川田忠明・日本共産党平和運動局長の講演動画を聞く(副題:珍右翼・黒坂真に突っ込む)(2022年2月11日分)

◆黒坂のツイート

https://twitter.com/rokuKUROSAKA/status/1491763587341115393?cxt=HHwWgoCjhYfF57MpAAAA
黒坂真
 日本共産党で長く平和問題を担当している川田忠明さん*1は、北朝鮮との国交樹立の必要性を下記の講演会で強調しました。開始後1時間15分ぐらいでそう主張。また北朝鮮は、体制が維持できないと判断すると日本に核攻撃を断行しうる旨、述べています。反撃策については沈黙。

 さて黒坂のすすめで視聴してみました。2時間程度の動画です。1/26開催の集会で、司会は「党千葉県委員会所属」だそうですので「党千葉県委員会主催」なのでしょう。
 以下は俺の要約ですので興味のある方は実際に見て下さい。
 さて、川田氏はまず「核兵器禁止条約の成立」とそれに対抗した「核保有五大国(米英仏中露)の声明」を紹介します(五大国声明については例えば核戦争防止及び軍備競争回避に関する5核兵器国共同声明|コラム|21世紀の日本と国際社会 浅井基文のページ参照)。
 川田氏が何が言いたいか。
 「五大国ですら国際世論に押されて『核の先制攻撃はしない』と言っている→五大国に政治力、経済力、軍事力が劣る北朝鮮核兵器先制攻撃できるわけがない。北朝鮮にもその程度の常識はあるだろう。その程度の常識も無いと評価したら、『対話と圧力による北朝鮮外交』という日本政府方針も成り立たない(日本政府ですら、『対話と圧力』という条件付きですが、北朝鮮外交を否定しているわけではない)」という話です。
 さて、「軍事力で中国を上回る」というウヨの主張(例えば自民党のGDP2%軍事費増額主張)を「日本の軍事予算拡大→他の予算が減少→例えば中国への科学技術者流出(例の千人計画)などという悲劇が起こるだけ」とする川田氏です。俺的には「異議なし」ですね。
 「中国の経済力向上、日本の経済的地位低下」を考えると果たして「軍事力限定」ですら、「日本が勝てるか微妙(中国に対抗して軍事費が投入できるかどうか)」ですが、「軍事で勝てればいい、後どうでもいい」と言う話ではないので「軍事力に過剰に肩入れすること」は「経済力や科学技術力」で日本が「中国に負けること(例:中国の大学への日本人科学者の流出)」になりかねない。
 そもそも将来的にはともかく、現在において「アフガンやイラクの米軍」「シリアのロシア軍」と違い、中国は「海外に軍事展開していない」。
 また、川田氏も指摘していますが、習主席は近年「共同富裕(格差是正)」を主張しています。
 平たく言えば「都市と田舎の格差をできる限りなくす→チベット、新疆ウイグルとか経済発展が遅れてる田舎を豊かにする」という話です。それを実現する上で、欧米の経済制裁が危惧される「対外侵攻」なんかする余裕があるのか。「そんな余裕はないであろう」「その程度の常識は習主席にもあるであろう」とする川田氏です。
 大体、「香港デモ」ですら、中国は国際社会の反発を恐れて、「軍の投入」を避けました(警察しか投入しなかった)。
 「台湾侵攻」で予想される欧米の反発は「香港デモへの軍投入」レベルではない。
 南沙諸島問題でフィリピンやベトナムと対立しても中国は国際的批判を恐れて「フィリピンやベトナム相手に全面戦争」なんかしない。
 この点は中国政府を「戦争狂」扱いする「リベラル21&阿部治平」に呆れる(2021年12/29分) - bogus-simotukareのブログで批判しましたが、「中国を戦争狂であるかのように描き出す反中国バカ・安倍治平」とは川田氏とは違うわけです。
 とはいえ川田氏も「米中対立」「中台対立」による「不測の事態」を懸念してはいますが。
 川田氏は、日本政府は「米中融和」「中台融和」に動くべきで、例えば「台湾有事は日本有事」などと「中台有事」を煽るかのような安倍の発言を批判しています。
 また、川田氏は「日本にとっての貿易国としての中国の重要性」を指摘し、「中台有事など起これば、中国ビジネスが打撃を受け、日本企業、そして日本経済が甚大な被害を受ける」としています。
 ただし、一方で川田氏が
主張/菅政権の対中姿勢/無法に物言わぬ卑屈さ改めよ2021.1.20

