今日の産経ニュースほか(2020年9月11日分)

【主張】拉致と総裁選 解決の具体策を熱く競え - 産経ニュース

 拉致が「最重要、最優先」の課題であることは後継の政権にとっても同じはずである。自民党総裁選を争う3氏は三様に解決への意欲を語っているが、具体性を欠き、熱を感じない*1

 この件について言えば「評価に値する発言」をしているのは「平壌に常駐事務所を置く(安倍三選時の総裁選でも同じ発言をしていますが)」と発言している石破だけで、残りの二人は具体的な発言はまるでなし。「安倍政権の『拉致は最優先課題』という位置づけを今後も引き継ぐ」程度のことしか言っていません。
 つまりは産経が「解決の具体策を熱く競え」といったところでそれをしようとしているのは「石破だけ」。石破が「拉致解決に向けて、それなりにある種の覚悟を決めてる(巣くう会や家族会に批判されても構わない)」のに他の二人は逃げてるのだからお話になりません。
 まあ、安倍だって「過去の総裁選」において具体的な拉致解決方策なんぞ語っていませんが。
 まあ、「石破が言うまでも無く」本来はとっくの昔に常駐事務所は設置しておくべきだったんですけどね。小泉内閣時に設置するのがベストでしたが。
 ところが巣くう会や産経といったウヨは事務所設置論を唱える石破が「北朝鮮の手先であるかのように誹謗(この社説でも勿論産経は石破を誹謗)」し、それに家族会も調子を合わせてるのだから救われません。要するにウヨ連中は本心では「拉致の解決を望んでない」わけです。「北朝鮮叩きのネタ」「日朝国交正常化妨害のネタ」などとして永久に拉致を政治利用したい。
 本来なら「巣くう会や家族会」が本気で拉致解決を希望するなら
1)「石破氏の設置論を応援する」と声明した上で
2)「岸田氏、菅氏が総裁になった場合も、この石破主張を採用して欲しい」と働きかけるべきでしょうにねえ。

低調な論戦を喜ぶのは北朝鮮だけだ。

 いやいやむしろ「低調な論戦」を喜んでるのは産経や巣くう会の方じゃ無いのか。論戦で「巣くう会や家族会を批判するような意見が出ては困るから」です。
 あるいは「菅万歳の産経」にとっては「拉致に限らず」論戦で「菅の株が下がり、石破の株が上がること」は避けたいでしょうし。心にも無いデマがよくも言えたもんです。

平成14年に蓮池薫さんら5人の拉致被害者が帰国した背景に、北朝鮮を「悪の枢軸」と呼んだ米国の圧力があったことを忘れてはならない。

 やれやれですね。
 蓮池氏らが帰国できた背景には

米国のキューバへの対応から、日本の北朝鮮への対応を考えてみる - ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)
 北朝鮮指導部に拉致被害者を日本に返すという決断をさせるにいたったのは、圧力よりも(ボーガス注:日朝平壌宣言で約束された国交正常化での一定の経済支援など)何らかの見返り、対価であるということは、実にたくさんの人間が語っているし、また新聞、雑誌その他でも報道されていますよね。対価と圧力のどちらが北朝鮮側を動かしたかというのは明らかでしょう。たとえば大した対価ではありませんが、次のような記事はどうでしょうか。常に北朝鮮への強硬姿勢を唱える産経新聞の記事です。
>林東源は、小泉からのメッセージも金正日に伝える。
拉致問題に進展があれば、国民を説得して関係改善を進める意思がある」との趣旨だったという。
 林は「日本人拉致は『過去に過激な盲動分子がやったことだ』という程度に認め、遺憾の意を表し、早期の帰還措置を取るのがよい」という「金大中の考え」を伝えて説得したとも回顧録で主張している。

 林氏なる人物は、韓国の元統一相で、金大中元大統領の側近です。
 この記事が強調したいことは、ほれみろ、金大中なんて金正日と癒着しているとんでもないやつだ、みたいなものなのでしょうが、いずれにせよつまりはそのように北朝鮮側へ配慮することが拉致被害者帰国につながる一助になったということです。産経新聞の報道も、このようにとらえるとなかなか役に立ちます(笑)。
 で、産経新聞の考えはまた違うのでしょうが、このような記事を読めば読むほど、強硬策じゃぜんぜんダメじゃんという結論に立たざるをえないと思いますけどね。

と言う事実(林の北朝鮮への働きかけ)があったことを無視する産経には呆れます。

 「日本人拉致は『過去に過激な盲動分子がやったことだ』という程度に認め、遺憾の意を表し、早期の帰還措置を取るのがよい」という「金大中の考え」

とやらは当然ながら「事前に小泉首相ら日本側の了承を得ている」でしょう。そんな了承も得ずに勝手にこんなことをやったら越権行為で「小泉首相らが激怒」しますし、北朝鮮側だって信用するわけも無い。
 そこは北朝鮮から

