそれまで。でも、やはり漱石や鴎外を1冊くらいは読んだうえで語ってほしい、その方が、日本の政治を理解するうえでもどこか深いものになるはずだとは思っています。同じように、アメリカを論ずるなら、せめてフォークナーの短編集くらいは読んだうえで、というのは一応の「礼節」だと思う
「はあ?」ですね。
例えば
ノーベル文学賞受賞者の一覧 - Wikipedia参照
【米国】
・ノーベル文学賞を受賞したシンクレア・ルイス*5(1930年受賞)、ユージン・オニール(1936年受賞)、パール・バック(1938年受賞)、ヘミングウェイ*6(1954年受賞)、スタインベック*7(1962年受賞)
→なお、フォークナーも1949年に受賞
【日本】
・ノーベル文学賞を受賞した川端康成(1968年受賞)、大江健三郎(1994年受賞)
・5000円札の肖像画になった樋口一葉
など、日本でも米国でも作家は山ほどいるのに何で漱石、鴎外とフォークナーだけそんな特別扱いなのかと言えば、「三浦が好きだから」というくだらない理由でしかないでしょう。
そもそも日本人でも、コミカルな内容で比較的読みやすい漱石「坊ちゃん」「吾輩は猫である」、短編で比較的読みやすい鴎外「高瀬舟」ならともかく、それ以外の鴎外、漱石の小説(例えば『明暗』(漱石の遺作、未完のママに終わった))を読んでいる日本人がどれほどいることやら。
そしてその「三浦の理屈」なら、例えば中国、韓国やロシアに悪口するウヨ連中は
ノーベル文学賞受賞者の一覧 - Wikipedia参照
【中国】
◆莫言(1955年生まれ)
2012年にノーベル文学賞受賞。邦訳著書に『赤い高粱』(2003年、岩波現代文庫)、『白檀の刑』(2010年、中公文庫)、『牛・築路』(2011年、岩波現代文庫)、『豊乳肥臀』(2014年、平凡社ライブラリー)等
【韓国】
◆韓江(1970年生まれ)
2024年にノーベル文学賞を受賞。邦訳著書に『ギリシャ語の時間』(2017年、晶文社)、『回復する人間』(2019年、白水社)、『すべての、白いものたちの』(2023年、河出文庫)、『別れを告げない』(2024年、白水社)等
【ロシア】
◆イヴァン・ブーニン(1870~1953年)
ロシア革命後にフランスに亡命。1933年にノーベル文学賞を受賞。邦訳著書に『ミーチャの恋・日射病他十篇』(2025年、岩波文庫)等
◆パステルナーク(1890~1960年)
1958年にノーベル文学賞を受賞するがソ連当局の圧力で辞退。ただし、ノーベル委員会はこの辞退を認めず、一方的に賞を贈った。このため、パステルナークは「1964年に文学賞を辞退したサルトル」とは異なり、辞退扱いにはなっておらず、公式に受賞者として扱われている。邦訳著書に『リュヴェルスの少女時代』(2010年、未知谷)、『ドクトル・ジバゴ*8』(2013年、未知谷)等
◆ショーロホフ(1905~1984年)
1965年にノーベル文学賞受賞。邦訳著書に『静かなドン*9』(岩波文庫)、『人間の運命』(角川文庫)等
◆ソルジェニーツィン(1918~2008年)
1970年にノーベル文学賞受賞。邦訳著書に『イワン・デニーソヴィチの一日』(岩波文庫、新潮文庫等)等
等と言った「中国、韓国、ロシアの文学を読む必要があることになる」わけですが、そんな馬鹿げたことを果たして三浦は本当に「ウヨ仲間」に要求する気なのか?
*1:「人々」はともかく「民族って何?。南部と北部と文化の違いがあるとは言え、南部民族とまで呼べるの?」感が。
*2:南部出身とは言え、南北戦争があったのは1865年で、フォークナーが生まれたのは1897年(30年以上後)なのでリアルタイムでは彼は「南北戦争後の復興」など知りませんが。あくまでも、「両親など目上の存在からの伝聞」「本の知識」でしかないでしょう。
*3:具体的に誰を想定しているのか?
*4:全くその通りで「日本文学の理解」ならともかく、「日本の政治や経済」を理解するには、「日本の政治や経済について論じた本」を読めばよろしい。
*5:1885~1951年。アカデミー主演男優賞(バート・ランカスター)、アカデミー助演女優賞(シャーリー・ジョーンズ)を受賞した映画『エルマー・ガントリー』(1960年公開)の原作者
*6:1899~1961年。アカデミー助演女優賞(カティーナ・パクシヌー)を受賞した映画『誰が為に鐘は鳴る』(1943年公開)の原作者
*7:1902~1968年。アカデミー監督賞(ジョン・フォード)、アカデミー助演女優賞(ジェーン・ダーウェル)を受賞した映画『怒りの葡萄』(1939年公開)、アカデミー助演女優賞(ジョー・ヴァン・フリート)を受賞した映画『エデンの東』(1955年公開)の原作者
*8:『戦場にかける橋』(1957年公開)、『アラビアのロレンス』(1962年公開)でアカデミー監督賞を受賞したデヴィッド・リーン監督によって1965年に映画化。『アラビアのロレンス』でベドウィン族長を演じたオマル・シャリーフがジバゴを演じた。