日本側に責任転嫁する傲岸不遜な暴言/志位委員長 中国・王毅外相を批判2020.11.27
 日本共産党志位和夫委員長は26日の記者会見で、日中外相会談後の共同記者会見(24日)で中国の王毅(おうき)外相が、日本が実効支配する沖縄県尖閣諸島周辺での中国公船による主権侵害の行為の責任を日本側に転嫁する発言を行ったことを示し、「驚くべき傲岸(ごうがん)不遜な暴言だ。絶対に許してはならない」と厳しく批判しました。
 志位氏は、共同記者会見に同席した茂木敏充外相(ボーガス注:役職は当時。現在は自民党幹事長)は王外相に何ら反論や批判もしなかったとして、「中国側の不当で一方的な主張だけが(記録に)残るという事態になる。極めてだらしない態度だ」と批判。また、直後に王外相と会談した菅義偉首相が王外相の暴言についてただした形跡もないとして、「覇権主義にモノも言えない屈従外交でいいのか」と厳しく批判しました。

という「共産党幹部の中国批判、自民党批判」と「同様の中国批判、自民党批判」をしていることも指摘しておきます。
 さて「尖閣有事」について米国は「有事が起きない方向」で日中に圧力をかけることはあり得ても「日本側にたって、米軍が中国軍と戦うこと」はしない方向で動くだろうと川田氏は見ています。
 理由は簡単で、米国世論調査では尖閣有事について「有事が起きないように日中両国に圧力をかけろ」という主張支持が多数派であって「日本とともに中国と戦え」なんてのは少数派だからです。
 「タリバンとのアフガン戦争」でも「米国民の犠牲に耐えかねて撤退した米国」です。尖閣有事で戦いたがるわけがない。
 次に「東南アジアの現状が全てバラ色だとは言わないが」と断った上で「ASEANの東南アジア友好協力条約」を紹介した上で、「これを模範にした東北アジア友好協力条約とでもいうべきものを目指していくべきではないか」として話を終える川田氏です。
 次に質疑応答です。

Q1
 外交政策については了解したが、安保政策についてお考えを聞きたい。
A1
 私の属する共産党の立場としては「安保廃棄」「九条護憲」「自衛隊の海外派兵否定」「軍縮(軍事予算の縮減:第二次安倍政権以降、防衛費は拡大の一途)」を当面の課題としています。

Q2
 「米国が日本を守るとは限らない」とはどういう意味か。
A2
 実際に「見放すことがあり得るかどうか」はともかく、「利益にならない」と考えれば「日本を見放す」と言うことですね。何も「日米安保」に限らず、「米国の政治行動」は「善意に基づく慈善活動」ではない。米軍撤兵による「南ベトナム崩壊(北ベトナムの勝利)」「アフガン政権崩壊(タリバンの政権奪還)」を見るとわかりやすいかと思います。

Q3
 「自衛隊違憲」としながら「急迫不正の侵害があれば自衛隊の活動を認める」という共産党の方針は矛盾ではないか?
A3
 以下は、私個人の意見であって、必ずしも党見解ではないですが、まず現行憲法を素直に解釈すれば「自衛隊違憲」としか理解できない。
 第二に「ならば共産党は九条明文改憲を主張すべき」と言われるかもしれないが、「九条明文改憲」をしようとすると現在の政治状況では「自民党」による「集団的自衛権行使容認の九条改憲」に道を開きかねない。
 自民党支持層でも九条改憲反対が多数派というのはそういうことだと思います。なお、勿論、そうした改憲反対派の多くは「自衛隊合憲論」ですが、「自衛隊合憲論」の立場の方とも「九条改憲反対」の一致点で大いに共闘したい。
 第三に、我が党は「自衛隊違憲論の立場」とはいえ「侵略があっても自衛隊が使えない」というのでは「国民の支持も得られない」し「適切ではない」と思っています。
つまり
◆佐藤内閣のよど号ハイジャック対応
◆三木内閣のクアラルンプール事件対応
福田内閣ダッカ事件対応
のように党方針を私個人は理解しています。佐藤、三木、福田内閣の対応(いわゆる超法規的措置:身代金支払いや赤軍派釈放など)を「やむを得なかった」と評価するのであれば、こうした我が党の主張にも理解頂けると思う。