北朝鮮「それ(『過激な盲動分子』云々)は本当に金大中大統領の考えで、小泉首相も了解してるのか。あなたの勝手な独断ではないのか」

と言う突っ込みがあり、その北朝鮮の疑念を晴らす「何か」を林がした(金大統領や小泉首相の親書を手渡すなど)とみるべきでしょう。まあ、家族会の反発を恐れてそうした「韓国政府の働きかけについて事前了解していたこと」を小泉元首相は認めないのでしょうが。
 何もこうした「バーター取引」は小泉訪朝での拉致被害者帰国だけでは無い。
 金丸訪朝での「第18富士山丸船長、機関長の帰国」だってあれはあきらかに「三党合意日朝平壌宣言と同様に国交正常化での一定の経済支援を約束)とのバーター」のわけです。
 しかし、こうしてみると「安倍の対ロシア外交(島を取り戻してレガシーにしたい)」ではないですが、金丸という人も最晩年は「レガシー(後世に語られる政治的な業績)が欲しかった」んでしょうね。
 「総務会長、幹事長(中曽根総裁時代)など要職を歴任し、政界の大物といわれても俺には『佐藤首相の日韓国交正常化、沖縄返還』のような『わかりやすいレガシー』『野党支持者、自民党批判者ですら評価せざるを得ないレガシー』が無い。このままでは政治家として無念だ。訪朝して第18富士山丸船長、機関長を取り戻せばそれだけでレガシーになるだろう。俺の生前には無理かもしれないが、俺の訪朝が日朝国交正常化につながれば、田中角栄首相の日中国交正常化前に、日中友好に務めた『LT貿易の高碕達之助 - Wikipedia*2氏』らが『日中友好の井戸を掘った人』と評価されるように歴史に名が残せるだろう」と。
 なお、金丸訪朝(1990年)の時期には「(軍出身の盧泰愚が当選したとは言え)韓国が民政移管(1988年)」「ソ連と韓国の国交樹立(1990年)」「南北朝鮮・国連ダブル加入(1991年)」「中国と韓国の国交樹立(1992年)」などが起こっています。
 こうした状況の変化に、明らかに金丸は「今までは現実性皆無だった、日朝国交正常化の機運がついに熟してきた」と判断したのでしょう。「日朝国交を早期に樹立すべきだ、その方が拉致の解決にも恐らく有益」という「俺の立場」では、「残念ながら」未だに国交が無いわけですが。金丸もまさか「金丸訪朝後30年が経っても」国交が樹立できないとは生前思ってもみなかったでしょう。

【参考:日中友好の井戸を掘った人】

NHKスペシャル | ラストメッセージ第5集命をかけた日中友好岡崎嘉平太
 1972年に日中で国交が正常化する時、周恩来が「わが国では水を飲む時には井戸を掘った人を忘れない」と謝意を伝えた民間人、岡崎嘉平太。隣国中国との国交断絶状態を憂い、貿易という場を利用した交流を発案し、国交樹立へとつなげた“陰の立役者”である。
 戦後の日本は台湾政府と国交を持ち、共産主義・中国に対してアレルギーがあった。その中で岡崎は、アカ、反体制財界人という批判を浴びながらも「相手を知ること」「相手の立場に立つこと」を信条に日中のパイプ作りに奔走した。特に周恩来とは、18回におよぶ会談を通じてアジアの安定と共存を語り合い、信頼と友情を深めていく。
 国交正常化の後は日中青年研修協会を設立、留学や研修を通した“人の石垣”を築きあげることに情熱を傾けた。訪中100回、「信は縦糸、愛は横糸」と唱え続けた岡崎は、現在も中国で最も尊敬されている日本人の一人である。

日中友好の架け橋、岡崎氏紹介する展示始まる 羽田空港:朝日新聞デジタル(2018年7月25日)
 戦後、国交が途絶えていた中国と交流を重ね、日本との懸け橋となった民間人がいた。周恩来元首相から「日中国交正常化の井戸を掘った人物」と評価された岡崎嘉平太(かへいた)氏(1897~1989)だ。両国の平和友好条約締結40年を記念し、その功績を紹介する展示が東京・羽田空港で開かれている。
 岡崎氏は東京帝国大学(当時)を卒業して日本銀行に入行。退行後は機械や石油化学製品製造会社*3全日空の社長を歴任し、日本国際貿易促進協会の常任委員も務めた。
 周氏との交流が始まったのは62年。貿易交渉のため中国を訪問した。岡崎氏は化学繊維のプラントを輸出することで技術者の交流を増やし、国交正常化を目指した。周氏と計18回の会談を重ね、民間交流を活性化させた。
 周氏は72年、日中国交正常化の共同声明の調印前に岡崎氏を招き、言った。
「わが国には、水を飲む時には井戸を掘った人を忘れない、という言葉がある。中国と日本の国交は間もなく回復するが、そうなるには日本側でも多くの方々が困難に屈せず、大きな努力をされたからです」。
 ANAホールディングスの伊東信一郎会長によると、岡崎氏はよく「井戸を掘ったのは周氏です」と話していたという。

*1:イヤー、後述しますが石破の「平壌に常駐事務所を置く」は充分具体的であり、かつ「それなりの熱」を感じますが。

*2:鳩山内閣経済企画庁長官、岸内閣通産相など歴任

*3:池貝鉄工、丸善石油のこと