Q4
 自民党支持層による「米国の核の傘」支持をどう批判すべきか。
A4
1)「米国の核の傘」支持がかえって「米国の核の脅威」を理由に「ロシア、中国、北朝鮮の核保有」を正当化させ日本の安保環境を損なっていること
2)核兵器禁止条約の成立など、反核世論の高まり
を訴えていくしか無いと思います。

Q5
 拉致問題では北朝鮮と対話できないのは何故だと思うか
A5
 「無条件で金正恩と会う(安倍、菅、岸田)」と言っても、北朝鮮にとって内容が全く意味不明だから会わないんです。
 無条件なら「首脳会談後、拉致被害者が一人も出てこなくてもあえて会う」のか。家族会、救う会拉致議連が主張する「即時一括全員帰国」の方針には自民党政権は立たないのか。そして金正恩と会って何をどうしたいのか。
 その点が全く意味不明です(「即時一括全員帰国」の方針では無条件といえないと思いますが)。
 ちなみに私は別の意味で「有条件でないと会わない」と思います。金丸訪朝、小泉訪朝でも問題になった、「国交正常化での経済支援の問題」、あるいは「現在行っている経済制裁の一部解除」、いわゆるバーター取引の問題ですね。

 最後に「黒坂の川田批判」についてコメントしておきます。黒坂が悪口する「体制が維持できないと判断すると日本に核攻撃を断行しうる」云々という川田氏の主張はこの動画だけでは、今ひとつ「理解が困難」ですが「米国の北朝鮮侵攻で体制崩壊の危機」と言う意味であるならば私見では、川田氏が言うように「日本(というか在日米軍基地)に核攻撃を断行しうる」でしょう。ただし、「ルーマニアチャウシェスク政権崩壊(内戦)」「フィリピンのマルコス大統領亡命」のような内部崩壊ならば「内戦勢力(反体制派)を米軍が公然と軍事支援」でもしない限り「在日米軍基地への核攻撃」はないでしょう。
 かえって米軍の軍事介入を招くだけで不利益だからです。ということで川田主張は「米国の北朝鮮侵攻で体制崩壊の危機→日本(というか在日米軍基地)に核攻撃を断行しうる」と言う意味だと理解しておきます。
 ここで「米軍が北朝鮮侵攻して何が悪い」というのはよほどの右翼だけでしょう。
 「軍事的な反撃策」云々について言えば「考えること自体が現実的でない」というのが川田主張であり「沈黙」と言うのとは少し違います。
 「現実的でない」のは

1)米軍が北朝鮮侵攻しない限り、北朝鮮によるミサイル攻撃の可能性が低いから
2)ミサイルを百発百中で確実に打ち落とせるシステムなどどこにも存在せず、本当に北朝鮮がミサイルを撃ってきたら、甚大な被害はおそらく避けられないから(勿論、北朝鮮への軍事的反撃は可能ですが、反撃したところで、北朝鮮のミサイル攻撃によって失われた人命やモノは帰ってきません)
3)体制維持のためなら北朝鮮は「金大中金正日首脳会談」「小泉・金正日首脳会談」「トランプ・金正恩首脳会談」でわかるように対話路線に十分打って出る可能性があるから

です。なお「体制維持」云々と言う言葉で想像つくでしょうが、勿論、川田氏は「いわゆる赤化統一」の可能性があるとは思っていません。もはや韓国(人)にとっては、北朝鮮は「脅威」「打倒の対象」よりもメロドラマのネタ程度のものなのだろう(たぶん日本も同じ 関川某も自分の書いたことを撤回しろとおもう) - ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)ということですね。
 敵基地攻撃論について、川田氏は「国際法憲法に違反する」とするとともに「相手の立場を考えよ」とします。どういう意味か。
 日本ウヨは「中国、北朝鮮、ロシアの脅威ガー。だから敵基地攻撃能力が必要」というが「中国、北朝鮮、ロシア(ウクライナ問題で米国と対立)」が「在日米軍の脅威ガー。敵基地攻撃能力が必要」と言い出したらどうするのか、敵基地攻撃論は「軍事力のチキンレース」を助長しかねないと言う話です。 
 さて「川田氏の個人的見解」にすぎないとしても「日本共産党平和運動局長」という立場の方が

◆交渉パイプがあることが重要だ
北朝鮮と国交がある国(英独伊など)は既にたくさんある
◆国交樹立とはその国の全てを肯定することではない(例:日本と国交があるタイ、ミャンマー、エジプト(いずれも軍事独裁))
日朝平壌宣言の立場で国交正常化を進めるべきだ

として「早期の日朝国交正常化」を主張とは俺的に嬉しい話です。「川田氏の個人的見解」にとどまらず、「国会論戦での志位委員長や小池書記局長の質問」としても「早期の日朝国交正常化」を主張してほしいところです。
 「ウヨの泉(元々は国民民主の前原に近い)」が「代表の時代(つまり現在)」は勿論、「枝野時代立民」も「早期の日朝国交正常化」に肯定的とは思えないので、なかなか難しいところがあるとは思いますが。勿論「救う会、家族会、拉致議連」の悪影響もあります(俺も「それなりに現実主義者」なのであまり無茶なことを要求はしません)。
 まあ、「国交正常化」は「当面の課題」としても「常駐事務所の設置(例えば、自民党総裁選で石破元幹事長も主張)」は急務でしょう。
 「国交の有無」と「パイプの有無(常駐事務所の有無)」は違う。
 「台湾と正式国交がなくても」日本や欧米は今、台湾に常駐事務所がある。また、「中国との国交正常化」前でも日本は中国に常駐事務所を設置し、中国と貿易もしていました(いわゆるLT貿易など)。
 北朝鮮についても「常駐事務所の設置」に動くべきでしょう。

【参考:ダッカ事件

ダッカ日航機ハイジャック事件 - Wikipedia
 1977年10月1日に福田赳夫首相が「一人の生命は地球より重い」と述べて、「超法規的措置」として、身代金の支払い及び収監メンバーの引き渡しなどを行うことを決めた。日本政府が過激派による獄中メンバーの釈放要求に応じたのは、1975年のクアラルンプール事件(三木政権)以来2回目となった。なお、法務大臣福田一*2は、超法規的措置の実施に対して強硬に反発。福田は措置が決定された後に抗議辞任した(後任法相は瀬戸山三男*3)。
 なお、当時は諸外国においても、テロリストの要求を受け入れて、身柄拘束中の仲間を釈放することは珍しくなく(1970年のPFLP旅客機同時ハイジャック事件、1972年のルフトハンザ航空615便ハイジャック事件*4、1974年のハーグ事件など)、日本のみがテロに対して弱腰であったというわけではない。 このようなテロリストの要求を受け入れる流れが変わるきっかけとなったのが、ダッカ事件と同じ1977年に起こったルフトハンザ航空181便ハイジャック事件だと言われる。西ドイツ政府は、ミュンヘン五輪(1972年)でのいわゆる「黒い九月事件(パレスチナゲリラによるイスラエル選手殺害)」を機に創設された警察特殊部隊「GSG-9」を航空機内に突入させ、犯人グループを制圧し、人質を救出した。
 日本政府もその後、GSG-9を参考に特殊部隊を警視庁と大阪府警に創設。1979年の三菱銀行人質事件で大阪府警特殊部隊が突入し、犯人・梅川昭美を射殺したことでその存在が知られるようになった。

*1:日本共産党平和運動局長(中央委員兼務)。日本平和委員会常任理事。原水爆禁止日本協議会原水協)常任理事。著書『それぞれの「戦争論」』(2004年、唯学書房)、『名作の戦争論』(2008年、新日本出版社)、『社会を変える23章』(2015年、新日本出版社)、『市民とジェンダーの核軍縮』(2020年、新日本出版社)、『アート×ジェンダー×世界』(2022年、新日本出版社

*2:田中内閣自治相、三木内閣自治相・国家公安委員長福田内閣法相、衆院議長など歴任

*3:佐藤内閣建設相、福田内閣法相、中曽根内閣文相を歴任

*4:これについてはミュンヘンオリンピック事件 - Wikipedia参照。「黒い九月事件」の実行犯の釈放が要求され、実際に釈放された。